絵話塾だより

Gallery Vieが主宰する絵話塾の授業等についてのお知らせです。在校生・卒業生・授業に興味のある方は要チェック!

2023年1月28日(土)文章たっぷりコース第4期・5回目の授業内容/高科正信先生

2023-02-03 17:48:08 | 文章たっぷりコース

前回の授業(1月14日)から後に高科先生ご夫婦も、生徒さんの一人もコロナに感染して発症されたということでした。

この日はもう症状は落ち着いておられましたが、他にも年末年始に発症してまだ後遺症が残っている方もいて

いつどこで誰が感染するか分からない時代になりました。いろんなことがありますね〜という話から始まりました。

10年に一度の大寒波もやってきて、北海道では渡り鳥が飛び立つときにさざなみが立って、水面が凍ってしまい

鳥の脚が凍りついて取れなくなって…といかにもわざとらしいお話をされるな〜と思って聞いていたら

どうやら落語の「弥次郎」だったようです。高科先生はいろんなことを知っておられますね!!!

さて、この日の授業は「行って帰ってくる話」というテーマでした。

子どもの文学には、ここから どこか知らない ここではない所 に出かけて

そこで事件が起こり、それを解決して、ここに戻って来る話がとても多いのだそうです。

 

1937年に出版されたJ・R・R・トールキンの『ホビットの冒険』は、ファンタジーの古典として有名な作品で

1965年に岩波書店から瀬田貞二の訳で出版され、1997年に原書房からは山本史郎訳で出版されました。

双方は原文の違うバージョンを元にしていたり、時代の推移とともに言葉使いが変わったりと

ずいぶん雰囲気が違う書物になっているようで、高科先生は瀬田訳の方を支持されているとのことでした。

  

瀬田貞二は日本のこども本の第一人者で、『幼い子の文学』(中公新書)など、講座の内容をまとめた書物も出しています。

この本の中には、幼い子が好む物語にはある構造上のパターン(行って帰ってくるお話)があると書かれています。

マージョリー・フラックの『アンガスとあひる』(瀬田貞二 訳・福音館書店)には

アンガスの居る場所〜日常(安心安全で保護されている場所・退屈?)と、

アヒルたちが居る場所〜非日常(よく分からない未知の領域・危険?)または「新しい経験領域」を

行き来する物語が書かれています。この場合、中央にある生け垣が分水嶺といえます。

左起こし・横書きの絵本ですので、左から右へと時間が進んでいきます。

  

それから、モーリス・センダックの『かいじゅうたちのいるところ』( じんぐうてるお 訳・冨山房)を読み聞かせてくださいました。

 

この本で特徴的なのは、絵の大きさです。

お話が進むにつれてだんだん絵が大きくなって、読み手も物語の世界に入っていくような気分になれるのです。

そしてここで注目すべきは、異世界に赴く方法です。

アンガスの場合は生垣を越えてアヒルのいる場所へ行きますが、『かいじゅうたちのいるところ』のマックスは

目を閉じて想像するだけで、たやすく異世界(空想の世界)に赴き、帰ってくることができるのです。

ここで大切なのは、アンガスにしろマックスにしろ、別の世界へ “行く必要がある” ことです。

こういう物語は必要性がないのに行って帰ってくることはありません。

ある必要から別の世界へ行きますが、それが満たされると元の世界へ帰ってくるのです。

大雑把に言うと、絵本でも物語でも、こういうパターンでできています。

J・K・ローリングの『ハリー・ポッター シリーズ』(静山社)も、最初のうちは同様のパターンだったのですが

人気が出て、映画になったりしているうちに、帰ってこないでずっとあちらの世界に居る話に変わってしまいました。

こういう物語の場合、異世界に行くためには必ずある “仕掛け” が必要です。

例えば扉、あるいは古い大きな衣装箪笥…と、C・S・ルイスの『ナルニア国物語』(全7巻 瀬田貞二 訳・岩波書店)を紹介してくださいました。

その仕掛けこそが境界線(三途の川)であり、そのこちらが此岸(聖者の世界)、向こう側が彼岸(死者の世界)なのです。

だから、子どもの文学では向こう側に行っても必ず帰ってこないといけないのです。

昔からあって今の子どもたちにも読まれている絵本ということで、

『おしいれのぼうけん』(ふるたたるひ 著・童心社)と『100万回生きたねこ』(佐野洋子 著・講談社)がある、と紹介してくださいました。

   

