はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

蛇助けた優しい生徒

2020-05-11 21:41:54 | 岩国エッセイサロンより
 散歩の途中、2人の男子高校生が、町はずれの道路中央で長い棒きれを持って何か相談している。「どうした?」と声を掛けると、蛇がこのままだと車にひかれて死ぬので助けてやりたい、と言う。
 見れば、数十㌢ほどの蛇が元気なさそうにじっとしている。高校生たちが心配する通り、車が通ればひかれる位置だ。
 相談して道端の雑草の中に移すことにした。棒でつつくが動かない。そこで棒に蛇を引っ掛け、引きずって雑草の中に移した。
 高校生たちは「ヘビは好きではないが、とにかく生き物を助けてやろう」という気持ちだったようだ。2人は「ありがとうございました」と言い残して走り去った。
 蛇といえば大方の人が避ける。でも、2人は「このままでは車にひかれる」と勇気ある行動を起こした。
 新型コロナウイルスの感染拡大で重苦しい日々が続く中、優しい心根の生徒たちに出会い、散歩の足取りも軽く感じた。
 岩国市 片山清勝(79)

2020/05/05

2020-05-05 07:17:00 | 岩国エッセイサロンより
新型コロナウイルスに感染しないよう、気遣いしながら毎日を過ごしている。
 そんなある朝、白みかけた東の空を見た。少しも珍しいことではなかった。だがその時、なぜか何とも言えぬすがすがしさを覚えた。ふと「朝はどこから」の歌が頭に浮かんだ。
 それは昭和21(1946)年、敗戦で疲弊した国民を励まそうと、新聞社が募集したホームソングの1等当選歌だった。
 NHKのラジオ歌謡としても流れていた。それで聞き覚えたのだろう。私は今も口ずさめる。
 歌詞は、朝はどこから、昼はどこから、夜はどこから来るかしら、と問いかける。朝は「希望の」、昼は「働く」、夜は「楽しい」家庭から来る、と答える。
 終戦直後、物資や食料不足により大変な苦しみがあった。私も親から話を聞いて、子ども心に記憶した。詞の中では伏せられているが、人の絆が明るい家庭をつくると言うように思う。戦後の立ち上がり、国を作るのは社会の最小単位である家庭であり、その大切さを教えていたのではなかろうか。
 しかし現代社会では、働きたくても働けないという深刻な状況がある。生活の基盤が無いことになる。特に若い人には切実な問題である。働けなければ楽しい夕げはとれない。気掛かりのある目覚めでは、朝だといっても希望は湧かない。
 新型コロナの感染拡大で経済の先行きが案じられてならない。力強い対策を望んでいる。


山口 とぴっく あれこれ

2020-03-07 19:34:04 | 岩国エッセイサロンより
12月度 山口 「はがき随筆」入選

片山さん(岩国市)「モグラ捜し」
三村さん(下関市)「もらった力」
田屋さん(岩国市)「桜とともに」

 「オリンピック・イヤー」が明けました。本年もはがき随筆をよろしくお願いします。12月度には行く年を惜しみつつ、身近な人々の平穏な暮らしや成長への期待など、希望にあふれる作品が多く寄せられました。
入選1位岩国市・片山清勝さんの「モグラ捜し」に決まりました。親子3人でガーデニング……と思いきやまさかのモグラの捜索作業。ほのぼのとした情景です。自分にはこの夫婦のような心の豊かさがあったかと、少し反省しました。
 2位は下関市・三村佳代子さんの「もらった力」です。庭で暮らす蜘蛛のたくましい生命力が鮮やかに描かれています。病と闘う作者ゆえに、蜘蛛に向けた視線に研ぎ澄まされたものがあります。
 3位は岩国市「桜とともに」が選ばれました。山口でも、あるじを亡くした空き家が目立ちますが、解体を決め、残る桜の木に亡き兄の思い出を重ねる心情が胸を打ちます。
 佳作のうち「知らぬが仏」、選外ですが「カレンダー選び」「餅つき」などが年末恒例の情景を描きました。「真っ赤になあれ」に樹木の生命力の不思議さを思い、「光を失っても」に人のたくましさや家族の愛情の深さを感じました。
 12月度の投稿数は192件、掲載数は47件でした。
   山口支局長 竹島一登

