はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

二つ釜の夫婦

2016-03-31 15:24:22 | はがき随筆
 みそ汁も料理も別々に作り、食卓も食べる時間も別々で、飯も別々の二つの釜で炊く夫婦がいる。もちろん財布も別々で同じ屋根の下に2人で暮らしているけど別々の部屋にいるから、領土争いも金融制裁もなく友好的である。
 子供3人、孫6人に恵まれ少子化対策まで完全にクリアして総理大臣が手をたたいて喜びそうな夫婦である。
 「男女の欲求や意見が妥協なしでは一致することはありえない」と、何かの本で読んだことがある。二つの釜のほうが理想的で夫婦円満の秘訣なのかも知れない。
  札幌市 古井みきえ 2016/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載

相性

2016-03-30 18:11:23 | はがき随筆
 カミさんが卯年で私は子年、占い本によると相性は大吉。実の両親は父が丙午、母が丑年と相性は大凶で、父60歳、母53歳のとき離婚。そのとき相性は無視できないと思いました。
 大学の後輩から紹介された女性が卯年と知ったとき、この女性こそ赤い糸で結ばれているに違いないと決め込んで、半ば強引に交際を申し込んだのでした。数々の壁を突破、養子縁組もしてゴールイン、その女性が今のカミさんです。このほど金婚式を迎えました。カミさんが言いました。「何となく50年たったという感じだわねえ」。やっぱり相性大吉がよかった?
  西之表市 武田静瞭 2016/3/30 毎日新聞鹿児島版掲載

銀世界

2016-03-30 18:04:54 | はがき随筆
予報通り1月24.25は大雪となった。庭に出ると、夜明け前のしじまの東天は白い雪の世界を映し出している。足を運ぶとキュッキュッと雪が小さく鳴る。足跡の深さで積雪を感じつつ、戌年の私は犬がはしゃぐように雪の玉を転がす。転がす度に大きくなる姿に納得する。
 背丈ほどの雪だるまが完成した。雪景色に雪だるまはよく似合う。孫や義妹に写メールを送る。孫は雪だるまの大きさに驚き、義妹はベランダに雪だるまを作ったと返信が来た。妻に写メールを見せると、巳年の妻はこたつで丸くなっている。のどかな雪間の一こまである。
  出水市 宮路量温 2018/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載

春もよい

2016-03-30 17:47:04 | はがき随筆
 目の前のテレビは今ついていない。その先の壁の板の節がくっきりと目に飛び込んでくる。
 2年前に亡くなった一つ年下の叔父が、白アリにやられてリフォームを頼んだときに、この部屋は板で天井と壁を葺く方がいいと勧めてくれた。壁の節の多い板材がえも言われぬ味わいを醸し出している。その横には二十で購入したセパレートステレオの旧スピーカーを鎮座させている。良い眺めである。そのほかにピアノと2点の絵画。落ち着くなあ。この情景は、いつまで続くのだろうか。
  いちき串木野市 新川宣史  2016/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

ヨンゴヒンゴ

2016-03-30 17:40:55 | はがき随筆
 新年早々、懐かしい人から電話があった。優しい声であいさつされるNさん。今年95歳を迎えられるそうだ。昔の変わらぬ笑顔が浮かび、うれしくて健康を祝福した。
 二十数年前、趣味の仲間でとても美しい文字を書いておられた。今では視力が弱り、字を書いても「ヨンゴヒンゴなってしもてなー」と笑われる。久しぶりに聞いた方言の響きに思わず大笑いした。決して上手には書けてない文字が踊っているさまを想像した。
 近ごろは方言を耳にすることもあまりなく、なんとなくユーモラスに聞こえたのでした。
 鹿児島市 竹之内美知子 2016/3/27 毎日新聞鹿児島版掲載

懐かしい顔

2016-03-30 17:02:25 | はがき随筆
 ずいぶん前になるが、あるテレビで東南アジアを旅行した初老の婦人に記者が旅の印象を聞いていた。「懐かしい顔の女性たちに会いました」と婦人。「以前あちらにお住まいでしたか」「いいえ、初めてでした」
 その後私は中国奥地で中年の2、3組の夫婦と列車で同席した。うろ覚えの中国語と通訳を交えて談笑した。婦人たちは笑顔を絶やさず私たちを眺めている。慎み深く大らかで慈愛深い雰囲気。「お母さん」と呼びたくなる日本の古き良き時代の面立ちである。冒頭の婦人の印象に納得することだった。街中でそんな顔を探しているのだが。
  鹿児島市 野崎正昭 2016/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載

