はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

いいね、いいね

2019-05-31 06:13:04 | はがき随筆

 夫は、視力低下のため74歳で運転免許証を返納した。リタイア後始めた、写真撮影も歴史研究会も辞めざるをえなかった。

 出かけるのが好きだった夫が家庭菜園に一層精を出すようになり1年。今年の春は豊作だ。

 豆の収穫が終わり、来年用に種を取ることにした。9粒も実が入った巨大なさやがある。キヌサヤとスナップが隣り合わせで自然交配したのかもしれない。

 「もう少し若けりゃ品種改良するけどなあ」と夫。「おっ、いいね、いいね」。すかさず相づちを打つ私。まんざらでもなさそうに、夫はソラマメの塩ゆでを肴に焼酎をすする。

 宮崎県日南市 矢野博子(69) 2019/5/31 毎日新聞鹿児島版掲載


同期のさくら

2019-05-30 12:02:44 | はがき随筆

 47年前に廃校になった吉利中の古稀同窓会があった。95名の卒業生のうち15名が早逝されていた。そして不明7名であった。自分が心を痛めたのは不明者の方である。うわさによると自己破産して住所を明かさない人、配偶者から逃げるために身を明かさない人、同期仲間のひとりとして役立つ事は何かないかと思案しているが……。

 桜もつぼみのうちに折られる枝、花3分で風に吹かれ飛ぶさくら、満開の花として絶賛のさくら。さくらんぼの実を結ぶものもある。同期のさくらも十人十色の人生の花を咲かせていると嘆息している。

 鹿児島市 下内幸一(69) 2019/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載


カメラの前の義母

2019-05-30 11:52:44 | はがき随筆

 近くの畑で鍬を打っている義母に、若い男女がマイクとビデオカメラを近づけてきた。「こんげな姿じゃき映さんで下さいよ」と言いながらまんざらでもなさそうに笑って話している。

 某TV局が、延岡市のここ北方町を取材しているという。「全国を訪ねているけど、お婆ちゃんみたいに会話のできる人っていないよ、ほんとに97歳?」と聞く。生きがいは何かと問われると「野菜作りとグランドゴルフかな」と答える義母に驚きの2人だ。

 「百歳はぜんぜん余裕だよ、お婆ちゃんは」「そうじゃね」とさらりと言う義母だった。

 宮崎県延岡市 川並ハツ子(74) 2019/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載


平成から令和へ

2019-05-30 11:45:59 | はがき随筆

 平成も終わり、令和を迎えた。5月1日はテレビの前にくぎ付け。思えば私たちの学生時代は「天皇陛下」との言葉を聞けば、直立不動の姿勢をとり「現人神」の教育を受けた。行幸に際しても列になってお迎えし、頭をたれ、通過される足音を聞き、後ろ姿を遠くから拝する習わしだった。

 今は悲惨な戦禍の跡や災害発生地に赴かれ、膝ついて励まされるお姿に心打たれる。時の移ろいでこんなにも変わるものかと驚かされるが、国民がこぞって愛する皇室になられたことをよろこび、ご繁栄をお祈りする。

 熊本市中央区 原田初枝(88) 2019/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載


哀れな傘

2019-05-30 11:38:34 | はがき随筆

 雨模様の午後、誘われて霧島路のさくら桜サクラを愛でに行く。散策道があるというので娘孫の女3人で挑戦。林の中を抜けて、木の根が張り出して歩きにくい道の先には花房の滝、その荘厳な眺めに歓声をあげる。このとき雨傘がつえ代わりとなって大いに重宝する。帰り道は楽で近く感じるから不思議。神話の里まで足を伸ばし、高揚した気分で温泉にはいり、ご機嫌で帰宅。ところが相棒の雨傘の調子が悪く開かない。私の体重を支えて頑張ってくれた傘が壊れて使用不能になるなんて。犠牲になってしまった傘がなんとも哀れで仕方がない。

 鹿児島県霧島市 口町円子(79) 2019/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載


おじさんって、変?

