はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

まさか

2018-12-31 10:32:04 | はがき随筆
 「まさか」は突然来る。夕食後のトレイを手に後ずさりした妻が足をすべらせ、日のついていない丸型ストーブを背中にしたたかに打ちつけ転倒した。床に横たわったまま動けず、痛みを訴え泣き叫ぶ。救急車を呼ぶ。「赤信号でも突っ切りますし、スピードも出しますから」という救急隊員の説得を聞き流し、その後を追う。
 夜のとばりに包まれた景色が次々と後方へ走り去る中、山を下り市街地へ入った。信号は赤! 遠ざかる赤色ランプを目で追いながら、あの世の友と父に祈った。「どうか助けてください。どうか助けてください」
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(69) 2018/12/31 毎日新聞鹿児島版掲載

年を取ると

2018-12-30 08:10:33 | はがき随筆
 節々が痛むのですが、と医者に診断を仰ぐと「それが年を取るということですよ」とおっしゃる。まだ若いつもりでいたのに、年には勝てないようだ。
 「朝の体操はいいよ」友が自慢。気分がハイになり、畑仕事が楽しいと息巻く。ただ、持病の肩の痛みが悩みだとか。
 彼の勧めで始めた体操。「高血圧なので、起きて3時間くらいはじっとしていて」との医者の注意で、今は中断している。
 今まで「さっさと歩いて」と3歩先を歩いていた妻も、とうとう膝を痛めて、杖が頼りとなった。ああ、年を取るとは、こういうことだったのだなあ。
 宮崎市市 原田靖(78) 2018/12/30 毎日新聞鹿児島版掲載

金栗四三先生

2018-12-29 18:19:50 | はがき随筆
 明年のNHK番組にマラソンの父、金栗四三先生の「いだてん」が放映されます。私は興味津々です。なぜならば、私の青年時代、玉名郡小田村農業会(113人)で偶然お会いした時、私の願いを入れ、オリンピックと箱根駅伝の体験を約2時間あまり聞いた事があります。今テレビで出る顔は、その当時そのままのようです。
 飾り気がなく淡々と語られた印象が深く頭に残り「いだてん」を懐かしく待っています。
 そのうえ私の古里から4㌔ぐらい近くにお住まいでした。テレビは先生の若い時代を率直に知らせて下さい。
 熊本市中央区 田尻五助(96) 2018/12/29 毎日新聞鹿児島版掲載

庭の梅

2018-12-29 18:10:59 | はがき随筆
 小皿に載せた艶やかな青味を帯びた梅は、宝石を見るようだ。歯ごたえがあっておいしいと友が褒めた。6月、少し早めに採った梅は苦味が出ず、木蓋で押し転がすとぱかっと割れて種が出る。あく出しした梅に砂糖をまぶして瓶に入れる。4日後、ざるにあげ、漬け汁を煮沸し冷まして梅と瓶に戻す。「煮沸、漬ける」を5日おきに4回繰り返し、最後は瓶に漬けたまま。
 秋になると照りのよい砂糖漬けになる。来客の茶うけになる。春、芳香を放った庭の梅は梅干し、普茶料理や調味料作りに私は重宝する。施肥する時期になった。感謝の声をかけて。
 鹿児島県出水市 年神定子(82) 2018/12/28 毎日新聞鹿児島版掲載

節目のこと

2018-12-29 17:53:35 | はがき随筆
 人生にも節目があるという。春夏秋冬を節目とするか、それとも誕生日を節目とするかは、それぞれだろう。
 竹にもたくさんの節があるが、真っすぐに天を目指して伸びていく。
 これを人生に置き換えて、松竹梅の祝い事にも使われる。
 私の場合、何といっても、兄の戦死が大きな節目であった。
 家の後継ぎは長男と決まっていたが、私が次男で当時小学5年生の私は後継者。人間の節目は、たった一つのことからでも起きるものだと初めて知った。
 あんなこと、こんなこと、今はすべて忘却の彼方に去った。
 宮崎市 黒木正明(85) 2018/12/27 毎日新聞鹿児島版掲載

標語

2018-12-29 17:46:39 | はがき随筆
 お墓参りに行く途中、黒髪を通る。ごみ置き場に標語が掲げてある。「ごみ出しにキラリと光るあなたの人柄」とある。通る度に自分に問われているようで背筋が伸びる。
 平成も最後の暮れ、ごみも多量に出る。町内ではごみ出し後の掃除当番がある。時には違反ごみに頭を悩ませる。私にとって標語は日常生活でも頭から離れない。ふさわしい行動をしているかなと自問自答する。
 顧みるに日本国を担う国政の現状。国政に携わる人々へ、ごみ置き場の標語を変えて「国政にキラリと光るあなたの人柄」。届いてくれ!
 熊本市東区 川嶋孝子(79) 2018/12/26 毎日新聞鹿児島版掲載

