はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

随友とのひととき

2008-10-30 15:35:10 | アカショウビンのつぶやき












毎日新聞の投稿欄「はがき随筆」の投稿者で作る同好会「毎日ペンクラブ鹿児島・大隅ブロック」の交流会が開催された。
 10月26日、南大隅町の根占図書館に集合した8名の随友と久しぶりに再会し、遠路はるばるバイクでかけつけてくださった鹿児島支局長も共に、研修や親睦を深め有意義な秋の一日であった。

 根占図書館は明治16年、全国で4番目、九州では最初に創設された歴史ある図書館であり、そのなりたちを図書館職員、Kさんが説明して下さった。
 根占町出身の実業家、磯長得三氏が図書館設立の中心人物となり、蔵書55部の「根占書籍館」がうまれた。この寒村にできた小さな図書館から、学問を志す多くの人々が羽ばたいて行ったのだろう。

 鹿児島中央駅前に「若き薩摩の群像」が建っているが、この中に根占出身の中村博愛という人がいる。磯長得三は中村の親戚にあたり、中村を頼って上京した。そして我が国最初と思われる民間測量会社を興した。その私財を投じて図書館の創設と運営にかかわったのである。磯長が、現代の利益追求が最優先される状況を見たら、どう思うだろうか。

 次は、この磯長得三の甥にあたる、磯長武雄を尊敬していた、絵本作家・八島太郎の生誕地に向かった。
 磯長武雄は昭和初期に日本中に広がった「綴り方運動」の「南方綴り方」の中心人物で八島太郎に大きな影響を与えた。八島太郎は上京して画家になったが、当時の軍国主義弾圧から逃れて渡米し、アメリカで祖国日本の平和を願い続けて活動した。

 八島太郎の代表的な絵本に「からすたろう」がある。この絵本の主人公{からすたろうは}小学校の6年間級友に無視されつづけたが、最後に担任の先生の指導でようやくみんなから理解されて仲間になる…といういじめがテーマ。いじめとは永遠の課題なのだなあとつくづく思わされた。この本に登場するいそべ先生のモデルが磯長武雄である。その舞台となった神山小学校を訪ねると石段と門だけが当時のまま残っていた。

 つぎは、交流会会場・錦江町の大滝公園へ。紅葉にはちょっと早いが美しい渓谷沿いに大滝の茶屋があり、滝の轟音を聞きながら、そうめん流し定食をいただく。急に気温が下がったせいか、おいしいそーめんよりも湯気を立てた鯉こくに自然に箸が動く。季節外れの今は、数組の家族連れがいるだけだが真夏はさぞ賑わうことだろうなあ。今日は今シーズンのラスト・デー、明日からは滝の音のみの静寂に戻る。

 さて、いよいよ本番。Iさんの「からすたろう」の朗読で始まった。かなり長い絵本だが、彼女のゆったりした柔らかな声に引き込まれ聴き入っていた。
次に、山梨から鹿児島に移住して11年目のYさんに「かごしまのここが分からん」と言うテーマで話を聞く。彼曰く「鹿児島は気候も温暖、人情も厚くとても住みやすいところですが、言葉が難しく、ほとほと困りました」と愉快なエピソードも交えて話し一同大笑いだった。

 次は本題の「エッセイのネタはどのようにして探しますか」でインタビューする。さすが、ベテランエッセイスト。
「毎朝のウォーキングのときが、不思議に色色浮かんでくる」
「ネタは多すぎてどれを選ぶかに苦労する」
「身近な所にネタは転がっているのだが、それを膨らませるのが難しい」
「身近な話題よりも、社会性のある話題を探している」
「ネタはスナップ写真・心象風景だ。それをどう表現するかが面白い。私が守りたいことは、いつも明るい楽しいテーマで書きたいと言うこと」
などなど。私も身近なところにある宝を探そうと思いながら研修会を締めくくりました。この交流会の模様はFMラジオ番組になるそうで、それもまたのお楽しみ。

