はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「お気に召すまま」

2010-03-30 15:08:34 | 岩国エッセイサロンより
2010年3月20日 (土)
岩国市  会 員   沖 洋子

わが家のあーちゃん、といっても立派な成犬である。いつも足元で爆睡している。これには立派な理由がある。指示があれば、あるときは投げられたボールを追いかけ、またあるときは一緒にドライブに出かけ、川であろうが雪野原であろうがお構いなしに飛び込んでいく。いつも精いっぱいご主人様に尽くす。健気である。

 夫はあーちゃんなくては一日が回らない様子だ。端で見ていると、どちらが主権を持っているのか分からない。

 今もあーちゃんはカーペットの上で爆睡中だ。きっと雪野原を駆け回っている夢でも見ているのだろう。ねっ、あーちゃん。
  (2010.03.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
岩国エッセイサロン花水木より転載

「また会える」

2010-03-30 15:04:14 | 岩国エッセイサロンより
2010年3月26日 (金)

岩国市  会 員   安西 詩代

老人施設に入っている96歳の義母は、息子が面会に行っているのに「息子に来るように言ってちょうだいね」と言う。スタッフには自分の息子を「スマートで髪の毛がふさふさしてハンサムなの」と言っている。

現実の息子は72歳で、髪の毛はなくなりメタボな体になった。いくら面会に行っても息子と認めてもらえない私の夫。過去の中にたたずんでいる義母は、現世では息子に会えることなく2人は遠くなってゆく。

今日はお彼岸。お寺で聞いた「倶会一処」(くえいっしょ)とは、浄土でまた会えるということだそうだ。「おかあさん、きっとまた息子に会えますよ」
(2010.03.26 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
岩国エッセイサロン花水木より転載

笑いのネタ

2010-03-30 12:40:50 | はがき随筆
 「わっ、花がみんなわたしを見ている」と思った瞬間、バカな自分に首をすくめた。ヤブツバキの花たちは、太陽に向かって咲っていたのだから。
 美顔パックが出回り始めたころ、母と妹の前でやった。「みんな見てる」と言うと、妹いわく「みんな、ってたった2人しかいないじゃない」。とたんに母が吹きだした。
 わたしのバカは、しばしば笑いのネタになった。
 この年になり、やっと自分のバカが、どこに起因するかをつきとめた。
  鹿屋市 伊地知咲子(73) 2010/3/30 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆2月度月度入選

2010-03-29 17:52:48 | 受賞作品
 はがき随筆2月度の入選作品が決まりました。

▽薩摩川内市高江町、横山由美子さん(49)の「1月の大そうじ」(9日)
▽阿久根市大川、川畑マスミさん(73)の「夜景」(2日)
▽出水市上知識町、年神貞子さん(73)の「柿の木」(22日)

--の3点です。

 昨年の暮に腰を痛め、病院通いをしています。坐骨神経痛がこれほど痛いものとは知りませんでしたが、そのおかけで、紫原台地の季節の推移をバスの窓から楽しんでいます。枯れ枝に始まり、雪景色、水仙、今はコブシと梅花が満開です。やがて桜のつぼみもほころびるでしょう。
 横山さんの「1月の大そうじ」は、息子さんたちが帰省して大掃除を手伝ってくれるのを心待ちにしていたが、なかなかうまくいかない。そういう些事(さじ)のなかに、親離れ子離れの時期を予感しているという、哀感のある文章です。「帰りを待つ作業の始まり」という表現は象徴的で、いいですね。
 川畑さんの「夜景」は、夕闇せまるころ戸締りをしながら、あちこちの家に灯がともるのを眺めては、それぞれの生活に思いをはせるという内容です。散文詩の趣のある文章です。火ともしごろが一番人恋しくなります。
 年神さんの「柿の木」は、いつまでも母親の干し柿をあてにすまいと、種から育てた柿の木の実で干し柿を作ったというものです。干し柿を通しての親子の時間の継続がよく表現されています。
 以上が入選作です。他に3編を紹介します。
 森孝子さんの「雪と赤い火」(16日)は、久しぶりの積雪に四十数年前の、やはり雪の日の地震を思い出したという記憶です。子供たちを連れ出し、練炭の火を雪の上に捨てた時の情景が鮮やかに思い出されています。
 楠元勇一さんの「親切な人」 (20日)は、妹さんの面会に行こうとしたが入所先が分からない。途中で道を尋ねた人が実に親切であった、という内容です。こういう親切に未来を託すのは、すがすがしい気分にさせます。田中京子さんの「いざ生きめやも」(12日)は、
この句を励ましにしてきたのに「とても生きてはゆけない」という意味だと聞かされて驚いたというものです。小説家が文法通りに書くとは限りません。「風立ちぬ」を読めば明らかですが、これで「気力を引き出して」ください。
(日本近代文学会評議員、鹿児島大名誉教授・石田忠彦)


