はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

お義父さん、またね

2012-04-29 19:48:31 | 女の気持ち/男の気持ち
 義父が亡くなった。春の嵐が吹き荒れた日、お棺に入って義母と暮らした家を出ていった。
 その病が分かったのは13年前の夏。たまたま夫の実家を訪れていた私が、少し耳が聞こえづらい義父に付き添って検査結果を聞きに行くことになった。
 医師はCTスキャンの画像を示しながら「がんです。小さすぎても発見できません。この大きさでちょうどよかった」と言った。何の前置きもないがんの宣告だった。
 帰り道、義父の自転車を追いかけながらペダルを踏んだ。夕焼けがなぜだかとてもきれいで、涙がポロポロ止まらなかった。義父が泣いているのかどうかは分からなかった。
 あれから何度も手術を受け、大好きなボウリングを楽しみながら義父は命を全うした。
 「入院・痛いこと、一切お断り」宣言した通り、自宅で迎えた最期だった。意識がはっきりしない中で「今まで本当にありがとうね」と耳元でささやくと、ふうんと言ってうなずいてくれた。
 お義父さん、口に出しては言わなかったけれど、故郷にもう一度帰りたかったのでしょう? 和歌山の海をもう一度見たかったのでしょう。 ちゃんと飛んで行けましたか?
 私はお義母さんのように泣いてあげられないけれど、ふとした拍子にあなたを思い出し、鼻の奥がツンとして困っています。
  鹿児島市 岩井初美 2012/4/28 毎日新聞の気持ち欄掲載

やっぱり

2012-04-29 19:43:05 | はがき随筆
 早朝、ラジオを聞きながら弁当と朝食を作る。今朝は素晴らしい言葉に出合った。財産残すは銅賞、思いで残すは銀賞、生き方残すは金賞。
 夫にこの事を話すと、うまいこと言ったもんだ。近くに住む息子に何賞がいいか聞いてみたいね、などと少々盛り上がった。
 残すほどの財産も持ち合わせてない。思い出作りには自信がある。誇れる生き方もしてないし……と思いつつ息子にメールしてみた。
 すると、私がメールを終えると同時ぐらいの早さで「銅賞希望」との返信メール。私も即座に「やっぱり!」と。
  垂水市 竹之内政子 2012/4/28 毎日新聞鹿児島版掲載

怒りたくても

2012-04-29 19:29:41 | 女の気持ち/男の気持ち
 次男と2人で散歩をしていると「いつもお母さんと一緒でいいわね」とか、「いい親子関係ですね。うらやましい」と声をかけられる。
 19歳の次男に知的障がいがなかったら、多分、友達と遊び回り、母親の私なんか眼中にないだろう。口べたで人付き合いの苦手な私が寂しくないように、神様がこの子を授けてくださったのかなと思ったりする。
 でも、いつも一緒にいると、正直うっとうしい時もある。多分、次男もそうなんだろう。急に機嫌が悪くなり、私をかじったり、たたいたるする時がある。その日も私の手をかじって血が出たのを見て驚いたようで、慌てて薬をべたべた塗り、絆創膏を貼ってくれた。少し離れていようと、私は別の部屋へ移動した。
 1時間ほどして、作りかけの夕食の用意のため台所に立つと、「牛肉と納豆の旨煮」ができあがっていた。誰が納豆を入れたのだろと思いながら三男に聞くと「作ってない」と言う。
 まさか次男?
 よく見ると納豆の量がやけに多い。冷蔵庫の中の納豆15パックを全部使っていた。驚いたり感心したりしていると、今度はお風呂の方でジャーッという音が。行くと、風呂の栓をせずにお湯が出しっ放しに。電気温水器は空っぽになり、お風呂に入れなくなった。
 「あーあ、なんてことを」と怒りたくても、いつも私のそばにいて見よう見まねで覚えた次男の仕業。何だがおかしくて噴き出した。
  福岡県嘉麻市 浜野美雪 2012/4/27の気持欄掲載

