●高野ムツオ「無名の力」
震災後また朝が来て囀れる 佐々木智子
泣きはらす子らにひかりあれ卒業歌 上郡長彦
避難所の毛布に眠る赤子かな 條川祐男
泥の遺影泥の卒業証書かな 曽根新五郎
春の海ただ一揺れで死者の海 泉天鼓
草笛よ卒業式は海の中 高橋きよ子
夏雲や生き残るとは生きること 佐々木達也
さわ先生カニに変身あいに来た せとひろし
●「古い人・新しい句 年代別2011年の収穫【80代以上】」
花曇り津波のいろと重なりて 有馬ひろこ
●「画然たる句境 年代別2011年の収穫【70代男性】」
梅雨茫々孤身の松のしかと立つ 友岡子郷
活断層辿る実習花の雲 尾池和夫
青梅や津波遡上の記録読む 和夫
●「惜しまぬ世代 年代別2011年の収穫【60代男性】」
車にも仰臥という死春の月 高野ムツオ
瓦礫みな人間のもの犬ふぐり ムツオ
陽炎より手が出て握り飯掴む ムツオ
見覚えの雛がぽつんと瓦礫山 菊田一平
水汲みに朝は始まり梅の花 一平
●「俳句会の復興を担う世代 年代別2011年の収穫【60代女性】」
蝌蚪の数ふえてをりけり地震の後 小林篤子
水の秋肺腑の写真きれいなり 篤子
列島の灯を落としたる蝌蚪の紐 藤本美和子
これからのことをぺんぺん草に問ふ 美和子
●「飛翔 年代別2011年の収穫【50代男性】」
いぬふぐり揺らぐ大地に群れ咲ける 大家達治
波の果て芽吹きを恃む秋津島 達治
●「群雄割拠の時代 年代別2011年の収穫【40代】」
釜石はコルタカ 指より太き蝿 照井翠
地球とは何 壊しては雪で埋め 翠
何もかも流して澄める春の川 翠
双子なら同じ死顔桃の花 翠
みちのくや行方も知れぬ春の塵 五島高資
かぎろいは見えず原子が燃えており 高資
天使魚と目が合う夜の地震かな 高資
下天へとパンドラの匣かげろえる 高資
死者数もダウ平均も液晶画面 田中亜美
夕ざくら湯気の立つもの食うて泣く 亜美
●「諸家自選5句」
大津波おもふ静かな波のなか 安倍真理子
地震津波傷まし花も間に合はず 秋山朔太郎
激震の呼吸器に足す春の水 綾部仁喜
ラジオつけっ放しで眠る春の夢魔 伊丹啓子
卒業の真顔災禍の校庭に 池田啓三
地震の中病院通ひ凍て戻る 石井保
観世音菩薩妻逝くうすころも 保
亀裂分断津波蝶々生まれけり 今瀬剛一
陥没の底にも咲けりいぬふぐり 剛一
芽吹く木に捉まりたへる震度七 剛一
余震また畑の崩れに初の蝶 大坪景章
地震あとあたたかき日に爪を切る 大家達治
地獄絵の前にごろんと西瓜あり 岡崎桂子
津波抜け松一本立つ薄暑光 加藤水万
避難所に回る爪切夕雲雀 柏原眠雨
津波のあとに老女生きてあり死なぬ 金子兜太
竹の秋復興の首太き人ら 兜太
震災をはるかに三味線草伸びる 北さとり
地震春愁なみだにもろくなりにけり 日下部宵三
おしなべて蕾は堅し昼の地震 桑原まさ子
湧き上がる人獣冬の地平線 小出治重
大地震と津波の中の日本人 治重
天地の狂ひ果てたる春の底 治重
大地震のあとのくらがり花菫 治重
脱出の機会を逃す春の土 治重
被災地の山から山へ鰯雲 駒走鷹志
震災の御霊のわたる花の雲 阪田昭風
かばかりの余震に目覚め明易し 昭風
暮れ残る花菜に想ふ地震津波 澤井洋子
つばくろや瓦礫に「無事」の文字大き 鈴木正治
さくら前線被災地を追ひ越して行く 正治
