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シートベルト

 水曜日のことだ。
 信号が青に変わってゆっくりと走り出したら、交差点の角に背広姿の男性が椅子に腰掛けているのを見つけた。「交通量調査かな?」と、かつて大学生の頃一度だけやったことのあるアルバイトを思い出しながら、近づいて行った。すると、その男性はやおら立ち上がり何か手で合図をした。「えっ?」と思った瞬間に、制服姿の警官が飛び出してきて、赤地に「止まれ」と白抜きされた旗で私を制止しようとした。「シートベルト?」と気づいたときにはもう遅く、路傍に停めたバスに近寄って来た警官に「シートベルトですよね」と苦笑いするしかなかった。
「困ったなあ、生徒を迎えに行くところなんです。免許証だけ置いていくってわけには行きませんか?」と、無理を承知でたずねてみた。
「それは無理です。急いで手続きしますから・・。余計な時間がかかってしまいますから、シートベルトを忘れないようにしてください」
「そうですよね、うっかりしてました」
「それとですね、6月から道路交通法が変わって、後部座席に乗る人もシートベルトを着用しなければならなくなります」
「ええ、知ってます。バス座席も全てですよね」
「はい、そうです。でも、バスの場合、後部座席の人がシートベルトを着用してなくても注意をするだけで、罰則は科せられません」
「そうですか・・。シートベルトをしてないと罰金ですか?」
「いいえ、減点です」
「えっ、罰金の方がいいなあ。どちらがいいか、選択できないんですか?」
「そんなことはできません。減点と決まっています」
「そうですか・・」
せっかくのゴールド免許もこれでサヨナラだ。ちょっとがっかりし始めたら、警察車両に乗り込めと言われた。バスに乗っている生徒に、「ごめんね。すぐに終わるらしいから、ちょっと待ってて」
と言い置いて警察のミニバンに乗った。
 若い警官に免許証を渡すと、一枚の書類にこまごましたことを書き込み始めた。私はシートベルトをするのをよく忘れてしまう。車に乗り込んで最初にすべきことはシートベルトの着用であるのは分かっているが、免許証を取った時にはシートベルト着用が義務化されていなかったものだから、その習慣がどうしても身につかない。車を運転しながら、はっとして慌ててカチッとシートベルトをすることもあるが、最後まで忘れたままでいることもある。こんなことを書くとどこからかお叱りの声が聞こえてきそうだが、今回のことを契機に「二度とシートベルトの着用を忘れないようにする」と心に誓ったから、過去のことはリセットしてもらおう。(虫が良すぎるか・・)
 
 結局、10分ほど手続きにかかってしまい、バスに乗っている生徒にも、バスを待っている生徒にも迷惑を掛けてしまった。全て私の不注意のせいであるから、生徒一人一人に謝った。「シートベルトなんか・・」という油断が大きな事故につながらないとも限らない。車の運転は、万が一のことを考えて絶えず集中することが何より大切だ。己にもっと厳しくなり、ますます安全運転に心掛けなければならない。
 さらに、バスに乗る生徒にもシートベルトをするよう指導していかなければならない。今まで碌に使ったことがないから、シートベルトのセットの仕方が分からない生徒も多いだろうし、シートベルト自体も座席の下に落ちてしまっているところもある。小さな生徒もいるし、面倒くさがる生徒もいるだろう。全員に徹底させるにはなかなか骨が折れそうだが、安全に送迎するためにはそうした努力を怠ってはならない。
 今回のことが、安全運転の大敵である「不注意」「油断」を、己の中から駆逐するためのよい反省材料となるのなら、ゴールド免許をパーにしてしまったことぐらいでクヨクヨしていられ・な・・い・・・。
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