この日はドイツに勝利したばかりだったので、サッカーの話題から始りました。
なんと!高科先生は、学生時代サッカー部で10番を付けておられたそうなんです。
ですから、今までの日本サッカー界のことをマニアックにお話ししてくださるとともに
選手一人一人にドラマがあることがすばらしいとおっしゃり、それを踏まえて
灰谷健次郎の『ひとりぼっちの動物園(集団読書テキストA33)』(全国学校図書館協議会)を紹介してくれました。
「人間は一人一人にかけがえのない人生があり、人を愛するということはその人の人生を知ること」だそうです。
授業の前半は、河合隼雄の『子どもの宇宙』(岩波新書)から「はじめに」のところを見ていきました。
「一人一人の子どもの中には、無限の広がりと深さを持つ宇宙が存在しているのに
大人になるにつれてそれを忘れ、気づけばなくなって、忘れてしまう。」と言うのです。
そこから、大島弓子の短編集『つるばらつるばら』(白泉社文庫)に集録された『夏の夜の漠』の話題になりました。
人間の年には実年齢と精神年齢がありますが、作品の中で主人公の小学生の男の子が大人の姿で描かれ、
周りの大人たちが子どもの姿で描かれています。
『つるばらつるばら』より以前に出版された、大島弓子の代表作『綿の国星』(白泉社文庫)では仔猫が小さな少女の姿で描かれています。
このように、大島弓子は1970年代から時代を先取りした作家(漫画家)でした。
そして、マリー・ホール・エッツの『もりのなか』と『またもりへ』(いずれも福音館書店)を読み聞かせてくださいました。
これらの絵本の文章は、「そして」「それから」などの接続詞を多用しています。
子どもがこのような文章を書くことを、教師はあまり良しとしないのですが
評論家の川本三郎は『絵本の時代』というアンソロジーの中で
「子どもの書く繰り返しの文章こそ、退屈どころか出来事の豊かさに驚き、
言葉がもどかしくて書くのが追いつかない状態である」と言っています。
続いて、ウクライナの民話『てぶくろ』(絵=エウゲーニー・M・ラチョフ/福音館書店)を読み聞かせ。
おじいさんの手袋がどんどん大きくなっていくのを、子どもたちの宇宙のように非常に柔らかくふくらんでいくとおっしゃいました。
そしてここでも川本三郎の言葉を引用して、
「絵本というのは、教育やしつけのためにあるのではない。絵本は子どもをここではないどこかへ連れていってくれるものではないか」と
子どもたちの素晴らしい想像力で、絵本がより深く・おもしろくなることを知りました。
授業の後半は、テキスト『文章のみがき方』(辰濃和男 著/岩波新書)から
「3.繰り返し読む」のところを皆で音読していきました。
村上春樹がアメリカの大学で日本文学を教えていた時、学生たちに以下のことを要求したそうです。
①一冊の本を繰り返し読む
②その本を好きになる努力をする
③読んでいるうちに疑問に思ったことをリストアップする
そうしていくうちに、内容だけでなく文章の書き方やリズムが自分の中に入って
一読しただけでは分からなかったことに後で気づくことがある…本とはそういうものなのだそうです。
子どもは気に入った絵本があると、何度でも読んでほしがります。
たとえそのお話をすべて覚えていても、読んでもらうことで安心できるからだそうです。
ここで、テキストにも出てくるドロシー・バトラーの『クシュラの奇跡』(のら書店; 普及版)のことを教えていただきました。
ニュージーランドの若い夫婦の間に生まれたクシュラは、生まれつき重い障害を持っており
視覚も聴覚の機能も不十分で、自分の感情を伝えることもできませんでした。
そんな彼女に周囲の人が熱心に絵本を読んであげたところ、3歳の時の検査で知力が標準以上だということが分かったといいます。
小さい子どもの時から一冊の本を繰り返す読むのが良いことなら、それは大人にも通じることではないでしょうか。
最後に、今回の課題です。
「もしも子どもに戻れるとしたら、あなたは戻りたいですか? それとも戻りたくないですか?」
という問いの答えを、第3者にもわかりやすくまとめて書いてください。枚数もフォーマットも自由です。
どうやって子どもに戻るかはSF的に考えてもいいし、創作になっても結構です。
「子ども」の範疇であれば、いくつの時に戻るかも、環境が実際と違っていても構いません。
次回の授業は12月10日(土)ですので、この日に提出してください。よろしくお願いいたします。