はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

こんなはずでは

2017-01-26 12:53:41 | はがき随筆
 演歌のイントロが始まった。緊張のあまり、マイクを持つ手はこちこち。初めてのカラオケに挑戦。曲はどんどん流れ、音程は外れる、声量はない、さんざんなものでした。こんなはずではと泣きたい気持ちで、からからになったのどをジュースで潤す。
 その日女性4人は温泉を楽しみ食事の後のカラオケとなった。興味津津の私でしたが、若い人の声量ある歌声に魅了され、すっかり自信をなくした。体力の衰えと共に声量もしかりと思うことに。そんなとき娘とのデュエットで元気をもらい、大船にのった気分になる。
  鹿児島市 竹之内美知子 2017/1/26 毎日新聞鹿児島版掲載

青春の失策

2017-01-26 12:48:34 | はがき随筆
 社会人初日の仕事は、そろばんで伝票を集計したが、全然合わずに困った。総務の仕事ではへまばかりした。社命で得意先の社長の葬儀に参列した。読経が始まり、会葬者がこちら側で一礼する。「あっ、遺族席だ!」と気づいたが、遅かった。
 所長が亡くなられ、弔辞の作成を命じられた。生前、面識はなく、寮で苦悶しながら拙い弔辞を書いた。後に故人の奥さまが寮母で来られて驚いた。失策を重ねたあの頃がなつかしい。
 英国の元首相、ディズレーリーは「青春の失策は、壮年の勝利や老年の成功よりも好ましいものだ」と言っている。
  鹿児島市 田中健一郎 2017/1/25 毎日新聞鹿児島版掲載

焼酎と共に生きる

2017-01-26 12:38:41 | はがき随筆
 親しい人と会う度に「おはんな元気じゃなー」と言われる。返事は「まだ焼酎(だいやめ)がうんまかでなあー」である。
 年間を通じて晴天のときは四季ごと外での農作業である。春はトラクターで田畑を耕し、夏は作物の除草や畔草刈り、秋は米、野菜の収穫など。冬は山に入りシイタケ原木の伐採です。一息ついて休憩。遠い山に向かって両手を挙げ深呼吸する。夕方になると焼酎瓶が頭をかすめる。亡くなった義父はこんな句を残している。「薬を飲んち思えば安か焼酎」。まさにその主義を通して今日まで生きている。
  姶良郡湧水町 本村守 2017/1/24 毎日新聞鹿児島版掲載

バラを植える

2017-01-26 12:31:04 | はがき随筆
 元日、明け行く雲一つない澄んだ空をカンバスに、すっかり葉を落とした庭の裸木が樹形を見せる。シモクレンは柔らかい綿毛をまとった芽が枝先にある。新年という暦のせいか清々しい。念頭に菜園や庭を楽しみ健康に気をつけようとつぶやいた。今年は花園にバラを増やしたい。2年前にさし芽した1本の四季咲きのバラが開花し、ピンクの優しい色と形に魅せられた。さし芽からの喜びはひとしおだった。芽立ち、手入れを学び、花の香に包まれたい。苦しかった脊椎狭窄症が治りすべてに感謝している。体と相談しながら花園の手入れをしよう。
  出水市 年神貞子 2017/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

あだ名の先生

2017-01-26 12:03:44 | はがき随筆
 民宿の食堂で夕食を取っていると、ビールを飲んでいる年配の男性がこちらに視線を向ける。ややあって男性は思い切ったように「本名は思い出しませんが、大変失礼ですが(私のあだ名)先生ではありませんか」と言う。私はピンと来た。私のあだ名を知っているのは若い頃勤めていたあの学校の出身に違いない。双方とも名乗りあい、先生、五十何年かぶりですね、とビールを注いでくれ昔話に興じたのだった。
 半世紀以上も私を覚えていてくれたことに驚くと同時に、少年の頃の教師への印象の深さを知り責務の大きさを痛感した。
  鹿児島市 野崎正昭 2017/1/22 毎日新聞鹿児島版掲載

かなうならば

2017-01-26 11:36:20 | 岩国エッセイサロンより
2017年1月23日 (月)
    
 岩国市  会 員   横山 恵子

 今年の正月、友と市内の三社に詣でた。3月並みの陽気故、どこに行っても大勢の人。順番に三拝二拍手一拝をする。神社も今が書き入れ時、次々とお守りを買う人の波、懐と相談して御神札を求めた。
 大きな黒板の前で友が「これに願いごとを書くんよ。いつもびっしり書かれているけど今日は空いているね。書こうや」。
 考えた末、書き終えると、えっ彼女も同じ「世界平和」。思いは一緒ってことかな。
 見渡せばテロは多発。先行きは不透明な世界情勢。望みはでっかく持ちたいが、まずは足元から一歩ずつやっていこう。  
      (2017.01.23 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