元々本を読んだり映画を見るということは、ここではないどこか連れて行ってくれる楽しみを見出してくれるものですが

ウディ・アレン監督の『カイロの紫のバラ』では、ヒロインが映画の世界に入り込んでしまうお話になっています。

休憩を挟んで、授業の後半はテキスト『文章のみがき方』(辰濃和男 著/岩波新書)の「Ⅱ さあ、書こう」から、

「1. 辞書を手元に置く」「2. 肩の力を抜く」のところを皆で音読していきました。

文章を書くとき、辞書を手元に置いて、分からない時・迷った時に確認することは必須です。

例えば「うとうと」と「うつらうつら」の違いや、「特徴」と「特長」の違い、漢字の正しい送り仮名など

人の目に触れる文章を書くときは、辞書を引いて確認してから書く習慣をつけましょう。

たとえば『朝日新聞の用語の手引き』(朝日新聞社用語幹事 編・朝日新聞出版)など、各新聞社から出ている記者用の手引きは

間違いやすい慣用句や送り仮名、カタカナの使い方など、知りたいことがまとまっていて便利です。

高科先生は「新明解国語辞典」(三省堂)がお好きで、愛用されているそうですが

他にも類語辞典や逆引き辞典、難語辞典など、興味深い辞書があると言って

『エモい古語辞典』(堀越英美 著・朝日出版社)を紹介してくださいました。

 

そして「2. 肩の力を抜く」では、まず机の前に座って毎日何かを書くことを心がけるように

と書かれています。

武田泰淳が妻の百合子に「何も書くことがなかったら、その日に買ったものと天気だけでもいい」と言ったそうです。

「自分の書きやすい方法で、肩の力を抜いて書けば良い」と。

そうして書かれた日記が、後に出版されることになり、多くの人に読まれることになったのです。

前々回の課題にもありましたが、散歩をすると書くことが見つかることがあります。

書くために散歩をすると、今まで意識していなかったことを発見したり、記憶に留めることがあるからです。

宇野千代も気楽に文章を書き始めることを薦めており

①毎日机の前に座る。

②うまいこと書いてやろうなどと思わずに、なんでも良いから書く。

③最小限度の単純な言葉で、自分の見たもの・聞いたもの・感じたものを素直に書く。

などを心がけるようにと言っています。このくらいなら、できそうではないですか?

最後に、今回は「掌編を書く」という課題が出ました。掌編とは、短いお話(作り話)という意味です。

短編より、ショートショートより、もっと短いストーリーを原稿用紙3枚程度で書いてください。

何もないと書きにくいかもしれないので、

主人公が散歩に出かけ、途中で何かに出会い〜〜〜〜終わる。という

始まりと展開、終わりのある、コント的な?「作り話」を考えることに挑戦してください。

参考に、星新一の『へんな怪獣』(理論社)に収録された作品を紹介してくださいました。

提出は、次回11日(祝)の授業の時です。

よろしくお願いいたします。

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2023年1月14日(土)文章たっぷりコース第4期・4回目の授業内容/高科正信先生

