月間賞に荒巻さん(熊本)
佳作は田中さん(鹿児島)、福島さん(宮崎)、宮本さん(熊本)
はがき随筆6月度の受賞者は次の皆さんでした。
【月間賞】6日「約束」荒巻采香=熊本県合志市
【佳作】26日「薬指のつぶやき」田中由利子=鹿児島県薩摩川内市
▽27日「ばあばのバーバー」福島重幸=宮崎県日向市
▽27日「猿股」宮本登=熊本県嘉島町
6月は10代、20代若手の投稿がありました。活字離れの激しい昨今若者の随筆はうれしい限りです。
やはり投稿の大半は熟年層の方々です。しかし高齢者だからと言って昔の思い出に浸るばかりではなく、将来へ目を向けて新しい発見や社会に対する厳しいご意見などもぜひお寄せください。
荒巻采香さんは元気あふれる18歳。小さい頃から曽祖母に聞かされてきた「人を笑顔に……」との教えが今の自分を支えているといいます。認知症になったが今も昔のままの可愛いひいおばあちゃん。采香さんは感謝の気持ちを忘れないやさしい心の持ち主です。いやされます。これからも他人を思いやる気持ちを失わず素直に生きていってください。
田中由利子さんの「薬指のつぶやき」浅漬けの唐辛子のせいか指輪のあとがひりひり痛い。ふと見る指輪から結婚生活の喜怒哀楽が見えてくる。でも懐かしい。気持ちを取り直して指輪をはめてみる。心が輝いてきた。誰でも体験する人生の悲喜こもごもがあふれています。
ユーモアたっぷりの随筆は福島重幸さん。床屋が廃業したので妻に切ってもらうことにしたが、私の注文がうるさいのでいつも喧嘩ばかり。髪も薄くなって、妻がとうとう「どこを切るの?」我が家のバーバーも廃業か。笑ってしまいました。愉快な家族のスケッチです。
宮本登さんの「猿股」にはびっくり。まさか宮本さんらが広めたとは知りませんでした。風通しがよく健康にもいいと言われています。ブリーフ派トランクス派どちらが多いでしょうか。その辺りの考察もお願いします。
そのほか宮崎県の杉田重延さん、楠田美穂子さん、鹿児島県の馬渡浩子さん、熊本県の桑本恵子さんの随筆が印象的でした。
熊本県文化協会理事 和田正隆
はがき随筆の5月度月間賞は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】25日「朝は山姥」永井ミツ子=宮崎県日南市
【佳作】13日「さとうさんは何処」露木恵美子=宮崎県延岡市
▽8日「仰げば尊し」野崎正昭=鹿児島市
▽16日「境界の線」北窓和代=熊本県阿蘇市
月間賞に永井さん(宮崎)
佳作は露木さん(宮崎)、
野崎さん(鹿児島)、
北窓さん(熊本)
「朝は山姥」は、白髪を染めることをやめた時の心境が、劇的に描かれています。まず外部からの反応を、白髪に対するものとは触れずに書き、次に白髪染めをやめ自然体に生きることの気楽さで種明し。最後に、しかししかし、寝起きの姿は孫も驚く山姥状態。能楽に序破急という三段構成がありますが、図らずも見事な三段構成の文章です。ご自分の心境に距離を置いたために、文章が成功しました。
「さとうさんは何処」は、心温まる話題ですが、同時に不思議な話でもあります。五ヶ瀬川の堤防で、祭りの準備に係り数人で菜の花の手入れをしていたら、見知らぬ女性が2日間も手伝ってくれた。その時の写真が届いたので送ってやりたいが、どこの誰やら分からない。「風の又三郎」を連想した、という内容です。意識的なものか、あるいは無意識的なものか、読む者を想像の世界へ誘うところのある文章です。
「仰げば尊し」は、長年教職に就いていて「仰げば尊しわが師の恩」を聞いてきたが、違和感を感じていた。先日大成した教え子の恩師と言われ、恥ずかしく、恩は撮ってくれと言った。晩年(失礼)にこういう思いに取り付かれるのはつらいですね。しかし、のほほんと生きるよりは、充実した生ではないでしょうか。
「境界の線」は、人と自然との関係についての意見が述べられています。熊本地震のときのがけ崩れもひどかったが、それよりも人為的な自然破壊がひどいのではないか。考えると地震によるがけ崩れも、その一因は人の自然への対処の仕方にあったのではないか。自然の持つ再生力は果たして無限か。人と自然の調和の限界を人は超えてはいないか。このような問題はアポリア(同時に二つの合理的答えがあること)ですね。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦
はがき随筆4月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】4日「ジェスチャー」的場豊子=鹿児島県阿久根市
【佳作】4日「デジタル新聞」増永陽=熊本市中央区
