はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

炎のカ

2021-01-29 12:49:15 | はがき随筆
 夫の友人に誘われて夫婦でキ ャンプに参加した。昨年11月半 ば。 まだそんなに寒くはなかった。
 見上げれば満天の星。傍らのたき火の揺らぎはいろんな形に変化して見飽きることはない。子供が無邪気に手を広げている ようでもあり、歌舞伎のくま取りのようでもある。まったりと ぜいたくな時を過ごすうち、つ い寝入ってしまった。
 うたた寝から目覚めると、夫 と友人が互いの会社人生の思い を吐露している。 まるで言葉を 火にくべるかのように。炎はゆ っくりと心の奥の塊を溶かす。 もう少し寝たふりをするか。
宮崎県延岡市 楠田美穂子(63)   2021.1.29

枯れバショウ

2021-01-28 11:21:43 | はがき随筆
  散策する道沿いには夏の 間、バショウの葉が青くみ ずみずしく茂っていた。だ が、秋が深まるにつれ葉脈 に沿って裂けていった。幅 が細くなった。この「破れバショウ」の頃になると、 何とはなしに昔を思う。
 祖父母は、庭に植わるバ ショウの葉がちぎれ始める のを見て、冬支度に取り掛 かった。
 たどんや炭を使うこたつは3世代の人数分だけ、祖母が準備した。 また一冬、 家の暖を担う火鉢用の新しい灰作りを始めた。当時の家庭燃料はまきだ った。これでご飯を炊き、風呂を沸かした。水が冷たくなると使う量が増える。だから祖父は、まき作りに頑張った。 軒下に高く積み上げていき、家族を安心させたものだ。現代では、想像もしにくい冬本番への備え。自然の営みから季節の変わりを学んでいた。 人と自然が共存する、いい時代だった。
わが家の燃料がまきからLPガスや灯油に変わったのは昭和30年代半ばであ る。 祖父母は既に他界して いた。気楽に冬を迎えることはついに一度もかなわな  かった。母は冬になれば、祖父母の苦労を思い、感謝 していた。 冬、寒さ冷たさが増していく。バショウの葉は姿を消す。「枯れバショウ」と 
なる。 じっと寒さに耐え、春を待つ。やがて陽光の下、新葉がのぞいてくる。 私は幼い時分からその変 化を見てきた。時代が移っても変わらない大切なものを感じる。 目の前の枯れバ ショウにそう話し掛ける。
片山 清勝(80)=岩国市 岩国エッセイサロンより

コロナでロコモ

2021-01-28 09:09:47 | はがき随筆
 「今年はマジ、コロナでロコ モ心掛けます」と日頃お世話に なる医師にご挨拶した。 ダジャ レみたいだが私にとっては深刻 なのだ。骨粗しょう症でロコモ ティブシンドロームもいい加減 進行している。その上昨年は緊 急事態宣言下での外出自粛で、 随分足が弱って転んで骨折。入院10日という始末だった。
 年が明けてもまだ当分は極力 外出も控えねばならない。脚力 減少でまた転倒したらどうしよ う。コロナに感染しないのが一 番だけれど、次にはコロナのせ いで更にロコモにならないよう に。これが私の今年の目標であ る。 自主トレ怠けずに。
  熊本市中央区 増永陽(90)  2021.1.28 毎日新聞鹿児島版掲載

訪れ

2021-01-27 10:19:41 | はがき随筆
 7時を過ぎると朝日が庭に届く。と、マユミの木に揺れる小型のメジロがやってきて小さな実を食し、レモンの大木へ移り、 日の光を揺すりながらフェンス へ降りてくる。花はチロリアン ランプのみなのにと心配してい ると、その花のところへ居を定め、花の蜜へくちばしを置く。よかったー。もう庭にある実の 木はムラサキシキブ、マユミ、 万両と少ないので気になる。つ がいの影がやがてなくなり、どこかへ飛び立った。 キンカン、 万両はもっとくちばしの大きい ものたちまで待って熟す。いろ いろな小鳥、中鳥? がしばらく は食べにきてくれる。
 鹿児島市   東郷久子(86)   2021.1.27   毎日新聞鹿児島版掲載 


息抜き散歩

2021-01-26 16:16:18 | はがき随筆
 「駅前まで歩かない?」と妻 が誘う。昨年2月中旬の平日。 足慣らしがてら、ぶらり散歩を することにした。 アミュプラザ も見てみたいし。ただ、人混み を歩くのはゴメンだが。
 宮崎駅に渡る横断歩道に差し 掛かり、びっくり。 押すな押す なの大混乱だ。「やめにしよう」と妻を説得して、自然豊かな公園を歩くことにした。
 木立の生い茂る歩道を進むと、甲高い子供たちの声が響き、 ジョギング姿も視野に入った。 ベンチに腰掛けホッと一息。どこで見られたのか、「お二人で歩いていましたね」とメールの知人。マスクしてたのになあ。
 宮崎市 原田靖(80) 2021.1.26 毎日新聞鹿児島版掲載

