はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

パズルに夢中

2020-01-13 19:19:28 | はがき随筆
 「この頃あなたの作品を見ない。どうしたの」とペンクラブの忘年会で、ある人から声をかけられた。「ネタ切れしちゃいまして」と私は苦笑い。
 実は最近、物忘れや勘違い、暗算のにぶさなどが加速している。これは認知症かも? と悩み、これ以上進まないようにテレビや新聞、雑誌のクイズやパズルに手当たらり次第に挑戦することに夢中の日々だったのです。
 本紙日曜定番のクロスワードも最近はマス目の空白が増え始め、次週の正解発表を待ちこがれる。80代に入った私の目標は、自らにむち打ち続けるという単純な事柄です。
 熊本県玉名市 大村土美子(81) 2020/01/13 毎日新聞鹿児島版掲載

兎の耳

2020-01-13 19:03:28 | はがき随筆
 遠くから新燃岳を望むと、二つの岩が小さく見える。まるで兎の耳のように。それで、私の中で新燃岳は兎になった。兎の耳に触れたくて、道なき道を歩いた。三十数年前のことである。火口を半周する間、高千穂峰が微妙に姿を変える。その数十分は、霧島山の中でも心躍る時間だった。1人で歩き、学級の親子と歩き、妻と歩いた。
 勇ましい獅子と巨大な兎の裾野に、ナナカマドが自生する十字路がある。右へ折れ、大幡池に行くのが好きだった。
 もう一度兎の背に乗って、あの数十分に逢いにいきたい。
 岳噴いて兎の耳の夕時雨
 鹿児島県霧島市 秋野三歩(63) 2020/1/12 毎日新聞鹿児島版掲載

お年玉

2020-01-11 16:31:49 | はがき随筆
 「明けましておめでとうございます」、孫が改まった口調で挨拶をしてきた。狙いは見え透いているがすんなり渡さずに、今年はまず彼の決意を質す。
 勉強を、スポーツを、と頑張る目標を自信気に謳いあげるが後が続かない。突然の問い掛けに戸惑っている様子。そこで、友達とは、車には、健康は、と誘い水をかける。「頑張る、頑張る」と水を得た鯉の勢いだ。
 ようやくそこで「おめでとう、頑張ってね」と励ましながらお年玉袋を手渡したのに、「ありがとう」もなく当然のように受け取るとリュックにしまう孫。ちょっぴり拍子抜けした。
 宮崎市 日高達男(78) 2020/1/11 毎日新聞鹿児島版掲載

ぞろ目で占う新年

2020-01-11 16:23:07 | はがき随筆
 近時のポストに年賀状を投函した帰り、横に信号停車した車のナンバーが8888。続いて止まった軽自動車は222。珍しいな、ぞろ目が続くと思ったら、なんと3台目の大型乗用車は2222。令和2年を祝福しているようでうれしくなる。
 奇跡は続いた。交差点を曲がったら今度は8855。2台おいて2233とすれ違う。往復10分くらい歩いただけで、こんなことがあるなど、よくない知らせじゃないかという気にも。しかし、ものは考えよう。新年も健康はじめ生活全般、より以上に注意を払えとの神のお告げと前向きに捉えることにした。
 熊本市東区 中村弘之(83) 2020/1/9 毎日新聞鹿児島版掲載

睡蓮に魅せられて

2020-01-11 16:13:18 | はがき随筆
 「前向いて夢追いかけて一日一日精いっぱい」の格言を掲げて久しい。寝つけぬ夜など前向いてる? と問いかけてくる。
 7月にドライブしたとき、道の駅で見知らぬ花が手招きする。かけ寄ると熱帯性睡蓮の紫の花と、黄色は耐寒性でモネの睡蓮だった。あの絵の? ときめきを抑えられず迷わず買った。夫と昔の石臼や火鉢に植えた。待つこと1週間、ロケットのような蕾が膨らみ、日ごとに伸びてきた。ついに水面に顔を出した睡蓮、子供が初めて歩いたときのように歓声をあげた。
 魅せられた睡蓮も冬ごもり、前向いて春を待とう。
 鹿児島県薩摩川内市 田中由利子(78) 2020/1/9 毎日新聞鹿児島版掲載