2023-01-24 16:48:21 | 文章たっぷりコース

この日は最初に「今日のテーマは、『子どもの現実』です」とおっしゃって、

2010年前後に掲載された朝日新聞の連載記事「世界の貧しさと闘う」から、

⑦トットちゃんの恩返し と ⑧国連目指す貧困層半減 を見ていきました。

世界には内戦や飢餓で苦しむ子どもたちが大勢いて、ユニセフの親善大使・黒柳徹子さんのように

彼らを救おうと活動している人がいる反面、日本の子どもたちも7人に1人が貧困にあえいでおり

一日のうち学校の給食でしか満足に食事を摂れない子がいるという現実があります。

地域の「子ども食堂」などでそれをカバーしようとする動きもある一方、

最近は親による子どもたちへん虐待が問題になっています。

20世紀の大哲学者・サルトルの言葉に「飢えて泣く子の前で、文学は可能か?(成立するか・機能するか)」

というのがあります。

飢えて泣く子どもに必要なのは、空腹を満たす温かい食事であり、ゆっくり休める家であり、

病気を防ぐワクチンであり、病気を治す薬や医療でしょう。

日本で子どものための文学や芸術に携わる人は、阪神や東北の大震災の時にそのことを思い知らされました。

震災当時、被災者とって文学や芸術は何の力にもなりませんでした。

ところが、だんだん落ち着いてきた頃には、本が読みたい子どもが現れたのです。

そこで作家たちは、ひょっとしたら何かできることがあるかもしれないと思い

協力して、創作活動に励むことにしたのだそうです。

世界では5歳まで生きられない子どもが大勢います。

その歳まで生きられたら、今度は教育を受けることができるようになります。

教育を受けて知識を得ると、もっと長く生き延びることができるようになるのです。

ところが、ある国(宗教)では “女性には不要” だとして、教育を受けさせてもらえないのです。

  

ここで、ベッツィ・バイヤーズを紹介していただきました。

バイヤーズは70年代頃から活躍するアメリカの作家で、思春期の子どもたちの心情や成長を描いた作品が多いのですが

『うちへ帰ろう』(谷口由美子・訳/今井弓子・絵/文研ジュベニール出版)は、それぞれ家庭環境に問題のある3人の子どもたちが、養子に入った先の家で家族として暮らすうちに変化が訪れるというもの、

『名前のない手紙』(谷口由美子・訳/むかいながまさ・絵/文研ジュベニール出版)は、12歳の子どもとそのシッターである若い女性のひどい現実を描いているものだそうですが、いずれも読後は爽快で

子どもの文学にとって、生きる希望を与えることが重要であり、この世は生きるに値する世界だと教えることが重要だということです。

大人が幸せでも子どもが幸せとは限りませんが、子どもが幸せなら大人も幸せになれます。

いま我が国でも子ども予算と軍事費が重要な課題になっていますが、考えないといけない時期に来ているのではないでしょうか。

 

その後、ガブリエル・バンサンの絵本を紹介していただきました。

バンサンはベルギー出身のアメリカの絵本作家で、80年代に『アンジュール』(BL出版)という文字のない絵本で

日本でも有名になりました。彼女は類い稀なデッサン力で、単色の線画だけで犬の動きや感情を表現したのです。

他にもやはりデッサン絵本『セレスティーヌ』(BL出版)や、同じ登場人物によるこちらは色も文字のある絵本のシリーズ

「くまのアーネストおじさんとネズミのセレスティーヌ」(もりひさし・訳/BL出版)があります。

  

休憩を挟んで、教科書『文章のみがき方』(辰濃和男 著/岩波新書)から、

6. 現場感をきたえる と 7. 小さな発見を楽しむ の箇所を見ていきました。

6. について、「現場」とは自分で五感の営みがおこなえるところ全てとしたうえで

例に上がっている 江國香織、レイチェル・カーソン、開高健 の文章を読み

①視覚だけでなく聴覚・触覚・臭覚・味覚など、全感覚を鋭くはたらかせて書く。

②現場での「驚き」が伝わってくるような文章を書きたいが、思いが強すぎて課題な表現になってはいけない。

③細密な描写を心がける。たとえそれが目を背けたくなるようなシーンでも、それが現場である。

④現場では、人の見ないものを見る努力をすること。

などを重視しましょう、とのことでした。

他に、川島誠や河野貴美子の作品も紹介していただきました。

   