 係から 入選作品のうち1編は27目午前8時半過ぎからMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。
 だれでも投稿できるミニ随筆です。日常生活の印象的な出来事を日記がわりに、気楽に書いて下さい。作品は文章部分が250宇前後(14宇×18行)。他に7宇以内の題。住所(番地まで)、氏名、年齢、電話番号を明記し、〒892-0847鹿児島市西千石町Iの32 児島西千石町ビル 毎日新聞鹿児島支局「はがき随筆」係へ。はがき、封書など書式は問いません。新人の投稿を歓迎します。
  2010/3/25 毎日新聞鹿児島版掲載




夢を形にGO!

2010-03-29 17:48:57 | はがき随筆
 小さい時から、両親や弟とテニスを始めた君は、テニスプレーヤーになる夢を抱いていた。
 父親がタイの日本人学校に赴任した時は、現地の日本人や各国の少年、指導者に巡り合えて、テニスを続けた君。帰国後は中学に進み、試合の度に徳之島から、母親や弟と、時には一人で船でやって来た。
 昨春、父親の転勤で日置市に住むようになり、いい指導者や仲間に恵まれテニスができた。
 夢に向かって努力し、感謝の心を忘れない君の態度に、皆が協力を借しまなかった。
 この春、願い通り福岡のY高校に進む孫。夢を形にGO!
  薩摩川内市 森孝子(68) 2010/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載

うれしい一日

2010-03-29 17:46:08 | はがき随筆
 先日、鹿児島にゴルフに出かけた時のこと。
 見知らぬ女性に声をかけられた。「毎日新聞の『はがき随筆』読んでますよ!」
 キャディーバッグにぶら下がった名札を見て、声をかけてくださったのだ。
 たまたまの、書き手と読み手の、人と人との不思議な出会い。人間て楽しいなあ-。
 スタート前の張りつめた空気がなごみ、うれしかった。
 山桜満開。天気良し、気分良し、ゴルフ場良し、スコア今いちの楽しい春の一日だった。
  指宿市 有村好一(60) 2010/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

老境の日々

2010-03-29 17:36:39 | はがき随筆
 迷っていた免許証を昨年3月、警察に返した。自主返納である。無免許となり歩いて帰っ
た。昭和37年、難儀して取って以来47年、無事故で共に歩いてきた免許証にありがとうと言いたい。免許証の「力」を今更ながら強く感じる。その不便さは思っていた数倍かそれ以上に深刻である。不自由な老境で頼れるのは子供。その子供も仕事や生活に追われ、頼み事をするのはわが子でも思った以上に気を遣うものであることを知った。極端に弱った足腰、歩行の困難。このような中で「ひと」に頼らない「自力」の生活を心がけて暮らす老いの日々である。
  鹿屋市 森園愛吉(89) 2010/3/27 毎日新聞鹿児島版掲載