脳トレ

2020-01-11 16:04:33 | はがき随筆
 私が没イチになった時のためにと、女房の特訓が始まって丸一年。今では家事の半分は、私の分担になってしまった。
 今度は、「脳トレ」である。認知症になった私の姿を想像すると、心配で死にきれないと言う。「脳が活性化するパズル」の冊子を前に、毎日つづけるようにとのお達しである。数独、クロスワード、間違い探しなど、小学生時代の宿題を思い出しながら課題に取り組む。
 「鍵のかけ忘れ」「薬の飲み忘れ」「アイロンの切り忘れ」と、女房の行動をチェックしているしっかり者の私のことなど、全く気付いてもいない。
 宮崎市 実広英機(74) 2020/1/9 毎日新聞鹿児島版掲載

お餅と駅伝

2020-01-11 15:56:50 | はがき随筆
 私のお正月はお餅と駅伝で幕が開きます。大好きなお餅をいただいて初めて実感です。こんなおいしいお餅。長い歴史と命をいただく思いでいただきます。お雑煮にはもちろん焼き餅。あべ川のきなこ餅、砂糖醤油をつけ二度焼き餅、最高のごちそうです。やめられません。
 もう一つは勇気を頂く箱根駅伝です。大学生の皆さんが学校名を背に一世一代の晴れ舞台。軽やかな足の運び、若さがみなぎっています。みるみるうちに前の選手に近づき1人2人と追い抜きすごいの連発です。新春の元気をいっぱい頂き今年のスタートもうれしくなりました。
 熊本県八代市 相場和子(93) 2020/1/9 毎日新聞鹿児島版掲載

気分転換

2020-01-11 15:49:17 | はがき随筆
 残暑の余韻か、寒暖の落差か、年のせいか。体がだるく食欲もなく、明日は治ると自分に言い聞かせ、数日後に掛かり付けの病院で受診した。しばらくは倦怠感の日々のところに、義弟夫婦がドライブに誘いに来た。
 中古車だが高級車で、西回り自動車道を阿久根までの洋食付きのコースである。義弟夫婦の心配りがうれしくて妻と共に同乗した。後部座席の左右にもテレビがあり、音響もよく、乗り心地も良好。乗せてもらって見る北の八代海、東の矢筈岳、南の紫尾山は格別で、気分は楽になっていた。この気分転換は効能があった。
 鹿児島県出水市 宮路量温(73) 2020/1/9 毎日新聞鹿児島版掲載

青い屋根

2020-01-11 15:43:19 | はがき随筆
 一瞬、言葉を失った。どこもかしこもブルーシートの屋根。千葉県上空を降下して行く機内から見た台風の被災状況だ。
 ニュースで何度も見ていたがこれほど広い範囲をやられていたとは。これでは修理もなかなか手が回るまい。ブルーシートごときでこれからの寒さや冷たい雨をどうしてしのげようか。
 近年、異常気象は日本をズタズタにしている。同じ台風による竜巻に延岡もやられた。
 あの青い屋根の下でいったいどれほどの涙や汗が流れたことだろう。
 程なくして羽田に着陸した。東京は普段通り、華やかだ。
 宮崎県延岡市 楠田美穂子(62) 2020/1/9 毎日新聞鹿児島版掲載

箱根駅伝に感動

2020-01-11 15:34:07 | はがき随筆
 今年も楽しみに待った箱根駅伝。テレビの前で釘付けに。十数年前独り暮らしだった時、関東にいる長男と次女宅で正月を迎えていた。次女夫婦は大の箱根駅伝ファンで、資料を取り寄せ、私と必ず応援に出かけた。
 その中で3回ほどは往路を応援し箱根に宿泊。復路を下り坂で迎え、大勢の人たちと一生懸命旗を振り声をかけた。選手たちの足音は力強く、光る汗に感動し涙が出て、最後の人まで見送った。毎年テレビをみるたびに、当時のことを思い出し胸が「キューン」と。若人のエネルギーと応援者の熱意は忘れがたく毎年ありがとうとつぶやく。
 熊本市中央区 原田初枝(89) 2020/1/9 毎日新聞鹿児島版掲載