ほほえましさ眼前に
 福田さん評
 お重ね餅も降ろされ早々と6日選考会。
 「モグラ捜し」。家族総出の土堀り姿がほほえましい。素直な文体で状況が目に見えるようだ。現代世相に触れた感想も加え、きちんとまとめ上げられた。明るさが何より。
 「もらった力」。精巧な蜘蛛の巣をしっかり観察し、自らの力としている。真剣な生き方に感心した。
 「桜とともに」。実家の兄の死と残された桜の木。草刈りを通して切実な感慨が伝わる。
 「知らぬが仏」。寿命の不確かさを題名にして、連用日記買いを悩む気持ち。同感、共鳴者多数に違いない。佳作ながらの満票作が並び、今年は縁起が良いらしい。
 選外だが、「夏の名残」「あれから3年」「まあ!」に高点を入れた。
 さらに「みそ汁の味」「おばばの足指」「べっぴんさん」「人生悲喜こもごも」「誕生日」の諸作が印象深い。
 1年を振り返り、年末年始の良い作が並ぶ。この勢いで、また新しい秀作をと願い、毎日を大切にと祈る。
 中原中也記念館 名誉館長 福田百合子

票を得る喜びの感想
 武市さん評
 1位。かわいい移植ごてを持ちモグラ捜しに夢中になる女の子とその熱中ぶりに加勢する両親との気持ちの一体感が良い。結びの感想も要を得ている。
 2位。蜘蛛の営みを感銘深く見守る作者の心理が的確に伝わるような文章だ。小さな生き物に対する眼差しは病人には一入、鋭さがあり、説得力も強い。
 3位。実家を継いできた兄が亡くなり家の解体が決まる。そこには兄の植えた桜の木がある。令和元年は中止となった花見への期待を哀切な色調で綴る。
 杉江作品。10年連用日記がもう尽きる。今度は何年物にするかと悩む作者。人生百年。迷わず10年ものを。
岩城作品。友の死と従兄弟の施設入所を見て終活作業を始めた。すると血糖値が下がり体調が上向く。元気を刺激される作品。
 田村作品。私も2枚持っている平成31年の10円硬貨。小さな幸せの使い方に感心した。
 水ノ江作品。失明の悲運に屈しない夫の明るさが光る。またお互いにいたわり合って家族全員が前向きに生きる姿勢は読み応え十分で、爽やかな印象を残す。
 宇部フロンティア大学非常勤講師 武市真広
 







岩国の歴史学ぶ連載

2019-12-25 19:50:51 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月24日 (火)
   岩国市   会 員   片山清勝
 私は10年ほど前、岩国の「ご当地検定」実現に関わった。検定は5年前に終了したが、郷土の歴史に強い興味を持つようになり、防長路版に月1回掲載される「岩国史探訪」を楽しみにしている。12月は20回目「広家築城の横山」。これからも続いてほしいと切り抜きしながら思った。
 連載は、関ケ原合戦の後、岩国へ移された吉川広家が手掛け、現在の岩国の原型となった干拓事業から始まった。統治、通商、交通など岩国の成り立ちを知る貴重な資料になった。また、キリシタン弾圧、農民の名字、足軽や鉄砲組の悲哀、祭礼など歴史読み物としても面白く読んだ。
 14回目は、岩国という地名の由来が書かれ、市民として必須の内容と思う。
 少子高齢化などで市の人口は減少し、活力の低下を感じている。取り戻すには自ら生み出すものを持ち、定着させなければならない。連載には、岩国藩が城下町を繁栄させた工夫が多々示してあった。市勢回復のヒントになるかもしれないと思う。
     (2019.12.24 中国新聞「広場」掲載)   




枯れない花

2019-12-25 19:48:58 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月22日 (日)
   岩国市   会 員   横山恵子 
 今もはっきりと目に浮かぶ光景がある。それは枯れない花だった。話は胸に刻まれた日々をさかのぼる。
 夫は63歳の時、脳梗塞を発症した。その後の闘病生活は10年に及んだ。特に最後の1年は坂道を転がるがごとく悪化の一途をたどった。一緒に闘う私は心が折れそうだった。それでも奇跡を信じ、細い望みの糸を必死で手繰っていた。
 しかし、平成26(2014)年4月29日未明、最期の時を迎えた。夫の顔をなでながら私は自然と言葉がこぼれていた。
 「お父さん、ありがとう、ありがとう、つらかったね、よう頑張ったね・・・」
 一瞬、夫の唇がわずかに開いた。笑みを浮かべるように見えた。「まあ気が付いたの。心配したよ」と思っても言葉に詰まった。必死で体をさすった。だが目を開けることはなかった。
 幻だったのかー。われに返ると、看護師の方が何も言わず、私の背中をさすり続けてくれていた。
 通夜、葬式を終えて四十九日法要を迎えた。まだ墓はなく納骨できなかった。少しでも長く家にいたいという夫の意思のような気がした。
 供える花も暑さのため、すぐに枯れてしまった。その中で、1輪のアジサイだけは生き生きとしていた。何とも不思議だった。
 そして9月11日、納骨の時が来た。枯れないアジサイを挿し木にしようとして驚いた。昨日まで元気だった花がしおれていた。まるで役目を
終えたかのようだった。
   (2019.12.22 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)




