はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「鏡よ鏡」

2010-06-30 11:20:50 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会 員   吉岡 賢一

 毎朝、必ずひげをそる。
どこかに出かけるあてもなく、誰かに会う予定はなくてもひげはそる。
滑らかになったそり跡にローションをはたく。
顔と共に気持ちも一瞬引き締まる。

 完全りタイアのこのごろは、ひげそりさえもおっくうになる時もある。
1日放っておくだけで、ごま塩のごわごわひげが顔を覆う。 

 そってもそっても目に見えて伸びるひげ。
なのにおつむの毛は伸びるどころか日に日に退化。
数は減りそぞろ吹く風になびく。
同じ首から上なのに不公平じゃないのひげと髪の毛。

物言わぬ鏡に揺れる男の哀愁。

         (2010.06.27 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
岩国エッセイサロンより転載


巡り巡って

2010-06-30 11:14:03 | はがき随筆
 ぼくは1500株余りのイワヒバを育成しているが、集金に来た地域の役員から「こんなに集めてどうするんですか?」と聞かれ「妻が若いものですから。ぼくが逝った後、少しでも生活の足しになればと思って…」。とっさに出たジョークである。2ヶ月ほど過ぎ、地域とは関係のない会合に出ると「奥さんを大事にしている話を聞きましたよ。女房が婦人会で聞いてきましてね。そういう気持ちが羨ましいって…」。何の可奈しか理解できずにいると「植木なんて売れるものですか?」やっと合点がいったが、どうしてこうなったんだろう。
  志布志市 若宮庸成(70)2010/6/30毎日新聞鹿児島版掲載

還暦同窓会

2010-06-30 11:08:15 | はがき随筆
 きのうまでのどしゃぶりが止んだ梅雨の合間、蚊取り線香をたき、網戸から涼風を入れ、眠りにつくまでの静かなひと時を倍賞智恵子が美しい声で歌う「はるかな友に」を聴きながら、子供のころの思い出に浸る。
 中学の還暦同窓会の案内が届いた。8月15日、44年ぶりに懐かしい面々が集うことになる。卒業アルバムを開くとジワーと蘇ってくる記憶。小学1年から中学を卒業するまで同じ学舎で育った同級生と再会できる幸運を今、早くも感じている。44年の長い歳月の証を刻んでいるだろう私たち。きっと暑く語り合う素晴らしい時になる。
  鹿屋市 田中京子(59) 2010/6/29 毎日新聞鹿児島版掲載

真夜中の怪

2010-06-28 18:01:08 | はがき随筆
 5月初旬、菜園に7本のナスの苗を植えた。公務員退職後の俄農業だが、昨年のように最初は、すくすく伸びた。苗は5月下旬には、かなり大きくなり紫の花が咲き始め、毎日見るのが楽しみだった。
 ところが、ある朝、ナス2本の葉の1枚ずつが何物かに食べられて網のような状態。腹が立ってしかたがない。朝夕、数日、葉裏を捜すが、何物か姿を見せない。葉穴は大きくなるばかり。どうやら、真夜中が怪しい。夜9時。電灯を照らし葉を捜すと、なんと約4㌢の黒灰色の幼虫がいる。恐らく夜盗虫だ。俄農業の私はやっと分かった。
  出水市 小村忍(67) 2010/6/28 毎日新聞鹿児島版掲載

入院 退院

2010-06-28 17:40:58 | はがき随筆
入院は何も初めてのことではなかったのに今度はこたえました。
 男性特有のがんの切除です。下腹部に3本、背中に1本、腕に1本、チューブや針を差し込まれて、こびとの国のガリバーさんのようでした。
 手術の先生、麻酔医さん、看護師さん、栄養士の方、掃除の方、実習生、家族や多くの見舞い客、まだまだ多くの方々へ何とお礼を申し上げてよいやら。
 痛かった血栓の排出も思い出となり、後遺症の尿もれには往生しましたが、現在は、ほぼ回復です。初の空砲(ね)におめでとうねと天使かな。
  出水市 松尾繁(75) 2010/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

こより

2010-06-28 17:32:14 | はがき随筆
 海苔の木箱を開けると和紙が上下に添えてあった。和紙を見て、ふと、子供のころ習った「こより」を思い出した。卓袱台に細く切った和紙を父が親指と人さし指で滑らせると、紙はくるりとなり、両手の指で巻いて滑らせると紙は細い紐になった。それは針金のように細く真っ直ぐだった。          
 父は七夕の短冊を結ぶ紐だから、自分で作れるようにと、手を添えて何度も教えてくれた。縒りは甘いが何とかできた。笹竹に短冊をこよりで結ぶと風情を感じた。懐かしい思い出だ。
 久しぶりにこよりをひねり、七夕に短冊をさげてみようか。‥
  出水市 年神貞子(74) 2010/6/25 毎日新聞鹿児島版掲載