入院寸景

2010-03-29 17:29:15 | はがき随筆
 手術を前提とした検査のため、鹿児島の大学病院にI週間入院した。その日は日曜日。ぼんやり病室の窓の外を眺めていた。海岸近くの工場から煙がまっすぐ立ち上がっている。錦江高原ホテルの方に目を転じると、山頂の風力発電の風車も回っていない。樹木の葉もそよとも動かない。工場は動いているというのに、風の神は休業?携帯電話のカメラで窓越しに撮っていると「春の景色を撮っているんですか?」と看護師さん。「風車が回っていないのですよ」と言うと「そうですね」と一言。同室の患者さんたちも平然、騒いでいるのは私だけだった。
  西之表市 武田静瞭(73) 2010/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載
  写真は武田さん提供

オーディション

2010-03-29 17:19:51 | はがき随筆
 華麗なる業界の花形、あこがれの職業、某テレビ局のオーディション。約200人の応募者から2人の合格。課題は「制限時間内に自由に語る」。才能、素質があるから合格したのだ。難関を突破。各地のイベントがあればマイク片手に状況をリポートする。テレビで娘は神々しくも映えた。親は、失敗しないように陰でただ神に祈るばかり。同級生や知人、親類も応援してくれた。ずぶの素人がプロの道へは険しい。「人知れぬ苦労、困難があったろう」。小1の時の担任の先生は、娘は将来アナウンサーにふさわしいねと。娘はその道へと羽ばたいた。
  加治木町 堀美代子(65) 2010/3/25 毎日新聞鹿児島版掲載

ロウソクの灯

2010-03-29 17:02:11 | はがき随筆
 ゆうパックの空箱に一体何を入れておいたかしら?と開けてみると、燃えないごみの電池などをそれぞれ分別して入れてある。その他もう一袋は、小さな人形や張り子の虎を入れ、ロウソクが三つある。
 ともしびって温かいものとコップロウソクを三つ取り出して火をつけた。ちろちろちろと酸素を集めて炎が揺らぐ。じっと見ていると父母や夫がまるで現れて私にやさしく話しかける。
 「どう、元気か。寒さが戻ったようだね。風邪ひかないように」。私のおもいなのに声が聞こえる。「温かいね、ともしびの心は」と応えた夕べ。
  鹿児島市 東郷久子(75) 2010/3/24 毎日新聞鹿児島版掲載

勉強会

2010-03-28 22:43:46 | かごんま便り
 先日、毎日ペンクラブ鹿児島・大隅地区の勉強会に行ってきた。1月の北薩地区、2月の鹿児島地区に続き、皆さんと楽しく学ぶことができた。

 「はがき随筆」と同じく1行14宇で18行。事前に書き上げた作品を持ち寄り、互いに気づいた点を指摘し合う。一番の効用は、自分の文章の「独りよがりなところ」に気づかされることだ。

 自分では当然と思っていることがらを第三者に過不足なく伝えるのは難しい。約250字の短文となればなおさらだ。我々記者の書く記事が支局のデスク、本社のデスク、編集担当者……と複数の目でチェックされて練り上げられるのと同様、第三者の目線で、思わぬ角度から指摘を受けて初めて気づくことは多い。時に的外れな指摘があっても、勘違いの原因はたいてい読み手側でなく書き手側にあるものだ。

 「自慢の作品にケチをつけられるようで嫌だ」という声も聞いたことがあるけれど、当たり障りのない批判では意味がない。感情的になるのはご法度だが、遠慮せず指摘し合うからこそためになる。おおらかな気持ちで学び合いたいものだ。

 参加者のその後の投稿を読むと、目に見えていい作品になったのが分かる。会員でなくても自由に参加できるので、次の機会にはあなたも参加してみてはいかがだろう。

 行きたいがなかなか都合がつかない人にちょっとしたアドバイスを。作品を書き上げたらすぐに投かんせず、少し間を置いて、声に出して読んでみる。手紙でも日記でも、勢いに任せて書いた文を後で読み返し、赤面した経験は誰しもあるだろう。時を経て冷静になった目には、文章のあらがよく見える。音読で詰まる個所は言葉のつながりが不自然な場合が多い。一息で読めない文は明らかに長過ぎる。そうやって推敲(すいこう)すると、見違える作品になること請け合いだ。お試しあれ。