はがき随筆

2017-01-26 11:30:53 | はがき随筆
 子供の頃から読書は好きだった。だが書くことは今もって苦手。そんな私の初投稿の随筆が掲載されたのが5年前の12月9日。期待していなかったので名前を見たとき、エッ? 同姓同名と思ったが題を見て私の作品と確認。「私のでも載るんだあ」と妙な感動をした。それから次々に投稿し、投稿数40編、掲載数37編、没3編。うち「月間賞」1回、「佳作」1回を頂いた。文章を書く勉強もせず推敲も不十分でいつも撰者の方のお手を煩わせているが、筆を入れて頂いて文章がキリッとなり「なるほど」と納得。今後ともよろしくお願いいたします。
  鹿児島市 内山陽子 2017/1/21 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆12月度

2017-01-24 17:35:14 | 受賞作品
 はがき随筆の昨年12月度月間賞は次の皆さんでした。

 【優秀賞】14日「私でおしまい」種子田真理=鹿児島市常盤
 【佳作】20日「下宿再訪」山下秀雄=出水市西出水町
 ▽22日「グリム童話」田中健一郎=鹿児島市東谷山


 「私でおしまい」は、むずかしい問題を提起されました。先行きの見えない時代に子孫を残すことについては、私もよく考えます。一方では、確かドイツの作家ゲオルグだったと思いますが、「明日世界が滅びるとしても、リンゴの木を植える」という言葉についても考えます。人生は選択ですから、自分の選んだ生き方を全うするしかないようです。
 「下宿再訪」は、熊本地震の後、高校時代にお世話になった下宿を訪ねてみたが、そこの主婦は数年前に亡くなっていた。仏壇も壊れていたのでお参りできず、お元気なときの新聞掲載の写真を見せてもらった。その笑顔の写真に涙してしまったという内容です。災害とは直接関係はないとしても、こういう再会は悲しいですね。
 「グリム童話」は、半世紀以上も前の経験ですが、夏休みに担任の先生の宿直の夜に泊まりがけで遊びに行くと、グリムの怖い話を聞かせてもらった。今は先生もその時の2人の友も鬼籍に入ってしまったが、古き良き時代が懐かしいという内容です。読んで、単なる懐旧談としては受けとれず、現在の教育界を相対化しているとも感じました。
 この他、3編を紹介します。
  奥吉志代子さんの「ありがとう」は、転校生の自分を遊びに誘ってくれた級友も校庭も懐かしいが、その小学校も閉校になってしまい、校舎だけが昔のたたずまいで残っているという内容です。日本の社会が、じんわりと消滅していっているような印象をもたせる文章です。
 野崎正昭さんの「努力にメダルを」は、リオ五輪のとき、優勝しても勝ちを奢らない大野将平選手とボルト選手に感動したという内容です。スポーツがショー化している現在、確かに敗者の努力への敬意は大切ですね。
 萩原裕子さんの「サンタクロース」は、同じマンションの住人が、「はがき随筆」用の手作り原稿用紙を、郵便受けに入れておいてくれたことへの感謝の文章です。「はがき随筆」共同体(?)のようなものができるといいですね。
  鹿児島大学名誉教授 石田 忠彦

古夫婦は今

2017-01-22 23:45:53 | はがき随筆
 数字の8のようなまあるい夫婦を続けて45年。時の流れと共にサビがつきトゲも発生。今や二つの○は離れた。
 輪がつながらない不和状態を元に戻したくて努力するが、一度離れると難しい。老齢でもあるし……。
 夫の現職中に私は大病を患って4カ月も入院。退院後も心を病んで随分迷惑をかけた。今の自分があるのはひとえに夫のおかげとわかりながら依然として勝手気まま、不平ばかりこぼす。夫も面白くなかろう。
 「結婚相手を間違って損したね。ごめんね」と言ったら「お互いさま」と。
  鹿児島市 馬渡浩子 2017/1/20 毎日新聞鹿児島版掲載 

一陽来福

2017-01-19 12:30:46 | はがき随筆


 当時から僅かずつ夜明けが早くなった。晴れわたった空を見上げつつ、帰省の子らと近くの神社に初詣。昨年は、何度か体調を損ねたので「今年は元気で過ごせるように努力いたします」と神前にこうべを垂れた。宮司さんが「お祓いをしましょう。並んで低頭を」と言って、私たちに幣を振ってくださった。
 手作りのごまめ・ゆず大根・イカニンジン・キンカン・砂糖煮、そして今日便利なお取り寄せのお節は三段重ね。おとそ・お雑煮などを手早く並べ、楽しく新年を祝った。よい年になる予感を覚えた元旦でした。
  鹿屋市 門倉キヨ子 2017/1/19 毎日新聞鹿児島版掲載

