世界を恐怖に陥れた疫病が 終息しないままに迎えた今和 3 (2021) 年。綾子おばさんは何と96歳になる。
実はこの96歳、6年ほど前 に連れ合いを亡くし、今日まで一人暮らしを続けているのだが、先日電話をくれて「今、 おうちに居ますか。 じゃあ、 来るからね」。
てっきり、どなたかの車で 送ってもらうのかと思いきや お裾分けの食料を背中のリュックにいっぱい詰め、2、3㌔もある山道をつえを頼りに歩いてきたのにはびっくり。「マスク、忘れちゃったわ」とおちゃめに笑い「お茶なら飲んできたから要らない」と、椅子に腰掛けるでもなく小一 時間ほどしゃべって帰途に。
「帰りは車で送るから」とのこちらの提案も一蹴。葛根やら何やらの体に良い植物を探しながら帰ると言う。 俳優の笠智衆さんみたいに片手を上げて、どなたかに頂いたという赤い靴が、うねうねと続く山道を右に曲がり、やがて消えていった。「あんなに元気な96歳、見たことがないよね」と妻と話す。
綾子おばさんに、かねて聞 こうと思っていた疑問をぶつ けてみた。「おばさんもくよくよすることあるの」「そりゃ、 あなた、私だっていろいろあるわよ」。お子さんも無く、 親族とのぎくしゃくもあって 夜眠れない日もあると言う。
さて、今年72歳の私。彼女のすてきな生き様を見習い、ゆるゆると老い坂を下ってい こうと考えている。
鹿児島県霧島市 久野茂樹 71歳 2021.1.4 男の気持ち欄掲載