モグラ捜し

2019-12-25 19:31:08 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月21日 (土)
   岩国市  会 員   片山 清勝
 
 5歳くらいの女の子とその両親が花壇周りで作業している。「花植えですか」と声を掛けると「モグラが見つからない」と悔しそうに子どもが答える。
 「いないのは分かっているんですが、娘が捜すというのでお付き合いです」と母親がそっと説明し、うれしそうに笑う。花壇にあったモグラのトンネルを掘り返しているところだった。
 何でもネット検索で解決する世代だが、子どもが抱いた疑問や好奇心のため、一緒になって掘り返す若い両親に感心した。この体験は成長につれて必ず身について花が咲く。かわいい移植ごてを見ながら思った。
  (2019.12.21 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




 「これからは菌よ、菌」

2019-12-25 19:30:08 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月19日 (木)
70代の挑戦
   岩国市  会 員   沖 洋子

 若いころ刺しゅうを習っていた仲間の集まりでのことである。その時のメンバーの一人の発言が心に響いた。
 数年ぶりに会う友は、クルミなど自然の食物から、自分で作った酵母菌を、パン種や石鹸などの物作りに活かしているという。大好きでつい食べ過ぎてしまうパン作りを、ここ数年ダイエットのために封じていた。
 友を見習い、自分が育てた酵母菌で作ったパンを食べてみたい。パン作りに再挑戦しよう。
 うまくできるかどうかは分からない。でも、取り掛かろうと体が動いてきた。
  (2019.12.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




欲まみれの貢献

2019-12-25 19:28:50 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月18日 (水)
  岩国市  会 員   沖 義照

 「年末ジャンボ宝くじは1等の前後賞を合わせて10億円と超豪華賞金が魅力の宝くじです」と大きな広告が載っている。
 何度か買い求めたが、当たったこともかすったこともない。広告の隅には小さな字で「収益金は街の公共事業等に役立てられています」と書いてある。今どこの町も台所事情は火の車。公共事業も削られ続けている。
 私といえば高齢者に位置づけられ、国の厄介者に甘んじている。たとえ当たらなくても宝くじを買って少しは国のお役に立ってみたい。こんな殊勝な気持ちが億万長者への夢を現実にしてくれ……ないだろうなぁ。
  (2019.12.18 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




年賀状

2019-12-25 19:27:43 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月 7日 (土)
   岩国市  会 員   横山 恵子
 そろそろ年賀状を書く時季となってきた。この7年間に父、夫、姑、母を次々と亡くし、年賀状のない正月を何度か迎えた。喪中はがきを出すと電話やはがきをいただき、情けが身に染みた。
 夫を亡くした年の師走、教え子からお供えと手紙。「休み時間にはドッジボールや鬼ごっこをして遊んでもらった……」等の思い出話に思わず号泣。晩年の闘病生活の辛さを涙が洗い流した。「元気出してやれよ」と夫が背中を押してくれたようにも思えた。
 この1年もいろいろあった。年賀状が書けることは幸せと思う。
  (2019.12.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




TVの「一軒家」

2019-11-20 22:03:51 | 岩国エッセイサロンより
2019年11月17日 (日)
   岩国市   会 員   片山清勝 
 衛星写真で見つけた人里離れた一軒家。そこにはどんな人が、どんな暮らしをしているのか、と訪ねる。民放のテレビ番組である。
 私はいつの間にか興味を持った。見るたび、人の暮らしや生き方の原点を教えられるようだった。飾り気のない住人の生活する姿、環境を取り入れる工夫、その力に新鮮さを感じずにはいられない。便利な都市生活ではたどりつけない想像力に満ちている。
 番組は、スタッフが写真を携えて、この辺りと考える付近で聞き込みをしてスタートする。親切に道を教えてくださる人たち。なんとも言えない温かさを漂わせるイントロが本番を期待させる。
 一軒家に住み始めたいきさつは、当然ながら毎回違う。だが共通点もある。逃避しての一軒家暮らしではなく、その地を継承するという動機だ。そこがいい。
 住み始めると、周囲の命ある全てのものに感謝しながら、それらと共存を目指す。生活の中で描いた夢を実現していく。住人の子や孫が、山深い一軒家を訪れて自然を満喫する。
 私は勝手なことを思う。自然との共存を見習い、山を守りながら暮らしの場を引き続き守ってほしいと。
 この番組は、テレビ界ではバラエティーに属するらしい。大都市へ人口が集中する現代、私には都市生活とは真反対の生き方を紹介する社会派番組に思える。
 人は人工知能(AI)と無縁でも生きていける。高視聴率なのもよく分かる。
        (2019.11.17 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)