牛放ち村ごと避難柞咲く 正治
余震また仔牛につきぬ夜鳴きぐせ 正治
被災地の村が空つぽ田水湧く 正治
膨れ這い捲れ攫えり大津波 高野ムツオ
車にも仰臥という死春の月 ムツオ
陽炎より手が出て握り飯掴む ムツオ
鬼哭とは人が泣くこと夜の梅 ムツオ
瓦礫みな人間のもの犬ふぐり ムツオ
揺れやまぬ大地あふるる春の蝶 名取里美
福島の参加一人ほととぎす 里美
激震のあとの無韻の春の雪 布川武男
大地震大停電昼夜ぞろぞろ歩くのみ 前田吐実男
大地震依頼さては小綬鶏狂ったか 吐実男
列島の細身の震え桜まだ 松田ひろむ
桜散る行方不明者合わせては ひろむ
貞観の津波を掘れば栗の花 ひろむ
TUNAMI後や一本松の松の芯 ひろむ
蝉声の地に浸み海に死者の窟 宮坂静生
地震列島龍太の春の月出でし 宮田正和
地震のない国を探しに紋白蝶 森田智子
沖空津波胸元津波うつつ春 諸角せつ子
津波来て跡形もなし鮭孵化場 八牧美喜子
白鳥守津波に呑まれ白鳥去る 美喜子
露寒や忘れ得ざりし被災の日 安原葉
壊滅と聞く悲しさに冴返る 葉
激震に雛を納めし箱さわぐ 山口速
●「東日本大震災に思う」
かぶとむし地球を損なわずに歩く 宇田喜代子
春天のぐるぐる回る地震の底 森川光朗
倒れたるゴム長襲ふ地震の群れ 光朗
抱き付いて地震遣り過ごす名無しの木 光朗
草原を薙ぐ春なゐの巨きな手 光朗
地震ぐせのつきし五体を野に放つ 光朗
ふきのたう地震の中に目をひらく 光朗
津波に死せる縁者の名前冴返る 八牧美喜子
大津波ありし春田に船据わる 美喜子
津波に死せし記者の名刺の梅雨じめり 美喜子
猫連れて避難も出来ず鰆焼く 美喜子
逝きし子の花飾りある夏帽子 佐々木妙
淡雪として消えゆけり余震また 蓬田紀枝子
クロッカス開きたきときくる余震 紀枝子
難民といふべし高架冴返る 藤木倶子
胸打つや毛布一枚分け合うて 倶子
心まで折れまじ春の星新た 倶子
歓声や春夜を破る無事の声 若木ふじを
復興を誓ふ式辞や入社式 戸井田昭
たんぽぽや避難所の庭仮床屋 古川小枝子
海底の御魂にとどけ虫の声 三田地節子
鎮魂の海へ銀漢濃く太く 高橋秋郊
一人づつ半旗見上げて入学児 榎本好宏
飛び出して雪の大地にしがみつく 小柴六進子
余震未だ位牌かたむきたる春夜 長谷川紫苑
目に見えぬ怖さに脅え種浸す 三橋恭子
トラックも津波の瓦礫涅槃西 柏原眠雨
淡雪や瓦礫めくりて母探す 眠雨
避難所に回る爪切夕雲雀 眠雨
避難所の暮らし長びく蝿叩 眠雨
町ひとつ津波に失せて白日傘 眠雨
津波禍の漁船花野に横倒し 眠雨
移り来し摺上川の夕河鹿 門馬富美子
炎天に土台を曝す津波跡 四家たけし
棗にがし瓦礫遠見の顔も昏 鈴木八洲彦
瓦礫よりつきだす舳先春の空 河原地英武
根元より折れたる鳥居揚雲雀 英武
彼岸墓参父を踏み母を踏み 英武
瓦礫中より完璧な子猫なり 今瀬剛一
山さ行け津なみが来るぞ冴返る 榊原康二
リュックより取り出す位牌桜餅 駒井昌子
鶯や写真を洗ふ昼下り 駒井勝子
耳澄ます津波情報夜の梅 さいとう白紗
地震翌朝も新聞届く梅真白 辻田慶子
大勢のグスコーブドリ稲の花 太田土男
幾万の救い求めし手か芒 佐藤レイ
炎天下三陸復興応援団 松田正徳
新涼や咀嚼して読む復興案 金沢道子