鹿児島支局長 平山千里 2010/3/23 毎日新聞掲載


大切な人が…

2010-03-25 00:51:35 | アカショウビンのつぶやき
 「毎日ペンクラブ鹿児島」の随友から、訃報が届きました。

 平成11年春、毎日新聞鹿児島支局長の提案で、毎日新聞の人気投稿欄「はがき随筆」の同好会を立ち上げました。それが「毎日ペンクラブ鹿児島」なのです。

 初代会長を務められた、Kさんがお亡くなりになったとのこと残念でなりません。Kさんは、会の発展のために尽くしてくださった方でした。
 昨年の総会で、功労者として表彰され、これからも会のために力をお借りしたいと願っていたのですが、思いもかけぬ早いお別れとなってしまいました。
 
 度々月間賞に輝いた、Kさんのエッセイは250文字の中に見事に言い尽くされ、さすが中学の元国語教師だなあ…と、何回も読み返すものでした。
 
 K会長のもとで、事務局を担っていた私にいつもおっしゃった言葉を思い出しています。
「会員にとって魅力ある会になるよう常に努力を積み重ねていかないといけない」と。
会の発展を願っておられた、Kさんの遺志をついでこれからも歩みたいと思っています。

 Kさん ありがとうございました。

来客様様

2010-03-23 11:48:12 | はがき随筆
 私の怠惰を戒めるかのように、たまに来客がある。
 更に緊張を強いられるものに泊まり客がある。それもうんと気を使う相手が良い。掃除のしがいがあるというものだ。
 最近、その機会に恵まれた。手抜き専門の掃除もいくらか入念に、不用品も数袋搬出できて気分的にさっぱりとなった。
 整理下手には来客という負荷をかけないと、駄目な自分が情けないが今更直りそうもない。そのうえ、物を捨てられない症候群も困りものである。
 どうやら、いつもより光っているキッチンに「来客様様だね」と言われてる気がする。
  霧島市 □町円子(70) 2010/3/24 毎日新聞鹿児島版掲載

懐古の情

2010-03-23 11:22:55 | はがき随筆
 串良名物の二十三夜市でのこと。当時1年生の息子は小遣い300円を握りしめ市へ行っ
た。るとお母さんが泣いて喜ぶよ。魔法の砥石はこれ1本きり。売り切れたら大変だあ!」とお店のおじさんにすすめられ、思わず300円で砥石を買った。通すると「この砥石を買って帰りの市ではのどから手が出そうな綿あめやタイ焼きクン、しんこ団子などがズラリー でも一文ナシになった彼は砥石を握りしめ、飲まず食わずで4㌔の道のりを母の元へ急いだ。あれから42年、砥石はすり減ぅているけど今も私のアシスタント。息子の優しさに触れながら……。
  鹿屋市串良町 宮内京子(77) 2010/3/22 毎日新聞鹿児島版掲載

消えた焼酎

2010-03-23 11:16:12 | はがき随筆
 ふと、戸棚から化粧箱入りの焼酎3本が消えていることに気づいた。それぞれ大事な方から頂いたもので、特別な時にと、とっておいたものだ。
 娘や私に休肝日を多く強いられる夫が、我慢しきれずにこっそり飲んだのだろうと思いつつ「ここの焼酎どうしたの?」「この前の同窓会に持って行った」「特別な日に飲むんじゃなかったの?」「自分を『先生』と呼んでくれる人間と飲む、これ以上特別な日はないからね」。
 私が尋ねて夫が答えた。「この人はつくづく先生なんだなあ」と思った。そして初めて焼酎を飲めなくて損した気がした。
薩摩川内市高江町
    横山由美子(49)