2019-05-30 11:30:31 | はがき随筆

 表通りで、小学生に「お早う」と言うと返事もしない。いきなりバタバタと駆け出した。まずいなあ。出掛けに「やたら子供に声掛けないで。怪しまれるよ」と妻に言われていたのだ。きっと親から「知らない人と話したらダメ」としつけられたのだろうが、よく守っているよ。

 また帰りに、小学生に会う。その一人が「おじちゃん、今何時?」と袖を引っ張る。腕時計を見せると「ありがとう」とお礼をいった。人見知りしない元気な子だが、かえって心配だ。

 妻に「小学生が話し掛けたよ」と言うと「怪しい人かどうか試したのね」と笑う。あ~あ。

 宮崎市 原田靖(78) 毎日新聞鹿児島版掲載


変わらぬ文体

2019-05-30 11:23:22 | はがき随筆

 妹が実家の整理をしていたら出てきたと、古い原稿用紙をくれた。それは私が中学2年の時、修学旅行で訪れた別府での地獄めぐりを書いたものだった。鉛筆で、原稿用紙2枚半くらい。山地獄、海地獄、血の池地獄、ワニ地獄について、それらの様子、印象、感想を書いている。技巧をこらしたり、奇をてらうこともなく、素直に表現していた。

 今も私はこんな文体で書いているなあ。かっこよくとかおしゃれには書けない。子どもの時からあまり進歩していない。けれどこのスタイルが私らしさかもしれないと思った。

 熊本県玉名市 立石史子(65) 2019/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載


愛しきもの

2019-05-30 10:50:26 | はがき随筆

 「あったかい」。そっと触れて確かめる。規則正しい呼吸に息をあわせる。時々いびきがまじる。そばにいるのは子供? 孫? 犬なんて意識は遠いかなたに感じる。

 我が家に来た時は、片手に乗せていた。「まだ散歩は駄目よ」と言われ抱いて歩いていると「可哀そうに歩けないの?」と言われたことが懐かしい。

 今では、愛嬌のある子ブタの風情。立派な老犬になった。大病もせずありがたい。夜はさっさと枕に頭を乗せてゴロリ。おやつをねだったり人間と少しもかわらない。まだまだ元気でいてネ、桃太郎。

 熊本県八代市 鍬本恵子(73) 2019/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載


番号札

2019-05-29 06:16:52 | はがき随筆

 待合室で名前を呼ばれて立ち上がると、入り口近くにいた人が診察室へ入っていかれた。「あれ?」。聞き違いかなと看護師さんに尋ねると、その人の名は「ミキコさん」。たしかに発音は似てるなあと思っていると「間違いやすいですね」と、看護師さんが番号札を持ってこられた。

 「診察のときは番号と名前を呼びますので」と、念には念をの配慮に感謝して待つことに。偶然とはいえ、このようなこともあるのだと思いながら、おぼつかなくなった聴力を全開にして番号札とにらめっこしている。

 鹿児島市 竹之内美知子(85) 2019/5/29 毎日新聞鹿児島版掲載


クマ対策の輪広がれ

2019-05-28 19:54:43 | 岩国エッセイサロンより

2019年5月21日 (火)

   岩国市   会 員   吉岡賢一

 岩国市南部で最近、クマの目撃情報が相次いでいる。「クマの餌となる生ごみの扱いに注意し、朝晩の外出時は特別に警戒するように」と、各所の防災スピーカーから、ひっきりなしに警報が発せられている。
 近くには幼稚園や小、中学校も多数あり、児童生徒の通学も危険だ。学校側の安全指導はもちろん、通学路の見守り隊の協力強化や、送り迎えを保護者に呼び掛けるなどの緊急対策がとられている。それでも十分とは言い難い。
 そこで、地域の高齢者という人的資源に協力を仰ぎ、ラジオや笛など音を発する器具を持って、通学路の各所に立っていただく。そういう輪を広げたい。それだけでも当面の力になりそうである。私たちにできることをやりたいものだ。 
 
大切な子どもたちを育てるには、地域の協力なくしては考えられない。互いに確認したいものである。
    (2019.05.21 中国新聞「広場」掲載) 


貴重な両生類 手厚い保護を

2019-05-28 19:54:00 | 岩国エッセイサロンより

2019年5月26日 (日)