ここに幸あり

2010-06-28 17:27:47 | はがき随筆
 白い大輪の夕顔を植えていたら、電話が入りました。
 「お母さんはお元気なの? あなたは? 泣いていると聞いたけど……」
 「ええっ、誰が泣くの?」
 小規模多機能が売り込みの施設にかわって3ヵ月。週4日のデイサービス。他の日も様子を見に来て下さいますスタッフの皆さんとも、すっかり慣れて、とても楽しい日々で
す。
 週1回の訪問診察の先生は話をよく聞いて下さるので、母も私も大好きです。
 御仏のような母を看ることは幸せなことですよ。
  阿久根市 別枝由井(68) 2010/6/24 毎日新聞鹿児島版掲載

2010-06-28 16:48:24 | 女の気持ち/男の気持ち
 親友の子息の訃報が届いたのは、アジサイが咲くこの時期だった。享年30。惜しむべき若者は、自分の葬儀に集まった人々を思いやってか、土砂降りの雨が続く梅雨空をいっとき晴れ聞に変えた。まるで両親への無言の謝辞のように思えた。
 患いの中で子息は「治ってみせる」と病魔と闘い、奇跡が起きると信じたが…。通夜の席で彼女と会した時、私は事故で失いかけたわが子を思い、もしかしたら彼女の座っている席にいたかもしれなかった我が身を重ね、かける言葉をなくした。
 生きようとして生きることがかなわなかった子息の無念を思うと、いまだ後遺症を引きずるわが子が健常であったなら「ぜいたくな死に方するな」と殴り倒しただろう。事故現場は明らかに自分殺しの様相だったから。
 彼女があいさつをした。
 「息子が、長生きしてくれ、と言いました。私は生きなければなりません。どうか力を貸してください」
 かすれて絞り出すような声だったが、はっきりと。
 その後、彼女は大学に入り直し、障害者のための活動を始めた。障害を残しながら何とか社会復帰できたわが子に代わり、私も彼女の手伝いをさせてもらっている。
 このたびは七回忌の法要。河原の蛍が飛び始めた。あの光のひとつずつが、帰ってきたよと言いたげな、命の灯に見える。
  山□県岩国市 山下治子・61歳 2010/6/23 毎日新聞の気持ち欄掲載

はやぶさ帰る

2010-06-28 16:36:44 | はがき随筆
 予定通り地球に戻ってきた「はやぶさ」、その総行程60億㌔㍍。7年の歳月をかけて岩石を収めたカプセルが無事回収された。技術の高さを示した今回の快挙、科学者たちから大きな拍手が世界各地で起こり高く評価された。宇宙探査に詳しい米科学者ルイス・フリードマンは「岩石入手の成否にかかわらず、とんでもない成果だ」と称賛している。この構想は1985年科学者たちによって「将来に大きな夢を託す計画」として25年を経て大きく開花した。
 事業仕分けの「2番ではいけないのか」に大きな不安を感じた。
  鹿屋市 森園愛吉(89)2010/6/23 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆5月度入選

2010-06-28 16:01:30 | 受賞作品
 はがき随筆5月度の入選作品が決まりました。


▽出水市高尾野町柴引、清田文雄さん(71)の「ペットレス」(26日)
▽鹿児島市上荒田町、高橋誠さん(59)の「公園のハモニカ」(30日)
▽阿久根市赤瀬川、別枝由井さん(68)の「ラブ・アゲイン」(11日)

以上3点です。

 墨田の花火というガクアジサイが好きで、昨年挿し芽しておいたものが、今年は幾鉢も開花し、楽しませてくれました。植物とのつきあいは、若葉を楽しむにしろ花を愛でるにしろ、1年に1回きりなので、気が永くなります。来年の墨田の花火の純白な花弁が今から楽しみです。
 清田文雄さんの「ペツトレス」は、1年前に亡くなった愛犬が今でも夢寐(むび)に現われ、黒犬だったので、黒色恐怖症に陥っているという内容です。自分の悲しみへの距離の取り方が絶妙で、優れた文章になっています。内田百聞の『ノラや』を思い出しました。
 高橋誠さんの「公園のハモニカ」は哀愁に満ちた文章です。春の気配の漂う夕暮れに、近くの公園からいつも「月の沙漠」などのハモニカの音が聞こえていた。それがいつのまにか聞こえなくなってしまった。あのハモニカの初老の男はどうしたのだろう。余韻が残ります。
 別枝由井さんの「ラブ・アゲイン」は、「友だち以上、恋人未満」だった人と、45年ぶりに出会った。軽口をたたいて別れたが、メール・アドレスを交換しておいた。それ以後メールの交換をしているという微笑ましい内容です。最近高齢者のメール利用が盛んになってきたようです。最近出た『高く手を振る時』という小説にも、メール利用の70歳後半のプラトニック・ラブが描かれています。
 以上が優秀作です。その他に数編を紹介しておきます。
 伊地知咲子さんの「はるじょおん」(4日)は、草花の名前をかつて幼い娘と言い争って、自分が間違っていたのだが、そこに娘の成長を見たという内容です。中島征士さんの「下駄」(21日)は、下駄にまつわる学生時代や若い頃の思い出です。
 「今、雨の日でも下駄がいい。」という結びが利いています。口町円子さんの「俄然ハッスル」(17日)は、ハエやゴキブリの季節になると、殺虫剤に頼らず、新聞紙で叩いてまわるという元気な内容です。3編とも、自分の行為への客観化が優れています。