 充実した一日を振り返りながら、小雨が降り出した大隅路のドライブでした。 

種子島へ

2008-10-30 08:34:45 | はがき随筆
 人生、何が起きるか分からない。この1ヶ月半、しみじみと感じている。夫が、突然の転勤を命じられたのは8月の末。牛乳配達の仕事をしていた私は急に辞めることになった。温泉の回数券は、まだ数枚残っていたのに……。襲い来る嵐のような騒ぎの中、1週間後には種子島での生活が始まった。
 荷物はすぐ片づいたのだが、気持ちの方はそうはいかない。全く異なる環境に放り込まれ、フワフワ落ち着かないでいる。焦らずに、吹き渡る風の音を聞きながら、自分と向き合い、ゆっくりゆっくり、この場所で暮らしていきたい。
   西之表市 西田光子(50) 2008/10/30 毎日新聞鹿児島版掲載
   種子島の写真はU2さん

歌いました♪♪

2008-10-29 16:03:49 | アカショウビンのつぶやき











 今年も、鹿児島県お母さんコーラス・合唱祭で歌いました♪。
県下52の団体が参加し、それぞれが1年間の練習の成果を発表しました。いろんなグループのコーラスを聴くチャンスです。美しいハーモニーに聴き入りました。

 私たちは、例年、曲がなかなか決まらず練習不足気味で歌うことが多かったので、今年は曲の選定を早くしよう…と、早春3月には楽譜が配られました。
 考えてみれば練習期間は、半年以上もあったのに、やっぱり惜しいところがあったなあ。でも、発声に力を入れて指導して下さった先生の熱意に少しは応えることができたかな…。

 曲は「夕焼け」。歌詞、メロディとも素晴らしいのです。
  夕焼けは ばら色
  どこの国から 見ても
  どこの街から 見ても
  夕焼けは ばら色

  夕焼けが 火の色に 血の色に
  見えることなど ありませんように


夕焼けの写真は naikさん

 人数が少なくて寂しかったけれど、みんなが一つになり、平和を願うメッセージを伝えようと、祈りを込めて歌いました。最後は祈りのポーズ…。結果はいろいろあったけれど、今年も歌いきれたことが嬉しい。来年は新しい仲間も加わって一緒に歌えたらいいなあ。 

秋風に吹かれて

2008-10-29 14:32:44 | はがき随筆
 時折スーパーで会うと「この前のおもしろかったね」とか「近ごろ載らないね。楽しみにしているのよ」などと声をかけてもらっていた。それが励みとなってはがき随筆との縁をつないでこられたのかもしれない。
 障害のある方だったが、そのことを私たちに気にもとめさせず、あるがままに受け入れておられた。朗らかな方だった。
 急逝されたと聞いたのは、すでに2ヶ月も過ぎてからのことだった。私はうろたえた。顔見知りというだけ。でも私は心を寄せていた方だった。
 今でも背格好の似た人を見ると、つい足が止まってしまう。
   出水市 清水昌子(55) 2008/10/29 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はsparkleさん

孫ン子

2008-10-28 10:31:34 | はがき随筆
 長男に2人目が男の子として誕生。予定日より20日も早く、2日間保育器のお世話になったが、5日目には母子ともに退院。
 さすがに手足は小鳥のひなでか細い。皮膚は透き通り、春先の若芽のように柔らかい。鳴き声はまさに子猫だったが、10日もすると赤ん坊の泣き声になった。人の気配も感じ取り、名前を呼ばれると見えないながらも顔を声のする方向に向ける。顔より大きく口を開け、ますます赤くなり大声で空腹を訴える。
 この子が平和で幸せに暮らせることを切に願いながら、私の人さし指を強く強く握りしめた小さな掌にそっと唇を寄せる。
   肝付町 吉井三男(66) 2008/10/27 毎日新聞鹿児島版掲載
ドナさんより

「書く」仲間

2008-10-28 10:01:31 | かごんま便り
 高齢者のスポーツと文化の祭典「ねんりんピック鹿児島2008」が開幕した。国体種目並みの本格競技あり誰もが気軽に楽しめるニュースポーツあり、はたまた囲碁・将棋に俳句、美術に音楽、ファッションショーなどなど。選手たちは、高齢者の中でも元気いっぱいの人たちだから当然と言えばそれまでだが、現役世代の我々も圧倒されそうなバイタリティには感嘆するほかない。

