すべてが沈む前に「小川内」へ入りたい。その思いが捨てきれず、ふたたび五ヶ山へ。かつての大野集落あたりはすでに沈んでしまい、今はまもなくダム湖となる、小川内地区の基盤整備が慌ただしく行われている。そこへ入ろうというのだから、まずは責任者と交渉しなければならない。早速、現場事務所へ向かい、現場監督に思いを伝えた。結果、十分注意をした上でということで立ち入りが許可された。
およそ1年半ぶりに「小川内」に入る。五ヶ山ダム建設に伴う埋蔵文化財の調査が長く行われていたこともあり、あたりは一変していた。その中をありし日の風景を思い出しながら、一歩一歩前へ進む。小さな橋を渡ると荒れ果てた雑木林が見えてくる。確か住居があったところだと思うが、そこから下へ降りてみると、村を流れる那珂川に出た。川は昔と変わらず、きれいなままだった。しかし、その流れの先にあるのはダム湖。ここも間もなく消えてしまう。
村道へ戻り、さらに進む。しばらくすると、こんもりとした竹藪が見えてくる。そこにはかつてうどん屋さんがあった。地元の猟師さんが採ったイノシシと脊振山の清流を使った「イノシシうどん」は絶品だった。清流のそばには鎮守(山祗神社)の森があった。そこには村のご神木「小川内の杉」があって、、などと思い出しているとたどり着いた。しかし、立ちすくんだ先にあったのは、清流でも森でもなく、死んだように動くことのない、ただ深くて暗いダム湖だった。これが現実なのだと、足元の沈みかかった道をじっと見つめていた。山手側を見ると、「小川内の杉」の移植された跡が生々しい姿で残っていた。土嚢は積まれたまま、この状態でダムの底に沈んでゆく。
帰り道。あたりをキョロキョロ見まわしながら歩いていると、赤いものが目に留まった。寒椿だった。かつて住人が植えたものだろうか、見てくれる人もいないのにけなげに咲いていた。しばしその場に立ち止まり、名残を惜しみつつ、ふたたび来た道を歩きだした。やるせない思いを振り切るように、もうこれで悔いはないだろうと自分に言い聞かせながら、最後の「小川内」を後にした。
撮影日:2017.2.3
小川内へ
思い出す
ここを下りると
川は生きていた
きれいなまま
勢いよく流れて
上から見る
ふたたび村道へ
村のシンボル
最後まで生きる
徐々に近づく
唯一、集落の痕跡が(写真右)
ダム湖はすぐそこ
あの場所へ
着いた
道はここまで
ただ呆然と
変わり果て
「小川内の杉」移植跡 このまま沈む
ふりかえる
けなげに咲いて(寒椿、原種はヤブツバキ)
足元に咲いて(オオイヌノフグリ:ゴマノハグサ科)
歩いた道が見える ここがすべてダム湖に(下地図に撮影位置を記入)
小川内及び大野位置図
国土地理院図より(新倉谷七曲道路と五ヶ山ダムはまだ描かれていない)
こちらは昨年10月、現場で入手した計画図(水色に塗られたところが沈む)