語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【読書余滴】野口悠紀雄の、法人税減税が経済成長となる条件 ~「超」整理日記~

2010年07月05日 | ●野口悠紀雄
 増税だけで財政再建を行おうとしても、さまざまな問題が生じる。特に、消費税の税率引上げは、国債の値崩れを引き起こす可能性が強い。
 こうした問題が生じるのは、必要な増税額があまりにも大きいからだ。

 財政再建のためには、経済成長が不可欠である。
 経済成長はすべての問題を解決するわけではないが、経済成長がないと解決できない問題は山ほどある。
 たとえば、年金。受給者増加、保険料納付者減少の結果、経済成長がなければ赤字が膨張し、厚生年金は2030年頃に財政破綻する。
 一般に、経済成長がないと閉塞感が広がり、人々は意欲を喪失し、これがまた経済成長を阻害する。日本は今、深刻な悪循環に陥っている。
 政府が経済成長の方向づけを行うと、その政策はほぼ確実に失敗する。政府がまず行うべきことは、現行の企業救済策から手を引くことだ。

 経済成長に係る政府の唯一の具体的政策、法人税減税は経済成長に効果がない。
 最大の理由は、多くの企業が法人税を払っていないからだ。法人税の税収総額は、1950年代の水準の5兆円にすぎない。 
 かかる事情がないとしても、法人税は事業活動に影響しない。法人税は利益にかかる負担だからだ。利益は企業活動が招来するものであり、企業の基本的行動原理である。よって、法人税率が変化しても、それは法人の行動には影響しない。
 法人税減税→企業の手持ちキャッシュ増加→投資増加・・・・という流れにはならない。企業は、重要な投資にあたっては借り入れでもって資金調達する。借金利子は法人税上損金と見なされるので、法人税額が投資によって変わることはない。法人税率は、企業の投資決定に中立的である。
 投資減税は、原理的には企業の投資決定に影響する。しかし、今の日本のように投資需要のない状態では、投資減税をしても投資支出は増えないだろう。

 法人税減税が有効なのは、外国企業誘致の手段として使われるときである。
 欧米では、英国やアイルランドのように、外国企業の進出にオープンな姿勢をとった国が発展した。
 法人税減税は、外国企業に対してのみ行ってはどうか。賛成者は、経済成長を必要と考える人だ。反対者は、経済成長を口実に、じつは国内法人の負担軽減を求めている人だ。
 「日本人が、よそ者や異質なものを受け入れられるか否か。経済成長が実現できるか否かは、ひとえにこの点にかかっている」

【参考】野口悠紀雄『「超」整理日記No.518』(「週刊ダイヤモンド」2010年7月3日号所収)
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