はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ぼくの尊敬するいとこ

2022-07-31 22:27:16 | はがき随筆
 「かくれんぼするか」。バチッと決めたタキシードで言われた。男3兄弟のいとこの真ん中、私より5歳上のゆうちゃんだ。先日行われたゆうちゃんの結婚式。コロナに配慮し、親戚だけが出席した。
 私の大学受験もあり、3年ほど会えていなかったゆうちゃん。新婦と並ぶ姿は昔より大人に感じた。小中学生のふざけてばかりで、大笑いさせてくれた姿はもうないように感じた。
 しかしようやく私と話せる機会が訪れ、冒頭の一言が聞けた。面食らったがあの頃に戻った気がした。昔も今も変わらず、ぼくの尊敬する面白い人だ。
 鹿児島市 鶴川将大(21) 2022.7.30 毎日新聞鹿児島版掲載 

マスクの効用

2022-07-31 22:19:02 | はがき随筆
 新型コロナが流行し始めて、マスクが手放せなくなりました。マスク大嫌いの私にとって由々しき問題です。 
 しかし最近良い事に気づきました。ヒゲをそらなくても2.3日は持つ。鼻毛も気にしなくてよい。ニンニクを食べても臭わない。仏頂面でも気付かれずに済む。歯並びの悪さが見えない。ブツブツ独り言を言っても回りに聞こえない。シミ、シワ、を隠せる。口角泡を飛ばす心配もない。無理して笑顔を作る必要もない。歯に海苔がついていてもOK。
 今じゃコロナに関係なく手放せないツールになっています。
 宮崎市 谷口二郎(72) 2022.7.30 毎日新聞鹿児島版掲載

90歳の宝もの

2022-07-31 22:06:28 | はがき随筆
 「わあすごーい」。施設長さんが、2月に入所してからのはがき随筆を重厚なカバーのファイルにまとめてくださった。
 71歳から書きためたのをコピーして大切にしていたけれど、家を手放す時にいろいろなものと一緒に別れてしまった。新しく書いたものは切り取らずに大きい紙面のまま可愛いい柄のスカーフでリボン結びにしていた。
 7月1日で2周年の若い施設の施設長さんは、自らどんな事にも手をさしのべられる多忙な日々の中、老いのたった一つの楽しみのため、貴重な時間をいただいた。やっぱり生きているってすばらしい。
 熊本市東区 黒田あや子(90) 2022.7.30 毎日新聞鹿児島版掲載 

空の青

2022-07-31 21:59:07 | はがき随筆
 梅雨が明けた。めぐる山々、雲が暑さを予感させる。太陽は強く輝く。水不足になるのか、それとも過ぎる雨でもあるのだろうか。朝の空は特有の青だ。みどり葉のかなたに、みどりたちが震えるグレー・グリーンを反映する空色だ。やはり狂っている。もっと優しくてもよいはずだ。
 門に1本、ヒマワリが開花。お日様に従って回り咲く。5㍉ぐらいの大きさで植えた千日紅の種も、小さな花をつけはじめた。もう人さまにあげてもよかろう。あの人、この人に、5本ぐらいはある。私の花があちこちに咲く。
 鹿児島市 東郷久子(87) 2022.7.30 毎日新聞鹿児島版掲載

きれい好き

2022-07-31 21:51:34 | はがき随筆
 明治生まれの祖母は、毎朝のように日本タオルを姉さんかぶりにし畳をホウキではいていた。
 父母は仕事で忙しく、私たち3人姉妹は夏休みになると掃除機かけ、茶わん洗いなどを姉と分担した。年の離れた妹は簡単な玄関はき掃除だけだったが、大層祖母からほめられた。姉と私は不愉快な気持ちでいた。
 だからと言って掃除好きではなく整理整頓が苦手な私だ。嫌な仕事は、身に付かないのかなぁと今になって思う。
 妹の方は、突然訪問しても片付いている。仕事をしていなければ、毎日でも掃除機をかけたいと言っている。
 宮崎県日南市 三川昭子(61) 2022.7.30 毎日新聞鹿児島版掲載


