日刊SPA!-2015.03.21
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長らくのごぶさたです!!
……と言っても「何のこっちゃ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、超不定期連載「人生よりサブカルが大事」を執筆中断中の香山リカです。
あれ以来(編集部注:2013年に香山氏の弟さんが倒れた辺りから連載が中断するようになった)、サブカルパートナーの弟に脳波異常が発見され、「なんだ、あんた神経症じゃなくて脳の病じゃん」ってなことになったりし、「人生よりサブカルより脳波が大事」という感じでした。
そのあたりのお話はまたぜひ、脳波所見とともにここでご披露させていただきます。
んでもって、本日はサブカルといえばサブカル、でも今や違うっちゃ違う、小林よしのり氏への反論をこの場を借りて述べさせていただきたいと思います。
なぜ、小林よしのり氏?
なぜ、ファンレターなどではなくて反論?
……それについては、以下をお読みください。長いですよ……。ツイッター40回か50回くらいでしょうか。では、どうぞ……。
※※※※※※
漫画家の小林よしのり氏(以下、小林氏)と1月15日に対談させていただいてから2ヶ月、その模様が雑誌『創』3月号に掲載されてからも1ヶ月以上がたった。
そもそもそんな対談が行われたことじたい知らないという人も多いはずだし、読んでくれた人たちも目まぐるしい世間の動きの中、すでに終わった話として忘れてかけているのではないだろうか。
何をどう話したのかについては、私の口から説明する手間を省くようで恐縮だが、まずは雑誌『創』の編集長で対談にも立ち合った篠田博之氏による報告をご覧いただきたい。
「小林よしのりVS香山リカ『アイヌ問題』で激突対論!(篠田博之) – Y!ニュース」
http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinodahiroyuki/20150209-00042922/
今回の対談のそもそものきっかけをまとめると、次のようになる。
・昨年、札幌の金子やすゆき市議が「アイヌ民族は、もういない」とツイートしたことをきっかけに、ネットを中心に「アイヌ民族否定」の論調が高まり、ついにいわゆるヘイトスピーチデモのテーマのひとつに「アイヌ」が取り上げられるという事態に至る。
・ツイッターで、アイヌ民族としてツイートしている人にまで「アイヌなんてもういないのになりすましているだけ」「不正を働いて利権を得ている」といった心ない言葉が平然と浴びせかけられているのを見かねた私が、「言葉による民族浄化が行われようとしている」と雑誌やツイッターなどでこの動きを批判。
・その中で私は、かつて『わしズム』などで「現在の日本に『アイヌ民族』など一人もいない!」「アイヌ『民族のでっち上げ』を許すな!」などの主張を繰り広げており、現在の「アイヌ民族否定」の動きに大きな影響を与えていると考えられる、などと述べた。
・おそらくそれらを目にした小林氏が、昨年11月13日「アイヌは日本国民である」というエントリーのブログで、「言論・思想を封じるのではなく、思想し続けたいわたしに対して、香山リカと中島岳志は答えよ!」と呼びかける(https://www.gosen-dojo.com/index.php?key=joaa6dvgu-1998)。(ちなみに、ここでなぜ中島岳志氏の名前が出てくるかは不明。後に本人にも確かめたが「よくわからない」との返答だった)
それを受けて『創』での対談が実現したのだが、私としては3時間あまりの中で、ある程度、自分が伝えるべきことは伝え、示すべき資料は示せたつもりだ。
私の「伝えるべきこと」とは、ただひとつ、「いまネットを中心にアイヌへのたいへんな差別、否定が行われている。その構造は在特会による在日へのヘイトスピーチと同じ。それを食い止めるためには、いまだに保守派にも圧倒的な影響力のある小林よしのり氏の協力が不可欠なので何とかお願いしたい」ということだ。
そしてそのために、「現在の国際的・学術的の考え方に照らし合わせれば、アイヌは民族でありかつ先住民族であることは疑いようもないこと」「彼らへのアファーマティブ・アクション(差別是正や権利回復のための政策)を“利権”“特権”と決めつけるのは誤りであること」「もちろん個別の不正やムダは正すべきであること」を資料などを示しながら説明しよう、と考えたのである。
