(1)神戸製鋼所による検査データ改ざんや日産自動車の不適切検査のニュースは、東南アジアのメディアでも連日大きく取り上げられている。
今やアジアでも見慣れたお決まりポーズ「平身低頭」の画像とともに、「チーティング・スキャンダル」などという不名誉な見出しが紙面やインターネット上を席巻。かつては日本の技術や厳格さを信じていたアジアの人々に、「もはや日本の大手企業も信用できない」という負のイメージが刷り込まれ続けている。
三菱自動車、タカタ、東芝などの不祥事の記憶が新しい(まだ終わっているわけではない)中、アジアで事業展開する日本企業の人々からは、「いい迷惑だ」「もううんざりだ」との声が上がる。一方で、「他人事ではない」との不安も垣間見える。
(2)スキャンダル性が高いがゆえにニュース性が高くなる。実直で生真面目だとみられている人が世界中の人たちをまんまと騙せば、その対比・乖離ゆえに衝撃的なストーリーになりやすい。日本のビッグネームによる不祥事が海外メディアで大きく取り上げられる理由の一つは、その「意外性」だ。
シンガポールにいるさまざまな国籍の実業家やジャーナリストから、「日本企業は一体どうしたのか?」という質問をよく受ける。技術的欠陥、データ改ざん、ルール違反、粉飾決算など問題の現れ方に違いはあるものの、これだけ矢継ぎ早に大企業の大不祥事が起こり、謝罪会見の様子が頻繁に流れると、もはや個別企業による単発的な問題というふうには見てくれない。
突き詰めれば、ちまたで言われている通り個別の企業統治の問題なのだろう。だが、海外においては、「果たして日本企業、日本人は信用できるのか?」という疑念を抱かれる。
(3)いま日本企業は、モノやサービスを成長著しいアジア市場にも積極的に販売しようと四苦八苦している最中だ。自動車、家電、食品などの消費者向けにせよ、機械、部品、素材などの企業向けにせよ、日本や欧米市場と比べて価格や仕様の水準が総じて低いアジア市場での販売は楽ではない。
日本企業が政府と共に戦略的に売り込もうと躍起になっているインフラ建設にしても然り。価格が少々(あるいは相当)高くても日本が選ばれるとすれば、それは技術水準もさることながら、品質・工程管理やアフターケアがしっかりしていて、安心して任せられると信じているからだろう。
ところが、日本企業全体のイメージに傷が付けば、アジア市場での闘いはますます厳しくなる。日本が強調したい優位性に対して、疑いの目が向けられかねないからだ。
(4)日本企業が設定する基準や目標が多くの面で厳し過ぎる、現実的ではない、という意見もある。そうなのかもしれない。東京大学工学部卒のマレーシア人経営者が、日本企業がアジア企業のようにもう少し「柔軟」「いいかげん」であれば、多くの問題は問題とならない、と語っていた。アジアの空気を長く吸っていると、不思議と納得してしまう。
しかし、いずれにせよ、何とかしなければいけない。個別企業の努力も必要だろうが、日本の産業界全体の問題である。この正念場を乗り越えなければ、アジア市場はさらに遠のく。
□矢野暁(シンガポール在住企業アドバイザー)「度重なる不祥事で日本企業のイメージ失墜/アジア商戦にも逆風」(「週刊ダイヤモンド」2017年11月4日号)
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【参考】
「【中国】で日本の「どら焼き」や「カステラ」が売れない理由 ~風土で違う味覚~ 」
「【中国】ユニコーンが55社、加速する起業ブーム ~課題は人材確保~」
「【欧州】ドイツ議会選挙で極右政党が大躍進 ~危機感強める経済界~」
「【米国】サンオノフレ原発の核廃棄物移転を訴えた地域住民が“勝った”理由」
「【欧州】カタルーニャ独立は正しい選択なのか? ~住民投票で9割支持~」
「【米国】トランプ大統領のころころ変わる政策に振り回される不法移民」
「【中国】信用情報システム「芝麻信用」とは? ~個人の信用力を点数化~」
「【米国】北朝鮮問題の深刻化で浮上する開戦シナリオ ~1937年不況の再来?~」
「【欧州】英国のEU離脱選択で中東欧からの移民が激減 ~人手不足で農業は窮地に~」
「【欧州】ドイツ自動車業界を襲うディーゼル締め出し判決 ~EV普及の契機となるか~」
「【欧州】身近で頻発するテロで苦境に陥る欧州の観光業 ~ISが戦術を転換~」