 高齢の方々が元気なのは鹿児島面の投稿欄「はがき随筆」も同様。担当者としてはもっと若い世代に頑張ってほしい気もするが、仕事をリタイアし子育てを卒業して時間的余裕も生まれるためか、今年に限っても掲載作品に占める65歳以上の割合はざっと3分の2に迫る勢いだ。

 投稿者の親ぼく団体・毎日ペンクラブ鹿児島の大隅ブロック交流会が26日に催された。ご多分にもれず参加者はベテランぞろい。南大隅町で絵本作家・八島太郎(1908~94)ゆかりの地を訪ねた後、錦江町の神川大滝公園で意見交換。普段は紙上でしかお目にかからない皆さんと親ぼくを深める事ができた。

 「作品のネタをどうやって探すか?」の話題では「書きたいことがたくさんありネタには困らない」との声がほとんど。日ごろの見聞や豊かな人生経験を背景に、旺盛な好奇心で原稿用紙(またはパソコンの画面)に向かう様子がうかがえた。また鹿屋市在住のOさんの「日々、他の人の作品を読むことで、いろんなものの見方を教えられ勉強になる」という言葉には、特に感銘を受けた。

 「書く」ことは頭の体操と同時に、気持ちを癒す心の体操にもなる。近く紙面でご案内するが、11月16日には鹿児島市で研修会があり、会員以外や投稿未経験者も大歓迎。この機会に書くことの楽しさ、面白さに触れ、投稿者の輪に加わってもらえるとうれしい。あなたも、ぜひどうぞ。

鹿児島支局長 平山千里 2008/10/27毎日新聞掲載

収穫

2008-10-27 10:31:43 | はがき随筆
 父親参観日で県教委の課長の話を聞いた後、何でもいいから質問をと促され次のようなことを聞いた。「農民は収穫時に次の年の肥料や水や除草を考える。しかし子育てはやり直しがきかない。収穫の良しあしは何か」。課長はうーんとうなって答えた。「県内の進学校の校長の息子が中卒後、あるホテル専属の窯元で皿や茶わんを作る仕事に就いた。『息子はそこで目を輝かせて毎日仕事をしている』と校長は自慢げに話す」と。これでいいかと聞いたので結構ですと答えた。かれこれ20年前の話。稲穂が黄金に色づく時期、いつも思い出す収穫の意味。
   志布志市 佐竹佐俊(65) 2008/10/26 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はyushitaさんより

前向きに生きる

2008-10-26 23:47:34 | はがき随筆
 彼は庶民的な元中学校長。ここ数年来、病妻の世話で週3回、透析の送迎。日常生活の炊事、洗濯その他一切、入浴も奥様と一緒。私に「今が新婚ですよ」と朗らか。庭はいつも四季咲きの花でいっぱいで奥様や皆さんを楽しませている。文学的才能も抜群。はがき随筆、狂句、川柳その他、新聞に掲載されるのを楽しみにしている。老人ホームその他で書道の指導に情熱を持ち、お年寄りに慕われている。感心するのは丁寧な楷書で、絶対に崩し字を書かない。郷土史の指導その他幅広く、胸を張って生き生きした生活。私は彼を見習って生きている。
   薩摩川内市 新開 譲(82) 2008/10/26 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はユカさん

挿絵の風景

2008-10-25 19:36:53 | はがき随筆
 絵本作家・八島太郎の原画展を生誕地ゆかりの根占図書館に見に行った。墨絵に淡い水彩を施したような挿絵と同じモノトーンの小雨の日だったせいか、昭和初期の風景と人々の暮らしが走馬燈のようによみがえってきた。絵本の主人公「からすたろう」が山奥の炭焼き集落から素足で木造の小学校に通ったころは、水清き大川にアーチ式四連石橋が架かり荷馬車が通り、貯木場もあったという。街には荒物屋や薬屋や宿屋などもありにぎわっていた。八島は13歳で故郷を離れ、激動の昭和史に翻弄されながら31歳で渡米。85歳で波乱の生涯を閉じている。
  鹿屋市 上村 泉(67) 2008/10/25 毎日新聞鹿児島版掲載