96歳の生き様 

2021-01-25 12:14:13 | はがき随筆
 世界を恐怖に陥れた疫病が 終息しないままに迎えた今和 3 (2021) 年。綾子おばさんは何と96歳になる。
 実はこの96歳、6年ほど前 に連れ合いを亡くし、今日まで一人暮らしを続けているのだが、先日電話をくれて「今、 おうちに居ますか。 じゃあ、 来るからね」。
 てっきり、どなたかの車で 送ってもらうのかと思いきや お裾分けの食料を背中のリュックにいっぱい詰め、2、3㌔もある山道をつえを頼りに歩いてきたのにはびっくり。「マスク、忘れちゃったわ」とおちゃめに笑い「お茶なら飲んできたから要らない」と、椅子に腰掛けるでもなく小一 時間ほどしゃべって帰途に。
 「帰りは車で送るから」とのこちらの提案も一蹴。葛根やら何やらの体に良い植物を探しながら帰ると言う。 俳優の笠智衆さんみたいに片手を上げて、どなたかに頂いたという赤い靴が、うねうねと続く山道を右に曲がり、やがて消えていった。「あんなに元気な96歳、見たことがないよね」と妻と話す。
  綾子おばさんに、かねて聞 こうと思っていた疑問をぶつ けてみた。「おばさんもくよくよすることあるの」「そりゃ、  あなた、私だっていろいろあるわよ」。お子さんも無く、  親族とのぎくしゃくもあって  夜眠れない日もあると言う。  
 さて、今年72歳の私。彼女のすてきな生き様を見習い、ゆるゆると老い坂を下ってい こうと考えている。 
 鹿児島県霧島市  久野茂樹 71歳 2021.1.4 男の気持ち欄掲載

公園の散歩道

2021-01-25 12:04:15 | はがき随筆
 永年続けてきた早朝散歩も、 1月より暫く時間をずらすこ とに。子供から、寒さと暗さが 心配だからと。強がりを言う年 でもなく、素直に受け入れる。 新聞を読み終えた昼前、いつものコースへ。校区公園に到着。 まずトイレのボランティア。ペ ーパー確認ほか。暖かな日差しの中では、ブランコや鬼ごっこ。小さな凧を揚げようと走るお父さん。幼子もついて走る。みんなの元気な声を聞きながら、歩 道を3周。コロナから解放され たような一時は、マスクで現実を知らされる。いつ終わるか知れないコロナ。万歩計を記録し、 足だけでも鍛えておこう。
 熊本市中央区 原田初枝(90)  2021.1.2 毎日新聞鹿児島版掲載

欲張りなんだ

2021-01-24 23:06:26 | はがき随筆
 朝食はバイキングでした。目移りするほどの料理が並んでいる。和食をすこしずつトレーに載せる。年々食も細くなり欲張らないことに、と言いながらフルーツはしっかり載せている。
 10年ほど前、娘とランチに出かけたときのこと。普段は小食なのにバイキングともなると旺盛だね、欲張りすぎじゃないのと娘に笑われた。あの頃の食欲はどこへやら。今ではあまり食も進まなくなったが、最後にアイスクリームがほしくなる。甘いクリームが喉元を通り過ぎていくあの幸せ感。まるで子どもに返っている。やっぱり欲張りなんだ。
 鹿児島市 竹之内美知子(86) 2021/1/24 毎日新聞鹿児島版掲載

汚点

2021-01-24 23:00:13 | はがき随筆
 ある日、奥歯の詰め物が取れて近所の歯科医院へ行きました。歯科助手さんに口の中を見せました。
 その時、彼女の目が一瞬笑ったような気がしました。私は診察台の鏡に映る自分の顔を確認しました。そこにはしょぼくれた顔の鼻から白毛の鼻毛が数本見えていました。
 私は若い頃から「名も無く貧しいけれど美しく」生きるということを信条としておりました。白毛の鼻毛をひとさまに見せるなんてとても許せるものではありません。
 その日の出来事は私の人生の大きな汚点となりました。
 宮崎県日南市 宮田隆雄(69) 2021/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