きっと

2018-12-29 17:38:12 | はがき随筆

 夜遅くまで残業していた20代のころ。独り冷える事務所で明朝までの書類を作っていた。ふと窓ガラスを見ると、暗闇の中に映る自分の姿。無力感が一層募った。不意にドアが開き、隣の部署の課長さんがのぞかれ、いたわってくださった。最後に「きっといいことがあるよ」と言って帰っていかれた。お礼を述べつつも「そうかなぁ」と仕事に戻った若輩。今なら分かる。「いいこと」はあった。あの言葉こそがそうだったのだ。なかなか認めてくれる存在のいない昨今。年下の頑張り屋さんを見かけると、私が「きっと……」と言うようにしている。
49 鹿児島県出水市 山下秀雄(49) 2018/12/25 毎日新聞鹿児島版掲載

歯ナシの話

2018-12-29 17:31:05 | はがき随筆
 年に数回のクリーニングと、毎日の念入りなブラッシングで、歯のケアは万全だと思っていたが、右上が痛みだした。受診するとかなり状態が悪く、抜歯しないと両わきの歯までダメになるとか。おー、怖っ。
 自分の歯が少なくなるほど、認知症のリスクが高くなるとの記事を思い出す。また、老いを、「歯がない、毛がない、先がない」と言って笑いを取った芸人がいたが、笑い事ではない。我が身にも、確実に老いが近づいている。
 歯が1本欠けたままでの年越し。ブリッジでの処置が待っている。
 宮崎市 四位久美子(69) 2018/12/24 毎日新聞鹿児島版掲載

十月桜と私

2018-12-29 17:22:18 | はがき随筆
 春に植えた二度咲きの桜が順調に生育しいくつもの側枝を伸ばした。猛暑の日々は霧吹きで水分を散布したりして見守った。10月に入ると細い枝々に小さな膨らみが目立つ。つぼみとともに私の期待も膨らむ。
 中旬のある朝、2輪の花が咲いた。初めて会えた十月桜だ。そっと頬ずりする。霜月になり小春日和もあれば寒い日もあり、春のように一度にぱっと咲いてくれない。十月桜という名の使命を果たさんと日数をかけて一生懸命咲いている桜。私も90代の人生をいかに生きるべきか考えさせられ、励ましてくれる私の庭の十月桜です。
 熊本県荒尾市 平田清子(90) 2018/12/23 毎日新聞鹿児島版掲載

椋鳩十文学館

2018-12-29 17:11:07 | はがき随筆
 椋鳩十文学記念館に足を運んだ。椋鳩十は長野県に生れ、動物文学、児童文学の道を開いた。館内には所狭しと蔵書がジャンル別に整理されていた。
 「大造じいさんのガン」「片耳の大鹿」「マヤの一生」……。「大空に生きる」は未明文学奨励賞、「孤島の野犬」は国際アンデルセン賞などを獲得。館内では書斎も公開され、ノートや執筆用具など暮らしのにおいが染みていた。動物の生態と、動物と人とが自然の中で共存する大切さを備える。何か会話をしている心地と不思議な空気に浸った。魔法の仮面か? 読書日和の文学館探訪でした。
 鹿児島県姶良市 堀美代子(74) 2018/12/22 毎日新聞鹿児島版掲載

月間賞に岡田さん

2018-12-29 16:35:55 | 受賞作品
月間賞に岡田さん(熊本)
佳作は前田さん(宮崎)
武田さん(鹿児島)
古城さん(熊本)


 はがき随筆11月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
 
 【月間賞】9日「病院の玄関」岡田政雄=熊本市北区
 【佳作】7日「メール」前田隆男=宮崎県延岡市
  ▽30日「ほほ笑む月下美人」武田静瞭=鹿児島県西之表市
  ▽28日「生産性」古城正巳=熊本県合志市

