5月にニューヨークで開かれる核拡散防止条約再検討会議に向けて、クラスメートが毎週土曜日に繁華街に30分立ち、「核兵器なき世界」を訴える署名を集めているという。幸い私のいるケアハウスから近いので「手伝うよ」と簡単に言ってしまった。当日、大急ぎで昼ご飯を済ませ、車いすで出かけた。
署名運動は初体験だ。声を張り上げるくらいはできるだろうと高をくくって、故井上ひさしさんら著名人の写真入りポスターを手に車いすに腰掛けていると、友人が「中年はダメよ、若い人の方が署名してくれるから」と助言してくれる。
なるほど「カクヘイキナキィー」と言いかけるとほとんどの中年は目を伏せて歩調が速くなり、「セカイヲー」と言うとすっと避けていく。かえって腰パンの青年や高校生が署名に応じてくれる。声をかけなくとも署名や励ましをくれるのは、戦中派とおぼしき人たちである。
思うように体が動かず焦ってしまった。私が集めたのはわずかに7人。「要領が悪く……」とわびたが、無力感に襲われた。
ケアハウスに帰ってから1世代違う職員にその話をしたら「私もどっちかと言うと逃げますね。戦争は知りませんものね」と言われた。
核廃絶は日本人共通の願いと思っていた私は甘かったのか。それとも希望は若い世代なのか。すっかり考え込んでしまった。
熊本市 増永 陽・79歳 2010/4/30 毎日新聞女の気持ち欄掲載
署名運動は初体験だ。声を張り上げるくらいはできるだろうと高をくくって、故井上ひさしさんら著名人の写真入りポスターを手に車いすに腰掛けていると、友人が「中年はダメよ、若い人の方が署名してくれるから」と助言してくれる。
なるほど「カクヘイキナキィー」と言いかけるとほとんどの中年は目を伏せて歩調が速くなり、「セカイヲー」と言うとすっと避けていく。かえって腰パンの青年や高校生が署名に応じてくれる。声をかけなくとも署名や励ましをくれるのは、戦中派とおぼしき人たちである。
思うように体が動かず焦ってしまった。私が集めたのはわずかに7人。「要領が悪く……」とわびたが、無力感に襲われた。
ケアハウスに帰ってから1世代違う職員にその話をしたら「私もどっちかと言うと逃げますね。戦争は知りませんものね」と言われた。
核廃絶は日本人共通の願いと思っていた私は甘かったのか。それとも希望は若い世代なのか。すっかり考え込んでしまった。
熊本市 増永 陽・79歳 2010/4/30 毎日新聞女の気持ち欄掲載