私の英語教室

2022-07-31 21:45:04 | はがき随筆
 新聞にカタカナの英語がたくさん書いてある。私はさっぱり分からず、想像で読んている。妙案が浮かんだ。毎日出ているカタカナ英語を書きまとめ、訳を調べて私なりの英語辞典を作ろう。いつも意味は分からずしゃべっている自分がおかしくなる。エンターテインメント、エアロビクス、モンスター。だんだん面白くなる。なるほどそうだったのか。アクセントをつけ声に出し、繰り返し言ってみる。英語が奥深いものになる。小さなポケット用ノートにいっぱいになった。いいのができた。楽しみが青空のように広がりうれしい。楽しみの星を見つけた。
 熊本県八代市 相場和子(95) 2022.7.30 毎日新聞鹿児島版掲載

母とのつながり

2022-07-31 21:38:08 | はがき随筆
 10日に1度位、「元気か」と電話かメールをくれる同級生がいる。彼は私の母に世話になったことがあるとかで、母のことを時折懐かしんでくれる。
 もう一人、愛知県のT子さんも私の母に優しくしてもらったといい、昨年末には「お供えして」と送金があり、びっくりした。彼女のお姉さんと母が飯場で働いていた時期があり、少女の私はよく遊びに行っていたので、お姉さんとも親しかった。そのお姉さんが私のことを「よろしく頼む」と妹である同級生のT子さんに言い残して亡くなられたのだと言う。ありがたい母であり、友人たちである。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(81) 2022.7.30 毎日新聞鹿児島版掲載

始まりは

2022-07-31 21:14:57 | はがき随筆
 今なら地域観光支援でお得に宿泊できる。夫が元気だったらまっ先に飛びついたのになあ。
 そんな折「ラジオ聴いたよ」と宮崎に住む夫の従兄弟の奥さんから電話があった。「はがき随筆」が朗読されたのだ。久方ぶりの会話は親族の安否。従兄弟も大きな手術をした。「会いましょうか? ジモミヤタビあるよ」と彼女が言う。とんとん拍子で夫婦連れ、コロナ前以来の再会となった。「これが最後になるかもしれん」と、気弱になっていた夫が一番うれしそう。
 女性群はお得が大好き。「来月は別のホテルへ!」。全て「はがき随筆」から始まった。
 宮崎県日南市 矢野博子(72) 2022.7.29 毎日新聞鹿児島版掲載

蝉しぐれ

2022-07-31 21:07:20 | はがき随筆
 「うわぁ負けそう」と声が出そうになる。木から木へ蝉が元気に飛び、盛んに鳴く。木の枝で4匹が尻尾を小刻みにふるわせて、青春を謳歌している。3.4回同じ場所で鳴くと、すっと飛んで消える。蝉が鳴くのは「子孫繁栄」の意味があり、オスが自分のいる場所をしらせるためで求愛行動という。また、蝉は長年、土の中で過ごし、やっと地上に出ても寿命が短いという。メスへの懸命なアピールと知ると、応援もしたくなるが、この暑さではその気も失せそう。百日草、マリーゴールド、ひまわりに元気をもらいながら夏日が始まる。  
 熊本県八代市 柳田慧子(76) 2022.7.28 毎日新聞鹿児島版掲載

バーコード

2022-07-31 21:00:16 | はがき随筆
 治療に通っている総合病院が、市内中心部から郊外に新築移転した。手狭さと老朽化によるもの。駐車場は広くなり、廊下の幅はかつての倍ほどで動線の不便も解消されていた。
 一方で、総合病院、診療受付、会計、薬の受け取りがすべてバーコード処理になっていた。さすがに医師は、私の体にバーコードリーダーを向けなかったが。しかも事務員や薬剤師がいた職場が壁で仕切られ、フロアから人の姿が見えない。
 無人の倉庫内を、バーコードを読み取られながらベルトコンベヤーで運ばれる。段ボール箱のような気持で病院を出た。
 鹿児島市 高橋誠(71) 2022.7.27 毎日新聞鹿児島版掲載

