はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「春遠からじ」

2010-01-30 17:50:44 | 岩国エッセイサロンより
    岩国市  会 員   吉岡 賢一

 冬の朝日がぬくみを増すころ、決まったように2羽のスズメがひなたぼっこにやってくる。

 産毛を立て丸く膨らませた体にたっぷり日差しを浴びている。少し距離をおいた2羽。チュンチュンにぎやかに語るでもない。時折片方が寄り添い、耳元に何かをささやく。そしてチョンチョンと相手の羽繕いをしてまた離れる。仲むつまじい夫婦とみた。やがて訪れる春には、新たな巣作りや子育てに追われるのを見越して、餌も少ない寒い今、ゆったり英気を養っているのだろうか。日だまりに身を寄せるスズメの横で、沈丁花が小さなつぼみを付け始めた。
  (2010.01.29 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
岩国エッセイサロンより転載
写真はTarkaさん

毎日ペンクラブ鹿児島・北薩地区の勉強会

2010-01-27 19:12:53 | アカショウビンのつぶやき
 毎日ペンクラブ鹿児島の中でも一大勢力を誇る、北薩地区の仲間が今年初めての勉強会を開催する。

 北薩地区は北は大口市から、いちき串木野市までの広い地域に熱心な会員が多い。年に4回の勉強会を開催し毎回10人を越す参加がある。北薩地区の会員のみならず、他地区からの参加や、会員以外の参加者も多く熱心に学んでいる。各自原稿を持ち寄る合評会形式の勉強会で最後には鹿児島支局長に指導していただく。

 今回は1月31日(日曜)、出水市の鶴丸会館で午前11時から、昼食をはさんで、みっちり4時間。しかし和気藹々の和やかな勉強会です。是非お近くの方はおいでください。
支局長は何処まででもバイクを飛ばして参加してくださいます。

 鹿児島地区、大隅地区も計画はあるのですが、なかなか実現が難しい…。
でも大隅地区は3月頃、楽しい「ひな祭りの集い」を計画中です。お楽しみに!

はがき随筆12月度入選

2010-01-27 18:08:02 | 受賞作品
 はがき随筆12月度の入選作品が決まりました。
▽霧高市溝辺町崎森、秋峯いくよさん(69)の「母の証言」 (13日)
▽鹿屋市寿3、小幡晋一郎さん(74)の「60年前の偶然」(9日)
▽志布志市志布志町内之倉、一木法明さん(74)の「煩悶」(11日)

──の3点です。

 この記事が掲載されるころは案外、春風の気配があるかもしれませんが、遅ればせながらの新年のごあいさつを申し上げます。今年もよろしくおねがいします。
 12月は、1年の総決算という意味もあったのか、過去の出来事についての優れた文章がたくさんありました。それらの中から3編を入選作に選びました。
 秋峯さんの「母の証言」は、大正3年1月12日の桜島大爆発の情景です。聞き書きですが、被災や避難の模様が真に迫っています。二度と起こらないことを願うのみです。
 小幡さんの「60年前の偶然」は、木造の母校の、国の「有形文化財」登録に際して、敗戦後の記憶が鮮やかによみがえり、思い出が懐かしくつづられています。「きばらんね」の壁の落書きが時間を60年前にみごとに戻してくれている文章です。
 一木さんの「煩悶」は「人はどこから来てどこへ行くのか」という人間の根源的な問いが、古希を過ぎた、師走の紺碧の空の下での感慨として吐露されています。老後になって気づく人生の意味への懐疑は厄介なものですね。身につまされます。
 次に優れたもの数編を紹介します。
 清水昌子さんの「ピアス」 (20日)は、いいお年になって耳にピアスの穴をあけられた話ですが、それが必ずしもオシャレのためではなく、立て続けにイヤリングを失くしたからという理由が秀逸です。田頭行堂さんの「白寿の年賀状」(28日)は、白寿になったので賀状は欠礼するという方にもこちらからは出すと、その娘さんから、喜んで読んでいるというお礼が来たという、心温まる内容です。人情未だ地に落ちず。有村好一さんの「サンタクロース」(24日)は豪州での経験。そこではサンタが、汗をふきながら、水着でスイ力を食べていたそうです。若宮庸成さんの「朝を楽しむ」(10日)は、寒中の早朝の散歩は人とはあまり会わない。その代わりタヌキに会ったら、タヌキが照れ笑いしているように見えたという瓢逸な文章です。
  (日本近代文学会評議員、鹿児島大名誉教授石田忠彦)

 係から 入選作品のうち1編は29日午前8時半過ぎからMBC南日本放送ラジオで明読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。