7. については、教科書で例に挙げられていた向田邦子のエッセイ『男どき女どき』(新潮社)から

「ゆでたまご」「草津の犬」を読んでいきました。

彼女が日常の瑣事に強い好奇心を持ち、何かを発見して面白いことを見つけ、

長い間大切にしまいこんで、後日それを作品にする才能の持ち主だったそうです。

その根底にあるのは「本質を見る目」です。

遠いところを見ることができる人や、動体視力に優れた人がいるように、

作家や詩人には彼女のように物事の深いところを見る「洞察視力」が優れた人がいます。

文章を書くうえでこの「洞察視力」は重要で、この力はきたえればきたえるほど強まっていきます。

きたえる方法としては、①ものごとを良く見る ②見たものを文章にする ③人の書いたものを読む

のが良いでしょう。

 

最後に、今回の課題は「わたしについて書く」です。

・私はこういう人である

・私はこういう問題を抱えている

・私とはそもそも何者であるか

等々、考察してください。創作でも良いです。長さや型式も自由です。

書くにあたって、役物(、。「」など)の使い方をまとめたプリントをもらって、この日は終わりました。

さあ皆さん、配られた資料を手引きにして、今日教えてもらった現場感覚のある、洞察視力に優れた文章を書いてください。

よろしくお願いいたします。

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2022年12月10日(土)文章たっぷりコース第4期・3回目の授業内容/高科正信先生

2022-12-14 16:43:57 | 文章たっぷりコース

この日は、前回の課題が「もしも子どもに戻れるとしたら、あなたは戻りたいですか?戻りたくないですか?」だったことから、「もしも願いが叶うなら」とうテーマから始まりました。

高科先生が現在進めておられる次回の作絵本も、「誕生日に何か一つだけ買ってもらえるなら何が良い?」という内容のものだそうです。

子どもの願いというのは、「幸せになりたい」「幸せな毎日を過ごしたい」というものが多く、それで子どもの文学には「幸せとは何か?」「どうしたら願い事が叶うのか」というテーマの作品が多いのだそうです。

このテーマで書かれた本として画期的だったのが、1902年に出版されたイーディス・ネービットの『砂の妖精』(講談社 青い鳥文庫)と、1952年に出版されたE・B・ホワイトの『シャーロットのおくりもの』(あすなろ書房)です。

  

いずれも出版当初は酷評されましたが、それまでのお話に登場していたいわゆる「良い子」ではなく、生身のやんちゃな子どもたちが、日常でファンタジー(魔法)を演じるというおもしろさに、現在まで読み継がれている人気作となりました。

他に、マリー・ホール・エッツの『わたしとあそんで』『もりのなか』『またもりへ』(いずれも福音館書店)も、子どもが動物とおしゃべりをしたり、遊んだりするさまが描かれています。

   

子どもたちが置かれる「幸せの形」はさまざまで、絵本や文学・映画の中にもたいろいろ描かれており、マコーレー・カルキンが出ている映画『マイ・ガール』も、少女が幸せになる方法を探しながら成長していくお話です。

1870年代にトルストイは『アンナ・カレーニナ』の冒頭で、「幸福な家庭はすべてよく似たものであるが、不幸な家庭は皆それぞれに不幸である」と言いましたが、1930年代になるとエーリッヒ・ケストナーが『ふたりのロッテ』(岩波書店)の中で、「不幸な家庭は一様だが、幸せな家庭はさまざまだ」と言っています。

この他に、『きょうはカバがほしいな』(著 E・ボルヒャース/絵 W・シュローテ/偕成社)や『まつげの海のひこうせん』(山下明生/偕成社)の絵本も、男の子の気持ちがよく描かれていると、読み聞かせてくださいました。

どの本も、「どうしたら幸せが見えてくるのか」が描かれている作品です。

休憩を挟んで、教科書『文章のみがき方』(辰濃和男 著/岩波新書)からは、4.乱読をたのしむ と 5.歩く の箇所を見ていきました。

絵本・料理本・寄稿文・エッセイなど、日本語で書かれたいろんなジャンルの本を乱読すると、自分の世界を広げることができるし、未知の世界に出会うことで脳の働きに刺激を与えることができるのだそうです。