▽4日「小さな畑」小野小百合=宮崎県日南市
▽16日「心に咲いた花」若宮庸成=鹿児島県志布志市
5月1日に皇太子徳仁さまが新しい天皇の位に即かれ令和の時代が始まりました。
多くの人が即位を喜び世の中はお祝いムードに包まれています。令和の時代も平和が続くようにと祈るばかりです。
的場豊子さんは、スイスの高原列車の旅に行こうと、ご主人から誘われた。旅先で言葉が通じるかしら? と不安もあるが、以前エジプトの旅では身ぶり手ぶりで十分に通じたから今回も何とかなるだろうと。「なぜか通じるんです」に作者の女性としてのたくましさとユーモアが感じられて気持ちがいい。思わず拍手を送りました。スイス旅行の後日談も楽しみにしています。
増永陽さんは、卒寿の方。その日常は驚くほどエネルギッシュです。新聞のデジタル版のプレミアムプランを登録して北海道版やサンデー毎日、エコノミストまで読破されている。高齢になるとIT関連のカタカナ文字は敬遠しがちになりますが、増永さんの文章は最新のIT用語満載です。まさにこの作品は人生百年時代を照らす光です。
小野小百合さんは、お父さまが残された小さな畑をご夫婦で守っておられる。その日常を自分の心の内を見つめながら書かれて、しっとりとした文章に仕上げました。
若宮庸成さんの作品。物の不足した時代、衣類に開いた穴にはツギを当てて大事に着ていました。今は使い捨ての時代ですが、だからこそツギを当ててくれた人の暖かさが見にししみて「心に咲いた花」とタイトルにした作者の気持ちが読者に伝わります。
4日の竹本伸二さんの「食」、17日の古城正巳さんの「反省」も心に残りました。
みやざきエッセイスト・クラブ会員 戸田淳子
佳作は柏木さん(宮崎)、口町さん(鹿児島)、竹本さん(熊本)
はがき随筆の2月度月間賞は次の皆さんでした。(敬称略)
【優秀作】28日 「真心」道田道範=鹿児島県出水市
【佳作】8日「霧の記憶」柏木正樹=宮崎市
7日「80代は」口町円子=鹿児島県霧島市
10日「教え子の行為」竹本伸二=熊本市東区
「真心」は、母親の介護に、心身ともに疲労困憊している毎日。反応の全くない母親の様子に、感謝の言葉など期待していなかったが、感謝の念を姉には伝えていたことが分かり、真心が通じたと勇気づけられたという内容です。人の意識の動きの不思議さについて考えさせられました。私たちの生命現象は一般に意識の活動としてとらえますが、筆者の毎日の会後は、人の命の不思議さに対面させられていると考えると、他人事のような言い方になりますが、介護も別の意味合いをもってきて、励まされるかもしれません。
「霧の記憶」は美しい文章です。蜘蛛の巣に輝く朝霧の水滴に、少年時代の父母の記憶を重ね合わせた内容です。牛馬のごとく、という慣用句がありますが、早朝から草刈りに出ていて、待っていると朝霧の中から帰ってきての食事。安堵感がある記憶です。父母の年齢に近づくと、父母の労苦が分かるといいますが、このような懐かしく美しい連想は読む人の気持ちを和めてくれます。
「80代は」は、ワサビり効いた文章です。誰でもが大みそから「紅白」を見る義理はありませんから、自信をもってください。歌が好きなので「紅白」が楽しみだったが、最近は理解不可能な番組に。歩み寄る気持ちで見てみたが、やはり駄目。犬猫のテレビは和ませてくれるのだが。これからは自分流を貫こう。80代の再出発と言おうか、自己の確率です。頑張って下さい。
「教え子の行為」は、高校教師時代の教え子が、70歳の頃訪ねてきて、危ない個所に手すりを付けてくれた。「今はいらんでしょうが」という心配りと共に。それから20年、これほど助かることはなく、毎日感謝している。教え子の行為が好意であったようです。ここではいわゆる子弟の間柄ですが、人と人との善意の触れ合いは、それが他人事でもうれしくなります。
この他に、夫婦で別室でテレビを見ている生活が内容の、楠田美穂さんの「TV別居」と、赤ん坊が心を慰めてくれるという、内平友美さんの「心のサプリ」が記憶に残りました。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦
「はがき随筆」の2018年熊本年間賞に、熊本県八代市の今福和歌子さん(69)の作品「安田さんと情報」(12月6日)が選ばれた。昨年1年間に熊本の読者から寄せられた作品のうち、1~3月の冬季季間賞と準賞、更に4月~12月の月間賞、佳作計16作品を対象に、熊本県文化協会理事、和田正隆さんが選考した。
情報の真偽見極め訴え
昨年1年間に熊本県関係では延べ240人の随筆が寄せられました。