負けてうれしや

2010-01-27 17:55:11 | はがき随筆
 まゆ子は6歳。4月からルンルンの小学1年生。
 負けん気が強く、何でも勝負したがる。かけっこは、夏のころまで私がやや速かった。ところが今回、何度走っても出だしから私は負けて息切れがする。
 次はオセロ。最初は私の勝ち。それから何回かは勝ったり負けたり。その後がいけない。私の8連敗。負けてやったわけではなく本当の負け。せっかちに玉を置いてしまうのだ。
 玉一つ端っこに置かれて、挟まれた玉が運命のどんでん返しのように返るオセロの面白さ。
 まゆ子と9歳の姉とは、お互いに敬遠して勝負しなかった。
  霧島市 秋峯いくよ(69) 2010/1/27 毎日新聞鹿児島版掲載


再生の視界

2010-01-27 17:51:42 | はがき随筆
 昨年12月、不自由だった左目の白内障手術を、痛みもなく緊張の11分のうちに途中2回、眼球の移動指示で終わる。術後1日で眼帯を外してもらい暗室を出ると一瞬、冬の日ざしと窓際の紅いコチョウランの色彩が立体的に映る。新鮮な視界に、心に喜びが伝わる。「うれしい」
 明るく映るものがきれいに見えるのは不思議である。2ヵ月すると視力も安定するらしい。
これからは再生視力をより大切にし、読書、自然観察、景色も入念に眺めたい思いを強く感じる。帰路の高隈山は透明な夕日が輝き、稜線がくっきり浮かぶ。感謝。ありがとうと呼ぶ。
  鹿屋市 小幡晋一郎(78) 2010/1/26 毎日新聞鹿児島版掲載

ひめゆりの叫び

2010-01-27 17:40:46 | はがき随筆
 更生保護制度施行60周年記念九州大会が那覇市で行われ、二十数年ぶりに沖縄に行った。
 大会翌日、南部を中心に史跡や資料館などを見学したが、見るもの聞くもの改めて太平洋戦争の悲惨さを痛感させられた。
 中でも「ひめゆり平和祈念資料館」の展示物には絶句した。平時のあどけない姿の少女たちはやがて学徒隊に動員され、負傷兵の看護どころか戦禍の中を傷つき逃げまどい、さながら地獄の苦しみにもがく少女らであった。見入っていると画面の向こうから「助けて!」と叫ぶ声なき声が聞こえた。あの叫びが今もなお脳裏から離れない。
  志布志市 一木法明(74) 2010/1/25 毎日新聞鹿児島版掲載


妻の怖い協力

2010-01-27 17:36:03 | はがき随筆
 この年齢で食欲モリモリの食いしん坊。仲間は、食べれらるうちが花だと言う。
 ある日突然、脇腹が痛み出し検査の結果、医者から「やがて65歳。肉類の過食が続くと体が持たない」と宣告される。
 私は偏食減量を心に誓い、食事の改善に取り組む。夫を見捨てることなく妻の協力も得たが、それは過酷で地獄の始まりの思いもよらぬ仕業であった。
 妻は次の日からおかずの横に「食べたつもり」と言い、料理の本を置いた。ステーキ、口-ストビーフ、焼き肉……の大好物ばかりの品。私は恨めしい試練に耐える日々が続いている。
  鹿児島市 鵜家育男(64) 2010/1/24 毎日新聞鹿児島版掲載

雪の日に

2010-01-27 17:29:01 | はがき随筆
 新聞を取ろうと玄関の戸を開けると雪景色が広がっていた。久しぶりに見る銀世界。不思議と童心に帰る。若い頃東京にいて、冬には会社の先輩方が、方々のスキー湯に連れていってくれた。川端康成の「雪国」の越後湯沢のトンネルも幾度か抜けた。印象深いのは、氷点下17度の蔵王スキー場で、樹氷を見ながら7㌔の樹氷原コースを滑り下りてきた時、温泉のにおいに包まれて、小さな玉コンニャクのおでんをほおばったことだ。雪を見て遠い昔を思い出してみたが、今は寒さに弱く会社にも着膨れていく自分……。年取ったものです。
  出水市 川頭和子(58) 2010/1/23 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は弁天さん

アルミの鍋

2010-01-27 17:22:47 | はがき随筆
 正月に帰省した実家で久しぶりにアルミの鍋を見た。どこの家庭にも一つはあるプレス加工された薄くて軽い物ではない。
 アルミの厚さは5㍉以上はある。円柱状に成形し、下に行くほど絞られ、鍋底と側面が溶接されている。取っ手もアルミ板を曲げてびょう止めしている。
 戦後すぐアルミ溶接の腕を磨くことと、物資がない時代の貴重品として、父が勤めていた工場で造り、持ち帰ったものだ。
 台所の奥から取り出し「なかなか処分できんのよ」と母がポツリ。父は15年以上前に逝った。
職人としての姿を思い出させてくれる。我が家の遺産だ。
  鹿児島市 高橋誠(58) 2010/1822 毎日新聞鹿児島版掲載

「ドジと老化の競演」

2010-01-24 18:11:00 | 岩国エッセイサロンより
2010年1月23日 (土)