「【中国】住宅を入手しやすい「新一線都市」が人気 ~地方の生活水準が向上~」
「【欧州】総工費8兆円超の英高速鉄道プロジェクト ~高まる期待と漂う懸念~」
「【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~」
「【欧州】のゴミ箱扱いに憤慨する東欧諸国 ~深まるEUの東西分裂~」
「【英国】の地政学的優位性がBrexitで喪失 ~領内で高まる独立気運~」
「【欧州】北欧も難民入国規制強化へ ~形骸化するシェンゲン協定~」
「【スウェーデン】文化多元主義の限界 ~移民問題~」
今やアジアでも見慣れたお決まりポーズ「平身低頭」の画像とともに、「チーティング・スキャンダル」などという不名誉な見出しが紙面やインターネット上を席巻。かつては日本の技術や厳格さを信じていたアジアの人々に、「もはや日本の大手企業も信用できない」という負のイメージが刷り込まれ続けている。
三菱自動車、タカタ、東芝などの不祥事の記憶が新しい(まだ終わっているわけではない)中、アジアで事業展開する日本企業の人々からは、「いい迷惑だ」「もううんざりだ」との声が上がる。一方で、「他人事ではない」との不安も垣間見える。
(2)スキャンダル性が高いがゆえにニュース性が高くなる。実直で生真面目だとみられている人が世界中の人たちをまんまと騙せば、その対比・乖離ゆえに衝撃的なストーリーになりやすい。日本のビッグネームによる不祥事が海外メディアで大きく取り上げられる理由の一つは、その「意外性」だ。
シンガポールにいるさまざまな国籍の実業家やジャーナリストから、「日本企業は一体どうしたのか?」という質問をよく受ける。技術的欠陥、データ改ざん、ルール違反、粉飾決算など問題の現れ方に違いはあるものの、これだけ矢継ぎ早に大企業の大不祥事が起こり、謝罪会見の様子が頻繁に流れると、もはや個別企業による単発的な問題というふうには見てくれない。
突き詰めれば、ちまたで言われている通り個別の企業統治の問題なのだろう。だが、海外においては、「果たして日本企業、日本人は信用できるのか?」という疑念を抱かれる。
(3)いま日本企業は、モノやサービスを成長著しいアジア市場にも積極的に販売しようと四苦八苦している最中だ。自動車、家電、食品などの消費者向けにせよ、機械、部品、素材などの企業向けにせよ、日本や欧米市場と比べて価格や仕様の水準が総じて低いアジア市場での販売は楽ではない。
日本企業が政府と共に戦略的に売り込もうと躍起になっているインフラ建設にしても然り。価格が少々(あるいは相当)高くても日本が選ばれるとすれば、それは技術水準もさることながら、品質・工程管理やアフターケアがしっかりしていて、安心して任せられると信じているからだろう。
ところが、日本企業全体のイメージに傷が付けば、アジア市場での闘いはますます厳しくなる。日本が強調したい優位性に対して、疑いの目が向けられかねないからだ。
(4)日本企業が設定する基準や目標が多くの面で厳し過ぎる、現実的ではない、という意見もある。そうなのかもしれない。東京大学工学部卒のマレーシア人経営者が、日本企業がアジア企業のようにもう少し「柔軟」「いいかげん」であれば、多くの問題は問題とならない、と語っていた。アジアの空気を長く吸っていると、不思議と納得してしまう。
しかし、いずれにせよ、何とかしなければいけない。個別企業の努力も必要だろうが、日本の産業界全体の問題である。この正念場を乗り越えなければ、アジア市場はさらに遠のく。
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「【中国】で日本の「どら焼き」や「カステラ」が売れない理由 ~風土で違う味覚~ 」
「【中国】ユニコーンが55社、加速する起業ブーム ~課題は人材確保~」
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「【米国】北朝鮮問題の深刻化で浮上する開戦シナリオ ~1937年不況の再来?~」
「【欧州】英国のEU離脱選択で中東欧からの移民が激減 ~人手不足で農業は窮地に~」
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