泣けるだろうか

2008-10-25 19:28:05 | 女の気持ち/男の気持ち
 母は晩年、入退院を繰り返した。父が亡くなった時は、母と思われた方もいらっしゃったほど。半年後に母が続いた。「ご主人を見送って逝かれて、夫婦仲が良かった証拠よね」と、周りの方が慰めてくださったのを覚えている。
 父の時も泣けたが、母の時のそれは慟哭。仕事に向かう車の中でも気がつけば声を出して泣いていた。街なかや旅先で年老いたお母さんに寄り添う娘さんを見ると、うらやましくてしょうがなかった。母がいてくれたら私だって一緒にどこにでも出かけたのに、と。日にちが薬と言われるように、悲しみは少しずつ薄くなり、母のありがたさがしみじみ思い出される。
 あれは娘が1歳になったばかりの真冬の夜、夫といさかいをした私は、12時というにの娘を連れて車で40分の実家に戻った。ぷりぷり思って事情を言い放つ私の前で、母は涙を流しながら黙って聞いてくれた。話し終わると、「今夜はとまっていいけど、明日は帰らんとね」と念押しした。翌朝、私は娘と帰った。
 母が、私と一緒になって夫を責めたり、逆に家に入れてくれなかったら、私は最悪、離婚していたかもしれない。些細なことが引き金となり、結婚生活は破綻することもあるから。
 この秋、娘が嫁ぐ。もしもの時、私は母のように泣けるだろうか。
   鹿児島県薩摩川内市 奥吉志代子(60)
   2008/10/24 毎日新聞の気持ち掲載
   

指定席

2008-10-25 19:16:08 | はがき随筆
 行きつけの喫茶店が今秋、7年の歴史を閉じる。オーナーは「時代の流れでしょう」と寂しそう。いろんな出会いをさせてもらってありがたかった、と。
 我が町で一番のお気に入り。週1で通い、込み合うとそそくさと退散し、閑散とした日は時を忘れて過ごした。入ってすぐ右側のカウンター。古いトランクには本。周りを見渡せ、それでいて1人が楽しめる場所。厚い木のテープル。スタッフの気配りも心地よかった。
 予約を入れると、いつもその席が取ってあった。あとわずかな日々に思い出を重ね、最後に「ありがとう」を伝えよう。
   薩摩川内市 馬場園征子(67) 2008/10/24 毎日新聞鹿児島版掲載

アユ

2008-10-25 18:37:14 | はがき随筆
 「どんぐり」(アユのコロガシ漁法)の好漁場を求めて、川辺川に釣行。第1投から5分後にガツンと手応え。道糸が早瀬を上流に上る。河原を私はついて走る。今度は急流に待って一気に下流へ走った。私も必死で走る。上流や下流に走らされること94回。私の肩が波打つ。アユの集団にからかわれているのか、アユを釣っているのか、もう訳が分からない。疲労困ばいの体に、釣りのだいご味の魅惑がさおを出させる。
 夜空に初秋の名月。テーブルにはアユづくしの手料理。客の満面の笑み。役者はそろった。
 「さあ、今夜は飲もう」
   出水市 道田道範(59) 2008/10/23 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はサブリナさん

携帯やーい

2008-10-24 15:07:45 | アカショウビンのつぶやき

 最近の探し物といったら…。 一日中、何かを探している私。
 「忙しい、忙しい!」と、ぼやく毎日なのに、探し物に費やす時間を考えると、「こらも いけんかせんな いかんど!」である。
 まず、探し物ナンバーワンから、対策を立てようと、眼鏡は外したら必ず眼鏡スタンドに入れることにして、少し楽になった。鍵はおしゃれなフックを取り付けてナントカ解決。
 次は携帯。左耳難聴の私には音のする方向を特定するのが非常に難しい。エプロンのポケットで鳴り出しても、あっちのテーブルの上かと錯覚する。その結果、電話機の子機を握り、携帯に発信しながら部屋中を走り回ることもしばしばである。
 そこで、いつも入れておきたくなるような可愛い携帯スタンドを、ネットで探してみた。あった、あった「リラックマ・携帯スタンド」なるものが。思ったより、きゃしゃな作りだが、携帯をしっかり胸に抱いている姿はとっても愛らしい。
 これで果たして我が家の「三大探し物対策」が、解決するのか、もう少し先でないとワカリマセン。記憶力抜群だった夫が、今日もニヤニヤしながら見てるのかなぁ。

