政官闘争において、官僚はどういうテクニックを用いて抵抗してきたか。
(1)役所内部
(a)情報操作・・・・官僚が持っている情報源を基盤にして大臣を揺さぶる。
①大臣に必要な情報を提示しない。
<例>国土交通省、扇千景大臣。大臣説明のペーパーは絵が多くて文章が少ない2~3枚の紙(「ポンチ絵」)を提示し、大臣に分かった気にさせて、細かいところで官僚の自由裁量を増やすための手段にした。
②大臣に仕事の意欲を削ぐほどの大量の情報を提示する。
③「霞が関文学」・・・・難しい法令用語などを駆使し、煙にまく。
<例>天下りの斡旋に関して、「斡旋を禁止する」ではなく、「営利法人に対する斡旋を禁止する」と書く。こう書けば、反対解釈によって「独立行政法人に対する斡旋は禁止しない」となる(「真空切り」)。
(b)時間操作・・・タイムスケジュールの主導権を握ることで、大臣の判断に大きな影響を与える。
<例>大臣の海外出張時などの空白期に、わざと重要政策を発表する。既成事実を押し戻すのは困難だ。
(c)状況操作・・・・(b)に類似。政治家に対してサービスを手厚く提供して籠絡するテクニックもここに含まれる。
<例>大臣と官僚の判断が食い違うことが予想される場合、利害関係者の調整をすべて済ませた上で、「大臣、この案件は関係者すべてが同意しています」と報告する。状況が固まっていると、大半は官僚と妥協してしまう。かくて、官僚主導で仕事が進むのだ。
(e)「ヘトヘト作戦」・・・・(a)~(c)を結晶させたもの。相手を肉体的に疲労困憊させた上で議論の主導権を握る。財務省の得意技の一つ。
<例>疲れやすい夜間に仕事を入れる。
(f)事務局・・・・「庶務権」を発揮する。(a)~(c)を遺憾なく発揮する方法。
<例1>審議会の事務局権限を握った霞が関が、審議会の議論の方向性を、最初に作るドラフト(案文)でほぼ決定してしまう。役所の都合の悪い問題は、わざと落とし、主張したい論点を強調し、審議会の議論を誘導するのだ。
<例2>当初予定している議題に反対意見を持つ委員が来られてない日を調べて、わざとその日に会議を設定することで議題をすんなり通そうとする((b)の応用)。
<例3>審議会委員の人数を増やす。審議時間が短くなり、議論はまとまらなくなって、最後は「座長一任」になる。座長は報告書を書く時間などないので、結局、事務局が取りまとめることになる。
(g)法令違反(逆賊)のレッテル貼り・・・・大臣の進めようとしている政策が現在の法秩序に抵触、矛盾するなどと指摘して大臣を圧迫し、ひいては恫喝、脅迫する。
<例>鳩山由起夫は、首相当時、政治資金問題を抱え込んだ。政治資金問題は、政治資金規正法のみならず税法に関する問題で、これを摘発するかどうかは当局のさじ加減一つだった。鳩山は、結局、公務員制度改革を先送りにした。ちなみに、「一般に“スネに傷のある”政治家は、役人にとっては扱いやすい存在だ。キズ口を広げるか、糊塗するかは当局の判断一つ。鳩山政権がこんなことで操られないように」と渡辺喜美・みんなの党首は、注意を喚起した(鳩山は結局操られた)。
(f)自爆テロ・・・・意図的に不祥事をマスコミに流し、大臣の責任問題に発展させる。
<例>厚生労働大臣に反感を持つ厚労官僚が、年金不祥事をわざとマスコミにリークする。自分たちも責任追及される一方で、最終責任者=大臣にはさらなる責任追及が及ぶ。大臣を追い落とすきっかけを作ることができる。
(2)役所外部
マスコミなどへ情報提供して世論操作する。業界団体や地方自治体を煽って政治家に圧力をかける。キーパーソンや主要政治家への根回しにより分断工作する・・・・。対象別に分けると、主なものは次の5つ。ことに(a)は、原発事故において「大本営発表」と揶揄、批判される素地となった。
(a)マスコミ関係
官僚と記者クラブ記者とは日常的に付き合いがある。幹部と記者は頻繁に接触し、さまざまな情報が流れる。だから、官僚が操作しようと思えば、自分たちにネガティブな情報をたやすく流すことができる。
官僚はマスコミに情報を流すことで操作している、という指摘の背景は、