満点の星凍りても生きており 森村誠一
歳時記も辞書も流されみな朧 渡辺登美子
進級の子ら抱き合ふ「生きていたね」 小林邦子
梅雨明けや「生きる力」の遺稿文 芳賀翅子
半島に凍りしままのわが言葉 菅原鬨也
寝に戻る仮設住宅虫の声 岡本三男
被災者も地酒に和み秋祭 田中絹子
みなしごが蜻蛉追いつつ口ずさむ 三浦栄子
帰らない笑顔の友や草の花 澤館こう子
満月や瓦礫の山のうず高し 梅岡京子
父母の生きし日思い秋果盛る 古館やす子
ぶらんこを捜し歩きて秋になる 小笠原さくら
被災地と老いを励ます吾亦紅 祝田シヅ子
陸中の減らざる瓦礫秋の風 山口剛
みちのくの春日の痩せて鹹(しおからき) 渡辺誠一郎
死んでなお人に影ある薄暑なり 誠一郎
見覚えの雛がぽつんと瓦礫山 菊田一平
凍返る海が火を噴き火が奔り 一平
水汲みに朝は始まり梅の花 一平
いさかひの種や冷たきにぎりめし 一平
掘り返す土葬の屍花は葉に 一平
位牌抱き笑ふやうなる死顔よ 照井翠
脈うたぬ乳房を赤子含みをり 翠
双子なら同じ死顔桃の花 翠
方舟の善民はみな呑まれけり 翠
なぜ生きるこれだけ神に叱られて 翠
人呑みし海に向かひて黙祷す 翠
漂着の函を開ければ春の星 翠
ありしことみな陽炎のうへのこと 翠
しら梅の泥を破りて咲きにけり 翠
牡丹の死の始まりの蕾かな 翠
生きてをり青葉の雫頬に享け 翠
泥をかぶるたびに角組み光る蘆 高野ムツオ
呼吸器に春激震の一波動 綾部仁喜
以上、「俳句年鑑2012」(角川書店、2011)に拠る。
【参考】「【震災】原発事故を俳人はどう詠んだか」
↓クリック、プリーズ。↓
震災後また朝が来て囀れる 佐々木智子
泣きはらす子らにひかりあれ卒業歌 上郡長彦
避難所の毛布に眠る赤子かな 條川祐男
泥の遺影泥の卒業証書かな 曽根新五郎
春の海ただ一揺れで死者の海 泉天鼓
草笛よ卒業式は海の中 高橋きよ子
夏雲や生き残るとは生きること 佐々木達也
さわ先生カニに変身あいに来た せとひろし
●「古い人・新しい句 年代別2011年の収穫【80代以上】」
花曇り津波のいろと重なりて 有馬ひろこ
●「画然たる句境 年代別2011年の収穫【70代男性】」
梅雨茫々孤身の松のしかと立つ 友岡子郷
活断層辿る実習花の雲 尾池和夫
青梅や津波遡上の記録読む 和夫
●「惜しまぬ世代 年代別2011年の収穫【60代男性】」
車にも仰臥という死春の月 高野ムツオ
瓦礫みな人間のもの犬ふぐり ムツオ
陽炎より手が出て握り飯掴む ムツオ
見覚えの雛がぽつんと瓦礫山 菊田一平
水汲みに朝は始まり梅の花 一平
●「俳句会の復興を担う世代 年代別2011年の収穫【60代女性】」
蝌蚪の数ふえてをりけり地震の後 小林篤子
水の秋肺腑の写真きれいなり 篤子
列島の灯を落としたる蝌蚪の紐 藤本美和子
これからのことをぺんぺん草に問ふ 美和子
●「飛翔 年代別2011年の収穫【50代男性】」
いぬふぐり揺らぐ大地に群れ咲ける 大家達治
波の果て芽吹きを恃む秋津島 達治
●「群雄割拠の時代 年代別2011年の収穫【40代】」
釜石はコルタカ 指より太き蝿 照井翠
地球とは何 壊しては雪で埋め 翠
何もかも流して澄める春の川 翠
双子なら同じ死顔桃の花 翠
みちのくや行方も知れぬ春の塵 五島高資