例として、寺田寅彦のエッセイ集『科学と科学者のはなし』(池内了 編/岩波少年文庫)から、1918年に書かれた「瀬戸内海の塩と潮流」の箇所を見ていきました。

 

科学的な内容ですが、鳴門の渦潮など我々も知っている現象について掘り下げて書かれていて、読み物としても大変おもしろいものでした。

乱読といっても自分の専門分野ではない本に手を出すのは難しいので、例えば人に勧められたものや、新聞の書評などを読んで試してみるのが良いでしょう。

それで、先生は授業の中でさまざまな書物や漫画、映画などを紹介しているのだとおっしゃっていました。

「最後まで読み切らない “ 積ん読 ” でも良いのか?」という質問には、読書の仕方は人それぞれなので、蔵書に囲まれて亡くなった草森紳一のような人も居る(随筆『本が崩れる』中公文庫)から大丈夫だと教えていただきました。

また、歩くと何かに出会ったり、思いついたり、考えがまとまることがあります。

日頃から散歩を習慣にすると、文章を書くのにきっと役立つでしょう。

ということで、今回の課題は「散歩をして、その時に実際に見つけたもの、聞いたこと、漂った匂いなどに気を付けて書く」です。

型式や長さは自由ですが、筆者が体験したことを読み手に分かってもらえるようなものになれば良いですね。

提出は、年が明けて1月14日の授業時です。寒いですが、バーチャルでなく実際に外を歩いて書いてくださいね。

よろしくお願いいたします。

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2022年11月26日(土)文章たっぷりコース第4期・2回目の授業内容・高科正信先生

2022-11-29 18:53:12 | 文章たっぷりコース

この日はドイツに勝利したばかりだったので、サッカーの話題から始りました。

なんと!高科先生は、学生時代サッカー部で10番を付けておられたそうなんです。

ですから、今までの日本サッカー界のことをマニアックにお話ししてくださるとともに

選手一人一人にドラマがあることがすばらしいとおっしゃり、それを踏まえて

灰谷健次郎の『ひとりぼっちの動物園(集団読書テキストA33)』(全国学校図書館協議会)を紹介してくれました。

「人間は一人一人にかけがえのない人生があり、人を愛するということはその人の人生を知ること」だそうです。

授業の前半は、河合隼雄の『子どもの宇宙』(岩波新書)から「はじめに」のところを見ていきました。

「一人一人の子どもの中には、無限の広がりと深さを持つ宇宙が存在しているのに

大人になるにつれてそれを忘れ、気づけばなくなって、忘れてしまう。」と言うのです。

そこから、大島弓子の短編集『つるばらつるばら』(白泉社文庫)に集録された『夏の夜の漠』の話題になりました。

 

人間の年には実年齢と精神年齢がありますが、作品の中で主人公の小学生の男の子が大人の姿で描かれ、

周りの大人たちが子どもの姿で描かれています。

『つるばらつるばら』より以前に出版された、大島弓子の代表作『綿の国星』(白泉社文庫)では仔猫が小さな少女の姿で描かれています。

このように、大島弓子は1970年代から時代を先取りした作家(漫画家)でした。

そして、マリー・ホール・エッツの『もりのなか』と『またもりへ』(いずれも福音館書店)を読み聞かせてくださいました。

  

これらの絵本の文章は、「そして」「それから」などの接続詞を多用しています。

子どもがこのような文章を書くことを、教師はあまり良しとしないのですが

評論家の川本三郎は『絵本の時代』というアンソロジーの中で

「子どもの書く繰り返しの文章こそ、退屈どころか出来事の豊かさに驚き、

言葉がもどかしくて書くのが追いつかない状態である」と言っています。

続いて、ウクライナの民話『てぶくろ』(絵=エウゲーニー・M・ラチョフ/福音館書店)を読み聞かせ。

おじいさんの手袋がどんどん大きくなっていくのを、子どもたちの宇宙のように非常に柔らかくふくらんでいくとおっしゃいました。

そしてここでも川本三郎の言葉を引用して、

「絵本というのは、教育やしつけのためにあるのではない。絵本は子どもをここではないどこかへ連れていってくれるものではないか」と

子どもたちの素晴らしい想像力で、絵本がより深く・おもしろくなることを知りました。

 

