![]() | 出口のない海 (講談社文庫) |
横山 秀夫 | |
講談社 |
♪「出口のない海」横山秀夫著(講談社文庫)




会社の読書部(勝手に仙台支店内でそう呼んでいる)メンバーからの推薦図書。せめて8月は60数年前の日本の惨状、誤った政治や軍部独走の恐怖、当時の国民の苦難と悲嘆の日々に思いを馳せよう、という意味もあり。
甲子園の優勝投手で、将来を嘱望され大学に入学した並木だったが、腕の故障で鳴かず飛ばずの日々を過ごす。そのうちに日中戦争の戦果は広がり、ついに日米開戦。並木は自分ではどうしようもない時代の流れ、運命により、海軍の特殊作戦である人間魚雷「回天」搭乗の任務に就く。
死ぬための過酷な訓練が続く中、それでも並木は夢であり絶対できると信じている「魔球」完成に余念がない。そして最初で最後の出撃が近づくが…。
警察小説の雄、横山秀雄が描く戦記ものなので、これは息もつけぬほどの迫力ある文章で、ぐいぐい引っ張りこまれるものと思って読み始めた。しかしその文章は淡々としていて、ちょっと拍子抜け。しかし、将来国家を背負って立つ大学生までが、戦地に駆り立てられ、要は健康な若い男はみんな戦争に行けという異常な状況が、その淡々とした文章からもヒシヒシと伝わってくる。
そして並木の最後。何とも無念だったことだろう。最後になってようやく本作のタイトルの意味が分かる。なんともむなしい、でも並木たち当時の若者の志の高さに感銘を受け、ある意味読後感は爽やかだった。
敗戦から67年。大戦の記憶はどんどん風化している。戦前・戦中生まれはどんどん減少している。昭和5年生まれで終戦時に15歳だったウチの母も、もう82歳。
僕たちぐらいまでは、親たちからそれなりに戦中・戦後の辛い時代の話を聞いているが、当然実体験ではない。まして我々の子供の代になれば、全く実感を伴わないだろう。
我々も、いろいろな形で戦争の実態を後世に伝え、二度と過ちを繰り返さないようにしなければならないことを強く感じた小説だった。