かぎろいは見えず原子が燃えており 高資
天使魚と目が合う夜の地震かな 高資
下天へとパンドラの匣かげろえる 高資
死者数もダウ平均も液晶画面 田中亜美
夕ざくら湯気の立つもの食うて泣く 亜美
●「諸家自選5句」
大津波おもふ静かな波のなか 安倍真理子
地震津波傷まし花も間に合はず 秋山朔太郎
激震の呼吸器に足す春の水 綾部仁喜
ラジオつけっ放しで眠る春の夢魔 伊丹啓子
卒業の真顔災禍の校庭に 池田啓三
地震の中病院通ひ凍て戻る 石井保
観世音菩薩妻逝くうすころも 保
亀裂分断津波蝶々生まれけり 今瀬剛一
陥没の底にも咲けりいぬふぐり 剛一
芽吹く木に捉まりたへる震度七 剛一
余震また畑の崩れに初の蝶 大坪景章
地震あとあたたかき日に爪を切る 大家達治
地獄絵の前にごろんと西瓜あり 岡崎桂子
津波抜け松一本立つ薄暑光 加藤水万
避難所に回る爪切夕雲雀 柏原眠雨
津波のあとに老女生きてあり死なぬ 金子兜太
竹の秋復興の首太き人ら 兜太
震災をはるかに三味線草伸びる 北さとり
地震春愁なみだにもろくなりにけり 日下部宵三
おしなべて蕾は堅し昼の地震 桑原まさ子
湧き上がる人獣冬の地平線 小出治重
大地震と津波の中の日本人 治重
天地の狂ひ果てたる春の底 治重
大地震のあとのくらがり花菫 治重
脱出の機会を逃す春の土 治重
被災地の山から山へ鰯雲 駒走鷹志
震災の御霊のわたる花の雲 阪田昭風
かばかりの余震に目覚め明易し 昭風
暮れ残る花菜に想ふ地震津波 澤井洋子
つばくろや瓦礫に「無事」の文字大き 鈴木正治
さくら前線被災地を追ひ越して行く 正治
牛放ち村ごと避難柞咲く 正治
余震また仔牛につきぬ夜鳴きぐせ 正治
被災地の村が空つぽ田水湧く 正治
膨れ這い捲れ攫えり大津波 高野ムツオ
車にも仰臥という死春の月 ムツオ
陽炎より手が出て握り飯掴む ムツオ
鬼哭とは人が泣くこと夜の梅 ムツオ
瓦礫みな人間のもの犬ふぐり ムツオ
揺れやまぬ大地あふるる春の蝶 名取里美
福島の参加一人ほととぎす 里美
激震のあとの無韻の春の雪 布川武男
大地震大停電昼夜ぞろぞろ歩くのみ 前田吐実男
大地震依頼さては小綬鶏狂ったか 吐実男
列島の細身の震え桜まだ 松田ひろむ
桜散る行方不明者合わせては ひろむ
貞観の津波を掘れば栗の花 ひろむ
TUNAMI後や一本松の松の芯 ひろむ
蝉声の地に浸み海に死者の窟 宮坂静生
地震列島龍太の春の月出でし 宮田正和
地震のない国を探しに紋白蝶 森田智子
沖空津波胸元津波うつつ春 諸角せつ子
津波来て跡形もなし鮭孵化場 八牧美喜子
白鳥守津波に呑まれ白鳥去る 美喜子
露寒や忘れ得ざりし被災の日 安原葉
壊滅と聞く悲しさに冴返る 葉
激震に雛を納めし箱さわぐ 山口速
●「東日本大震災に思う」
かぶとむし地球を損なわずに歩く 宇田喜代子
春天のぐるぐる回る地震の底 森川光朗
倒れたるゴム長襲ふ地震の群れ 光朗
抱き付いて地震遣り過ごす名無しの木 光朗
草原を薙ぐ春なゐの巨きな手 光朗
地震ぐせのつきし五体を野に放つ 光朗
ふきのたう地震の中に目をひらく 光朗
津波に死せる縁者の名前冴返る 八牧美喜子
大津波ありし春田に船据わる 美喜子
津波に死せし記者の名刺の梅雨じめり 美喜子
猫連れて避難も出来ず鰆焼く 美喜子
逝きし子の花飾りある夏帽子 佐々木妙
