はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

みち代先生

2018-07-31 17:06:08 | はがき随筆


 小学生時代の先生が施設に入所されている。
 施設の玄関ドアの外側に金魚鉢が置いてある。中にはメダカが数匹泳いでいた。これも先生の所有と聞いた。
 昔の話が次々出てくる。あんなこと、こんなこと、記憶力抜群の先生で、今日も私は小学生。84歳の生徒である。
 思えば戦争の真っ最中、空襲警報が鳴るたびに、何回授業中止で避難したことか。みんな必死で生きてきた。それも今はすっかり忘却の彼方にある。
 今日の授業は社会科で、日常のあれこれ忘れて気も晴れた。メダカも元気、つーい、つい。
  宮崎市 黒木正明(84)2018/7/31 毎日新聞鹿児島版掲載

有明海

2018-07-30 11:39:37 | はがき随筆


 子供のころ、父は私を有明海の潮干狩りに連れて行ってくれた。獲物は、タコ、シャコ、穴子、赤貝、タイラギ、こぶし大の巻貝など。帰りに、アサリとワキャ(イソギンチャク)、そして海藻をとって帰った。当時の有明海は生命に満ちあふれていて、潮だまりには、たくさんのムツゴロウ、小魚、エビ、カニなどがうごめいていた。しばしば、連なったカブトガニを見ることもできた。
 父と行く潮干狩りは豊漁で、夕食には有明海の幸が並んだ。
 今の子供たちに、あのときの有明海を体感させてあげたいと、切に思う。
 熊本県北区 岡田政雄(70)2018/7/30 毎日新聞鹿児島版掲載

孫娘とのメール

2018-07-30 11:28:14 | はがき随筆
 「今日は午後、入寮式があって、寮生活が始まったよー」。高校進学した孫子からのメールである。「みんなと仲良くしなさいよー」。一人っ子で育った孫がうまく生活できるのか心配である。
 翌朝「じーじ、今日は入学式だよー」。なんと早朝6時半、朝寝坊の孫は緊張しているのだろう。「入学おめでとう。たくさん友達作って高校生活を楽しんでねー」。あえて勉強のことには触れなかった。
 甘えん坊でわがままに育った彼女が高校生だ。連休には遊びに来るとのメール。報告を楽しみにしている。
  鹿児島県志布志市 一木法明(82)毎日新聞鹿児島版掲載

こんにゃく作り

2018-07-30 11:21:05 | はがき随筆


 数年前に植えた種芋が椀の大きさまで育った。年配の知人に教えてもらった手順通りに、昔ながらの手作りこんにゃくに挑戦する。
 芋を2㌢角にきり、ゆでた後、皮をむきミキサーで粉砕。湯を加えながら汗だくで練り上げること30分。炭酸を加え再び固くなるまで練り続け、四角い器に一晩寝かせ、一枚ごとに切り分け、ゆでて出来上がり。
 早速、刺し身こんにゃくにして酢みそで試食。おいしい。手間をかけた分、何かブラスαされ満足感にみたされる。ゆっくりと時間が流れ、幸せな挑戦の一日だった。
 宮崎市 高橋厚子(68)2018/7/28 毎日新聞鹿児島版掲載

証拠隠滅

2018-07-30 11:11:50 | はがき随筆
 隣の子供たちの気配がしない。こんな時はろくなことをしていない。のぞいてみた。
 部屋の真ん中に1歳半の娘が仁王立ち。足元には水たまりが……。あっと思う間もなく、娘が脱いだズボンで拭き始めた。4歳の兄は台所へ走り、手ふきタオルを調達して拭いてやっている。「楓ちゃん、これで大丈夫だよ」。兄は洗濯かごにタオルとズボンを入れた。
 見て見ぬふるをしていると、2人は何事もなかったように「ママー、おやつ食べるう」。「ドーナツでいい?」。2人は満足げにかぶりついている。1人は下半身スッポンポンだったが。
  熊本市南区 藤原美穂子(37)218/7/27 毎日新聞鹿児島版掲載

