毎日新聞の投稿欄「はがき随筆」の投稿者で作る同好会「毎日ペンクラブ鹿児島・大隅ブロック」の交流会が開催された。
10月26日、南大隅町の根占図書館に集合した8名の随友と久しぶりに再会し、遠路はるばるバイクでかけつけてくださった鹿児島支局長も共に、研修や親睦を深め有意義な秋の一日であった。
根占図書館は明治16年、全国で4番目、九州では最初に創設された歴史ある図書館であり、そのなりたちを図書館職員、Kさんが説明して下さった。
根占町出身の実業家、磯長得三氏が図書館設立の中心人物となり、蔵書55部の「根占書籍館」がうまれた。この寒村にできた小さな図書館から、学問を志す多くの人々が羽ばたいて行ったのだろう。
鹿児島中央駅前に「若き薩摩の群像」が建っているが、この中に根占出身の中村博愛という人がいる。磯長得三は中村の親戚にあたり、中村を頼って上京した。そして我が国最初と思われる民間測量会社を興した。その私財を投じて図書館の創設と運営にかかわったのである。磯長が、現代の利益追求が最優先される状況を見たら、どう思うだろうか。
次は、この磯長得三の甥にあたる、磯長武雄を尊敬していた、絵本作家・八島太郎の生誕地に向かった。
磯長武雄は昭和初期に日本中に広がった「綴り方運動」の「南方綴り方」の中心人物で八島太郎に大きな影響を与えた。八島太郎は上京して画家になったが、当時の軍国主義弾圧から逃れて渡米し、アメリカで祖国日本の平和を願い続けて活動した。
八島太郎の代表的な絵本に「からすたろう」がある。この絵本の主人公{からすたろうは}小学校の6年間級友に無視されつづけたが、最後に担任の先生の指導でようやくみんなから理解されて仲間になる…といういじめがテーマ。いじめとは永遠の課題なのだなあとつくづく思わされた。この本に登場するいそべ先生のモデルが磯長武雄である。その舞台となった神山小学校を訪ねると石段と門だけが当時のまま残っていた。
つぎは、交流会会場・錦江町の大滝公園へ。紅葉にはちょっと早いが美しい渓谷沿いに大滝の茶屋があり、滝の轟音を聞きながら、そうめん流し定食をいただく。急に気温が下がったせいか、おいしいそーめんよりも湯気を立てた鯉こくに自然に箸が動く。季節外れの今は、数組の家族連れがいるだけだが真夏はさぞ賑わうことだろうなあ。今日は今シーズンのラスト・デー、明日からは滝の音のみの静寂に戻る。
さて、いよいよ本番。Iさんの「からすたろう」の朗読で始まった。かなり長い絵本だが、彼女のゆったりした柔らかな声に引き込まれ聴き入っていた。
次に、山梨から鹿児島に移住して11年目のYさんに「かごしまのここが分からん」と言うテーマで話を聞く。彼曰く「鹿児島は気候も温暖、人情も厚くとても住みやすいところですが、言葉が難しく、ほとほと困りました」と愉快なエピソードも交えて話し一同大笑いだった。
次は本題の「エッセイのネタはどのようにして探しますか」でインタビューする。さすが、ベテランエッセイスト。
「毎朝のウォーキングのときが、不思議に色色浮かんでくる」
「ネタは多すぎてどれを選ぶかに苦労する」
「身近な所にネタは転がっているのだが、それを膨らませるのが難しい」
「身近な話題よりも、社会性のある話題を探している」
「ネタはスナップ写真・心象風景だ。それをどう表現するかが面白い。私が守りたいことは、いつも明るい楽しいテーマで書きたいと言うこと」
などなど。私も身近なところにある宝を探そうと思いながら研修会を締めくくりました。この交流会の模様はFMラジオ番組になるそうで、それもまたのお楽しみ。
充実した一日を振り返りながら、小雨が降り出した大隅路のドライブでした。