淡雪として消えゆけり余震また 蓬田紀枝子
クロッカス開きたきときくる余震 紀枝子
難民といふべし高架冴返る 藤木倶子
胸打つや毛布一枚分け合うて 倶子
心まで折れまじ春の星新た 倶子
歓声や春夜を破る無事の声 若木ふじを
復興を誓ふ式辞や入社式 戸井田昭
たんぽぽや避難所の庭仮床屋 古川小枝子
海底の御魂にとどけ虫の声 三田地節子
鎮魂の海へ銀漢濃く太く 高橋秋郊
一人づつ半旗見上げて入学児 榎本好宏
飛び出して雪の大地にしがみつく 小柴六進子
余震未だ位牌かたむきたる春夜 長谷川紫苑
目に見えぬ怖さに脅え種浸す 三橋恭子
トラックも津波の瓦礫涅槃西 柏原眠雨
淡雪や瓦礫めくりて母探す 眠雨
避難所に回る爪切夕雲雀 眠雨
避難所の暮らし長びく蝿叩 眠雨
町ひとつ津波に失せて白日傘 眠雨
津波禍の漁船花野に横倒し 眠雨
移り来し摺上川の夕河鹿 門馬富美子
炎天に土台を曝す津波跡 四家たけし
棗にがし瓦礫遠見の顔も昏 鈴木八洲彦
瓦礫よりつきだす舳先春の空 河原地英武
根元より折れたる鳥居揚雲雀 英武
彼岸墓参父を踏み母を踏み 英武
瓦礫中より完璧な子猫なり 今瀬剛一
山さ行け津なみが来るぞ冴返る 榊原康二
リュックより取り出す位牌桜餅 駒井昌子
鶯や写真を洗ふ昼下り 駒井勝子
耳澄ます津波情報夜の梅 さいとう白紗
地震翌朝も新聞届く梅真白 辻田慶子
大勢のグスコーブドリ稲の花 太田土男
幾万の救い求めし手か芒 佐藤レイ
炎天下三陸復興応援団 松田正徳
新涼や咀嚼して読む復興案 金沢道子
満点の星凍りても生きており 森村誠一
歳時記も辞書も流されみな朧 渡辺登美子
進級の子ら抱き合ふ「生きていたね」 小林邦子
梅雨明けや「生きる力」の遺稿文 芳賀翅子
半島に凍りしままのわが言葉 菅原鬨也
寝に戻る仮設住宅虫の声 岡本三男
被災者も地酒に和み秋祭 田中絹子
みなしごが蜻蛉追いつつ口ずさむ 三浦栄子
帰らない笑顔の友や草の花 澤館こう子
満月や瓦礫の山のうず高し 梅岡京子
父母の生きし日思い秋果盛る 古館やす子
ぶらんこを捜し歩きて秋になる 小笠原さくら
被災地と老いを励ます吾亦紅 祝田シヅ子
陸中の減らざる瓦礫秋の風 山口剛
みちのくの春日の痩せて鹹(しおからき) 渡辺誠一郎
死んでなお人に影ある薄暑なり 誠一郎
見覚えの雛がぽつんと瓦礫山 菊田一平
凍返る海が火を噴き火が奔り 一平
水汲みに朝は始まり梅の花 一平
いさかひの種や冷たきにぎりめし 一平
掘り返す土葬の屍花は葉に 一平
位牌抱き笑ふやうなる死顔よ 照井翠
脈うたぬ乳房を赤子含みをり 翠
双子なら同じ死顔桃の花 翠
方舟の善民はみな呑まれけり 翠
なぜ生きるこれだけ神に叱られて 翠
人呑みし海に向かひて黙祷す 翠
漂着の函を開ければ春の星 翠
ありしことみな陽炎のうへのこと 翠
しら梅の泥を破りて咲きにけり 翠
牡丹の死の始まりの蕾かな 翠
生きてをり青葉の雫頬に享け 翠
泥をかぶるたびに角組み光る蘆 高野ムツオ
呼吸器に春激震の一波動 綾部仁喜
以上、「俳句年鑑2012」(角川書店、2011)に拠る。
【参考】「【震災】原発事故を俳人はどう詠んだか」
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