授業の後半は、テキスト『文章のみがき方』(辰濃和男 著/岩波新書)から

「3.繰り返し読む」のところを皆で音読していきました。

村上春樹がアメリカの大学で日本文学を教えていた時、学生たちに以下のことを要求したそうです。

①一冊の本を繰り返し読む

②その本を好きになる努力をする

③読んでいるうちに疑問に思ったことをリストアップする

そうしていくうちに、内容だけでなく文章の書き方やリズムが自分の中に入って

一読しただけでは分からなかったことに後で気づくことがある…本とはそういうものなのだそうです。

子どもは気に入った絵本があると、何度でも読んでほしがります。

たとえそのお話をすべて覚えていても、読んでもらうことで安心できるからだそうです。

ここで、テキストにも出てくるドロシー・バトラーの『クシュラの奇跡』(のら書店; 普及版)のことを教えていただきました。

ニュージーランドの若い夫婦の間に生まれたクシュラは、生まれつき重い障害を持っており

視覚も聴覚の機能も不十分で、自分の感情を伝えることもできませんでした。

そんな彼女に周囲の人が熱心に絵本を読んであげたところ、3歳の時の検査で知力が標準以上だということが分かったといいます。

小さい子どもの時から一冊の本を繰り返す読むのが良いことなら、それは大人にも通じることではないでしょうか。 

最後に、今回の課題です。

「もしも子どもに戻れるとしたら、あなたは戻りたいですか? それとも戻りたくないですか?」

という問いの答えを、第3者にもわかりやすくまとめて書いてください。枚数もフォーマットも自由です。

どうやって子どもに戻るかはSF的に考えてもいいし、創作になっても結構です。

「子ども」の範疇であれば、いくつの時に戻るかも、環境が実際と違っていても構いません。

次回の授業は12月10日(土)ですので、この日に提出してください。よろしくお願いいたします。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2022年11月13日(土)文章たっぷりコース第4期初回の授業内容・高科正信先生

2022-11-13 19:20:06 | 文章たっぷりコース

文章たっぷりコース第4期が始まりました。

毎年少しずつ違う内容で授業を進めていくこのコース。今期は、

①先生が児童文学作家なので、その視点で子どもの本と絵本についての話を中心に

②『文章のみがき方』(辰濃和男 著・岩波新書)を教科書にして

③毎回異なる課題が出て、それぞれが書いたものを先生に提出してアドバイスを受ける

という感じで進めていくと説明がありました。

そして、見学の方も含め全員にどうして文章クラスに入ろうと思ったのかを聞いていきました。

それぞれがいろんな思いを胸にこの教室に来ていると知って、気持ちが引き締まる思いがしました。皆さんにとって充実した一年(実質8ヶ月)になりますように!

さてそれでは早速子どもの本についてのお話を。

今日のテーマは「子どもの本を開く」です。

最初は、1959年にアメリカで出版されたレオ・レオニの『あおくんときいろちゃん』の読み聞かせです。

出版された当時、可愛らしい絵が一枚もないこの本は「これは絵本ではない」と批判を受け、大人や親たちからは支持されなかったのですが、子どもたちの評判は上々だったそうです。

そのうち、20歳前後の若者に読まれ始めるようになります。

ベトナム戦争で傷ついた若者たちはこの絵本に癒され、こんな風に生きたいと思ったのでした。

SNSなどなかった時代に口コミで若者たちの間にどんどん広がり、「ぼくといっしょにみどりになろう」という言葉でプロポーズすることが流行するほどだったとか。

 

『あおくんときいろちゃん』が1967年に日本で出版された時、これを読んで感銘を受けたのが田島征三です。

彼はいてもたってもいられず、新聞広告の裏に日本画の絵の具と膠で絵を描き

『しばてん』という手作りの絵本を11冊作って、友だちに配りました。

その中の一冊が今江祥智の手に渡り、1971年の出版に至ったそうです。

荒々しい絵、暗い・重い内容のこの本を、子どもたちに与えることができるのかと

迷いながらある幼稚園で読み聞かせた時、ある女の子が小さい声で「太郎ちゃんがかわいそう。わたし太郎ちゃんと結婚する!」と言い出し、それからは「私も」「私も」の大合唱になったのだそうです。

