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【新・仕事の周辺】 津田直(写真家) サーメ人が受け継ぐ知恵とぬくもり

2015-03-09 | 先住民族関連
産経ニュース-2015.3.8 09:12更新

(C)NAO TSUDA
 写真家である僕は、1年のうち7~8カ月を旅や移動に費やす日々を送っている。今年はラップランド(北極圏)に暮らす先住民族サーメ人に会いに行くことから始まった。目的地へは日本からフィンランドのヘルシンキまで10時間半、乗り継いで北部のイヴァロまで1時間半のフライトだった。
 文明の利器を駆使すれば、世界中の地域が身近になったのではないかと錯覚してしまいそうになる。しかし旅人が未知なる領域に足を踏み入れるとき、翼に乗って大海原や数えきれない峰々、大河を飛び越えてきたことを決して忘れてはならない。僕は機上でいつも眼下に見える小さな家の灯や谷川に寄り添う細い山道などを眺めながら、人類が歩んできた永き旅路に想(おも)いをはせる。
 たどり着いたフィンランド北部は、1月ということもあり、日中でも気温はマイナス20度を下回る程の寒さだった。ここに暮らす極北の民であるサーメ人を知ったのは数年前。数万年も前にシカの群れを追ううちに、極北の土地に達し、やがて定住することになった人々だという話を聞いたのだった。冬季には太陽がほとんど昇らない極夜という厳しい自然環境では、動物との共存が生きる術だったのだろう。
 そうならば今でもトナカイ牧夫を営んでいる人々と出会い、そこに受け継がれている知恵に触れたい。そう思って、ある家族のもとを訪ねた。サーメの人々はもともとその多くが狩猟採集民族として伝統的な暮らし方をしていたが、現代ではトナカイ牧夫として生計を立てているのは一部の人々だけである。また彼らの営みにしても、すべて古きしきたりを保っているわけでは当然ない。が、それでもサーメの人々が自然界や動物たちとの対話を大切に生きていることを、彼らの行為は物語っていた。
 とある冬の午後、雪深き広場に森から数百頭のトナカイの群れが集められた。木の囲いを築き、数十頭ごとに分けながら、家畜として育てるものや食用になるものを選別する姿があった。大きな角を持つトナカイの群れと向き合う男たち。その隣にはたくましい女性たちの姿もあり、皆が白い息を吐きながら作業に勤(いそ)しんでいた。
 よく見れば、極寒をしのぐための冬用の靴は毛皮から作られ、腰に下げられたナイフの持ち手には角が生かされている。人間と動物が共に生きてゆくためには、時に厳しい選択も強いられるが、サーメの人々は動物の生命を受け継ぐときに、骨の一片も無碍(むげ)に扱うことはしないのだ。
 トナカイとともに歩む牧夫の営みに、千年を超えて続いてきた知恵とぬくもりを見せてもらった。

【プロフィル】津田直
 つだ・なお 昭和51年、神戸市生まれ。自然と人間の関係性を問い直す独自の風景表現に取り組む写真家。平成21年度の芸術選奨文部科学大臣新人賞(美術部門)受賞。作品集に 『漕』『SMOKE LINE』『SAMELAND』 など。
http://www.sankei.com/life/news/150308/lif1503080019-n1.html

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