今日は比較的風の涼しい日和となりました。一見着々と秋が近づいているようにも感じますが、先島諸島付近にある台風11号が週明けあたりに南岸の暑い空気を引っ張り込んでくるようなので、油断はできません。
せめて涼しい風を謳歌しようと外に出てみたら、道端に
2つ重なった連理の露草が咲いていました。今までにも露草の花は見かけていたものの、どういうわけだか今年の露草の花は色が薄いものが多くて撮影していませんでしたが、ようやく理想的に美しい青色の露草を見つけました。
目にも爽やかな露草の花を見ていたら、ふと爽やかな音楽が聴きたくなりました。買い物を済ませて我が家に戻ってからあれこれと物色してみたのですが、今回聴きたくなったのは
バッハの《ヴァイオリンとチェンバロのための6つのソナタ》です。
バッハの《ヴァイオリンとチェンバロのための6つのソナタ》は、バッハがケーテンで宮廷楽長をしていた1717年から1724年までの時期に作曲されたと考えられている作品です。ただし構想自体はそれ以前のヴァイマール期にまで遡る可能性もあるようで、また第6番の幾つかの楽章を含む部分は、バッハがライプツィヒに移った後の1725年頃に改訂されたようです。
バッハは、1720年前後に、チェンバロを初めて協奏曲の独奏楽器に起用した《ブランデンブルク協奏曲第5番 ニ長調》を作曲しました。《ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ》の何曲かは、この《ブランデンブルク協奏曲第5番》と並行して書かれた可能性が高いと考えられています。
バッハのヴァイオリン作品というと『ヴァイオリン作品の旧約聖書』とも称される6曲の《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》に評価が集中しがちです。逆に言えば、ともするとそれ以外のヴァイオリン曲は不当に軽視されてきた向きがあります。
しかし、《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》がヴァイマール期の1715年以前に作曲されたものであることや、ヴァイマール期からケーテン期にかけてと思われる時期に幾つかのヴァイオリン協奏曲が作曲されたという成果を踏まえると、それよりも後に作曲されたこの《ヴァイオリンとチェンバロのための6つのソナタ》は、むしろバッハのヴァイオリン作品のほぼ最後の方に位置していることになるのです。なので、このソナタ集はバッハによる『ヴァイオリンとの取り組みの総決算』という作曲意図が部分的にはあったのではないか…という可能性も十分視野に入れるべき作品なのです。
他のバロック時代のヴァイオリンソナタとこのソナタ集の一番の違いは、ヴァイオリンとチェンバロが対等に活躍するということです。
ヘンデルをはじめとした他のバロック時代のヴァイオリンソナタは主にソロ楽器のヴァイオリンが活躍し、チェンバロ(+チェロorヴィオラ・ダ・ガンバ)は低音でヴァイオリンを支える役目をしていることが殆どです。それに対してバッハのソナタはヴァイオリンとチェンバロの右手・左手それぞれにメロディが登場し、まるてモーツァルトやベートーヴェンのヴァイオリンソナタのように対等に渡り合います。
6曲それぞれに特徴があるのですが、中でも最後に収録された第6番ト長調はちょっと変わった構造になっています。
他の5曲は緩-急-緩-急という4つの楽章からなっていますが、第6番だけは急-緩-急-緩-急という5つの楽章でできています。しかもヴァイオリンソナタなのになぜか第3楽章はチェンバロソロで、ヴァイオリンは全休止になっているのです。
この第6番は作曲期間が6曲の中で最も長く、ヴァイマル時代からライプツィヒでの最終稿までに2回の大幅な改訂が行われました。この第3楽章のチェンバロソロはその改訂の際に差し替えられたようで、改訂前の第2版の第3楽章に充てられていたシチリアーノの楽譜も異版として伝わっています。
ト長調という調性もあって、第1楽章や終楽章は爽やかな印象の音楽が展開されていきます。第2楽章と第4楽章はメランコリックなメロディが印象的で、第3楽章のチェンバロソロはホ短調の快活な楽章となっています。
そんなわけで、今日はバッハの《ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ第6番ト長調》のチェンバロソロが差し替えられる前の第2版をお聴きいただきたいと思います。佐藤俊介氏のバロックヴァイオリンとディエゴ・アレスのチェンバロによる、爽やかで軽やかな演奏でお楽しみください。