牛乳と私

2021-01-24 22:53:43 | はがき随筆
 牛乳を飲む人より、配達する人の方が健康になれるということわざが西洋にあるという。
 牛乳を飲む人も運ぶ人もそれぞれのためではあるが、他者に何かをしてもらうより、してあげる方が、精神的な健康を得ることができる。
 幼少期より私は体が弱く、親が牛乳を与えたのが今も続く。
 私たち人間は与えるより与えられることを望むものだが、心の健康につながる道は他者に与える行いのなかに見出せる。
 ひ弱かった私は父母の愛を受け、いつも努力を心掛け、牛乳を必ず飲み、ちょっとしたウオーキングも続けている。
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(94) 2021/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

土曜郵便の配達停止

2021-01-24 22:44:59 | はがき随筆
 はがきや手紙の土曜配達が来年秋にも廃止されるとか。電子メール普及でもともと需要が落ち込んだほか、配達員の負担を軽くする狙いがありそうだ。
 ガラケー返信もできぬ〝超〟アナログ人間。相手の顔を思い浮かべながら絵はがきなどをポストに投函するホッコリ感は、指先処理のメールとはひと味違うと自負するが、時代遅れと一笑されるのがオチか。
 日祝を除く週6回以上配達となっていたのを5日に法改正されるわけだが、遠からず月、水、金曜の週3日とか、月、木曜の2日配達なんて時代になるかも、と気になって仕方ない。
 熊本市東区 中村弘之(84) 2021/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

皇帝ダリア

2021-01-24 22:38:14 | はがき随筆
 皇帝ダリアの茎は根元で直径8ッほどに太く、下方の葉は80㌢以上に大きく広げ、開花が待ち遠しかった。 しかし、期待むなしく台風10号により無残にもへし折られた。辛うじて残った根元に土をかぶせ、翌年に期待した。なんと、それが1間ほどに伸び、昨年11月下旬には4輪の直径20㌢ほどの、皇帝の名に恥じない薄紫の上品な色合いの花を見事に咲かせた。諦めていた花に巡り合えた喜びと同時に、この花の強靭な生命力に驚いた。つぼみもいくつか見えるので、霜の降りない限り私のめげやすい心に活を入れてくれるだろう。
 鹿児島県肝付町 吉井三男(79) 2021/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

後期高齢者

2021-01-24 22:25:53 | はがき随筆
| 元気でバリバリ働いている私にとって、65歳以上を高齢者というのは納得いかなかった。 あれから10年、後期高齢者の手続きの書類が届いた。知・力・体の衰えを感じる近ごろ。「後期高齢者医療被保険者証」はなんと薄っぺらのカード。年寄りの命への軽さを感じた。 私のひが「みか。 数独、スマホゲーム、どこで息継ぎするか分からない早口言葉の流行歌の歌詞。長年の日課の散歩も、暑いから、雨だから......と、すべてテゲテゲ。「後期高齢者の前途を祝してドカ ーンとはがき随筆に載らないものか。 次月の月間賞の夢も続けて見れるから。
 鹿児島県阿久根市 的場豊子(75) 2021/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

働き納め

2021-01-24 21:38:22 | はがき随筆
 ガガガ、ガッコ~ン!  これは我が家の冷蔵庫の氷ができた瞬間に発する音だ。最初はさほど気にするような感じではなかったのだが「そろそろ買い替えてくれよ」とばかり日増しに文句を言い始めた。
 洗濯機は機嫌よく働いてくれる、と思っていたが最近の脱水時の揺れと音量は壊れたか? と疑うくらい激しい。あんまり ガタガタと回るので、その揺れに体を当ててみた。ダイエットの健康マシンみたいで面白い。
 この冬は、おそらくこれら電気製品の叫びに応えて新しく買わざるを得ないだろう。 
 懐も冬の訪れひんやりと…。
 宮崎市 藤田悦子(73) 2021/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載

100円紙幣

2021-01-24 21:20:06 | はがき随筆
 今日は何もすることがない。 仏壇に手を合わせてから、仏壇の引き出しを引いてみると、封筒が入っていて、その中から10枚の100円紙幣が出てきた。 新札である。何でこんな所に?
 100円紙幣が硬貨と入れ替わったのは随分以前だし、多分この封筒はそれよりも前に入れたのだろう。しかし、私には全く記憶がない。もしかして家内のヘソクリ?  多分そうではないだろうか。 遺影を見上げると「どこにしまったのだろうと思 っていたら、そんな所にありましたか」と笑っているようだった。 さて板垣退助さん、これらの紙幣をどうしましょうかね。 
 熊本市東区 竹本伸二(92)  2021/1/22 毎日新聞鹿児島版掲載