小林氏は現在、“利権”“在日利権”を否定する立場で差別への反対をはっきり表明している。だとしたら、アイヌが近代の同化政策で生活の基盤や文化を収奪され、結果的に生活格差が生じたことやいまだに差別も残っている現状を伝えれば、それは理解してくれるはずだ。その上で私は、「ネットで広がって当事者にも届いている心ないデマ、差別をなくすためにも、ここはまず小林氏に『アイヌを民族と認めよう』と言っていただく必要があるのです」と協力を仰ぐつもりだったのだ。
残念ながら対談では、小林氏の主張を変えることはできなかった。そのあたりは実際の対談を読んでもらうしかないのだが、私は「だとしたら、あとは一般の読者や言論人、専門家の感想や検討を待つしかない」と思っていた。
しかし、その対談の余波は思わぬ流れとなり、いまだに続いているのである。これは本当に予想外のできごとであった。
小林氏サイドは「そっちが勝手に続けているんじゃないか!」と主張すると思うが、どちらが継続の主たる原動力なのかで争っても不毛なので、ここでは問わないことにしたい。
たとえば、小林氏は3月10日の「異様な事件が多すぎる」なるタイトルのブログで、一連の「異様な事件」に含める形で、私のことに言及している(https://www.gosen-dojo.com/index.php?key=joq0z57id-1998#_1998)。
実はこれ以前にも、自身のプロダクションのポータルサイト「ゴー宣ネット道場」(https://www.gosen-dojo.com/)内のコンテンツ「よしりんの『あのな、教えたろか』」ではかなりの頻度で私への批判が登場し、対談後に限っても計20回以上を数える。
これだけではない。同コンテンツ内のスタッフブログ「トッキーのどうがお願いします」では、小林氏の古参スタッフの時浦兼氏が舌鋒鋭く、時には3日、4日と連続して「香山リカ批判」をエントリーしている(3月14日「香山リカの発言はすべて『口から出まかせ』か。」など (https://www.gosen-dojo.com/index.php?key=joblx8p0w-736#_736)。
その回数は師匠をはるかにしのいでおり、さらに時浦氏はツイッターを使用していて、そこでも小林ファンと思しき人たちとともに時おり私への批判を繰り広げている。
私はブログなる発信メディアを持っていないので、小林氏のたび重なる批判にこたえるすべもない。ツイッターは愛用しているが、もともと「著作や出演の告知」「大喜利的なネタの投稿」「プロレス観戦やペットなどの雑談」のために始め、現在はアンチの方々から押し寄せるリプライにときどき応えるという感じなので、時浦氏のブログやツイートにいちいちまじめに返答もしていない。
それに対して小林氏ファンから「時浦さんにちゃんと答えない香山は卑怯者」といった意見が私のアカウントに寄せられるが、そもそも私が対談したのは小林よしのり氏なのだが、そのスタッフにまでどの程度、まともに返事しなければならないのかが、私にはよくわからないのだ。
時浦氏は対談の翌日、1月16日にこんなツイートをしている。
「よしりん先生はTwitterをやっていないので、香山リカ氏のTwitterでの発言については、私が対応させていただきます。時浦兼 @tokky_ura」
これが事態をわかりにくくしている。つまり、時浦氏のブログやツイートは小林氏の意見を代弁するものなのか、それともスタッフの単なる感想なのかがわかりにくい。小林氏のブログにはよく「時浦からの電話で聞いたが、香山リカが……」といったくだりが出てくるところを見ると、やはり「時浦氏≒小林氏」なのだろうか。本当によくわからない。
さて、本来であればせっかく場を借りたので、ここでまとめて小林氏、時浦氏からの膨大な批判にこたえなければならないのだが、何度も言うようにその量がハンパではないのだ。ということで、ここでまず基本的ないくつかの批判に、申し訳ないが「一問一答方式」で答えを述べることをお許し願いたい。そしてもし『日刊SPA!』の読者から「これはオモシロイ! もっとやって」という意見があれば、続きを考えてみたい(笑)。
Q.「自分でアイヌ民族と思ったら、アイヌ民族」、これでは誰でもアイヌ民族になれるのではないか?(1月15日)
