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獣医にて

「ベンケイ君、どこか変わったところはないですか?」
「ええ、元気だと思います」
「はい、それなら狂犬病の予防注射を打ちましょう。その前に体重を量りましょうか。・・・はい、31kgですね・・、あれ、去年よりも2kg減ってるなあ・・」
「そうですか・・、少し前に太ってきたんで、ご飯を少し減らすようにはしてたんですが」
「ベンケイ君は'97年生まれですからもう10才を越えましたね」
「そうか・・、そうですよね。相変わらず元気なんで何才かなんて忘れていました」
「11才ですね。私が知ってる範囲で、秋田犬の寿命はだいたい10才くらいです。中には12、3才まで生きるものもいるようですけど、珍しいですね。大型犬の寿命はだいぶ伸びてきましたが、それでも10才くらいが平均かなと思います」
「えーっ、そうなんですか・・。全然知りませんでした、寿命なんて考えたこともなかったし・・。ちょっとびっくりしました」
「ベンケイ君を今こうやって見て気づくのは、睾丸が大きいことです。これは精巣に腫瘍ができているからかもしれません。精巣の腫瘍が前立腺にまで転移すると、前立腺肥大になり、尿の出が悪くなります」
「うーん、人間と同じですね・・」
「そうです。尿が出なくなると、まさに地獄の苦しみを味わうようになり、周りの者はとても見ていられません。そういう場合には、安楽死という選択もあります・・」
「そこまで考えなくちゃいけませんか?」
「もちろん今すぐっていう訳ではないですし、必ずそうなると決まっているわけでもありません。あくまで仮定の話です」
「もうそろそろそういう年齢だということだけは覚悟しておけってことですね」
「はい、そうです」

 先日、我が家の愛犬弁慶の予防注射とフィラリア予防の薬をもらいに行った獣医で思いもかけぬことを言われてしまった。毎日接していて、以前と変わらず元気な様子である弁慶に老いが忍び寄っているなどと考えたことはなかった。考えてみれば10才を越えている弁慶であるから、そろそろケアしてやらなくちゃいけない年齢であるのは明らかなのに、弁慶はいつまでも元気な犬のままであると勝手に思い込んでいた。獣医の話に寄れば、11才というのは秋田犬としては長生きの部類に入るようだが、老犬などという雰囲気はまるでない。今までと同じように、見知らぬ人が通ればワンワン吠え立てるし、散歩に連れ出しても軽快に走っていく。ただちょっと以前のような持久力はなくなったかな、と感じなくもないが、それでも目に見えて衰えてきたなどとは全く思ったこともない。私が迂闊であったのかもしれないが、弁慶に老化の兆しを見つけたことなどなかっただけに、獣医の話は衝撃的だった。
 「よくて後2・3年しか生きられないのか・・」
とても信じられないが、生き物それぞれに与えられた時間は限られているのだから、こればかりはどうしようもない。こうやって他人事のように構えている私自身さえ、命の蝋燭の残りはかなり少なくなっているはずだ。ただそれに気づかないだけで、今こうやっている間にも刻一刻と蝋燭は燃え続けている。悲しいかな、それを止めることは誰にもできない・・。
 弁慶と私のどちらの命が先に尽きるのかも分かったものじゃない。だからこそ、今この一瞬一瞬を大切に生きていって、少しでも悔いを残さぬようにしてかねばならない。そのためには、自分に何ができるかなどと考えるより、己のしたいことをどんどんやっていくようにするしかないだろう。
 
 とりあえず、弁慶と散歩に行く時間を増やすようにしようではないか。
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