あの空の下

2022-07-31 20:49:22 | はがき随筆
 「ほら、起きてごらん。今、ロシア上空らしいよ」と夫の声がした。旅の帰途、まどろんでいた私は、はっと窓を見た。海抜1万㍍だという眼下には灰色に覆われたロシアなる大地が静かに広がっていた。
 その大地に一筋の表情を添えて川が曲を描いて流れている。恵み豊かで長大な川。すごい。
 夫の切るシャッター音を耳にふと思った。今、この国の主権はどこまで及ぶのだろうかと。ソ連崩壊4年後の初夏だった。
 時は過ぎゆき、再びあの空の下の国境を思って暮らす。
 おおらかに流れていた川の姿と果てしのない戦闘を。
 宮崎県延岡市 柳田慧子(77) 2022.7.26 毎日新聞鹿児島版掲載

化粧

2022-07-31 18:31:40 | はがき随筆
 朝食。後片付けを済ませ、ホッと一息。テレビの暗いニュースに心は折れそうだが、安息の日々を願いながら一日の始まり。洗顔歯磨き後、小さな化粧箱を手に持ち、食卓の椅子に腰をおろす。化粧水、乳液、粉化粧、眉を描き髪を解く。口紅は長らく無縁。思えば終戦翌年、女学校卒業後すぐに就職。当時田舎町では化粧品など見ることもなく、スッピンでの出勤。化粧と関わったのは何歳ごろだったか思い出せない。隣家栽培のヘチマの茎を切り瓶にさし、その液を頂いていた思い出がある。身嗜みは老いても必要。刻み込まれた皴と今日も仲良く対面。
 熊本市中央区 原田初枝(92) 2022.7.24 毎日新聞鹿児島版掲載

松林

2022-07-31 18:18:00 | はがき随筆
 久しぶりに天保山公園の松林を歩いた。龍馬・お龍の旅碑が近くにあるが、この近くに港があり、船が自由に出入りした景色は今では考えられない。松林がえにしの面影を残しているのである。
 我が故郷吹上浜の風力発電計画を知り、あに図らんやの心境である。そんなものができれば、小学生の頃、松林を5分ほど歩き、熱き砂浜を駆けて海に飛び込んだ体験が夢と散る。松に鶴は日本人の感性であり、人工の器により松林が削られることはあってはならないと思う。松林を守ることは自分の使命であると肝に銘じよう。
 鹿児島市 下内幸一(73) 2022.7.23 毎日新聞鹿児島版掲載

モグイヤッタナ

2022-07-31 18:02:04 | はがき随筆
 昭和19年春、鹿児島・日置の旧吉利小を軍服姿の野村直邦海軍大将が訪れた。私は小1。野村さんは郷土の先輩で、吉村昭著「深海の使者」に登場する。同17年、野村さんはドイツの潜水艦Uボートに便乗し、日本を目指した。潜水艦にはドイツの技術者と設計図を乗せていた。
 出港は極秘でドイツの日本大使館と外務省は鹿児島弁を使って連絡した。「ヨシトシノオヤジャ モグイヤッタナ」(吉利の親父は潜水しましたか)「モグリヤッタド」。会話は解読されずに2カ月後、無事に帰国した。今年は終戦後77年。この話を知る人も少なくなった。
 鹿児島市 田中健一郎(84) 2023.7.23 毎日新聞鹿児島版掲載

うそ?ほんと?

2022-07-31 17:49:50 | はがき随筆
 近所の小学校での読み聞かせが再開した。3年生の教室に入り、持参した中川ひろたか作の「うそ」を読む。
 マスクの上の瞳が、掲げる絵本に注がれる。日常のうそに始まり、童話の中のうそが続く。 
 「おばあさんだよ」とうそをついたオオカミ。「オオカミがきた」とうそをついた少年。
 最後に「かみさまはいるの? いないの?…おには…かっぱ…?」と読むと「いる、いない」と児童の反応は割れたが、「サンタクロースは?」には、ほぼ全員が「いる」と答えた。「しんじていれば、ほんと?」。うなずきながら教室を後にした。
 宮崎県串間市 岩下龍吉(70) 2022.7.23 毎日新聞鹿児島版掲載