A.小林氏やアイヌ否定論者たちは、その人が「アイヌ民族であること」が本人の自己意識から出発する、という点を問題視している。先の金子市議もツイッターで「アイヌは自己申告制ですからね」「私も、選挙に落ちたら○○○になろうかな(ツイッターでは伏字だったが前後のツイートから『アイヌになろうかな』だと推測される)」などと発言。ツイッターでは「アイヌ協会に電話して“私、アイヌだと思うのですが”と言ったら誰でもアイヌになれる」などのデマが拡散された。
対談でも話したが、アイヌに限らず、現在、民族に関しては「主観的アプローチ(本人の自認)」と「客観的アプローチ(共同体の承認や戸籍など)」の双方を重んじる、というのが世界的な潮流。アイヌでもまず大切なのは、本人の自己意識。しかし、アイヌ協会の会員になる(これは「アイヌ民族」と必ずしもイコールではない。協会に登録していないアイヌ民族も大勢いる)にも、本人の自認だけではなく、定款に基づいた入会申込書に対して客観的審査を経た上で決定される。
Q.アイヌ系日本人でいいではないか?(1月16日)
A.小林氏や否定論者は、「アイヌ民族」の存在を認めることが日本を分断させる動きにつながるのではないか、と懸念しているようだ。しかし、対談でも触れたように国連でのスピーチなどでも、先住民族と承認を得ることが日本からの独立、日本の分断といった動きにつながることはない、と当事者が繰り返し主張している。アイヌ民族の歴史やアイヌ語の研究をしている学者にしても同様で、なぜそのウラに謀略めいたにおいをかぎ取ろうとするのだろう。そんなに陰謀が好きなのか、陰謀がないと納得できないのか、とさえ見えてしまう。
もちろん、日本にいるアイヌは日本国民にほかならない。「日本人でかつアイヌ民族、かつ北海道の先住民族」でいいではないか? 日本は単一民族でなければ国家としての統一性が保てない、という発想のほうが日本への不信感をあらわしているのではないだろうか。
Q.「民族はいない」という意見を「言論封殺」するのは悪意に満ちた手口である(1月15日)
A.繰り返すが、民族を「歴史的に構成された人間の堅固な共同体」と真正性や客観性を重んじるのはスターリンの民族の定義であり(注・小林氏を「スターリン主義者」と言いたいわけではない)、それは現在の学問的潮流では古い考えと見られている。小林氏が言いたいのは、そういった定義に基づく「民族はいない」という主張なのだろう。だとしたら、「私は古い定義を支持したい」と断った上で発言すべき。
アイヌの中にはアイヌであることに誇りを持っている人もいれば、いまだに差別を怖れてそのことを隠して生きる人もいる。いずれにしても、「アイヌであること」に対して非常にデリケートで複雑な思いを持ちながらいまも生きる人がいるのに、「私はコタンに住んでシャケを獲ってるアイヌなんて見たことないから、アイヌなんていない」などというのはあまりにも乱暴だ。昨年からの騒動やツイッターでの心ない言葉に傷つき、メンタルヘルス不調を来したアイヌがいるとも聞いている。
もちろんどんな古い説や珍説を信じようと本人の自由だが、とくに影響力のある小林氏に不用意な発言を慎んで、と頼むのが「言論封殺」とは言えないはず。
Q.香山リカはアイヌ協会の立場を守りたい人なのだろうか?(1月17日)
A.私は、今回の対談の後の一連の小林氏のブログで、この発言にもっとも傷ついた。というか最大にガッカリした。
少し長めに引用させてもらおう。
「香山リカ氏はアイヌ協会の立場を守りたい人なのだろうか? アイヌ協会に都合の悪い論者を、一方的に貶す傾向があるから、そのように見える。だが、わしには立場はない。わしは組織や団体のバックアップはないから、あくまでも個人として、自分の頭で考えればいい。」
「わしは香山リカがアイヌ協会御用達の『ネタ本』しか読んでないだけで、洗脳されてるんだと思っている。」(https://www.gosen-dojo.com/index.php?key=jomz8d658-1998#_1998)
私が小林氏と対談したのは、冒頭にも記したように「小林氏に『アイヌ民族の人たちはいる。その人たちを差別してはならない』と言ってもらい、とくにネットで広まっている彼らへのヘイトスピーチが止まるように協力してもらうため」に尽きる。
それなのに、私があたかも「アイヌ協会のまわしもの」だと疑っていただなんて……。
それはないよ、小林先生……。
「アイヌ協会ご用達の『ネタ本』」って何。絵本かなんか、推薦してんの……?
