鹿児島市から姶良町に向かう海岸線沿いの国道10号。天気が良く、景色も素晴らしい眺めだった。気持ちよく車を運転していると、錦江湾をクロールで泳ぐような姿が見えた。黒色のウエットスーツを着た太い腕で、恐ろしいほど早いスピードで泳いでいる。
その正体は何だろう。注意して見ると2頭のイルカが並んで泳いでいた。交互に水面に現れる姿が、遠目からはクロールで力強く水をかく腕に見えたのだった。
かごしま水族館に尋ねてみると、私が見たのはミナミハンドウイルカらしく湾内には約50頭生息しているという。さらに、湾口付近には多数のハセイルカが出入りしていると説明してくれた。
ついでに以前、この水族館で見た全身に斑点のような模様があるイルカのことも聞いてみた。と、さすがに「多分、ハンドウイルカのクーのことでしょう」と話してくれた。
色が黒いから「クー」の名前で呼ばれ、体長2.5㍍、体重258㌔のメス。イルカもそれぞれ性格がある、クーはやんちゃ、おてんばという。斑点の数は100近くあり、これはダルマザメが食らいつき、肉をえぐった跡だった。
調べたら小型のサメで体長は約50㌢。夜になると深海から浅い海域に上がって来る。その姿がイカに似ているそうで、間違って近寄ったイルカに鋭い歯でかみつくそうだ。
イルカは歯クジラ類の小型種の総称で、古くから人との関係も深い。イルカ、クジラを対象にした「鯨魚(イサナ)取り」は「海」の枕言葉として使われている。
万葉集に「鯨魚取り 海や死にする 山や死にする 死ぬれこそ 海は潮干(ひ)て 山は枯れすれ」の歌がある。海は死にますか、山は死にますか、死ぬからこそ、海は潮が干いて、山は枯れるのです。
さだまさしさんの「防人の詩」には「海は死にますか 山は死にますか 風はどうですか 空もそうですか」などの部分があり、万葉集の歌を踏まえて作詞したに違いない。
鹿児島には、わざわざボートを出してイルカウオッチングに乗り出さなくても、運がよければ錦江湾の岸からイルカが見られる環境がある。しかし「観察するぞ」と、意気込んで眺めてもなかなか姿を現さない。関心がないように思わせ、何気なく見つける方がいいようだ。この気持ちで3回ほど成功した。
毎日新聞鹿児島支局長 竹本啓自 2006/11/27 掲載
写真は
koba-tanさんよりお借りした「ミナミハンドウイルカ」です。