万華鏡 

2008-10-22 23:34:43 | アカショウビンのつぶやき
 万華鏡(カレイドスコープ)の魅力は、何と言ってもキラキラ輝く神秘的な世界。然しなぜか子供のおもちゃとして、玩具売り場などに置かれていることが多い。でも一度覗いたら想像以上の美しさに誰でも魅了されるのではなかろうか。

 たまたま東京の庭園美術館の売店で目に止まった万華鏡、躊躇いながらそっと覗いてみた。すると何の変哲もない部屋の景色が一瞬にしてお花畑になり、くるくる回すと様々に変化する…息をのむ美しさだった。今日は皺だらけの我が手を覗いてみた…、おおっ、すごーい! しわしわの手がベージュ色の花びらになっているではないか。

 万華鏡は種類も多く、色や形の違うビーズを中に入れた<チェンバー>や、目の前にある物を写し取って美しい世界を作りだす<テレイドスコープ>などがある。友人に頂いたミニミニ万華鏡は僅か数㌢。回す度に4色のビーズがくっついたり離れたりしてさまざまな映像をつくる。

 万華鏡の起源は約200年前、スコットランド人のデイビッド・ブリュ―スターという物理学者が偏光の実験中に発明、その僅か3年後には珍品として日本に入ってきたという。明治の頃は、百色眼鏡(ひゃくしょくめがね)とか、万華鏡(ばんかきょう)と呼ばれ、子供の玩具や郷土玩具として急速に広まって行った。

 最近は万華鏡の持つ癒し効果が見直され、ホスピスでは痛みの緩和などにも効果を発揮しているという。安らぎの時を与えてくれる万華鏡、今日もあちこち覗きながら幸せを感じているアカショウビンです。

北野万華鏡ミュージアムより引用


はがき随筆9月度入選

2008-10-22 23:27:13 | 受賞作品
 はがき随筆9月度の入選作品が決まりました。
▽出水市緑町、道田道範さん(59)の「川柳闘争」(7日)
▽肝付町前田、吉井三男さん(66)の「命を絶つ」(14日)
▽鹿児島市唐湊2、東郷久子さん(74)の「あらっ不思議」(5日)
──の3点です。
 このところ「随筆」の素材を自分から探そうとなさる態度がうかがわれます。文章の素材は、自然に向こうからやってくることはあまりありません。知性と感性の積極的な働きかけが必要です。表現してやるぞという姿勢だと、素材も表現してもらいにやってきます。
 道田さんの「川柳闘争」は、近所の子どもにザリガニ捕りを教えたら、白い靴を汚してしまった。母親が怒らないように川柳を送ったら、結局16句ものやりとりになってしまったという、心温まるエピソードです。言葉遊びはなによりのコミュニケーションです。
 吉井さんの「命を絶つ」は、片づけた残りの、鉄線に絡みついたままで枯れている朝顔のつるを見ていたら、アフガニスタンで犠牲になった「若き伊藤さん」を思い浮かべたという内容です。運命の「理不尽」さも唐突に襲ってきますが、それに対する私たちの認識もこのように唐突なものです。
 東郷さんの「あらっ不思議」は、お隣の工事のせいでアリの大群に自宅が襲われたが、ある日アリが一匹もいなくなったという「不思議」が描かれています。本当に自然現象は私たちの理解を越えて起こるもののようです。
 次に印象に残ったものをあげます。
 森孝子さん「夕方の始まり」(12日)は、夕方がいつ始まるかは難しい疑問ですが、「ユウスゲ」が2年目に、夕方5時20分に咲いた。それをもって、さて夕方の始まりだとする感性はすてきだと思います。新屋昌興さん「空港にて」(3日)は、孫の見送りをしていたら、操縦席からパイロットが手を振ってくれていた。それを見たら安心と感動とを覚えたというものです。他人の態度を素直に善意に受け取ることはいいものですね。田中京子さん「夏の思い出」(2日)は、還暦近くなって懐旧の念が強くなったという「回帰現象」についての内容です。還暦は60進法の暦を一に戻すということで、必ずしも過去に戻るということではありません。新しいスタートです。
(日本近代文学会評議員、鹿児島大名誉教授・石田忠彦)