 「病院の玄関」は、身につまされる内容です。誰でもそれなりに、自分のためにも他人のためにも、精いっぱい生きて来たはずなのに、老齢になり、身体が不自由になった途端に、まるで邪魔な存在のようにとり扱われるのは、哀しいですね。病院の一隅で見かけた光景に、人生の悲哀を感じとった筆者の優しい感受が、優れた文章を生みました。
 「メール」は、奥さまに先立たれ、さびしさのあまり娘さんたちに愚痴を言ったら励ましのメールが来た。それ以来メールはなくてはならないものになり、最近では、お孫さんたちも加わっての、グループメールになってしまった。その近況を亡き奥さまに知らせたという結びが、読む者をホットさせてくれます。
 「ほほ笑む月下美人」は、美しい文章です。庭の隅でひっそりと咲こうとしていた月下美人の蕾を、寂しかろうと室内で咲かせて、その香りとともに楽しんでいるという内容です。花の名前の美しさ、その香り、ご夫婦の思いやり、それに応えてほほ笑んでくれた月下美人、それらが文章を美しくしています。
 「生産性」は、政治家への風刺の奥に鋭い批判精神が潜んでいる文章です。散歩の途中で見かける牛小屋では、老牛には餌が後回しになっている。某衆議院議員の「生産性がない」発言があったが、ここの牛飼いも、某議員と同じ考えであろうか、とすると年金暮らしの後期高齢者の自分も「生産性がない」と思われているのだろうか、という疑問が書かれています。弱者の与えられている武器は、政治や政治家に対する批評精神を、文章化することだと思います。
 11月は好随筆が多く選ぶのに迷いました.【佳作】の対象にした作品を列記してみます。【宮崎】の杉田茂延さん「彼岸の神秘」▽福島洋一さん「大根たち」【鹿児島】的場豊子さんの「クッサレイオ」▽中鶴裕子さんの「布ぞうり」【熊本】畑田ももえさん「孫とハーモニカ」▽西洋史さん「全員野球内閣?」。感想抜きで申し訳ありません。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

今年はどうするか

2018-12-29 16:27:29 | はがき随筆
 お節の準備や餅つきは外せない12月、普段は静まりかえったわが家が活気付く。「お節」は29日に正月帰りする嫁が毎年手伝うので按配といくが、気が思いのがいつの年も夫婦で半日かけて頑張る「餅つき」だ。
 餅をつくといっても、僅か8㌔ほどももち米を、それも炊いてつくまでの工程を「餅つき機」が自動でこなすから、餅の塊をちぎって丸めるだけの手間仕事なのだが、年のせいか段取りや後片付けが面倒になって、近年は「今年までにしよう」と弱音がのぞく。
 今年はどうするか、もち米をまだ用意せずにいる。
 宮崎市 日高達男(77) 2018/12821 毎日新聞鹿児島版掲載

日めくりカレンダー

2018-12-29 16:22:03 | はがき随筆
 11月21日でとまっているカレンダー。今月の10日にやって来た孫が早速それを見つけた。「ばあちゃん! どうして破らないの」と言いながらめくっていく。足元に紙切れが舞う。「どうしようもないんだから……」とまとめてゴミ箱に入れる。
 「ばあちゃんだってカレンダーくらい破れますよ。だけどあなたたちがやってくるのをカレンダーを見ながら待っているのよ」とは言わない。
 今回はちょうど20日ぶりに会えたことになる。「明日まで破っておくね」と母親の迎えの車で帰って行った。11日でまた止まっている。
 熊本県宇土市 岩本俊子(69) 2018/12/20 毎日新聞鹿児島版掲載

8時間1館に

2018-12-29 16:14:44 | はがき随筆
 痛くもかゆくもないこぶが生えてきた。検査のため朝7時40分に家を出て、午後4時半に帰りつくまで同じ館にいた。
 痛い足を鼓舞しながらの移動は大変だった。水分補給のみ、朝抜き、採血7本。早めの昼食にありつくことができたが、食後の心電図の後半、腹がぐるつき不快になる。これって心電図に影響ないだろうと耐える。終わるやトイレへ直進。あぁこんなこともあるのだと貴重な体験。
 家にいれば30分ごとに外気のもとに出て。草を取ったり花を見たり心的補完をするのに……。とにかくやっと耐えた一日。
 鹿児島市 東郷久子(84) 2018/12/20 毎日新聞鹿児島版掲載

名人紹介

2018-12-29 15:58:09 | はがき随筆
 小2の孫が「婆ちゃんにあげる」と手渡してくれたのは、学校で書いた名人紹介のプリント。読み聞かせ名人として、祖母の私を紹介してくれていた。とても名人なんかではないけれど、小6の孫が入学した年から、読み聞かせボランティア6年目になった。
 絵本の魅力にハマって、毎月子供たちの笑顔に会える朝が楽しみ! 「やさしく読んでくれるから、心がすごくいい気もちになります。ぼくはうれしいです」と結んだ一生懸命書いた文章が、涙でにじむ。
 一足早く、心温まるクリスマスプレゼントが届きました。
 宮崎県延岡市 品矢洋子(64) 2018/12/20 毎日新聞鹿児島版掲載