母の思い

2020-01-11 15:26:14 | はがき随筆
 両親の晩年。2人で住宅型の老人ホームにいた時が一番穏やかだったように思う。夫婦部屋もあったが、それまでの母に問題があり、悩んだ末に一部屋ずつの入所に決めた。
 しばらくして職員の方が「夜はお二人で仲良く寝ていますよ」とのこと。母がこっちで寝るように言うと父も迷わず一緒に寝るというのだ。正直驚いた。両親の認知症に気づき、実家から1時間半の我が家に連れてきてからのことを思い出す。父の健忘、病気、母の行方不明、父への暴言、私も疲れ果てた時期があった。でもこのことで両親の愛情を感じほっとした。
 宮崎市 高木真弓(65) 2020/1/5 毎日新聞鹿児島版掲載

年明ける

2020-01-11 14:11:18 | はがき随筆
 令和2年が明けました。私たち夫婦は満71歳と64歳になります。昨年は妻の胸骨骨折のリハビリからスタートし、6月には私の「はがき随筆大賞」受賞というサプライズがあり、「広報きりしま」や霧島のタウン誌「モシターン」にも関連記事が載りました。さて今年は……。まず前半に私の本紙掲載作品集「高千穂スケッチ」7巻が上梓出来そうです。知人や友人のみならず、老人施設の入居者にも読み聞かせしてくださる方まで現れ、ありがたい限りです。さらに読みやすい内容を心掛けます。どうぞよろしくお願い致します。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(70) 2020/1/9 毎日新聞鹿児島版掲載

令和2年を歩む

2020-01-11 14:03:55 | はがき随筆
 新元号が発表された日。テレビの前のイスに腰掛け発表を待つ。この先の私の人生は何の元号と歩むのかと、期待で胸も膨らんでいた。
 揮毫した額が掲げられた。令和である。その瞬間イスから躍り上がり拍手。孫の名前と同じ令である。すぐに「おめでとう!令ちゃんの字が入ったね」とママへメールを送った。
 孫の誕生時、息子は令華と命名。令は珍しい漢字と思った。過去に令の名前を見た記憶がなかった。故に元号と一字であれ重なったのは奇跡である。
 右手に孫の令を左手に令和2年を握り、人生を歩む。
 宮崎県延岡市 源島啓子(71) 2020/1/8 毎日新聞鹿児島版掲載

屋久島

2020-01-11 13:45:04 | はがき随筆

 屋久島に住み着いた友人が「黒味岳」に連れて行ってくれた。島には「黒味に登らずして屋久を語るな」と言う言葉があるそうだ。屋久杉が点在している森や湿原の奥には、もののけ姫がいるような気配が漂っていた。
 友はこんな話もしてくれた。数年前、山でグループの1人が小用のため列を離れたが、それきり戻ってこなかったそうである。その後、総力を挙げて捜索したが、見つける事ができなかった。
 山を下り、宿で食事をとっていたら、屋久鹿の鳴き声が、遠くもの悲しく聞こえた。
 熊本市北区 岡田政雄(72) 2020/1/7 毎日新聞鹿児島版掲載

涙こみあげて

2020-01-11 13:37:48 | はがき随筆
 教皇フランシスコが長崎ににらっしゃる日である。
 2時に目が覚めてしまった。6時、神父と41名出発。暗い雨の中を走るバスの中は祈ったり、歌ったり、喜びに満ちている。
 昼前到着、長崎も雨。指定の席に着いた昼すぎ、太陽がさんさんと降り注ぎはじめた奇跡。どよめきの中、教皇のお出まし。歓声、小旗の波。「仕える者になりなさい」との主の命令に忠実に「神のしもべのしもべ」とへりくだり、世界を巡りいのちの尊さを説く教皇を目のあたりにして涙がこみあげてくる。
 あの日から一週間、静かな感動の波に洗われ続けている。
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(83) 2020/1/6 毎日新聞鹿児島版掲載