   岩国市  会 員   角 智


 山口県東部を流れる錦川は、河口の岩国市から広島湾に注いでいる。 
 中流域の支流の宇佐川は、国の特別天然記念物で「生きた化石」といわれ世界最大の両生類・オオサンショウウオが生息する本州最西端の地とされている。  
 この川は現在、砂防ダム士事に伴い、74匹が保護施設で飼育、一般公開もされていると聞き見学した。
 本来、夜行性のため水槽の土管の中などに隠れている個体が多かったが、体長110㌢、推定年齢95歳と貫禄ある個体もいた。爬虫類と魚類の習性を併せ持つ生体は珍しく、幼生の間は前脚の付け根あたりから体外に突き出たエラで呼吸するが、成長すると肺呼吸に替わるという。
 絶食に耐え、捕食の時以はほとんど動かないが、歯が鋭く、飼育者が指をかまれ出血した写真を見て驚いた。大変貴重な生き物への手厚い保護が必要だ。
   (2019.05.26 朝日新聞「声」掲載)


犬も食わぬ

2019-05-28 19:53:15 | 岩国エッセイサロンより

2019年5月28日 (火)

  岩国市  会 員  村岡 美智子


 日曜日の午後、くだらないことで夫ともめた。「私、出て行く。帰って来ん!」と言い残し、娘も誘って家を出た。本当は帰って来るのだけれど。
 姉のところへ行き、夫のことを愚痴りながら、我々は晩ご飯の時間を楽しく過ごした。夫はひとり寂しく、何かしら食べただろう。その晩帰ってきても、顔を合わせなかった。
 翌朝、夫が謝った。謝ることは苦手で、今まで謝ることはほぼなく、ぶすっとして数日過ごす。しかしながら今回は、冷静に考えて非を認めたようだ。
 ささいなことにもめず、仲良くやろうよ。
 (2019.05.28 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


菜の花に想う

2019-05-28 19:40:12 | はがき随筆

 小学6年生の時、菜の花の黄色い風の中スキップで家路へ。すると腕白坊主3人が現れ、私をポカポカ殴って逃げた。泣いて帰るとおとなしい母が学校に告げた。若い男性教師は3人を呼び廊下に立たせ「女子を殴るとはチン玉を持っちょるとか」叱った。今と違う大らかな時代? であったと私は思う。

 先生は「思春期の兆しでしょう。ごめんなさい」と母と私に頭を下げられた。

 あだ名が「赤十字」「僕4銭」「ありっしやん」の3人は今も元気でしょうか。菜の花の咲く時、花言葉「小さな幸せ」と共に心に浮かぶ3人である。

 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(92) 2019/5/28 毎日新聞鹿児島版掲載


情緒とは

2019-05-28 19:32:39 | はがき随筆

 「近松門左衛門作品の語彙はシェークスピア作品の語彙より2倍近く多い」というのを20年ほど前何かで読んだ。何が違うのか書いてなくて疑問が残った。

 それが3月21日の本紙、岡潔シンポジウムを読んで解けた。岡氏も藤原正彦氏も、フランスの文化にも英語の語彙にも情緒の概念がないという。人と人、人と自然との間に生れる日本独特の情緒。ドナルド・キーン氏が魅了されたのも、この情緒の世界だったのだろう。

 論理の文化と情緒の文化。岡氏が「日本が人類を救う」という情緒。まだしっかりつかめぬ私。新たな課題が出てきた。

 熊本県八代市 今福和歌子(69) 2019/5/27 毎日新聞鹿児島版掲載

 


あのときの苺

2019-05-28 19:24:43 | はがき随筆

 真っ赤な苺がプランターの縁に下がっている。「今年も苺がとれたよ」と心のなかでつぶやいた。勤務していた中学校の授業資料室の窓際に私の机があり、向かいの棟の特別支援学級の5人の生徒が、担任の先生と中庭で花やトマトを育てていた。ゆっくり語る会話が楽しく聞こえ、時には仲間に入れてもらった。珍しかったジャンボ苺を観察しながら収穫を楽しむ彼ら。収穫を終えたとき3株もらい、その株から出たランナーを苗にして毎年作り続けて30年。彼らは元気にしてるかな。幸せを祈る気持ちがそうさせる。あのときの品種を植え続けている。

 鹿児島県出水市 年神貞子(83) 2019/5/26 毎日新聞鹿児島版掲載