茶節

2016-03-30 16:56:16 | はがき随筆
 小3の娘の学校で、親子ふれあい活動があった。今年は頴娃茶の農家の団体に、緑茶のいれ方などを教わった。
 鹿児島の郷土食「茶節」の作り方も習った。出がらしの茶葉とかつお節、みそを湯飲みに入れ、お湯を注げば完成。みそ汁が好きな訳でもないのに、6歳の息子まで「おいしいからまた作って」と言った。茶節を作るために、かつお節削り機を使っての「早削り競争」まであり、手回しで削る機械を初めて見て、よく出来ているなと感心した。これを機会に、わが家も緑茶を楽しんでみたい。
  鹿児島市 津島夕子 2016/3/25 毎日新聞鹿児島版

平成維新

2016-03-30 16:50:05 | はがき随筆
 私たち昭和の日本人は世界に対し国を挙げて戦争を起こし、敗戦の憂き目を見た。
 平成の時代となり、東日本大震災の折、世界は暴動も起こさず粛々と復興に励む日本人を評価した。2020年オリンピック開催の選考にあたっては、世界の常識ある人たちの賛同を得、日本の価値は認められた。
 今ではクールジャパンとも称され、世界の人は、爆買いをはじめ日本人の生活に触れ、日本民族の気質も認めてきた。
 これこそ平成の人たちの起こした平成維新にほかならない。さあ、自信をもって世界平和の手を広げよう。
  鹿児島市 高野幸祐 2016/3/24 毎日新聞鹿児島版掲載

柔らかな頭

2016-03-30 16:44:21 | はがき随筆
 今朝、仏壇の花を取り換えるのに手間どった。一応、色どりや仕上がりを思い画いて花は準備する。でも、今日はまとまりが悪くしっくりこない。
 余分な葉を取り除いたり、全体的にほぐした感じにしてみる。いく通りか試した。意外にも、左のトマト花を右に差しかえただけで、まとまった。
 文章作りの推敲に共通していると思った。的確な言葉がみつからず四苦八苦。さらに肉付けすることだけ考える。ところが、文章を並べかえるだけで効果があることも……。
 固定観念を捨てて柔らかな頭が欲しい。
  垂水市 竹之内政子 2016/3/23 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆2月度

2016-03-28 22:24:04 | 受賞作品
 はがき随筆の2月度月間賞は次の皆さんです。(敬称略)
 【優秀作】5日「竜宮城」塩田幸弘さん=出水市下知識中
 【佳作】6日「母」中鶴裕子さん=鹿屋市王子町
▽16日「知らなかった~」竹之内政子さん=垂水市田神


 「竜宮城」は、52年ぶりの中学校のクラス会の模様です。「昭和の格調高い緞帳が上がったような感じ」という表現はいいですね。しかし、その昭和の舞台は、集団就職など必ずしも平穏なものとは限らなかったことでしょう。「生きててよかった」という感嘆詞は、ときには空虚にひびきますが、ここでは重いリアリティーを持っています。
 「母」は、介護施設に入所している母親を見舞いに行き、判れて帰るつらさが描かれています。同趣旨の内容は時々採り上げられますが、やはり無視できない悲しい現実です。好物のお土産をもらう度に「食べたことがない」とくり返される母親のご様子が、失礼ながら精神が壊れていく予感を現わしていて哀れです。
 「知らなかった~」は、初詣は縁のない神社にお参りすることにしている。今年も知らない神社で185段をのぼりつめたら、たき火をしていた人たちがいて、車道があるのになぜ歩いたのかと、いぶかしがられたという内容です。しかし歩いて登ったご利益に、熱々の焼き芋をもらったという、ほほ笑ましい内容です。
 この他に3編を紹介します。
 津田康子さんの「戦後70年」は、水木しげると野坂昭如への追悼文です。戦後70年がたち、戦争体験や被災体験が風化していくなかで、両氏は独特の立場で我が国の現況を鋭く見つめ、平和を願ってきた方々でした。
 小向井一成さんの「麦踏み」は、麦も人も強く踏みつけられるほど強く育つという、母親の言葉を信じていたが現実は違ったようである。仏壇の母親に問い掛けると、人生とはそういうものだという答えが返ってきたという、瓢逸な味のある文章です。
 秋峯いくよさんの「ゆらぐ」は、一回り上の元気で1人暮らしをしていた方を目標にしていたが、とうとう娘さんの所に移られた。別の友人はお元気だと思っていたのだが、ご夫婦で老人施設にはいられた。夫と暮らした自宅で最期までと考えていたが、自信がなくなってきたという内容です。
   鹿児島大学名誉教授 石田忠彦