日ごろの営みのなかで発見する小さな幸せ、心温まる思い出、あるいは人間の生き方を問う厳しい意見、いろいろでした。ただ昨年は政治や行政への不信が募る一年だったようにも思います。
そこで年間賞にはあえてハードな作品を選びました。今福和歌子さんの「安田さんの情報」。フェイクニュースやSNSでの偽情報、人をだまして喜ぶという卑劣な風潮がはびこる情けない世の中になってしまいました。「みんなもっとしっかりしろ」。今福さんはそう訴えています。
政治問題をとらえたものはほかにもいくつかありました。ユーモアあふれる日常のスケッチもたくさんありました。年間賞としていずれも捨て難い随筆でした。
熊本に縁の深い夏目漱石は小説のほかに随筆、書簡、メモなどたくさん残しています。そこからはいかめしい小説からは想像もつかない彼の思いもよらぬ素性がうかがえます。実にワガママオジサンです。びっくりです。皆さんの記録も将来「おじいちゃんおばあちゃんてこんな人だったのだ」と孫、ひ孫さんたちが新発見すること請け合いです。今年も傑作をお寄せください。
熊本県文化協会理事 和田正隆
感じたことつづり続ける
「月間賞受賞にもびっくり仰天しましたが、更にびっくりで、ほんとうにうれしいです」。初の年間賞受賞に喜びもひとしおだ。
シリアで武装勢力に拘束されたフリージャーナリスト、安田純平さんを巡る批判に疑問を抱いたものの反論できず、悶々としていた。ある時「日本には日本の歴史、風土があり、それはジャーナリストの視点にも影響する。米国や欧州発の情報だけでなく、日本人ジャーナリストの目を通した情報も必要だ」と考えつき、作品を書き上げた。
小学校教員を定年退職後、2014年2月に始めて投稿して5年になる。「年を重ねたから見えてくるものもあります。今後も感じたことを綴っていきたい」【三森輝久】
佳作は鍬本さん(熊本)、山下さん(鹿児島)、矢野さん(宮崎)
はがき随筆1月度。受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】1日「いっちょん好かん」岡田政雄=熊本市北区
【佳作】10日「ほっこり」鍬本恵子=熊本県八代市
▽ 31日「銭湯」山下秀雄=鹿児島県出水市
▽ 31日「準備万端」矢野博子さん=宮崎県日南市
平成31年元旦のはがき随筆は岡田政雄さんの「いっちょん好かん」でスタートしました。お正月らしい明るく気持ちのいい内容です。病院の待合室では皆、伏し目がちになってしまいますが、この病院の雰囲気の良さには驚きました。おばあさんのことばに反応した看護師さんのセリフ。それを聞いたお医者さんのおおらかさ。何と素晴らしい病院でしょう。この病院のドアを開けただけで病気は治ってしまいそうです。朗らかさこそ病院の一番の役目なのかも知れません。病院での一こまを見事な文章にされた新春の第一作にふさわしい作品です。
鍬本恵子さんの「ほっこり」。作者がバスから降りようとした時に先にバスを降りられた方が「どうぞ」と傘を差しかけて下った。「まぁ、すみません」と傘の中へいれてもらい濡れずにすんだ。誰とも知らない人の親切が身にしみる。雨の日の作者の胸にぽっとともった小さな灯りが美しい作品になりました。
山下秀雄さんの「銭湯」。高校生の頃の銭湯での場面を書かれています。銭湯の洗い場で隣の人から飛んでくる湯しぶきにいやな思いをしていた。ところが背中に阿弥陀様が描かれているおじさんに「そう思っているおめえもな、さっきからこっちの方に飛ばしてんだぞ」と言われた。今までイライラしていたのに、自分のことは気づかなかった。翌日は傷つけられたと思っていた友人にも素直になれた。若き日のほろ苦い体験を銭湯の場面とからめて爽やかな一文にされました。
矢野博子さんの「準備万端」は「延命治療は望まないから」とお母さま。子供各々へ宛てた手紙もあるので一緒に読んでいると「こんなの書いたの忘れてた」。この一言で一転してほほえましい作品になりました。
みやざきエッセイスト・クラブ会員 戸田淳子
佳作は貞原さん(宮崎)、田尻さん(熊本)、秋峯さん(鹿児島)
はがき随筆の12月度受賞者は次の皆さんでした。
【月間賞】6日「安田さんと情報」今福和歌子=熊本県八代市
【佳作】5日「ポチからタマに」貞原信義=宮崎市
▽11日「今年の漢字」田尻五助=熊本市中央区
▽13日「ツワブキの花」=鹿児島県霧島市
あけましておめでとうございます。亥年にちなんでこんな言葉を見つけました。「亥(猪)を抱いてその臭気を忘る」。自分の欠点や醜さは自分ではなかなか気付かない。という意味。気をつけねば。皆さんの新年のモットーにはいかがですか?