磨崖仏

2018-07-26 18:22:23 | はがき随筆
 ひょんな散歩から知った茂頭の観音さまには4.5年前から月初めに必ず詣でている。何故そうするようになったか不明であるが、確かお礼詣でより続いている気がする。
この観音さまは天然の凝灰岩に刻まれた磨崖仏であり、そこに在すると、なぜか心落ちつき、自分がいかされていることを感じる。
 先日、阿多火砕流の現地見学会があり、講師が市南部地区では石に刻まれた仏像が多いことを話されていた。最近の殺伐とした時世に昔の人が石仏に刻んだ願いを思い、皆さまもぜひ詣でて欲しい磨崖仏である。
  鹿児島市 下内幸一(69)2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

ツバメは縁起物

2018-07-26 18:12:46 | はがき随筆


 今年もツバメが我が家の納屋で巣作りを始めた。私が嫁に来たずっと昔かららしい。親鳥は泥土や枯れ枝をくわえて、一度電線に止まり危険が無いのを確かめ、一直線に巣の所に飛んで行く。じっと見ている私は天敵ではないようだ。不幸や災いが起こる家には入らない。巣作りは縁起が良いと聞く。つらい時の助けが何度もあった。ツバメは縁起物の気がしてきた。
 育児に悩み、生活に追われていた頃、「久美さん、今日やっと最後のツバメが巣立ったよ。ツバメの世界も手のかかる子はいるもんじゃね」。亡き義父の30年前の言葉を思い出した。
 宮崎市 津曲久美(59)2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

珍姓ドライバー

2018-07-26 18:05:35 | はがき随筆
 よく乗るバスで珍しい姓のドライバーが気になっていた。
 先日、最前列に座れたので信号待ちの際、声をかけた。「50年ぐらい前、松橋に勤務していたけど、貴殿と同性のドライバーによく乗り合わせた」
 すると驚いた顔で「それ、おやじですよ」。「納得。接客のよさは父子相伝なんですねぇ。お元気ですか」「昨年、交通事故で……」想定外の答えに絶句した。
 ほどなく下車する停留所に。複雑な気持ちを抑えながら「また乗り合わせたいですねえ」とお礼を言ってカードをタッチした。
 熊本県東区 中村弘之(82)2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

つばめ

2018-07-26 17:58:27 | はがき随筆


 地上スレスレから舞い上がり巣に戻る、を繰り返す。巣の完成をつばが喜んでいる。ヒナを蛇から助けてもらい、網を張り烏から守ってもらったことを忘れず今年も飛来した。床屋のマスターが喜んでいる。彼の喜びに感染し約4週間、抱卵、子育てにおつき合いをする。
 餌受け渡しの素早さに感嘆。舌を巻き、お尻を突き出してフンをするかわいさにフフフと笑い、網に止まりひと休みしているけなげなつがいに「お疲れ様、偉いね」と声をかける。
 ヒナが巣立ち、つがいは2度の子育ての準備中だ。一生懸命生きるつばめがいとおしい。
 鹿児島県鹿屋市 伊地知咲子(81) 2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

遠い電話

2018-07-26 17:49:49 | はがき随筆
 「S子さんが死んだ」。ひとしきりおしゃべりを済ませると、電話の相手は付け加えるように言った。3人は四日市の短歌仲間。「私も赤毛のアンが好きよ。文学少女だった」。S子さんは目をくりくりさせて表情豊かに良く通る声で言った。「30半ばでアンが好きって恥ずかしい」。私の言葉に同調してくれた。
 「若く見えたけど80だって」「嘘お」「いい声してたでしょ。前に詩吟もされてたから。読み聞かせの会では狼男やお婆さんが得意だったそうよ」「可愛い人だったわ」「そうね」。電話は1時間を超えた。
 宮崎県延岡市 佐藤桂子(70)2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

