2011年10月27日 (木)
岩国市 会員 吉岡 賢一
この秋、五十数年ぶりに本格的な稲刈りに汗を流した。同級生の友の作業の手伝いなのだ。
彼は農家の養子だが、繊維製品会社に勤めた後、文字通り定年後の六十の手習いで、約5千平方㍍に及ぶ米作りに挑んだ。
その悪戦苦闘ぶりを同級生が集まる飲み会のたびに聞いていた。
昨年までは「あまり無理をするなよ」と冷やかし半分で終わっていた。
今年4月、そろそろ古稀を迎えるに至り、彼らと語らって「体力減退はお互い様。少しでも手を貸そうではないか」と手伝うことにした。
私の場合、本格的な稲刈りは小6の時以来のこと。足手まといにならないようにすれば、枯れ木も山のにぎわいだ、それらしい仕事があるだろうと開き直ってもう1人と一緒に臨んだ。
先月末、現場に着くと「これがあんたたちの仕事」とカマを渡された。
コンバインがターンしやすいように田んぼの四隅を手で刈り取る。
「こうやれば簡単だから」と3株か4株刈るのを教わった。手伝った2人の作業は夕方まで続き、16カ所も手で刈り終えた。
「ありがとう、お陰で仕事が3倍はかどったよ」と彼の声は弾む。
こちらは体調回復に3日はかかったが、あの笑顔ですべて帳消し。
出会いから半世紀以上。愚痴も自慢も織り交ぜて、いまなおさりげなく寄り添える友は、稲穂に勝る黄金色の輝き。
2011.10.27 朝日新聞「声」 テーマ「親友」 掲載
岩國エッセイサロンより転載