はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

焦げ飯

2019-03-30 12:52:13 | はがき随筆

 使用済みの割り箸が、もったいなく週に2度は、庭の片隅にブロックを3枚置いただけの簡単なかまどでご飯を炊く。

 火加減がなかなか難しく、10回に1度くらいしか、気に入った「焦げ飯」はできないが、炊き上がりを待ってたように隣近所のおばちゃんたちがやって来る。熱々の焦げ飯をホッホッと言いながら塩むすびにして、ほうばりながら、ひととき昔を懐かしみ、かしましく雑談。

 空は春色、真っ赤なマンサクと真っ白な利休梅が満開。「ああ幸せ」と思わず言葉がほとばしる。

 みんなの顔もほっこり。「またお願いします」がうれしい。

 宮崎県日南市 永井ミツコ(71) 2019/3/30 毎日新聞鹿児島版掲載


2019-03-30 12:38:00 | はがき随筆
おいしく食したあと、あまり期待もしないでその種を植えてみた。ほどなく次々に新芽が顔を出し、若葉をつけていった。  暮れに迎春用の寄せ植えをつくろうと庭を探してみたが適当な苗木を見つけることができなかった。葉ボタンと一緒にならべるにはアンバランスかなとも思ったが、30本近くも育った小さな幼木の中から色つやの良い1本を選んで植えてみた。
 あれから3カ月余り、メキシコ原産のアボカドなのに、心配した寒さにも耐えて、のびのびと緑の葉っぱをひろげて、生き生き輝いている。Spring has come.
 熊本県菊陽町 有村貴代子(72) 2019/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載

1週間の戦い

2019-03-30 12:31:35 | はがき随筆
 その日は突然にやってきました。椅子から立ち上がれず、手も伸ばせず、腰が重くて、痛い! 助けて~と心で思いました。
 病院でぎっくり腰だと診断され、痛み止めと筋肉をほぐす薬で、どうにか3日間で立てました。
 悪いことに、花粉症を持っている私。くしゃみもセキもできない状態で苦しい思いをしました。
 主人にあれこれ指図し、迷惑をかけてしまい、危うく老々介護になるところでした。
 春は特に気をつけようと反省しました。
 鹿児島市 堂園芙美子(79) 2019/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

私のかぞくいろ

2019-03-30 12:22:35 | はがき随筆
 平成最後の秋の終りに公開された映画「かぞくいろ」。銀幕に映し出されるおれんじ鉄道沿線の美しい風景と、なさぬ仲の3世代の3人が、真の家族に成長していく物語に心ひかれ、幾度も映画館へ足を運んだ。「この思いを絵にしたい」と映画感想画コンテストに向け作品制作を始めた。その矢先、関西に1人暮らしする実母が緊急入院した。とても、とても、とても残念だったけれど、製作を諦め、私は関西と鹿児島を行き来する日々を選んだ。「かぞくいろ」の感動を絵に描くことはかなわなかったが、この毎日が、私のかぞくいろだ。
 鹿児島市 奥村美枝(58) 2019/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

別れ

2019-03-30 12:16:38 | はがき随筆
 その別れは、昨年の11月に突然告げられた「抜歯するしかないですね」と歯科医の先生から言われたのだ。痛みも何もなかったのに、長年付き合ってきた右上の奥歯とあえなく別れることになった。これまでよく頑張ってきたのかも、と気持ちを前向きに考えるようにした。
 所が、先日食事中に違和感を覚え、口からポロリと出てきたのは昔かぶせてあった歯のカケラ。舌でさわってみると今度は左上の奥歯だ。大切な奥歯2本を失うハメになるとは、あぁ、無情……。こうなった以上、残り20数本を大事に、大事に仲良くしていくしかない。
 宮崎市 藤田悦子(71) 2019/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

杉花粉アレルギー

2019-03-30 12:09:15 | はがき随筆
 小中学校時代、熊本の山間部で過ごした。第二次世界大戦直後のこと、遊具などろくすっぽない。杉花粉が飛散する季節は杉の実鉄砲で遊んだ。細い笹竹に1粒ずつ実を詰め、更に細い棒で飛ばす空気銃みたいなもの。せいぜい1㍍も飛んだろうか。
 昨今、新聞やテレビで花粉情報に接すると、嫌でも素手で実をつまみ、遊んでいた時代を思い出す。戦後の植林による杉が花粉アレルギーの元凶ともいわれる。戦前からの杉の実は無関係なのか、この年まであまり悩まされた記憶がないのは、不思議といえば不思議。
 熊本市東区 中村弘之(82) 2019/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

3年たちました

2019-03-28 15:19:00 | はがき随筆
 新婚の息子がヨルダンに転勤になり、不安いっぱいで見送った。そして3年。4月に任期が終了し帰ってくる。2人が4人になって、と言っても1人はまだおなかの中。秋に生れるそうだ。中東情勢は落ち着かないが、老眼も進み世の中が見えづらい市井のばあ様には、息子の無事な帰国だけが関心事。
 「よく頑張ったね。引っ越しの準備は体に障らないようにするのよ。どうしても持って帰りたいものだけ荷造りして、あとは捨てておいでよ」と能天気なばあ様になる。荷物を担いで国境を越える人々のことを思えばと、自分に言い聞かせて。
 鹿児島県出水市 清水昌子(66) 2019/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

改元の夜

2019-03-28 15:11:36 | はがき随筆
 昭和最後の夜、夜勤だった。テレビ回線の中継の仕事をしていた。中央から流れてくる番組は歌やお笑いがなくなり、シリアスなものばかりだった。激動の昭和史や銀座からの中継。ビル7階の職場から見た宮崎の市街も、ネオンが消え暗かった。
 母は大正が昭和になって3日目に生れた。私は年賀状はずっと昭和の年号を書く。今年は昭和94年である。ジョークのつもりだったが、今は母へのオマージュであり、昭和への哀惜である。母は昭和91年に逝った。
 平成最後の夜はどんな夜だろう。新元号になっても私の中の「昭和」は消えない。
 宮崎市 柏木正樹(70) 2019/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

うれしい会話

2019-03-28 15:04:09 | はがき随筆
 冷たい風の中でバスを待つ。近くに来られた笑顔のおじいちゃんから声をかけられた。「涼しかですな」。思わず笑ってしまう。「わしの懐も一緒ですたい」。そう、こんな会話が大好き。傍らの奥さんも笑っていらっしゃる。いいな、こんなご夫婦って。家でも楽しい会話がいっぱいだろうな。聞けば私の家とは反対方向らしい。しばらくしたらバスが来たので先に乗り込む。バス停の2人に「さようなら、気を付けてね」と手を振ったら、笑顔のご夫婦も手を振ってくださっている。見知らぬ方との楽しい会話。あぁ、今日はうれしかったと頬がゆるむ。
 熊本県八代市 鍬本恵子(73) 2019/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

赤ちゃん

2019-03-27 22:04:45 | はがき随筆
 ご近所に待望の赤ちゃんが誕生し、久々に生後3カ月の男の赤ちゃんに面会できた。
 なんと可愛い赤ちゃん。ちょっとだっこさせていただきたいが、ちゅうちょする。卒寿過ぎたしわだらけのばあさんにどんな反応があるだろう。
 思い切って声をかける。なんとにっこり。何とも言えない笑顔が返ってきた。「ああ、よかった」。そっと赤ちゃんの手に触れてみる。柔らかい手に桜貝を並べたような爪が並ぶ。どうか健やかに成長されるように。
 若いお母さんに「頑張ってね」と声をかける。何とも心の和らぐひとときだった。
 熊本市中央区 川口紋子(91) 2019/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載

春、うふふ

2019-03-27 21:55:14 | はがき随筆
 雛祭りの宵、街に薄明りのぼんぼり、そぞろ歩きの人々、お城のライトアップが幻想的。
 ご馳走を頂きながら、ジョッキのナマをくぃーっと飲む。「あー美味しい!」しばらくして、異変。くらっとしてきつくなった。初めての様子に自分の事ながら驚く。娘から「急ピッチだからよ。年を考えてね」と叱られた。ごもっとも、私68歳。忘れてた。
 翌日、孫たちのコンサート。九州に越して2年、2人の成長に目が潤む。
 今年は、桜のお花見。春風に吹かれ、春に浮かれます。子供の頃から春が好き。うふふ。
 宮崎県延岡市 川田久美子(68)2019/3/27 毎日新聞鹿児島版掲載

よそいき

2019-03-25 22:47:01 | 岩国エッセイサロンより
2019年3月23日 (土)
岩国市  会 員   貝 良枝

 「28日に保健師さんが来てよ」と母に伝える。「28日?」。確認したって覚えていられないのに。
 当日、実家に行き「10時に保健師さんが来てよ」と言うと「ほうか」と初めて聞くような返答をする。やっぱり……。掃除するので寝室に促すと「これでええかのぉ」と今着ている服を心配する。「いいよ、それで」と返事しておいた。来られたので母を呼ぶ。歩行器を押し現れた母は「お出掛け服」に着替えている。話し方も「そうです」「おります」と、よそいき。
 90歳、できないことが増えたが、「よそいき」のできる母に拍手。
   (2019.03.23 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

いつでも夢を

2019-03-25 22:45:04 | 岩国エッセイサロンより
  岩国市  会 員   吉岡 賢一

 竹馬やお手玉、あやとり、コマ回しなど昔の遊びを通して、小学1年生と地域の大人が交流する会に呼ばれた。不慣れな子供たち相手に我を忘れて遊びを楽しんだ後、一緒に給食をいただく時間となった。
 始まって間もなく隣の男子が「おじさん、いくつですか」と間くので「77歳よ」答えた。間髪を入れず「将来の夢は何ですか」ときた。思わぬ質問に、さて何と答えよう。適当にお茶を濁したものの人に話せる将来の夢などなくしてしまった自分がちょっと恥ずかしい。改めて思う。「雀百まで踊り忘れず、人間百まで夢を忘れず」だなー。  
  (2019.03.23 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

亡き母の味思い出す

2019-03-25 22:43:42 | 岩国エッセイサロンより
   岩国市   会 員   横山恵子

 先日、近所の人に手作りこんにゃくを差し上げたら「あんたのお母さんによくいただきました。こんにゃくを見ると思い出すわ」と言ってくれた。
 叔母から毎年コンニャク芋をもらうので、母は生前手作りしては知人にあげていた。晩年の20年余り、私とは同居していた。母が作るのをそばで見て、覚えたのは幸せだった。
 始めて1人で作った時、少し硬かったが、「初めてにしては上出来よ」と言ってくれた。すし、シソジュース、かしわ餅なども教えてもらった。すしは亡くなった父の好物だったので、母はよく作っていた。その味には到底かなわない。
 親類に「おばさんの岩国ずしの味は忘れられんよ」と言われる。あの世で母も喜んでいるだろう。
 ノートに母のレシピを書き留めて居たのでそれを見て作り、「おふくろの味」を思い出している。私が働いていた時、両親には随分支えてもらった。母が亡くなって1年余り。思い出すと目頭が熱くなる。
   (2019.03.23  中国新聞「広場」掲載)

ジャカランダの花

2019-03-25 22:16:55 | はがき随筆


 宮崎市の平和台に20年あまり住んでいた。私たち家族には実り多い古里のようなものである。先日、雑誌に美しい花の写真を見て懐かしさに声を上げた。その思い出は淡い紫の花で、山肌に覆いかぶさるような大木で壮観としか言いようのない見事な景色だった。亡き夫に見せてやりたい一心で育ててみることにして、早速南郷町の道の駅に注文。枯れ木のような苗が届いた。「太陽と水が好きです」。優しい女性の声に励まされた。
 初夏には仏前に見せてやれる。昨日あわ粒ほどの淡い緑の芽を虫眼鏡で発見。老いの日々に楽しみが一つできた。 
 熊本市中央区 木村恵子(88) 2019/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載