ともに

2012-04-29 19:23:48 | はがき随筆
 93歳、87歳、77歳2人、74歳? の5人のグラウンドゴルフ。公園の裏山でウグイスが上手に鳴く。5人は今日も元気にスタート。遅れて入った私もやがて2年たつのに腕は上がらず。しかし一打しては歩き、話をする個人プレーは良い。
 2ゲームして一休み。水分補給と話タイムはまた良い。おおかたは健康に関する話題で時々旧知の消息に及び、四季折々の風に触れ、太陽の光のもとで笑い楽しむことのできるありがたさを絶賛する。それにしても異口同音に「小鳥が少なくなった」と実びっしりのセンダンの木を見上げる。
  鹿児島市 東郷久子 2012/4/27 毎日新聞鹿児島版掲載

「一目惚れ」

2012-04-27 21:48:33 | 岩国エッセイサロンより
2012年4月27日 (金)

   岩国市  会 員   山下 治子

 用事を済ませ、ついでにウインドーショッピング。足がピタッと止まった。他の商品が全く目に入らない。試着してみる……。似合う! 欲しい! 値段は? やっぱりネエ!

大いに迷った揚げ句、一晩たてば気が変わるかも、と高ぶる気持ちを抱えたまま帰った。翌朝は雨と風。出かけるなということか、とあきらめかけたら晴れてきた。ということは、買いに行けということだ。決まった!

 銀行に寄り、店長直々に値切り交渉したが、断固引かない。引けないのだ、と言う。それを聞いて、更にこの品に惚れた。大事にする。
  (2012.04.27 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

まあ、いいだろう

2012-04-26 15:42:52 | はがき随筆
 「満、72歳、大丈夫ですか」「いいですよ」のうれしい言葉。もう相手にもしてくれない空気が一瞬に消滅してしまった。ありがとうこざいますと何回も頭を下げる私。いよいよ挑戦が始まるか。挑戦できること、最大の喜びに尽きる、
 第1次書類選考、2次面接。男性はなんと高齢の私一人である。どれだけやれるか、経験を生かせるか、自問自答の私自身を見つめる。神仏人が後押しのありさまか。有り難き幸せ。
 小さな夢も現実になるか。思い通りになると、人生花盛り。現実はほど遠く終止符を打つ。まあいいだろう。
  鹿児島市 岩田昭治 2012/4/26 毎日新聞鹿児島版掲載

K先生を悼む

2012-04-26 15:31:14 | はがき随筆
 随友で医師のK先生が4月3日夜、肺不全のため亡くなられた。前日まで診療されたとのことである。私は葬式のあとの勧業のため火葬場に行ったら、たまたま先生のご遺体と一緒になった。葬式の時間が同じだったので、ひょっとすると会えるのではと思っていた。
 先生は俳句、短歌やエッセーなど多様なジャンルの持ち主で、本紙の「はがき随筆」では年間賞も受けられた。先生は自ら生涯現役を作品などで公言しておられたが、全くその通りであった。最期に先生の穏やかなお顔を拝顔できて不思議なご縁を感じることであった。
  志布志市 一木法明 2012/4/25 毎日新聞鹿児島版掲載

おしゃれな食材づくり広がる

2012-04-25 16:21:08 | 岩国エッセイサロンより


2012年4月25日 (水)

   岩国市   会 員   片山 清勝

 健康づくりを兼ねて自家用菜園を楽しむ人が多い。定年後に借地して野菜づくりを趣味で始めた知人もいる。近所のホームセンターには緑濃い多種類の苗が並び、トマトなども数種類ある。プランターは斬新な色や形で種類も多い。これらを買う人たちの年齢は意外に幅広い。

 その光景に終戦後の思い出が脳裏をよぎる。郵便局職員だった父は毎夕、母と連れだって畑仕事に出かけた。食糧難の時代、サツマイモやジャガイモ、大根、自菜、豆類などをたくさん栽培し、5人の子どもの空腹を満たした。私たちもよく手伝い、何でも食べたものだった。

 「地産地消」が言われる昨今、家庭やプランターの菜園は安心安全、そしてちょっとおしゃれな食材作りの場が広がっている。大小の差こそあれ、今後は「自作自消」の方向に進むのだろうか。

