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「山のあなた」

 「山のあなた 徳市の恋」を見た。草剛が盲人の按摩役を演じるこの映画のことは、妻から漏れ聞いてだいぶ前から知っていた。しかし、その内容はほとんど知らなかった。ただ草剛が何度も昔の映画を見せられて、その通りに演じるように言われたことだけは映画館に向かう車の中で妻に教えてもらった。この前の日曜日に「瞼の母」を見てきた妻が、「前から3列目だからよく見えたけど、やっぱり剛はかっこいい!!」と興奮気味に話したので、「それじゃあ、映画も見に行こう」ということになった。妻は「一緒に見に行っても、どうせ文句しか言わないからいやだな・・」とブツブツ言っていたが、「そんなの見てみなきゃ分からないよ」と言い切って出掛けることになった。なんでも、この映画は1000円で見られるようで、「どうして?」とたずねた私に、「心をほっと癒してくれる映画ができたからたくさんの人に見てもらいたくて1000円にしたんだって」と妻はすぐに答えた。本当にSMAP関係のことは何でも知っている。映画の内容も尋ねたら教えてくれそうだったが、それではつまらないので、これ以上のことは聞かずにスクリーンに向かった。
 あらすじは次のようだ。

「山間の温泉地に徳市と福市という目の不自由な按摩がやってくる。彼らの楽しみは山道での目明きの人間を追い抜くこと。ある日徳市は、東京から来た美千穂という女を担当し、彼女の謎めいた佇まいに淡い恋心を覚える。翌日も美千穂に頼まれ、徳市が宿を訪ねると、宿では奇妙な盗難事件が起こっていた。そして物語は意外な方向へ…」


 
 前半は展開がだるくて眠くなってきた・・。館内のエアコンがきつくて寒いし、後ろの方でぺちゃくちゃ話をしているおばさんたちはうるさいし、映画に集中できなくて席を立ちたくもなったが、そんなことをしたら妻に叱られてしまう。何とか我慢しながら見ていたら、少しずつテンポがよくなってきた。いくら昔ののんびりした温泉場を舞台に描いた物語でも、これではちょっとつまらないな・・などと感じているうちに、映画は終わってしまった。外に出て、「草の按摩の演技がオーバーすぎたよね」と妻に言ったところ、「仕方ないじゃん、そうやれって言われたんだから。言われた通りにやったらああなったんでしょ」とぶっきらぼうに答えた。「ふ~ん、そうか。それ以外はまあまあよかったんじゃないの?」「そうかなあ・・」「草はどんな役でも、ある程度まではできるん力はもうあるみたいだね。ただそれ以上のものを望んだりすると、あれこれ文句も言いたくなるんだろうけど」「まあねえ・・」
 ご飯を食べた後で、妻が買ったパンフレットを見せてもらった。すると、この映画は名匠・清水宏監督が70年前に発表した「按摩と女」を、石井克人という映画監督が完全カヴァーしたものだと書いてあった。「リメイク」ではなく、「カヴァー」だと強調してあったのに興味が引かれた。昔の楽曲を「カヴァー」したというのはよく聞くが、映画を「カヴァー」したというのは初め目にした。要するに「按摩と女」を、出演者が違うだけでそっくりそのまま再現したかったということなのだろう。妻はこのことを知っていたようで、盛んに「何がしたかったのかよく分からない」と首をひねっていたが、私がこの映画に感じた「だるさ」もその辺りにあったのかもしれない。70年前の白黒の映画なら、そういうものとして見るだろうから、現代に生きる私との感覚の「ずれ」も、時代の違いだと思って納得できる。だが、あえて昔のままの演出そのままを現代のきれいなスクリーン上で見せられると、「ずれ」が鮮明になってしまい、どこか違和感を感じずにはいられなくなるような気がする。やはり、昔の主題はそのままにしながらも、少しは現代風なアレンジや解釈を加えた「リメイク」という手法をとっていたら、この映画ももう少し楽しめたかな、と思った。
 
 それでも、そんなことなど気にせず、映像の端々に映し出される日本の美しい原風景を1000円で楽しむつもりなら、見てもいい映画かなと思わないでもない。
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