すごいなあ

2017-01-19 12:24:00 | はがき随筆
 「行ってきます」
 荷物を車の助手席に乗せ、さあ出発しようとしたとたん、
 「キンコンキンコン」
 と鳴き出した。
  「あれっ、なんだ」
 見ると、赤いランプがついている。助手席のシートベルトをしてくださいというお知らせの音だった。
 ははあん、荷物が人みたいに乗っていたからだな。私は、そそくさと荷物を下におろした。音は、ピタッと鳴りやんだ。
 なんとかしこい車だろう。技術開発は進んでいる。すごいなあ。私は一人、クスッと笑った。
  出水市 山岡淳子 2017/1/18 毎日新聞鹿児島版掲載

大変身

2017-01-19 12:18:25 | はがき随筆
 私は10代のころから劣等感が強く、自分を押さえて生きてきました。その上、10年前に難病にかかり、障害者になってしまい、さらにへこむ日々でした。ですが、鹿児島市障害者支援センターの方々との出会いが、私の心の卑屈さを優しく解きほぐしてくれました。目・耳・手・足などさまざまな障害を、お互いに補い合い支え合いながら、諸講座を受講しています。手話コーラスで歌うことの楽しさを知った私は、なんと今では恥ずかしげもなく、つえをつきつつ人前で叫び歌っています。大変身した自分に私自身が驚き、でもそんな私が大好きです。
 鹿児島市 別府柳子 2017/1/17 毎日新聞鹿児島版掲載

たのしい一日

2017-01-19 12:12:38 | はがき随筆
 新年度も後半に入り、学校の宿題が始まった。『たのしい一日』と題されたノートには、日記欄のほかに自己評価欄までついている。小1にできるのかなと思っていたが、息子は喜々として日誌を開く。友達と鉄棒で遊んだことや、学校を探検したこと。『今日がんばったこと』を書くために、息子が授業で手を挙げるようになったときは本当に驚いた。先生にほめられた日は字まで躍っている。たのしい一日を重ね、たのしい一年になり、たのしい小学校時代を過ごせたらと思うと、『たのしい一日』とは秀逸なタイトルだなと思った。
  鹿児島市 堀之内泉 2017/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

高齢ドライバー

2017-01-19 12:06:04 | はがき随筆
 ついに愛車の乗り換え時期がきた。時はいつしかマニュアル車からオートマ車へと推移し、換えざるを得なくなっていた。時代の流れに乗り遅れた感があり、途方に暮れた。折しも相次ぐ高齢ドライバーによるアクセルとブレーキの踏み間違いの操作ミスだの高速道路の逆走などと震撼させるニュースが、やたら目に飛び込んでくる。身も凍る思いで聞いていた。それから、直ちに運転の勘を取り戻しはしたが、油断大敵と気を引き締め若葉マークの頃を思い出し、慎重な面持ちでハンドルを握る日々がスタートしたのだ。
  鹿屋市 中鶴裕子 2017/1/15 毎日新聞鹿児島版掲載

冬を耐える梅に希望

2017-01-19 11:54:35 | 岩国エッセイサロンより
2017年1月18日 (水)
   岩国市   会 員   吉岡 賢一

 妻の実家にある小さな梅林は、手入れを怠らなければ、毎年50~60㌔の梅の実を収穫できる。その実は梅干しとなり、毎朝の食事に欠かさず添えられる。また芳醇な手製の梅酒となって、晩酌を楽しませてくれる。
 その梅林は今、小寒から大寒に向かう厳しい北風に耐え、霜に耐え、雪に耐えて、つぼみを少しずつ膨らませて、花ほころぶ春に備えている。それはまさに、受験生か志望校を目指して最後の追い込みに入った姿に似ている。
 そして「耐雪梅花麗」を座右の銘とする元広島東洋カープの黒田博樹さんの存在の大きさが、改めて胸に迫ってくる。25年ぶりのリーグ優勝をもたらしてくれたあの黒田さんでさえ、耐えに耐えて花開く時節を待つ時代があったという。
 人間誰しも耐えなければならない試練が、一度や二度は必ずやってくる。そんなとき「雪に耐えて咲く梅の花の麗しさ」に思いを寄せ、希望を持って日々を過ごせるのは、幸せなことなのだろう。 

    (2017.01.18 中国新聞「広場」掲載)