 そんな思いを抱きながらピーマンとミニトマトの苗を購入し、早速植えた。種苗コーナーを訪れる人が途切れることはない。

  (2012.04.25 朝日新聞「声」掲載)岩國エッセイサロンより転載

あら、そうなの

2012-04-24 10:31:48 | はがき随筆


 母の入院中は、7時半、11時半、4時半には家を出て、1時間ほど相手をしていたので、一日はすぐに過ぎました。
 2ヵ月後、ようやく退院した今、ツツジ、マンサク、コデマリなど満開です。雑草を抜いていると「いたの?」と声をかけられました。
 「女性見回り隊」゛できたそうで、老々介護をしているから、その対象になったかな、と思っていたら、黄色いジャンパーと帽子を手渡されました。
 「ご協力をお願いしますね」
 大好きなヤグルマソウが笑っているように揺れていました。
  阿久根市 別枝由井 2012/4/24 毎日新聞鹿児島版掲載

11年のはがき随筆 年間賞

2012-04-23 18:54:37 | 受賞作品
年間賞に萩原さん
  感性豊かな夫を題材に
 11年の「はがき随筆」年間賞に、鹿児島市真砂本町、萩原裕子さん(59)の作品「夫の感官のすべて」(昨年7月12日掲載)が選ばれた。表彰式は5月27日午後1時から、JR鹿児島中央駅前の鹿児島市勤労者交流センターである。萩原さんに作品への思いなどを聞いた。


 5年前の5月。歯科医の夫・正禎さん(75)が畳の上に座ったまま言った。「立ち上がれない。手を引っ張って」「冗談でしょう」「本当なんだ」 
 異変を感じて救急車を呼んだ。脳内出血だった。以来、自宅でほとんど寝たきりの生活になった。
 作品はそんな日常の一コマをつづった。「お父ちゃんと娘の感性がすごく、私はそれを書きとめて投稿している。2人にはとても感謝しています」。長女の三希子さん(15)は8歳のころからはがき随筆に投稿しており、医院の待合室だった場所には今も裕子さんと三希子さんの掲載作が張られている。
 昨年10月には正禎さんが脳梗塞で2度目の入院。誤嚥性肺炎を起こす可能性があるため、医師から胃ろうを勧められた。チューブをつないだ胃に食事を流すのに2時間必要で、それを1日に3回行う。
 「へこたれずに一生懸命生きる姿を見せてくれています。お父ちゃんは私と娘のリーダー。心から尊敬しています」
 来月には退院し、裕子さんが介護をする。認知症も出てきた。それでも「書いている間は苦労も忘れ、書くことで私自身が救われている。これからもお父ちゃんと娘を題材に、書き続けていきたいと思います」。
【山崎太郎】

愛情あふれる文章

《評》
 例年のように、年間賞は毎月の入選作の中から選ぶことにし、まず候補作として次の作品を選びました。
 鵜家育男さんの「あっ、まさか!」は、いつものように義歯を探していると、コタツの中で愛犬がかじっていたという小事件を、そこにもっていく文章の脱線が巧みです。
 西田光子さんの「6月のカモメ」は陸前高田市でのボランティア体験です。聞こえるのはカモメの鳴き声だけという題名の付け方が秀逸です。
 萩原裕子さんの「夫の感官のすべて」は御主人の看病の逸話です。愛情あふれる文章です。
 山岡淳子さんの「涼風」は、夏休みで子供のいない教室を吹き抜ける風に感謝した、きれいな、文字通り涼しくなる文章です。
 年神貞子さんの「ナマコ」は、文章で色彩を描くのは難しいのですが、ナマコにまつわる色彩を描いた実に美しい文章です。
 塩田きぬ子さんの「子宝」は、老人ホームの母親を十分世話してやれない悔いのこもった、身につまされる内容です。
 いずれも特徴のある優れた作品ですが、その中から萩原裕子さんの「夫の感官のすべて」を年間賞に選びました。それは次の理由によります。前半の病室の描写、特に会話が効果的であること、それに後半での「私」の感想によって、「夫」の人柄が浮かび上がってくる点、何よりも慰める立場の「夫」が逆に慰めてくれている意外性、これらから美しい夫婦愛の随筆として選びました。何よりも人生が感じられます。
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

年間賞作品の紹介

「夫の感官のすべて」
 「お父ちゃん、ラジオでも聴く?」
 最近、テレビの画面もボンヤリとしか見えなくなっている夫が、余りにも静かなので、そう聞いてみた。
 「聴かなくていいよ。生きている時間を感じているから。ありがとう」
 ベッドの上でじっと目を閉じたまま夫は、そう答えた。夫の感官のすべてを私はまだまだ知りたい、感じたいと思う。4年前からほとんど寝たきりの生活の中、この穏やかさ、温かさ、繊細な感性は、いったいどこからきているのだろう。気宇壮大な人だと心から尊敬している。
  鹿児島市 萩原裕子 2011/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

