はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

秋の気配

2012-08-31 21:28:28 | はがき随筆


 今朝は何と快い風が吹いていることか。秋風だろうか。
 しばらく行くと、畑の草は伸び放題。あの農家の人、今年の暑さは身にこたえたのだろう。耳を澄ますと、草やぶからコオロギの鳴き声。君たちには、過ごしやすいすみかとなっていたのだな。
 この風と君たちの鳴き声は、一足早く秋を感じさせた。戻ると、一つ葉の幹からセミの大きな鳴き声。
 まだ朝の6時だというのに、急にけだるさが襲って来た。しかし、今朝の青空は真夏とは違う。天高い。
  姶良市 山下恰 2012/8/31 毎日新聞鹿児島版掲載

「夏の終わりに」

2012-08-31 19:02:53 | 岩国エッセイサロンより



2012年8月31日 (金)

岩国市  会 員   吉岡 賢一

広島、長崎の平和式典や終戦記念日追悼式など、お線香の香りの絶えない日が続く8月。そんな行事に挟まれるように、39年前に74歳の生涯を閉じた父の祥月命日がある。

帝国海軍軍人であったことを誇りに生きた父も、昭和48年の歴史に刻まれた猛暑酷暑には耐えられなかったのか、短い患いであっけなく逝ってしまった。あの夏の再来を思わせる連日の猛暑を無事乗り切り、せめて寿命だけでも父と肩を並べられる日を迎えたい。

8月は鎮魂の月。風鈴を揺らす風とともに心静かに手を合わす。秋はすぐそこに。

(2012.08.31 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロン
より転載

ソウメンカボチャ

2012-08-30 15:58:43 | はがき随筆


 春、ソウメンカボチャの種をもらい、まいた。初夏にダイダイ色の花が咲き、初めて受粉の作業をしてみた。実は日ごとに大きくなり、淡緑色のウリになった。7月になると成長は止まり、淡黄色のつるりとした肌は収穫の合図だろう飼う。迷いながら収穫。1.5㌔あった。輪切りにすると渦のようなスジが薄く見える。泡は淡黄色のそうめんになって解けた。その不思議さ。自然の造詣に驚いた。
 ソウメンカボチャの名の由来に納得。三杯酢で食したが、カボチャの味と、シャキッとした食感がいい。
  出水市 年神貞子 2012/8/31 毎日新聞鹿児島版掲載

おイモさん

2012-08-30 15:50:18 | はがき随筆


 中学の同期会で旧友が「学校の昼食時間が一番つらかった」と語った。彼は兄弟が多く、弁当を持たせてもらえず、朝食時間には小学校の裏山に逃れていたという。
 戦後誰もがひもじい思いをした。当時なんとか命をつないだのはサツマイモのお陰であり、私はおイモさんと呼んでいる。
 小学校では豚を飼っており、豚の当番は楽しみだった。イモをふかして豚に与えたが、私たちは先生の目を盗んで、イモをむさぼるようにして食べた。
 昭和23年に学校給食が始まった。脱脂粉乳とおイモさんの味は忘れることはできない。
 鹿児島市 田中健一郎 2012/8/29 毎日新聞鹿児島版掲載

「おみやげは帰った」

2012-08-30 15:32:41 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会 員   安西 詩代

お盆に息子たち5入家族が墓参りに来た。わざと「おみやげはないの」と聞くと、間髪入れず息子と嫁が年の離れた5歳の孫を指さした。「おじいちゃんが可愛い孫と一緒にお風呂に入れるので、これがおみやげ」と答える。
「おみやげなら置いていってね」。本当は困るけれど言ってみた。「それはできません。次回も使い回ししますので……」と大笑いになった。
昔おみやげだった上2人の孫も、今では欲しい物を買ってもらうのが自的のようだ。皆、私たちの弱みをよく知っている。それでもうれしい。

  (2012.08.28 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

ノカンゾウ

2012-08-28 20:04:54 | はがき随筆


 市内から実家に帰る時、時間的に暇な場合、たまに遠回りして市道というより農道の感じの道路に入り、季節のうつろいを感じるようにしている。
 青々とした田もあれば、荒れたままの田もある。
 そこは雑草の天国である。雑草は人けのないところに生えてくる。
 荒田もあれば、荒畑もある。荒畑の向こうには、クズやヤブガラシに覆われ、朽ちた農家がある。
 その中に、ポツンとノカンゾウの花が咲いている。秋の代表の花、彼岸花よりノカンゾウの庭に哀愁を感じた。
  鹿児島市下内幸一 2012/8/28 毎日新聞鹿児島版掲載

身勝手な男

2012-08-27 23:20:22 | はがき随筆


 私は小さなアパートに独りで住んでいる。
 昨年の夏、花屋に寄って何の気もなく小さなグアバの木の苗を買って帰った。
 グアバは亜熱帯植物で、形がザクロに似て中はイチジクのような果実がなるはずである。植える所がないので植木鉢を買ってベランダに置いた。そのグアバが寒い冬を越して、今では何と私の胸の高さまでに育った。
 大きくなったグアバは聞く。「一体どうする気なのよ」
 私は答えた。「一生面倒みるから」。しかし、ベランダは狭い。
 さてどうしたものか。
  鹿児島市 高野幸祐 2012/8/27 毎日新聞鹿児島版掲載

半歩でも前へ

2012-08-27 23:14:48 | はがき随筆
 地デジ化のせいでテレビが見られなくなって1年たった。日中は家事に追われるが、夕食後は暇になる。それで図書館から本を借りて読む。さびついてきた頭に油を差すのだが、読めば読むほど自分の無知にあきれる。見たこともない漢字が本にはいっぱい出てくる。漢和辞典は手放せない。70歳を過ぎたらいつあの世に行ってもかまわないと思っていた。しかし、こんなに未熟な人間のままでは神様に合わせる顔がないのではないかと、気が付いた。あと10年ほどで少しは進歩するのだろうか。ちょっと焦っている。
  鹿児島市 種子田真理 2012/8/26 毎日新聞鹿児島版掲載

しょうゆとみそ

2012-08-25 10:47:24 | はがき随筆
 しょうゆ派かみそ派かで、4人の飲ん方会で大議論となった。「イワシやコノシロやキビナゴを、酢みそで食べるのは邪道」と私。「いいや、酢みそが最高」と他の3人。
 それぞれの魚が持つ奄美を存分に味わってこそ、命を絶たれた魚も本望というもの。しょうゆにワサビをいれるのも、私は邪道と思っている。しかし、少ない甘みを酢みそでカバーしてこそ正道だ。他の3人の意見も妙に説得力がある。 
 そこで漁師五十数年のHさんにお出ましを願う。「自分の好みで堪能するが一番」との声に4人の大議論もチョン。
  出水市 道田道範 2012/8/25 毎日新聞鹿児島版掲載

山下跳び

2012-08-25 10:40:22 | はがき随筆
 ロンドンオリンピックを見ながら東京大会を思い出していた。中学2年の時だった。大会期間中、授業は午前のみで、午後は自宅でテレビ観戦。閉会後に感想文提出が課せられた。
 強烈な印象が残っているのは体操・跳馬の山下選手。今では小中学生でもこなせる「山下跳び」だが、当時は彼しかできなかった。それだけで終わらず、種目別決勝でみせたのが「新山下跳び」。跳馬に初めて、ひねりを入れた技。たった1回のひねりだったが、その空中の舞いに驚いた。翌日の毎日新聞に、大きな分解写真が掲載され、見ながら自分の体をよじっていた。
  鹿児島市 高橋誠 2012/8/24 毎日新聞鹿児島版掲載

岩国の老桜にエール

2012-08-25 10:10:15 | 岩国エッセイサロンより


2012年8月25日 (土)

     岩国市  会 員  片山 清勝  

 岩国市の名勝・錦帯橋とその近くの吉香公園は、桜の名所としても知られ、その桜はソメイョシノで3千本といわれる。

 そんな桜の中に日本で2番目に古い木のあることを知った。その木の周囲はロープで囲まれ、保護されている。

 植えられたのは明治19(1886)年という。当時の写真と吉川家の元執事長の日記などから特定できたことを最近立てられた説明板に教えられた。

 吉香神社周辺で4本確認した。今、それらの木の古い幹は剪定され、それを受け継いだ新しい幹が、葉を茂らせている。それを支える根は太く、何本も土の中へ伸びている。その姿は老木というより翁桜の風格を感じる。

 日本一古い桜の木はどこにあるか。青森県の弘前城にあり、吉香公園の桜より4年古いという。本州両端の県というのは何かの縁だろうか。

 明治以降の変革を見てきた長寿桜、これからも周辺の仲間とともに長く咲き続一けてほしい。心からエール一を送った。 

   (2012.08.25 中国新聞「広場」掲載)岩國エッセイサロンより転載

ゴーヤー

2012-08-23 21:44:12 | はがき随筆
 ゴーヤーを好きになったのはあり時から。それまではあの苦みになじめなかった。
 その日は、姑の葬式。台所をお手伝いくでさる奥さん方が、骨揚げの待ち時間にと弁当を持たせてくださった。その中にスライスしたゴーヤーを、さっとゆでてしぼったものに、しょうゆとはなかつおかけた一品があった。その素朴な料理は、おにぎりに合い、おいしい。朝から何も食べていないお腹を満たす。人は悲しい時にもお腹がすくものだと涙と一緒にほろ苦さを飲み込んだ。
 あれから28年。ゴーヤー料理のレパートリーも広がった。
   鹿児島市 内山陽子 2012/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載
              

姿勢の大切さ

2012-08-23 21:35:21 | はがき随筆
 2カ月前から背中の右下辺りが時折痛いので、テープを張ると効果がでるが、1日で消える。医学書を見ると膵臓のあるところとあり、母はこのがんで亡くなっており、内心驚きさっそく、病院でレントゲン、エコーの検査。先生の「特に心配する影はありません」の言葉に安心し、家に帰り妻に説明する。
 妻は「それは姿勢が悪いのよ。食事、読書、腰掛けの姿勢が日ごろから」と言う。内心うなずく。半分疑いながら、注意して生活すると5日目より痛みが消える。姿勢の大切さを痛感。我が家の名医にはしばらく頭が上がりません。
  鹿屋市 小幡晋一郎 2012/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載

誕生日に

2012-08-23 21:29:00 | はがき随筆
 寂しい私のために天国から夫が神に頼んで手配してくれたように、関西から鹿大に入学した孫。下宿したいとも言わず、4年間を溝辺の我が家から通学した。卒業後は親のいる大阪と私との中間点、福岡に就職。ただ今、社会人2年目。先日、私の誕生祝うに帰って来てくれた。私の好物の上等のカステラやケーキを土産に。近所の魚屋さんで新鮮やクロダイを刺身にしてもらい、作っておいた煮物や酢の物で乾杯。ここに帰って来ると野菜も魚もおいしいよと。うれしいことを言ってくれる。
 今日はありがとうねと、素直に孫に礼を言った。
  霧島市 秋峯いくよ 2012/8/21 毎日新聞鹿児島版掲載

「主婦ってね」

2012-08-23 21:22:10 | 岩国エッセイサロンより
2012年8月23日 (木)

   岩国市  会 員   山下 治子

溶けたキャラメルみたいな真夏日続き。エアコン、冷蔵庫、人、まるで限界テストのような連日だ。と、冷蔵庫が息たえだえに汗をかきだし、氷ができなくなった。冷蔵庫の無い夏は地獄だ。容量が合えばよいからとあわてて買った。

やれやれと一息ついて4日後、同じ家電店が大処分セールを始めた。何だか損した気がして腹が立つ。今までの方が使い勝手がよかったなど愚痴も出る。「いずれ2人だけになるんだ。ちょうどよかったかもしれんぞ」。夫は冷えたビールを取り出し、「まぁ飲め、うまいぞ」。そうだね。

 (2012.08.23 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載