①マスコミ産業は、日々新たな情報を必要としている。
②大新聞・テレビ(既存のエリート・マスコミ)に対する小規模週刊誌、ネット・フリージャーナリストなどの反乱、
③大新聞・テレビの労働条件の良さに対する世間の反感。
④大新聞・テレビの無責任さに対する政治家の苛立ちのようなもの。
⑤【最大の要因】エリート・マスコミと官僚は、学歴や文化が近く一体化(「政官財情」)していて、霞が関のスポークスマンに成り下がっている、という見方が強まっている【注】。
【注】マスコミ操作の目的は、官僚機構にとって有利な状況・世論を作り出すことだが、話をややこしくするのは、東大法学部出身者を核とするエリート人脈による世論形成だ。官僚機構、日本銀行、経済界、学会、マスコミなどあらゆるところにネットワークを張る複合体の人脈があって、東大法学部出身者を核とするエリート人脈が政策の相場感を作っている(「政官財情」の日本支配)。
(b)著名な有識者
(a)と同様。大学教員などの有識者の権威、オピニオン支配力などは大きい。官僚は、学識者へもさまざまに働きかける。
(c)業界団体
役所に都合の悪い政策が推進されようとする場合、官僚は業界団体や地方自治体に働きかけて、彼らか地元の政治家や有力政治家に圧力を加えるよう仕向けたりもする。ただし、これは自民党時代の話で、政権交代後、相当変化した。
(d)地方自治体
(c)に同じ。
(e)国会議員
特に政治家同士の分断工作。政治家は、基本的に個人事業主で、バラバラだ。個人の属性としても、上昇意欲や強烈な野心があり、プライドも半端ではない。何よりも権力闘争の中で生きているため、表面的にはどれだけ仲良く見えても、何とか他の政治家を蹴落として自分が権力の座に近づきたいと考えている。ここが官僚にとって狙い目となる。嫉妬を煽り、議員同士が組まないよう、分断工作を行うのだ。
以上、中野雅至『財務省支配の裏側 政官20年戦争と消費増税』(朝日新書、2012)に拠る。
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(1)役所内部
(a)情報操作・・・・官僚が持っている情報源を基盤にして大臣を揺さぶる。
①大臣に必要な情報を提示しない。
<例>国土交通省、扇千景大臣。大臣説明のペーパーは絵が多くて文章が少ない2~3枚の紙(「ポンチ絵」)を提示し、大臣に分かった気にさせて、細かいところで官僚の自由裁量を増やすための手段にした。
②大臣に仕事の意欲を削ぐほどの大量の情報を提示する。
③「霞が関文学」・・・・難しい法令用語などを駆使し、煙にまく。
<例>天下りの斡旋に関して、「斡旋を禁止する」ではなく、「営利法人に対する斡旋を禁止する」と書く。こう書けば、反対解釈によって「独立行政法人に対する斡旋は禁止しない」となる(「真空切り」)。
(b)時間操作・・・タイムスケジュールの主導権を握ることで、大臣の判断に大きな影響を与える。
<例>大臣の海外出張時などの空白期に、わざと重要政策を発表する。既成事実を押し戻すのは困難だ。
(c)状況操作・・・・(b)に類似。政治家に対してサービスを手厚く提供して籠絡するテクニックもここに含まれる。
<例>大臣と官僚の判断が食い違うことが予想される場合、利害関係者の調整をすべて済ませた上で、「大臣、この案件は関係者すべてが同意しています」と報告する。状況が固まっていると、大半は官僚と妥協してしまう。かくて、官僚主導で仕事が進むのだ。
(e)「ヘトヘト作戦」・・・・(a)~(c)を結晶させたもの。相手を肉体的に疲労困憊させた上で議論の主導権を握る。財務省の得意技の一つ。
<例>疲れやすい夜間に仕事を入れる。
(f)事務局・・・・「庶務権」を発揮する。(a)~(c)を遺憾なく発揮する方法。
<例1>審議会の事務局権限を握った霞が関が、審議会の議論の方向性を、最初に作るドラフト(案文)でほぼ決定してしまう。役所の都合の悪い問題は、わざと落とし、主張したい論点を強調し、審議会の議論を誘導するのだ。
<例2>当初予定している議題に反対意見を持つ委員が来られてない日を調べて、わざとその日に会議を設定することで議題をすんなり通そうとする((b)の応用)。