月間賞作品

竜宮城

 地元の幹事君の肝入りで、昭和の格調高い緞帳が上がったような感じがした。全国から新幹線や飛行機でクラスメートが集まった。52年ぶりの再開である。みんな満面の笑みだった。まるで昨日、出水市立米ノ津小学校を卒業したかのように、瞬時に中学時代の話題になった。浦島太郎が仲間たちを連れて竜宮城に戻って来たみたいに歌や踊り、談笑で楽しい時間が流れた。「生きててよかったあ」と、集団就職列車に乗った彼がポツリ。その声を聴いた幹事君の目には涙がキラリ。「会えてよかったなあ」とアッチコッチから歓喜の声があがった。
  

中学英語

2016-03-28 21:58:34 | はがき随筆
 万能川柳にこんな句があった。「アメリカに生まれりゃオレもペラペラよ」。日本人は中学校で英語を習うが、簡単な英会話もできない。そこで小学校から正式教科にして、2020年の実施を考えているようだ。
 財界総理とうたわれた石坂泰三氏は、外国人の前で見事な英語のスピーチをされた。「私は中学時代にリーダーを、高校はシェークスピアを大声で読んだおかげだ」と話されている。
 この話に触発されて、わが家の本棚で中学英語の大切さを説いた本を見つけた。もう一度、手と口を動かして中学の英作文を勉強し直している。
  鹿児島市 田中健一郎 2016/3/22 毎日新聞鹿児島版掲載

ありがとう

2016-03-28 21:50:13 | はがき随筆
 3月は別れの季節。母校泊野小も少子化という形で137年の歴史に幕を下ろす。ぼくが通った頃は200名の児童であふれ、学校も集落も活気に満ちていた。回想していると、始業を知らせる懐かしい鐘の音。ハナシ捕り名人のりお君、ワレコッポのきよと君、おてんばのまちこさん、優等生のたみこさん、おとなしいすえこさん……と44名の友の名が脳裏によみがえってきた。若くてきれいな三浦先生、よく怒っていたけど工作が上手な塩田先生、優しい宮野教頭先生、朝礼の長い梶原校長先生と、心に残る思い出を作ってくれた泊野小学校ありがとう。
  さつま町 小向井一成 2016/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

筆談

2016-03-28 21:43:06 | はがき随筆
 園児たちがすっかり帰った教室に彼女を訪ねる。まあるい顔いっぱいに彼女の笑顔がはじけた。ままごとみたいに小さな机に向い合って座る。一本の鉛筆を使って、僕たちの音声のない会話が始まった。「のど大丈夫?」と僕。「ううん、まだ声でなくて……」
 途中、ポケットから取り出したアメ玉の一つを僕の口へ、一つを自分の口へ入れて彼女はにっこり笑った。後日、この話を聞いた友が言った。「まるで青春映画そのものだな」。19歳と22歳。まだ疑うということなど知らなかった2人の、ちっちゃくてかわいい恋の話である。
  霧島市 久野茂樹 2016/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載

鶏物語

2016-03-28 21:35:40 | はがき随筆
 1人暮らしのいとこが毎日卵を産む鶏3羽を飼っている。去る2月に腰痛手術で2週間入院することになり、困っていた。それを聞いた近所の人が家の鶏と一緒に飼ってあげると連れていった。ところが「ワイダオイゲーナイゴッカー」と言わんばかりにケンカするは、3羽をつつき回し、仕方なく元の小屋になおって一件落着しました。
 鶏までケンカがありますが、いま世界中で難民問題が出ているのだ。鶏は幸い元の小屋に帰りましたが、難民は帰る先なしで本当に可哀そうだなあー。何とか助けるよい方法はないものかと思う今日このごろです。
  湧水町 本村守 2016/3/19 毎日新聞鹿児島版掲載

脳梗塞の友

2016-03-28 21:29:01 | はがき随筆
 どんなに無念だろう。数年前まで、私とよく食事をしたり、私を山や海によく連れていった2人の脳梗塞の友。
 Sさんは、私の先輩で3回も脳梗塞を起こした。今は自宅でほとんど寝たきり。一月ほど前、遊びに行ったとき、彼は「もう、この足を使うことはない」と足を見ながらぽつりと話した。私は返す言葉が見つからなかった。
 もう1人のYさんは、左半分がまひして杖をつき、やっと100メートルほど歩ける。山や海がだい好きだったYさんは言う。「二度と山や海には行けない」。……力になれない私も悲しい。
  出水市 小村忍 2016/3/18 毎日新聞鹿児島版掲載