共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

静養の身に沁みた名曲〜リヒャルト・シュトラウス『明日!』

2025年02月10日 17時17分17秒 | 音楽
昨日までと比べるとだいぶ体調は良くなってきましたが、それでも咳だけがどうしても止まりません。声も出し辛いのでここ数日はひたすら黙っていることが多く、龍角散のど飴がお友達になっています。

土曜日からはとにかくゆっくりと過ごすことを目的としていて、身体を温めながらいい音楽を聴くようにしています。そのいくつかの音楽の中で特に心に沁みたのが、『明日!』という歌曲です。

『明日!(Morgen!)』作品27-4は、



リヒャルト・シュトラウス(1864〜1949)が1894年に作曲した歌曲です。タイトルの『Morgen!』は、『明日!』『あした!』『あした』『あしたには!』『明日(あす)の朝』など、さまざまに訳されていますが、今回は『明日!』にさせていただきます。

『明日!』は、新婚の妻パウリーネのために書かれたと伝えられる《4つの歌曲》作品27の締めくくりに位置する作品です。シュトラウスの作品のなかでも特にロマンティックなものの一つとされていて、単体で知名度も高いものとなっています。

簡素ながら、非常に繊細な美しさを持った作品で、ピアニストのジェラルド・ムーア(1899〜1987)は著書『歌手と伴奏者』の中で、

「『壊れものにつき、取扱注意』のラベルを張るべきである」

と述べています。少々大袈裟な表現かも知れませんが、そのくらい繊細な小品だということができます。

スコットランド系ドイツ人作家ジョン・ヘンリー・マッケイ(1864〜1933)によるテクストは、



Und morgen wird die Sonne wieder scheinen
Und auf dem Wege,den ich gehen werde,
Wird uns,die Glücklichen,sie wieder einen
Inmitten dieser sonnenatmenden Erde …

そして あした 太陽は再び輝くだろう
そして私が歩む道々の上で
幸せな私たちを 太陽は再び一つにするだろう
隅々まで太陽が呼吸している大地に囲まれた中で …

Und zu dem Strand,dem weiten,wogenblauen,
Werden wir still und langsam niedersteigen,
Stumm werden wir uns in die Augen schauen,
Und auf uns sinkt des Glückes stummes Schweigen …

そして 広がる 青く波打つ浜辺へ
私たちは静かにゆっくりと降りていくだろう
黙って 私たちはお互いに見つめ合い
そして 私たちの上に 幸せな無言の沈黙が沈んでいく …



という希望に満ちた愛の詩で、やや感傷的で儚く繊細な詩です。シュトラウスもそれを受けて、繊細の極みといってよい音楽をつけました。

『明日!』はLangsam, sehr getragen(ゆるやかに、きわめて落ち着いて)という指示の書かれた、ト長調、4/4拍子の曲で、最初のフレーズが解決しないうちに歌がサブドミナントで入ってくる開始は非常に印象的です。作曲者自身による管弦楽編曲もあり、そこでは一貫してアルペッジョをハープが、主旋律を独奏ヴァイオリンが受け持っています。

この曲は、かつて私も知り合いのソプラノ歌手のリサイタルの客演でヴァイオリンを弾いたことがありました。至ってシンプルな音符なのですが、線が細くなり過ぎないようにしながらもソプラノの邪魔になってもいけないので、かなり悩みながら練習した記憶があります。

そんなわけで、今日はリヒャルト・シュトラウスの『明日!』をお聴きいただきたいと思います。ディアナ・ダムラウのソプラノ、ルノー・カピュソンのヴァイオリンソロ、ヴァレリー・ゲルギエフ指揮、フランス国立管弦楽団によるエッフェル塔前での野外ライブ映像で、この上なく美しいリヒャルト・シュトラウスの歌曲をお楽しみください。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする