はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

宇宙ステーション

2022-10-16 18:54:33 | はがき随筆
 早朝4時起床。空を見上げると満天の星。そのなかで三日月と金星が輝きを放っている。昨日までの不安定な天気がうそのよう。十分期待できそう。
 4時44分。南南西に金星と間違えるほどの輝きが現れた。宇宙ステーションだ。5分後には北東の方向にスーッと消えた。今回は、いろいろな条件が整い十分堪能できた。
 地上400㌔㍍上空に建設された巨大な実験施設。90分で地球を一周するとか。その中で、壮大なプロジェクトの実験や観測が行われていると思うと、ロマンを感じる。
 私の心が潤ったひととき。
 鹿児島県垂水市 竹之内政子(72) 2022.10.1 毎日新聞鹿児島版掲載

再就職

2022-10-16 18:48:14 | はがき随筆
 デイサービスの仕事に就いた。長年封印していた看護師資格を使う気になったのは、「70代の人も活躍しています。高齢の方々に寄り添っていただくお仕事です」という職場紹介をみて安心したからだった。面接、即採用になった。
 1日4時間の午後のパート。体操やゲーム時の見守り、お茶やおやつ配り、食器洗い、機能訓練や傷の処置。そして掃除。
 「少しずつ慣れていけばいいですよ」。必要以上にがちがちに緊張している私に、若い先輩たちが声をかけてくれた。「頑張って!」利用者さんたちも、応援してくれるのだった。
 宮崎県延岡市 渡辺比呂美(65) 2022.10.1 毎日新聞鹿児島版掲載

人生舞台

2022-10-16 18:41:03 | はがき随筆
 朝からカーテン越しに朝日が差し込み心地よい朝です。お日様の声が聞こえてきました。「今日は体調はどうかね。もうすぐ今日の舞台の幕が開くよ。準備はいいかね。すてきな舞台にしようね。心の笑顔を忘れずに」。杖は軽く、チャップリンのようにはいかないが、気持ちを頂いて、アラ、本当に軽くなった。調子に乗らないこと。繰り返しの出来ない人生舞台。夕日が沈む頃、お日様が点をつけて下さる。それが楽しみ。感謝をしっかり申し上げ、眠りに就きます。どこからか歌が聞こえてきます。線路は続くどこまでも。明日の人生舞台が楽しみです。
 熊本県八代市 相場和子(95) 2022.10.1 毎日新聞鹿児島版掲載


ラジオ体操

2022-10-16 18:29:33 | はがき随筆
 ラジオ体操が体にいいことだと分かっていたが、実行にはいたらなかった。近くのグラウンドで数人の方がされているのを横目で見ていたが、1年ほど前思い切って参加した。冬は暗い中、外灯の下2.3人で続けた。夜明けが早い夏場は、5時ごろから散歩をして時間待ちした。仲間は高齢者がほとんどで、90歳の方など相当に元気である。難聴のせいか時々動きが変になるが、ドンマイ、ドンマイ、笑顔だ。ほほえましい。コロナ禍以前は忘年会までしていたと話される。ヒンヤリした風がいい気持ち。今朝も白い月を見上げ、流れる雲を追いかける。
 熊本県八代市 鍬本恵子(76) 2022.10.1 毎日新聞鹿児島版掲載

台風の中で

2022-09-30 13:23:52 | はがき随筆
 避難用に取っていただいたホテルの6階の窓から、台風14号の横なぐりの雨と風をぼうぜんと見ている。突風で自宅の屋根瓦が吹き飛ばされたのだ。妻は……。
 妻は3日前の朝、脳梗塞で倒れ、ドクターヘリで運ばれICŪに。倒れ込んだ妻の顔と身体の半分は硬直して「ああっ、ううっ」と言葉にならない。抱き起そうとした私の右腕が抜けない。不安神経症を抱え取り残された私は……。病院への往復の車内で、風呂でキッチンで「お母さん」と声を上げて泣いた。そうだ、今日のことだけを考えるんだ!
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(73) 2022.9.30 毎日新聞鹿児島版掲載

サクランボ

2022-09-30 13:16:19 | はがき随筆
 「和田さん、宅急便です」と京都に住む娘から母の日のプレゼントだ。
 早速、箱を開けてみると可愛いサクランボが顔を出している。一個ずつ動かないように仕切られている。自分では買えない超高級品だ。
 まず、小皿に乗せて仏さまへ。ちょうどきていた3歳の孫に「サクランボだよ」と一粒ずつ手にとって渡すと「甘いね」と笑顔でおいしそうに食べた。
 本当にまたたく間になくなった。
 サクランボの旬は、あっという間だから一年に一度の幸せなひとときだった。
 宮崎県延岡市 和田康子(72) 2022.9.29 毎日新聞鹿児島版掲載

文学に親しむ

2022-09-28 11:51:45 | はがき随筆
 行水も日まぜになりぬ虫の声
 50年前の新婚の頃、夫の本を捲っていてこの句を見つけた。何とよく言い得ている事かと、この句との出会いがうれしかった。その頃、姉が毎週のように新聞の歌壇に載っていたので、私もと投稿してみたが全滅であった。自分には文才が無いのだと作るのを諦めて鑑賞する事に徹して来た。姉のように名首は残せなかったが、いい文学作品に出会う喜びは味わえたと思う。今朝、窓を開け、冷気と共に心地よい風を感じながら、ふと来山の句を思い出したのだが、さて、この句が載っていた本は誰の名の何と言う本だったかな?
 熊本市北区 井出リエ(76) 2022.9.28 毎日新聞鹿児島版掲載

灯下美人

2022-09-28 11:24:27 | はがき随筆
 「月下美人が今夜開きそうよ。昨夜も3輪咲いたけど、見てあげられなかったのよ。今朝さびしそうにしぼんでいたわ」
 夕食のテーブルについたら、カミさんが話しかけてきた。
 「それじゃあ今夜は家の中で咲かせたらどうよ」「そうね」
 カミさんはつぼみのまま月下美人を3輪切り取ってきて、口が横に広がっている花瓶に生けた。11時ごろ全開に近くなったので、カミさんは顔を近づけて深呼吸。「ああ、いい香り。月下美人も喜んでいるわよね」「月ではなく蛍光灯だから、灯下美人だけどね」。老夫婦は軽口を交わして眠りについた。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(85) 2022.9.27 毎日新聞鹿児島版掲載

樹上のお別れ

2022-09-26 17:34:43 | はがき随筆
 夕食後、お嫁さんが耳を澄ませた。「今、ザーザーと聞こえているのは虫の声ですか?」。私も耳を。「あ、セミ?」。でも鳴き声がどこか悲壮的だ。
 台風接近で庭を見回っていた息子に声をかける。「そう、セミだよ。飛ぼうとして枝にからまった」と言う。あー、残り少ない命なのに。助けようと2階のベランダからヒメシャラの木に竿を伸ばしていた息子が声をあげた。「カマキリに捕まってる」。えっ、なんという不運。カマキリはセミを離さない。
 そして夕暮れ空に響いていた鳴き声は消えた。私たちは樹上を見明けてさよならをした。
 宮崎県延岡市 柳田慧子(77) 2022.9.26 毎日新聞鹿児島版掲載

夜の会議

2022-09-26 17:26:32 | はがき随筆
庭の周りにいろんな気が植えてある。前に住んでいた方が植木の好きな方だったのだろう。四季折々に色と香りで楽しめる。ムクゲ、アジサイ、クチナシ、ツツジ。主なくても花は咲く。松の苗木を見つけてきて庭に植えた。小さな手のひらにのっていた松の木が今では私の背丈以上になった。だんだん枝ぶりができた。愛しくて愛しくてならない。松竹梅のリーダーの松が木の精を庭に集めて夜の会議を開いていると思う。雨にもめげず風にもめげず四季の恵みに感謝して頑張ろう。松の木君の声が聞こえるようだ。毎晩夜の会議は続く。神秘な会議が。
 熊本県八代市 相場和子(95) 2022.9.25 毎日新聞鹿児島版掲載

御楼門

2022-09-26 17:18:05 | はがき随筆
 手元に昨年の鹿児島銀行のカレンダーがある。それには、再建された御楼門とお堀の蓮の花が描写されている。
 見に行きたいと思い続けていた。思いが通じたのか、弟から5月6日に黎明館で「先史・古代のかごしま」展見学の誘いの電話があった。飛びつく気持ちで快諾。当日はあいにくの小雨の中、弟夫婦はこの上ない昼食のもてなしで迎えてくれた。
 甲突川沿いの維新ロードを歩き、黎明館内を見学。そして、御楼門へたどり着いた。門柱に耳を当てた。行き通う車の喧騒に交じり、維新の兵が橋を渡る音が響く島津雨の御楼門。
 鹿児島県出水市 宮路量温(76) 2022.9.24 毎日新聞鹿児島版掲載

亀太と18年

2022-09-26 17:10:57 | はがき随筆
 このところ「疲れが」という娘から、私に総菜を届けて帰宅しすぐ「亀太が死んでいる」と電話。
 孫の片手ほどの亀を買って18年。台風11号でぶり返した暑さを思うと「さもありなむ」と思った。後悔した。
 娘のところの2人の男孫。動物好きの下の子はまだよちよち歩きの時、動物園の触れ合い行事で動物をしっかりつかみ、世話のおじさんに怒られたし、お兄ちゃんは亀好きで弟のようなつもりで一緒にいた。
 いずれにしても別れの時が来た。家族に、私に、心の支えをありがとう、
 鹿児島市 東郷久子(88) 2022.9.21 毎日新聞鹿児島版掲載

ありがとう

2022-09-26 17:03:39 | はがき随筆
 我が家の川岸の崖が崩れたのは昨年の5月であった。昨年は台風が1度きた。土木課にお話をしたが個人の仕事だと言う。
 今年自分で工事をすませた。土木の仕事もトビ職の元気なお兄ちゃんたちがはしごを何本もかけ川の中へ入り、ロープを握って6畳ほどの板の間を作った。
 屈強な若者たちが、目のさめるような機敏さでする仕事を毎日飽かず見た。ただ事故がなく無事に仕事が終わることだけを祈った。飲み物やアイス、菓子、コーヒーなどを上げた。
 ありがとう。終わりました。ほんとうにありがとう。頬を伝う涙がこんなに暑いとは……。
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(95) 2022.9.20 毎日新聞鹿児島版掲載

日常

2022-09-26 16:55:57 | はがき随筆
 特別何をするでもない昼下がり、居間に座り部屋を見回す。いつの間にか物であふれている。この中にどうしても捨てられない物はいくつあるのか。孫や愛犬の写真はずっと取っておきたい。いつかきれいに整理すると思っているが、いつの事やら。不用品だらけの部屋でもなぜか落ち着くから不思議だ。
 朝、庭に出たらいつもの場所に彼岸花を見つけて感動する。猛暑に耐え、懸命に伸びる姿に生きる力をもらったようで元気が出た。暑い夏も終わりに近づき、カナカナカナとヒグラシが鳴き、オレンジ色の夕焼けが一日の終わりを告げる。秋だ。
 熊本県八代市 鍬本恵子(76) 2022.9.19 毎日新聞鹿児島版掲載

朝採り野菜

2022-09-18 13:08:07 | はがき随筆
 小さな畑にナス、ピーマン、ゴーヤ、オクラなど作っている。朝採り野菜のみずみずしさ。色の美しさ。「そうだ娘たちに見せましょう」と写メで送る。
 「すごい! 近くなら貰いに行くのに」とか「お母さんが元気なのは新鮮な野菜を食べているからなのだ!」とか電話口でほめてくれる。
 大阪の友人にも送ると、「右の大きいのはヘチマやなあ。近所に鹿児島の人がいてはってヘチマ食べたい言うてはるねん。今年はどこにも売ってないんやて。みそ炒めうまいしな」と彼も食べたそうである。来年はたくさん作って送ってあげたい。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(82) 2022.9.18 毎日新聞鹿児島版掲載