<例3>審議会委員の人数を増やす。審議時間が短くなり、議論はまとまらなくなって、最後は「座長一任」になる。座長は報告書を書く時間などないので、結局、事務局が取りまとめることになる。
(g)法令違反(逆賊)のレッテル貼り・・・・大臣の進めようとしている政策が現在の法秩序に抵触、矛盾するなどと指摘して大臣を圧迫し、ひいては恫喝、脅迫する。
<例>鳩山由起夫は、首相当時、政治資金問題を抱え込んだ。政治資金問題は、政治資金規正法のみならず税法に関する問題で、これを摘発するかどうかは当局のさじ加減一つだった。鳩山は、結局、公務員制度改革を先送りにした。ちなみに、「一般に“スネに傷のある”政治家は、役人にとっては扱いやすい存在だ。キズ口を広げるか、糊塗するかは当局の判断一つ。鳩山政権がこんなことで操られないように」と渡辺喜美・みんなの党首は、注意を喚起した(鳩山は結局操られた)。
(f)自爆テロ・・・・意図的に不祥事をマスコミに流し、大臣の責任問題に発展させる。
<例>厚生労働大臣に反感を持つ厚労官僚が、年金不祥事をわざとマスコミにリークする。自分たちも責任追及される一方で、最終責任者=大臣にはさらなる責任追及が及ぶ。大臣を追い落とすきっかけを作ることができる。
(2)役所外部
マスコミなどへ情報提供して世論操作する。業界団体や地方自治体を煽って政治家に圧力をかける。キーパーソンや主要政治家への根回しにより分断工作する・・・・。対象別に分けると、主なものは次の5つ。ことに(a)は、原発事故において「大本営発表」と揶揄、批判される素地となった。
(a)マスコミ関係
官僚と記者クラブ記者とは日常的に付き合いがある。幹部と記者は頻繁に接触し、さまざまな情報が流れる。だから、官僚が操作しようと思えば、自分たちにネガティブな情報をたやすく流すことができる。
官僚はマスコミに情報を流すことで操作している、という指摘の背景は、
①マスコミ産業は、日々新たな情報を必要としている。
②大新聞・テレビ(既存のエリート・マスコミ)に対する小規模週刊誌、ネット・フリージャーナリストなどの反乱、
③大新聞・テレビの労働条件の良さに対する世間の反感。
④大新聞・テレビの無責任さに対する政治家の苛立ちのようなもの。
⑤【最大の要因】エリート・マスコミと官僚は、学歴や文化が近く一体化(「政官財情」)していて、霞が関のスポークスマンに成り下がっている、という見方が強まっている【注】。
【注】マスコミ操作の目的は、官僚機構にとって有利な状況・世論を作り出すことだが、話をややこしくするのは、東大法学部出身者を核とするエリート人脈による世論形成だ。官僚機構、日本銀行、経済界、学会、マスコミなどあらゆるところにネットワークを張る複合体の人脈があって、東大法学部出身者を核とするエリート人脈が政策の相場感を作っている(「政官財情」の日本支配)。
(b)著名な有識者
(a)と同様。大学教員などの有識者の権威、オピニオン支配力などは大きい。官僚は、学識者へもさまざまに働きかける。
(c)業界団体
役所に都合の悪い政策が推進されようとする場合、官僚は業界団体や地方自治体に働きかけて、彼らか地元の政治家や有力政治家に圧力を加えるよう仕向けたりもする。ただし、これは自民党時代の話で、政権交代後、相当変化した。
(d)地方自治体
(c)に同じ。
(e)国会議員
特に政治家同士の分断工作。政治家は、基本的に個人事業主で、バラバラだ。個人の属性としても、上昇意欲や強烈な野心があり、プライドも半端ではない。何よりも権力闘争の中で生きているため、表面的にはどれだけ仲良く見えても、何とか他の政治家を蹴落として自分が権力の座に近づきたいと考えている。ここが官僚にとって狙い目となる。嫉妬を煽り、議員同士が組まないよう、分断工作を行うのだ。
以上、中野雅至『財務省支配の裏側 政官20年戦争と消費増税』(朝日新書、2012)に拠る。
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