平和を願う

2012-04-23 18:11:23 | はがき随筆
 「出征兵士」の中に私の名がある。が、時に当時の時代背景を感じて嫌になることがある。
 安曇野ちひろ美術館で岩崎ちひろの「戦争の中の子どもたち」展に出合った。その中のひとつ、スポットの当たった少女の白い顔に引きつけられた。そして、私は不覚にも涙を流してしまった。少女は戦場で何を見たのか言葉を失っている。泣くことすら忘れている。深く傷ついた黒い瞳──。その姿が幼かった頃の私の3人の娘たちと重なるともう涙は止まらなかった。
 「いかなる戦争も絶対にしてはならぬ」。混雑した暗闇の中で私は強く思った。
  出水市 中島征士 2012/4/23 毎日新聞鹿児島版掲載

今年の桜

2012-04-23 17:52:06 | はがき随筆


 昨年は自粛を余儀なくされた観桜の旅。今年は思い出の桜を妻に見せてやろうと上京した。場所は上野公園。平日の昼間というのに人並みの多さに驚く。巨木の桜は今を盛りと咲き誇り、花天井の下、ブルーシートがびっしりと敷かれ、既に宴の席もある。赤い顔が大声で歌い喚声を聞くと僕たちも笑顔になる。
 風に舞うほこりなど意に介さぬ露天商は声張り上げて客を呼ぶ。寒かった冬が去り、暖かさを呼ぶ桜に酔って歩く。お花見の極意だと思う。しかし、すぐ下を走る鉄路の先には、まだ春遠いがれきの山。復興を桜に祈りたい。
  志布志市 若宮庸成 2012/4/22 毎日新聞鹿児島版掲載

咲いた

2012-04-23 17:38:45 | はがき随筆
 11月、リンゴツバキの木を見上げると、ヒメリンゴのような丸々としたあの丸い実が三つにパカッと割れて、花びらのように開いていた。四つに割れている実もあった。こげ茶色の花が咲いたような感じだ。黒い種がついているものもあったので、触ってみると、ぱらっと下に落ちた。
 12月、リンゴツバキの木を見上げると、黄緑色のつほみをいくつもつけていた。
 1月、リンゴツバキの木を見上げると、赤い花を一つ二つと咲かせていた。赤い花びら、真ん中の黄色い花粉。それは、とても素朴で可憐な花に見えた。
  屋久島町 山岡淳子 2012/4/21 毎日新聞鹿児島版掲載

復活

2012-04-21 19:20:23 | アカショウビンのつぶやき


 ちょっと手を抜くと、すぐに勢いがなくなってしまう、庭の花たち。
20年以上前、親友に頂いたジャーマンアイリスが今年は元気
この花は今まで瀕死の状況を繰り返しながらも、生き延びて今年は綺麗な姿を見せている。
この株をくださったNさんは、若くして旅立ち、御主人も後を追われるように逝ってしまわれた。

我が家には、友人の形見となってしまった花たちが沢山ある。
いつまでも咲いて欲しいと願いながらも、次第に消えてしまった花も多い。

手を抜かず、愛情をもって手入れしなければ…と。
今日もへっぴり腰で庭仕事を頑張りました。



これは生協で買ったミニバラ「ピーチ姫」です。

「前払い」

2012-04-21 18:18:40 | 岩国エッセイサロンより
2012年4月20日 (金)

岩国市  会 員   安西 詩代

 明治生まれの母は、最期は認知症で私が週3回訪ねる度に「こんなによくしてもらうのに私はお金を持っていないので、あなたにお給金を払うことができないのよ。ごめんなさいね」と申し訳なさそうに謝る。「大丈夫ですよ! 前払いでたくさん頂いていますので、ご心配なく」「そうですか。それならよいのですが」という会話をしていた。

 いつからか「娘」から「よくしてくれるお手伝いさん」に変わった私は、母がいとおしかった。7人の末っ子で両親や兄姉からは愛情の前払いもたくさんもらっていた。そのお返しを少しでもできたのだろうか……。

  (2012.04.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載