文章たっぷりコース第4期も、ついに最後の授業になりました。
昨年11月から約9か月、毎回さまざまなテーマについて学びました。
最終回はいつもと逆で、テキスト『文章のみがき方』(辰濃和男 著・岩波新書)を先に学びました。
この日は「Ⅳ. 文章修行のために」から、「4. 概念を壊す」「5. 動詞を中心にすえる」「6. 」低い視線で書く」のところです。
高科先生も、駆け出しの頃によく「今まで身につけてきた既成概念を壊して書け」と先輩から言われたそうです。
創作する時は、走り幅跳びのように、①気持ちを高めて ②助走のスタートを切り ③加速して ④タイミングを合わせて ⑤踏み切り ⑤空中姿勢を保って ⑥なるべく距離を伸ばし ⑦着地する という工程で進めます。
初心者はつい、次は⑦の着地した所から始めようと思いがちですが、実はまた①から始めなければならない、と先生はおっしゃいます。
一つ完成したら、それをもっと良くしたいと手を加えたくなりますが、そうではないのです。
すぐれた批評家というのは、①〜⑦のさまざまな場面について、アドバイスをしてくれます。
初心者はまた、「私は(この作品を)こんなふうに思って作った」と言いがちですが、完成した瞬間から作品は作者の手を離れて読む人・見る人の手に委ねられ、好きなように読んで・見てもらうような存在になるです。
長田弘はエッセイの中で「今は名詞が多すぎて、動詞が少なすぎる」と言っているそうです。
テキストの中では、新しい名詞がどんどんできて、使い捨てられていく。そして動詞は「カタカナ語+する」という使い方が増えている。その風潮は日本語の根源を揺るがす危機ではないかと問題提起しています。
※ 参考文献として、大野晋の『日本語練習帳』(岩波新書)と、今井むつみ・秋田喜美の『言語と本質―ことばはどう生まれ、進化したか―』(中央公論社)を紹介してくださいました。
『日本語練習帳』(大野晋・岩波新書)https://www.iwanami.co.jp/book/b268415.html
『言語と本質―ことばはどう生まれ、進化したか―』(今井むつみ・秋田喜美、中央公論社)
https://www.chuko.co.jp/search.php?name4=言語の本質&btn.x=0&btn.y=0
視線については、「人間中心主義」では発見することができない、視線を低くすると見えてくるものにも、きちんと目を向けていきましょう、とのことでした。
今期は、テキストを最後まで見ていくことができませんでした。
残りの「7. 自分と向き合う」「8. そっけなさを考える 」「9. 思いの深さを大切にする」「10. 渾身の力で取り組む」の箇所は、各自で見ていってください。
そうして、本に書いてあるさまざまなことの中から、自分で良いと思うところを取り入れていくのが良いでしょう、というところで、今期のテキストの授業は終わりです。
ここで、以前学んだ「土地の言葉で書く」ということについて、質問がありました。
ネイティブでない言葉で書くときは、その土地の言葉に精通した人に見てもらうのが一番ですが、それができない時は、できるだけその土地の言葉で書かれたものや、話している音声を聞いて、自分で慣れるしかありません。
『ブス愚痴録』(田辺聖子、文藝春秋)
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/1671533600000000000O
田辺聖子のように、地の文は標準語で台詞は関西弁という人もいるし、千草茜のように両方関西弁の人もいます。また、宮沢賢治は東北の言葉で書く以外に、独自のオノマトペを使うところが、特徴であり、魅力になっています。
高科先生は、今年の11月に福音館から『プレゼントはひとつ』(絵・コマツシンヤ、こどものとも年中向け12月号)という絵本を出版されます。先生はもう後書きも書き終えて、あとは絵の完成を待っているところだそうです。楽しみですね!
休憩を挟んで、後半は今日のテーマ「子どもの本ってなんだろう?」に沿った作品の紹介です。
先生が何度もおっしゃるように、子どもの本に色濃く流れているのは、ある種の「おめでたさ」「祝祭」です。
『クマのプーさん』(著・A.A.ミルン、絵・E.H.シェパード、訳・石井桃子、岩波書店) https://www.iwanami.co.jp/book/b269483.html
クマのプーさんのお話は、全てトンチンカンでおめでたいものです。
方言で書かれた『いちにちにへんとおるバス』(文・中川正文、絵・梶山俊夫、ひかりのくに)は、山のタヌキが恩返しをするお話です。作品におめでたさがあるから、読後、息がしやすく・生きやすくなります。
『いちにちにへんとおるバス』(文・中川正文、絵・梶山俊夫、ひかりのくに)
https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=22861&pcf=1
続いては『のまどくん』(作・片山健、文溪堂)です。のまど(NOMADO)とは、遊牧民・放浪者の意味で、自由気ままに生活する人をイメージした名前です。
繰り返される「のまどくんは◯◯が好き」というフレーズで、話はどんどん展開していき、概念や価値観にとらわれずに生きていけるというお話です。
『のまどくん』(作・片山健、文溪堂)
https://common.bunkei.co.jp/books/3212.html
『タンゲくん』 (片山健、福音館書店)
https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=565
片山健の作品は『タンゲくん』(福音館書店)でもそうですが、レイチェル・カースンが言うところの「幸福に驚く力、(ある種の)機嫌の良さ」に満ちており、それが魅力になっています。
子どもの本に必要なのはそういうことだと、清水真砂子・河合隼雄・宮崎駿らも言っています。
次に、まど・みちおの『いわずにおれない』(集英社)から、クスッと笑える3つの詩を紹介してもらいました。彼の作品も、ひらがなを使い、軽みがあるからこそ「おめでたさ」に満ちています。
『いわずにおれない』(まど・みちお、集英社)
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=4-08-650101-5
まどさんも、前回の授業で紹介していただいた長新太と同じく、「子ども性」を持ち続けている作家です。子どもの本の作家は「子どもを生きる」ことを常に考えて、書き続けているのです。
最後に、前回の課題(おもちゃ、おもちゃ箱、おもちゃの持ち主の子どもをテーマにした短編)を返してもらい、参考文献として高科先生の掌編『ぽいぽいぽーい』と、レオ・レオニの『アレクサンダとぜんまいねずみ』(訳・谷川俊太郎、好学社)を紹介していただきました。
『アレクサンダとぜんまいねずみ』(作・レオ・レオニ、訳・谷川俊太郎、好学社)
https://leolionni.jp/books/313/
高科先生は、絵本や児童文学の知識が豊富で、毎回さまざまな作品を紹介していただきます。
臨場感のある読み聞かせも楽しく、2時間半の授業があっという間です。
課題のテーマも多岐に渡り、書いたことのないジャンルにチャレンジでき、先生がそれを読んで一人一人に」アドバイスしてくださるので、文章力アップにつながります。
今期はこのような感じで進んできましたが、11月から始まる第5期は、テキストや毎回の授業のテーマも変わるそうです。
このブログを読んで、ご興味をもたれた方、参加してみたいと思われた方は、ぜひご連絡ください。よろしくお願いいたします。