命という舟

2018-07-26 17:40:42 | はがき随筆
 「命は目では見えません。でも見ることはできます」。びっくりして読み返しました。日野原重明先生の本の中の言葉です。その答えは「命は時間です」。
 1分1秒と二度と帰らない時の流れは誰も止めることはできません。時の流れの中で命の舟をこいでいるかのようです。
 舟を無事にこいでいくにはかじ取りが大事で、そのかじは心ではないかと思います。雨の日も風の日も待ってくれない時の流れを、明るく楽しく感謝の心で突き進むところに命の舟が安全に行けるように思います。時間こそ命。自分に言い聞かせています。
  熊本県八代市  相場和子(91)2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

あぜ道

2018-07-26 17:32:00 | はがき随筆

 「お前が先に行きなさい」
 田んぼのあぜ道を母は、私を先に歩かせた。幼稚園に路線バスで通っていたころのことである。黄色バッグを肩に毎朝、停留所へ向かって母と歩いた。
 ある日「なんでぼくが先?」
と聞くと「ヘビが出るから」との答え。あぜ道は一尺くらいの幅。左右は草が生い茂っている。飛び出てくることはないけれど、道を塞ぐように、でぇーんと横たわっててることもある。
「最初の人には気がつかず、2番目の人にかみつくんじゃないの」と屁理屈を言って見た。すると母は前を歩き始めた。始めて母を可愛らしいと思った。
  鹿児島県出水市 山下秀雄(49)2018/7/26 毎日新聞鹿児島版掲載

二役のババ

2018-07-26 17:16:23 | はがき随筆


 小2と4歳の孫は両親の仕事の関係で我が家で風呂と夕食を済ませる。お迎えが来る前の時間に宿題やままごとをする。
 最近、夕食後の一時をトランプで過ごすことにした。初めに教えたのはババ抜きであるが孫にはババとばあばのイメージがつながらないようである。ババは疫病神、悪役だからである。しばらくして教えたのは七並べではババはカードのない窮地を助ける切り札の役目として登場するので2人とも大いに納得。
 孫はカードの魔女みたいな絵とばあばの顔を不思議そうに見比べているが、私にはカードにある絵柄の妻も納得できる。
 宮崎市 杉田茂延(66)2018/7/25 毎日新聞鹿児島版掲載

中国のリニア

2018-07-24 22:07:06 | はがき随筆


 日本ではリニア中央新幹線が建設中で、リニアモーターカーが試運転中だが、お隣中国上海には既にリニアモーターカーが走っており、それを体験しようと先日現地に行ってきました。
 団体旅行だとバスで案内されますが、あくまでもリニアに乗りたかったので個人旅行。空港の建物からリニアの駅は直結しており、初体験。
 最高時速431㌔。モノレール方式で脱線しないように車輪を固定させ、東京・モノレール並み。今回はなんと435㌔を記録。所要時間7分の旅でした。
 熊本市中央区 小松一三(83) 2018/7/24 毎日新聞鹿児島版掲載

免許証

2018-07-23 06:58:08 | はがき随筆
 


車の運転どうしよう、と悩んでいると「やめてもいいのよ」と妻はつれない。そうあっさり返事されると、未練が残る。教習所に通い始めたのは、確か40代。若い教習生に交じり、何度も憂き目を見た。坂道発進が苦手で、「もう、明日から行かない」と妻にグチッた日もあった。やっとの思いで手にした悲願の免許証なのだ。今日までなんとなく持ち続けられたのは、鬼教官のおかげかも。そう簡単には手放せないなあ。
 近年、高齢者のうっかりミスが多い。妻に「ダメと気づいたら教えて」と頼むと、「なら今返納して」と厳しい。あ~あ。
  宮崎市 原田靖(78)2018/7/22 毎日新聞鹿児島版掲載