公益社団法人・北海道アイヌ協会というのは、さまざまなアイヌ事業の窓口になっている団体で、アイヌ政策に基づく支援などを受けるためにはこの協会の会員として登録する必要がある(しかし先にも述べたように、この協会に登録していないアイヌも大勢いる)。 『わしズム』でも対談でも、小林氏はアイヌについて調べたいと思い、まずこの協会に取材を申し込んだところ断られたと述べていた。協会は「あの小林よしのり氏の取材!」とビビって断ったのだろうが、それはたしかに残念なことであった。
しかし、私は正直言って、北海道アイヌ協会に関してはその定款や関連事業を文字資料で見ただけで、それがどこにあるのかさえ知らない。関係者に会ったこともない。
もしこの反論に次回があったら(笑)、私の第二のガッカリについても述べたい。それは、小林氏は「これは在特会のような『既得権益バッシング』ではない」と言っていたのに、実は“アイヌがそこまで民族にこだわるのは利権が絡んでいるから”と疑っていると判明したことだ。
結局、人は誰かの利益のため、自分の利権のためにしか動かない、と小林氏は考えているのだろうか。そうでない人は、その後のブログで私をさかんにそう呼ぶように、「純粋まっすぐ君」として揶揄されてしまう。
私は、せっかく「日刊SPA!」でサブカルについての連載のチャンスを与えられたりのに放棄していることからもわかるように(笑)、決してまじめな人間でも正義の側の人間でもない。
ただ世界中で先住民族の文化復興や権利回復が“トレンド”になっている今になって、わざわざ日本で一度、国会決議まで経て「(民族でかつ)先住民族である」と認められたアイヌに対して、「民族ではない!」などと拳を振り上げる人たちがいる、という現状に顔が赤くなるような恥ずかしさを覚えた。「シーッ! ちょ、ちょっと待ってよ、世界の人たちに聞かれたらビックリされるからさ、声に出さないでよ」という感じだ。
そこには「アイヌたちを守りたい」といった同情やあわれみの気持ちがあるわけではなく、ただただ「あなたの言ってること、ちょっとおかしいから」という小林氏を頂点とする否定論者たちへの抗議だ。
よく私のところにはツイッターで「あなたはアイヌを救う正義の味方気取りですが、アイヌはみな迷惑しています。そっとしておいてほしいのです」とアイヌの代表者であるかのような意見を言ってくる人がいるのだが、これはピントがずれている。もちろん、結果的に抗議の言論活動がアイヌのためになればうれしいとは思うが、そもそも「アイヌを救うため」にやっているわけではない。アイヌじゃない日本人として、同じくアイヌじゃない日本人の小林氏に「考えを変えてもらえませんかね」と言っているのだ。
それがなかなかわかってもらえず、アイヌ協会との癒着を疑われるとは、まったくもって「トホホ」としか言いようがない。
ああ、結局、3日分のブログにしか答えられなかった。
もしチャンスがあれば、続きはまたということにして、今回はこんなところにしておきます。
文責/香山リカ
― 香山リカ、「アイヌ否定問題」で小林よしのり氏に反論【4】 ―
http://nikkan-spa.jp/819659