今福和歌子さんはシリアで捕えられたジャーナリストの安田純平さんを取り上げ「自己責任」について考えています。保身のため他人をおとしめるという情けない風潮が蔓延する今の日本。これでいいのだろうか、と疑問を投げかけます。偽情報を与えられていた大戦中を思います。正しい判断は真の情報から。安田さんの行動、そして無事に帰国は本当に良かったですね。
貞原信義さんのユーモアあふれるお話。ご主人の健康を案じて歩け歩けと急き立てる奥様。これから歩きますよ。ポチも一緒よ、と言われつい「ワン」と返事。ホントに? でもそこが貞原さんの真骨頂。2㌔を歩き切ると、知らぬ間に猫背になってしまって「ニャーン」なんて。思いつきませんね。ご夫婦の日ごろの愉快で明るい会話や駆け引きがほうふつとしてきます。
田尻五助さんは恒例の今年(平成30年)の漢字に興味津々。自分では改竄の「竄」が一番ふさわしい、いかに今の政治が国民を欺いているか、と。実際は「災」でした。しかし「災」も味方によっては国民に災いが降りかかったと考えれば納得できなくもないですよね。
秋峯いくよさん。庭いっぱいに咲き乱れるツワブキの花から母に思いを馳せるという内容です。この花が好きだった母は戦争未亡人になっても強く働き抜いた。いつも他人を立てて控えめだった。実はこの花の花言葉は「謙譲」「困難に負けない」だとか。まさに母親そのものであると心を振るわせます。温かい随筆です。
ほかに宮崎の品矢洋子さん、金丸洋子さんが印象的でした。
熊本文化協会理事 和田正隆
佳作は前田さん(宮崎)
武田さん(鹿児島)
古城さん(熊本)
はがき随筆11月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】9日「病院の玄関」岡田政雄=熊本市北区
【佳作】7日「メール」前田隆男=宮崎県延岡市
▽30日「ほほ笑む月下美人」武田静瞭=鹿児島県西之表市
▽28日「生産性」古城正巳=熊本県合志市
「病院の玄関」は、身につまされる内容です。誰でもそれなりに、自分のためにも他人のためにも、精いっぱい生きて来たはずなのに、老齢になり、身体が不自由になった途端に、まるで邪魔な存在のようにとり扱われるのは、哀しいですね。病院の一隅で見かけた光景に、人生の悲哀を感じとった筆者の優しい感受が、優れた文章を生みました。
「メール」は、奥さまに先立たれ、さびしさのあまり娘さんたちに愚痴を言ったら励ましのメールが来た。それ以来メールはなくてはならないものになり、最近では、お孫さんたちも加わっての、グループメールになってしまった。その近況を亡き奥さまに知らせたという結びが、読む者をホットさせてくれます。
「ほほ笑む月下美人」は、美しい文章です。庭の隅でひっそりと咲こうとしていた月下美人の蕾を、寂しかろうと室内で咲かせて、その香りとともに楽しんでいるという内容です。花の名前の美しさ、その香り、ご夫婦の思いやり、それに応えてほほ笑んでくれた月下美人、それらが文章を美しくしています。
「生産性」は、政治家への風刺の奥に鋭い批判精神が潜んでいる文章です。散歩の途中で見かける牛小屋では、老牛には餌が後回しになっている。某衆議院議員の「生産性がない」発言があったが、ここの牛飼いも、某議員と同じ考えであろうか、とすると年金暮らしの後期高齢者の自分も「生産性がない」と思われているのだろうか、という疑問が書かれています。弱者の与えられている武器は、政治や政治家に対する批評精神を、文章化することだと思います。
11月は好随筆が多く選ぶのに迷いました.【佳作】の対象にした作品を列記してみます。【宮崎】の杉田茂延さん「彼岸の神秘」▽福島洋一さん「大根たち」【鹿児島】的場豊子さんの「クッサレイオ」▽中鶴裕子さんの「布ぞうり」【熊本】畑田ももえさん「孫とハーモニカ」▽西洋史さん「全員野球内閣?」。感想抜きで申し訳ありません。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦
【月間賞】18日「歎異抄とは」田上蒼生子=宮崎市
【佳作】18日「秋の日」北窓和代=熊本県阿蘇市
▽21日「むかしむかし話」小向井一成=鹿児島県さつま町
▽11日「生きる力」逢坂鶴子=宮崎県延岡市
田上さんの作品。「歎異抄をひらく」は新聞の書籍広告欄で時々目にする本ですが、「歎異抄」という書名が表す内容が難しそうで、つい敬遠したくなる本の一つです。田上さんは99歳にしてこの本を買われた。その心意気に驚きました。人生は今や100歳時代といわれていますが、日々体調を整えながら元気に歳を重ねていくことは大変なことです。その「歎異抄をひらく」の内容を自分の胸に落とし込み、分かりやすい文章にされた力には脱帽です。
今月は田上さんを含めて90歳代の方5人の投稿がありました。うれしい限りです。
北窓さんの「秋の日」。「風とクリが遊び空と地にまろび落ちる。ころっ、どかっ、ごろ。」の出だしが小気味いい。伝えたいことを的確な言葉で綴り、テンポよく進んでゆく秋物語り。読者も書き手の弾んだ文章に誘われて、クリの林にいるような愉しさを覚えます。
小向井さんの作品。最近は各地に残る祭りや風習を復活させようという動きがあり、とてもいいことだと思います。小向井さんもそのお一人。ふるさとの民話を紙芝居にして伝えておられる。作者の温かい人柄の伝わるほっこりとした作品です。
逢坂さんの「生きる力」。ご主人亡き後、息子さんを育て今もなお、お一人で雑貨店を営む91歳の作者。随筆と雑貨店が生きる力になっていると。月々に寄せられる随筆には教えられることばかりです。
鍬本恵子さんの「生れ変われるなら」、中村薫さんの「スキップ」、鳥取部京子さん「金は神の恵み」も印象に残りました。
これから寒くなります。皆さま、お元気でお過ごしください。
みやざきエッセイストクラブ会員
戸田淳子
【月間賞】11日「月と西郷星と」伊地知咲子=鹿児島県鹿屋市
【佳作】13日「猛暑の老年太り」中村弘之=熊本市東区
▽ 20日「君の名は」=福島洋一=宮崎市
▽ 27日「悩み多き年ごろ」梅村薫=鹿児島県姶良市
4月に女子高生の随筆がありました。心の秘めている言葉がある。「再び帰らぬ時ならばこの時に命を燃やさん」。ひのひと言に支えられ今の私があると。素敵ですね。私の心に残る言葉は「山本有三の「心に太陽を……くちびるに歌を持て……」です。皆さんはいかがですか。こんなお話もぜひ。
伊地知咲子さんはちょうど火星の大接近の際(7月31日)空を見上げて感じたことをメルヘンぽく表現して面白いです。昨今の不穏な自然災害あるいは世界情勢の不安感をそれとなく匂わせてあり、星からの慰めのサインが届いて何となくほっとした。ほほに温かい風を感じます。ちなみに西南の役で西郷どんが自害した際赤い火星が現れ、あれは西郷星だと大騒ぎになったといわれています。
中村弘之さん。老年太りを逆手に取って健康信仰を皮肉って愉快です。貯金も減る年金も減る、せめて体重だけは減らさないように。大賛成ですね。
福島洋一さんも愉快なお話を寄せていただきました。平板な日常にちょっとしたユーモアあふれるワンシーンです。犬の「あんこ」は自分を人間だと思っているが、人見知りする性格。本当は福島さんを好きだけど、はずかしくてどうも愛想よくできない。こんな想像までしてしまいます。お三人とも短い中にうまく起承転結ができて感心しました。
梅村薫さんは久々の高校生投稿者です。希望をもって高校に入ったが息苦しくてつらい。生徒同士の確執、理不尽な社会に対する大人の嘆き。そんな渦潮の中で翻弄される自分にウンザリ。でも若いから必死に生きようと強く語っています。プラスの何かを見つけようよ。がんばれ!
梅村さんと同じ姶良市の宇都晃一さんはもしかしたら梅村さんのお爺様?孫娘を励ましています。ほかに小向井一成さんの「まごとじいの話」、有村貴代子さんの「歯」が印象に残りました。
熊本県文化懇話会理事 和田正隆