月間賞に久野さん(鹿児島)
佳作は西尾さん(鹿児島)、今福さん(熊本)、鶴薗さん(宮崎)
はがき随筆9月度の受賞者は次の皆さんでした。
【月間賞】5日「笑顔のバイバイ」久野茂樹=鹿児島県霧島市
【佳作】2日「処暑」西尾フミ子=鹿児島県鹿屋市
▽13日「タカサゴユリ」今福和歌子=熊本県八代市
▽23日「中秋の名月」鶴薗真知子=宮崎市
はがき随筆には、ささやかなできごとを記しただけに見える作品にも、思いがけない気づきを与えてくれたり、連想に誘ったりするものが少なくありません。「笑顔のバイバイ」は、スーパーの通路でいきなり二.三歳の男の子に手を握られたところから、その子の母親が見つかり、笑顔で別れるまでの数分間のできごと。作者の手に触れたものが何であるか、すぐにはわかりません。それはどこか官能的で、また神秘的でもあります。そして、「安心感」は握られた者に与えられるだけでなく、不安を覚える相手も求めていたという双方向的なものだったのです。深読みだとの批判を承知で述べますが、翁と童子の組み合わせは、東アジアに数々残る神話や物語を想起させます。そこでは翁と童子とは分身の関係にあります。手の触れ合いに、私が神秘を覚えた理由です。
今年は梅雨が早く上がり、長い酷暑が続きました。そういうなか、秋のけはいを伝えてくれる作品を9月早々に読むことができました。「処暑」です。深夜のかぼそいコオロギの声、朝のひんやりした空気、庭の草取りの折に目にした玉すだれの花。時と素材と聴覚・触覚・視覚を組み合わせ、確かな構成と細やかな言葉選びが主題にふさわしいと感じました。
「タカサゴユリ」は、4月末の庭に現れた見知らぬ植物の生長を見守り続け、それが8月には一茎に48輪もの白い花をつけて、そこでようやく台湾原産のタカサゴユリと分かったという経緯。特定外来生物としていずれ駆除対象になる可能性があることを知って、花を楽しんだ後は根ごと引き抜いたとのこと。闖入者の奇妙な存在感、それに向けられる作者の興味が読者の関心をひきつけます。
「中秋の名月」は、作者の運転する車で夫と宮崎港まで月を見に行ったこと。海から上がる月に「わあ-おおきいねえ」と声を上げ、月をお月様と呼び続け、助手席で黙っている夫を相手に「ひたすらしゃべる」、そういう私を、少し距離を置いて語っています。車内の様子が目に浮かぶようで、親しみを覚えます。
熊本大学 名誉教授 森正人