岩国市  会 員   山本 一

 包帯でぐるぐる巻きの左手を見つめる。「ドジ!」。この言葉を何度つぶやいたことか。
 年末の土曜日に階段を踏み外し、左手を手すりで強打。そのまま忘年会へ行き、午前さま。いつも通り風呂にも入った。楽しんだつけで、翌日は丸々と腫れる。

 2日後「骨折後の対応が悪いので倍はひどくなっている」と医者に言われる。寝正月となった。

 1カ月前には釣り用のキャリーで小指を負傷し、やっと癒えたばかりだ。生来のドジと加速する老化のコラボレーションが始まった。妻や娘たちの胸中やいかに。崩れかけた夫像、父親像に正月早々焦る。
(2010.01.23 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
岩国エッセイサロンより転載

日の光の中で

2010-01-21 16:53:04 | はがき随筆
 昨日はどんより曇っていたが、今日はカラッと晴れて、なんだかわくわくさわやか。
 南の廊下から外を眺める。透き通ったサッシの窓からポカポカとあたたかい日の光が差し込み、心まであたたかくなる。
 日の光を求めて外に出る。日だまりの中に座って、家を眺める。日の光の中で屋根瓦とサッシの窓がきらきら光っている。
 「本当にきれいになったね」「いつまでも眺めていたいね」
 母との会話もはずむ。
 そうこうしているうちに、日の光の中を、めいが子どもたちを連れてやって来た。日の光の中で、笑顔が重なる。
  出水市 山岡淳子(51) 2010/1/21 毎日新聞鹿児島版掲載

花咲かじじい

2010-01-21 16:45:41 | はがき随筆
 我が家の庭に河津桜2本を植樹した。梅と共に開花するこの桜を大隅半島に春を告げる花に、さらに春暖を感じさせる使者になってくれたらと思いながら植えつけた。一昨年、市の公園に植えた10本もチラホラだが昨年、花をつけた。この花のかれんさは身近に植えて慈しみたくなるはずで、輪が広がり大隅半島がその色に染まるのが、ぼくには見える。薩摩半島には大寒の時季、満開の菜の花を縫うように走るマラソン大会が温暖の地を伝える。重苦しく寒い季節を突き破るように花の便りを全国に届けられたら…鹿児島への恩返しになるんだけど。
  志布志市 若宮庸成(70) 2010/1/20 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は悠遊館さん

藍色の馬

2010-01-21 16:41:29 | はがき随筆
はしごの下りた大瓶が幾つか庭に埋めてあった。紺屋だった祖父の藍染め用の瓶で、幼いころ近づくのが怖かった。くず糸をもらってよく野球ボールを作った。今も藍色に染まった指先を思い浮かべることが出来る。
 隠居した祖父は9歳の私に将棋を教えて相手をさせた。私は面白くて夢中になった。熱戦が終わると「じいちゃん馬の絵を描いて!」とねだった。すると祖父は鉛筆をなめなめ様々な馬の姿を描いてくれた。
 30歳の時、私は初めて野性の馬を描いた。以来ずっと描いている。鈍く藍色に光る馬がなぜか私をとらえて離さないのだ。
  出水市 中島征士(64) 2010/1/19 毎日新聞鹿児島版掲載

パンツの話

2010-01-21 16:30:50 | はがき随筆
 尾籠な話だが、パンツの股上が浅くて肌に食い込み、どうにも案配が悪い。2Lから4Lにした。まるで相撲取りだが身長184㌢の私、ウエストはブ力ブカである。バスケットボールのプロ選手はダブタブのパンツでも動きやすそうで格好もいい。「大きいことはいいこと」なのだ。パンツと言えば男の60歳は厄年である。少々気恥ずかしいが、巣鴨で赤パンツを買ってくれと東京の娘にメールした。若い時は自分以外は何も信じなかったが、もはやそんな悠長なことは言っていられない。迫り来る老いに「おぼれる者はわらをもつかむ」なのである。
  霧島市 久野茂樹(60) 2010/1/18 毎日新聞鹿児島版掲載

孫の七草

2010-01-21 16:20:49 | はがき随筆
 孫をひざに抱き「七草の着物は、ばあちゃんが買ってあげるよ」と言うのが□ぐせだった。ありがたい言葉に甘えて、娘と私のお気に入りを買いそろえた。喜びはしゃぐ孫の晴れ姿を満足そうに目を細めて眺めていた祖母。32年前のことである。そして今年は娘の長女が七草を同じ着物で祝うという。肌着に少し染みがあるものの振り袖は当時のままで、時を経ても古さが新しく見えるから不思議だ。孫は背が高く裄や腰丈を調節すると大柄の模様がよく似合った。おとなしくうつむき、並んでお払いを受けている家族の後ろ姿に、今は亡き母を忍んだ。
  薩摩川内市 田中由利子(68) 2010/1/17 毎日新聞鹿児島版掲載