(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

あじさい園

2010-06-26 21:00:33 | はがき随筆
 梅雨の晴れ聞、あじさい園に行った。急な傾斜で、天に届くかと思われるような高い所まで植えてある。あじさいは青や赤など七変化すると言われるが、色とりどりの花が咲き誇っている。そこへ雨が降ってきた。雨に濡れたあじさいは、先の美しさに輪をかけて、きらめきさえ見られる。
 足元をみれば、その昔、棚田だったのではないかと思われる。二、三畳の平らな面が数多く自然に拡がっている。`それに遠くから、せせらぎの音まで聞こえてくる。去り難かったが、バスの時間もあり、あじさい園をあとにした。
  出水市 田頭行堂(78) 2010/6/22

間に合った

2010-06-26 20:43:54 | はがき随筆
 テラスの前の側溝に芝生が根を伸ばし、詰まっていた事に気付かず、庭一面が水浸しになった。固まった根をほぐすために古い鋏で作業をした。右手の薬指は傷つき、全身も過労で苦しい日々だった。でも梅雨入りまでには何としても仕上げたい。
 ドライアイの眼にサングラス、暑い日射しに帽子、水分捕給にスポーツドリンクを用意。杖とシートに身を委せて、20日間近くかかり、清掃を終えた。
 努力の跡が眩しい。手術後の不自由な体も忘れる喜びで涙が溢れた。間に合って良かった。
  薩摩川内市 上野昭子(81) 2010/6/21 毎日新聞鹿児島版掲載

充電の後で

2010-06-26 20:29:13 | 女の気持ち/男の気持ち
 主人の三回忌の法要を済ませて、新幹線で大阪に向かった。独り暮らしの寂しさを紛らわすために、青葉若葉の季節に促されるように、娘一家の誘いを受けて旅立つことにしたのだ。
 大阪駅のホームで娘と孫に迎えられ、大勢の人にもまれて地下鉄に乗り、娘の家に着いたのは小倉を出て3時間余り後だった。独り暮らしを離れ、娘一家との生活が始まると、三度の食事も楽しさを味わうことができた。
 中途失明で視覚障害者になった私は本が大好きで、普段は朝起きてお昼までは点字図書館の方の好意でCD図書を聞く。お昼からは仲良しの友だちの来訪や電話で過ぎていく。
 家にいると、雨の日は憂うつな気持ちになり、さわやかに晴れた日は散歩したい気持ちが自由にならないためストレスとなってしまう。仲良しの友や近所の方も施設に入ったり天国に行ってしまい、寂しさを感じる日が多くなっていた。
 そんな時、「気晴らしにおいで」と孫から電話があり、はやる心で大阪に向かったのだった。
 娘との毎日の買い物や散歩。小旅行に連れていってもらったりもして、あっという間に20日間が過ぎた。でも、いつまでもいるわけにはいかない。心に楽しい思い出を充電してわが家に帰った。
 今日からはまた、返事のない主人と語り合い、楽しかったことを思い出しながら元気を出して暮らそう。

 北九州市小倉南区 成瀬昌子・80歳 2010/6/22 毎日新聞の気持ち欄掲載

おいしい取材

2010-06-21 23:22:15 | アカショウビンのつぶやき




今日は夕方からFMラジオの番組取材でした。

可奈さんは、エッセイの原稿だけでなく、「おにぎりをもってきたぁ…」と
大きなクーラーボックスを担いでやってきました。

たかが、10分番組「心のメモ帖」の取材ですが、朗読から短いインタビュー、それを編集して贈呈用のCDを仕上げるまで、1時間以上かかります。

「今日は主人が留守で、一人で晩ご飯を食べるのが寂しかったから、一緒に食べてね」と、言う彼女の優しさが嬉しい…。

2つの番組を仕上げたのはなんと8時過ぎ、編集担当のOさんと三人で、美味しいお煮染めや大好きなラッキョウなどなど楽しく美味しくいただきました。

今まで3年間番組作りを続けていますが、こんなに「美味しい取材」は初めてでした。

時間に追われ、料理がおろそかになっている私を、可奈さんはお見通しだったようです。
「また、一品差し入れするからねぇ」と嬉しい言葉を残してお帰りになりました。

「ありがとう、可奈さーん」

節電

2010-06-20 19:18:58 | はがき随筆
 「節電しようね」と、家族で話し合い子供2人は協力してくれる。朝食の準備をしていると、小3の息子に「ママ、テレビの電源は切ってね」と、やんわりやられる。「あら、切ってなかった? 見てたら眠くなって消しただけだったのね」と余計なことを言う。これが逆だったらどうなるだろう。普段から、言い訳無用と言っている私は反省。夜中ふと目が覚め、電源の確認にゴソゴソ。もちろん子供たちには内緒。子供は親の背中を見て育つという手前、しっかりせねばと自覚する。節電する事で地球温暖化対策になる事を親子で話し合う。
  鹿児島市 樋高明子(41) 2010/6/20 毎日新聞鹿児島版掲載