一人でできるから

2019-11-16 21:45:36 | 岩国エッセイサロンより
2019年11月12日 
   山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 愛媛で一人暮らしの父は90歳。世話は近くに住む弟夫婦に任せっきり。今回の帰省は月曜日なので、デイサービスに出かける父の様子を見ることができた。父の朝食中に弟が慣れた手つきで、デイに持って行くものを用意していく。
 手持ち無沙汰で父の着替えを手伝おうとしたら「一人でできるから」と弟に注意され、慌てて手を引っ込めた。ゆっくりだがポロシャツに着替え、ボタンもとめていく。「時間はあるからゆっくりでいいよ」。弟の声が頼もしい。靴下をはきズボンもはき替えた。
 人生100年時代。ますます元気で。
 (2019.11.12 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




達成感の代償

2019-11-16 21:43:59 | 岩国エッセイサロンより
2019年11月 8日 (金)
    岩国市  会 員   上田 孝

 体育の日、地元広報誌の取材が目的で、ウォーキング大会に参加した。腰痛持ちのため、開会式と歩き始めの数分を写真に収めて帰るつもりだったが、満足する写真が撮れないうちに、参加者と一緒にどんどん山の方へ上がっていく。不思議に腰が痛くならない。
 そのうち視界が開けると、我が街並みと瀬戸内海が見晴らせる絶景。秋晴れに映えて気分は爽快だ。楽しい会話や道端の秋の花にも癒やされながら、とうとう7㌔の道のりを完歩してしまった。
 この距離を歩いたのは数年ぶりだ。久々の達成感と引き換えに今、じわーっと腰に来ている。
   (2019.11.08 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




他人事にあらず

2019-11-05 17:29:44 | 岩国エッセイサロンより
2019年11月 3日 (日)
他人事にあらず
    岩国市  会 員   森重 和枝

 連日、台風19号の被害状況が放映される度、平成17年の水害を思い出してしまう。今回もバックウオーターやダムの放流の仕方が原因の一つとされるが、あの時もダムの放流で増水し、逆流したと後で知った。
 夜8時、突然玄関に水が入る。大騒動で2階に避難。水が階段の3段目で止まった時は、本当に安堵した。床上70㌢でも、泥だらけの1階の片付けに3週間は無我夢中だった。限られた地区だったので、すぐ身内も駆けつけてくれて復旧できた。
 今回のように広範囲では助け合いもままならず、さぞご苦労だと同情する。
   (2019.11.03 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




つり橋

2019-11-05 17:28:19 | 岩国エッセイサロンより
2019年11月 1日 (金)
  岩国市  会 員   角 智之

 「山のつり橋や どなたが通る」で始まる懐かしいヒット曲「山の吊橋」は、深まる秋の情景を巧みに描写している。
 我が家近くのつり橋は、晩秋にはワイヤに覆いかぶさった木々の紅葉が素晴らしかった。眼下に清流を眺めながら、「しょいこ」を背負った人の渡る光景は、この曲を絵にしたようだった。
 先般、久しぶりに思い出の地を訪ねると、橋はコンクリートに変わり、木々は伐採されていた。錦川流域には多くのつり橋があったが、老朽化などで数が減った。安全確保は大切だが、趣のある風景が失われるのは残念だ。
  (2019.11.01 毎日新聞「はがき随筆」掲載)  




捨てられない

2019-11-05 17:26:22 | 岩国エッセイサロンより
2019年10月29日 (火)
   岩国市  会 員   山本 一

 オーディオが故障した。次女が置いていったもので、30年ものだ。妻と電気店で下見。CDプレーヤーを更新すればまだ使えるが、約10万円で丸ごと更新すると決断した。捨てる前に持ち主の了解が必要だ。
 次女が独り言のようにつぶやく。「私が高校の時にお父さんの反対を押し切ってアルバイトをして、そのお金で買った。確か当時20万円近かったと思う」 
 あれから1カ月。5000円のCDプレーヤーをネットで購入。「まだ良い音が出るね」と、流行遅れのスピーカーでフジコ・ヘミングの「ため息」を聴いている、気弱な老い二人。
   (2019.10.29 毎日新聞「はがき随筆」掲載)