本書はおもしろかった!以前、小説家安岡章太郎の『僕の昭和史』を紹介した。本
書は元東大総長で西洋史家の著書のよる「僕の昭和史」である。
文字どおり昭和元年(それは7日間だった)から昭和64年(これも7日間だった)に
著者の周りに起こった出来事を描いている。
林健太郎を最初に知ったのは、山川出版社の高校教科書『世界史』の執筆者の一人
としてだった。次いで、予備校時代、日本史の先生から林氏の名前が出た。(これ
については別の機会に触れる。)その次が私の大学時代NHK TVの政治討論で
見た。私の大学時代後半、氏は東大総長となった。次に気づいたら自民党推薦の参
院議員になっておられた。
いままで昭和14年の東大「平賀粛学」というのがどうも分からなかったのだが、本
書を読んで「目から鱗がとれた」。
私が読んだのは平成4(1992)年の初刊本だったが、今は文春文庫で手軽に読め
る。安岡章太郎の『僕の昭和史』とともに、昭和史に興味のある方におすすめ。
『昭和史と私』初版本
なお、ちょうど本書を読んでいる時に、NHK TVなどで昭和44(1969)年1月18
(金)~19(土)日の「東大安田講堂事件40年」の特集ドキュメントが放送され
た。(--NHKの番組は寝てしまい見逃したので、友人からビデオを拝借し視聴
した。)
当時、私は高3の受験生。東大志望ではなかったが、東大の入試が中止になると、
その影響(平たく言えばしわ寄せ)が出ることを心配していた。私の高校の首席は
東北大学の理系に進んだ。
林氏は当時東大文学部の学部長だった。(林文学部長173時間監禁事件が起きてい
る。)
1月18日工学部、法学部の建物で逮捕された学生は256名、19日安田講堂陥落による
逮捕者は377名、計633名で、このうち東大生はわずか5%の38名だったそうだ。
NHKのドキュメントでは、かつての全共闘の「闘士」がインタヴューされていた
が、「あれは何だったんでしょう?」という問いに答えられない人もいた。(たし
か東大全共闘は「総括」をしていないのではないかしらん。)
なお、当時東大全共闘議長山本義隆は現在予備校の教師であるが、当時に関する取
材は一切受けないらしい。先日、書店で「私のすすめる岩波新書」シリーズを見て
いたら、山本義隆氏は遠山啓の『数学入門(上下)』を推薦していた。
安田講堂事件の後、新左翼(旧左翼は日本でいえば社会党と共産党である。それは
労農派と講座派ともいえよう。)はセクト間の対立が激しくなり、昭和45年3月に
は日航機よど号ハイジャック事件が起き、昭和47年2月にはあさま山荘事件までエ
スカレートするのである。
当時、映画監督の大島渚がテレビで「『今回(あさま山荘事件)は』彼ら学生が絶
対に悪い」と言っていたように記憶している。
さらに、なお、東大安田講堂事件については、佐々淳行『東大落城』(文春文庫)
が必読書である。それによれば、事件後当時の秦野警視総監が昭和天皇に内奏した
時、お褒めの言葉を頂戴するかと思いきや、陛下からは「双方に死者はでたのか?
(いいえ。)--それはなによりだった」とのことだったらしい。
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