最後に、一人の男の子が「太郎ちゃんを連れていくな〜!」と言いながら先生のところに来て、絵本の中で太郎を連れていく役人が乗った馬のお尻を拳で叩いたのだとか。

そこで先生は子どもたちに、田島さんにお手紙を書くように促して

子どもたちは、次に絵を描くときは馬の上に役人の姿を描いてほしいと訴えたのでした。(叩かれるべきは、馬ではなく役人なので)

この2冊の本を読んで、絵本ってすごいなーと思った若者・長谷川集平は、『はせがわくんきらいや』(1976年すばる書房・2003年復活ドットコム)を出します。

全編モノクロ、手書き文字、関西弁で書かれたこの本は絵本の概念を変え、空前の絵本ブームが到来します。

 

もう一冊。最近先生が購入した『1まいのがようし』(長坂真護 著・あかね書房)を読み聞かせてくださいました。

美術家の長坂真護が、電子機器のゴミ拾いをして生活しているガーナの子ども達を主人公に描いた本作は、一見寓話のようですが、作者は実際に彼らをモチーフに描いたアート作品を売ったお金を現地に還元しており、経済と夢と情熱について子どもにも分かるような作品になっています。(現代風「アリとキリギリス」かも?)

子どもの本は大人が読んでもおもしろいものですが、大人の本が「生きるとは?」「死とは?」と問いかける文学なのに対し、子どもの本は「人生とは〇〇」「幸福とは△△」と問いの答えが書いてあり、(どんな人でも)この世は生きるに値すると教えてくれるものなのです。

宮崎駿も、著書の中で「この世は生きるに値するところだと伝えるのが、自分のアニメーションである」と言っています。これは高科先生自身の作品のテーマも同じ。

幸せの有様はそれぞれであるけれど、本を開けば物語の世界に入っていけ、この世は生きるに値すると思わせてくれるものが、子どもの本ではないでしょうか。

後半は、今期の教科書『文章のみがき方』を皆で交代で音読していきました。

今回は「まえがき」と「Ⅰ. 基本的なことをいくつか」から

「1. 毎日、書く」「2. 書き抜く」を見ていきました。

アスリートが筋力をつけるためにトレーニングをするように、毎日書くのは文章力をアップするのに役に立ちます。

そして、良いと思う文章を書き抜いて、ノート等に写すのは、文章をみがくのに役に立ちます。

参考資料として、鶴見俊輔の『文章心得帖』(ちくま学芸文庫)から、紋切り型の言葉をつきくずす方法が書かれた箇所のコピーをいただきました。

 

それから、森下裕美の漫画『大阪ハムレット 第5巻』(双葉社)の内容を紹介していただきました。

この第5巻に入っている「サリバン先生」は、少年と文盲のお婆さんのお話ですが、

人はどうして文字を使って自分の感情や思いを他の人に伝えるのかということを、改めて考えさせられる話になっています。

ということで、今日の課題は「私の好きな風景」についての散文を書いてください。枚数は自由、タイトルも好きにつけてください。

内容は、今好きな・昔好きだった・たまたま見かけて好きだと思った…なんでもOKです。いくつか候補を考えて、その中から選ぶのも良いでしょう。

課題は、市販の原稿用紙に手書きするか、出力する場合も400字詰めの原稿用紙のマス目に文字が入るようにして、提出してください。

縦書き原稿用紙の書き方は、2行目の4マス目くらいから題名を、

4行目の下の方に作者名を書き、本文は6行目から、最初は1マス空けて書きます。

、。「」などの役ものは1マスに入れるなどの約束があります。

約束を守って、美しい原稿を仕上げてください。提出は次回11月26日です。

よろしくお願いします。

 

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする