栗本尊子さんの生演奏を聴いたのは、畑中先生と塚田佳男さんが企画・構成さ
れた、音楽の友ホールにおける「日本歌曲シリーズ」の特別ガラ・コンサート(平
成11(1999)年12月15日(水)、平成12(2000)年12月15日(金)、平成15
(2003)年3月26日(水))だったと記憶する。
ちなみに畑中先生には、これらの特別ガラ・コンサートで三宅春恵さんもご紹介
いただいた。(*)
栗本さんについてはその後、
平成15(2003)年10月10日(金)、栗本尊子リサイタル(紀尾井ホール)
平成16(2004)4月13日(火)「日本歌曲と音の魔術師たち 山田耕筰」(音楽
の友ホール)
と続けて聴いた。
(*)栗本尊子さんは、平成14(2002)年10月6日紀尾井ホールで開かれた
「グレート・マスターズ~日本音楽会を支え続けるアーティストたち」と題され
た演奏会で最初に登場、中田喜直「サルビア」、「霧と話した」、山田耕筰「ば
らの花に心を込めて」の見事な歌唱で、観客ばかりか声楽家仲間を驚かせ
た。三善清達さんによれば、伊藤京子さんは涙を流さんばかりに感激して楽
屋に駆け付け、畑中先生は「これは日本音楽界の奇蹟」と喜ばれたという。
それ以後も「グレート・マスターズ」等々気づいた演奏会は、オッカケのようにし
て聴いており、今年もすでに、5月12日の「かながわゴールデンコンサート」に
おける熱唱を聴いた。
そんな栗本尊子さん(92歳)が、書籍付きCD『奇蹟の歌』の発売を記念して、
7月19日(木)銀座のヤマハホールでコンサートを開いた。
<当日のプログラム>
中田喜直
霧と話した(鎌田忠良 詩)
子守唄(深尾須磨子 詩)
夏の思い出(江間章子 詩)
--ゲストをお迎えして--
栗本尊子のオペラ時代について
栗山昌良
栗本尊子との20年~伴走者として
ピアノ独奏 ショパン 夜想曲第20番 遺作
皆川純一
畑中良輔氏を偲んで
吉田純子(朝日新聞)
---------------------------------------
山田耕筰
鐘が鳴ります(北原白秋 詩)
この道(北原白秋 詩)
中国地方の子守歌(岡山地方民謡/山田耕筰編曲)
ばらの花に心をこめて(大木惇夫 詩)
司会;小栗純一(バリトン)
この2週間、私は当日の<感動>をはたして文章化できるのだろうかと考え続
けている。文章にするということは何かを捨象してしまうことである。
以下はまことにつたない文章化であることをお許しいただきたい。
中田喜直
霧と話した(鎌田忠良 詩)
黄金色のドレスでゆっくりした登場に大拍手がわく。当日の曲はいずれも、何
百回とお歌いになった、完全なレパートリーである。
大きな拍手に応えるおじぎとお顔の表情がかわいらしい。
子守唄(深尾須磨子 詩)
この歌は本当に難しいが、知らぬ間に中田さんと深尾さんの世界に引き込ま
れる。最後の子守唄のハミングがすばらしかった。
夏の思い出(江間章子 詩)
2番の「夏がくれば思い出す~ゆれゆれる浮き島よ」は伴奏に合わせた朗読。
新鮮な「夏の思い出」となった。
--ゲストをお迎えして--
<栗本尊子のオペラ時代について>
栗山昌良
「カッコよく」客席からステージへ。ピアノにもたれかかりながら
--何回舞台を重ねても、涙をためて舞台袖に入ってくるお尊さんのスズキ。
それは蝶々夫人の、単なる女中ではありませんでした。
<栗本尊子との20年~伴走者として>
ピアノ独奏 ショパン 夜想曲第20番 遺作
皆川純一
幅広い、いろいろな演奏がある曲。右手のキッチリした、フレッシュな印象だっ
た。
<畑中良輔氏を偲んで>
吉田純子(朝日新聞)
畑中先生とタメ口でお話しできるお友達の、朝日新聞吉田さんが登場。30歳
?35歳?お若い。この方、芸大卒業である。
--4月に畑中先生にお電話して「お尊さんが演奏会をされるんだよ~」とお
伝えしたら、「お~、そりゃ出掛けなくちゃ」とおっしゃっていました。本来ならこ
のステージには真っ先に駆け付けられたことでしょう。
しばしば畑中先生から夕方6時ごろ、「は~い、ブルちゃんですよ~」と食事
にお誘いの電話があり、いろいろなお話をしました。栗本先生については「女
優なんだよ~」とおっしゃっておられました。畑中先生には、栗本さんの卒業
演奏を奏楽堂のオルガンにしがみついて聴いた逸話がありました。
今年1月に亡くなられました林光さんもが、10年ほど前、私が栗本先生のカ
ルメンの話を書いたら、林光さんから「栗本尊子さんは(「蝶々夫人」の)スズ
キです」と一行のお手紙を頂戴しました。
--------------------<後半/休憩なし>-------------------------
山田耕筰
鐘が鳴ります(北原白秋 詩)
「鐘が鳴ります かやの木山に」--ここまでで一気に栗本さんの世界に。ゆ
っくりしたテンポ。楽譜を徹底的に<自分にひきつけた>演奏だった。伴奏が
よく付けている。
一語一語、子音を大切にすることにより言葉をきわだたせた歌唱。日本語と
いう「言葉」を美しく発語する。--その点では木下保先生からの伝統を受
け継いでいるといえるかしらん。この詩はなかなか難しい。
会場の緊張感、空気をはじめ録音に入りきらないものを間近に聴くことがで
きるのは幸せである。最前列下手寄りのご婦人は、終始背筋を伸ばした不
動の姿勢で聴いていた。
この道(北原白秋 詩)
ここでも言葉、語感にこだわった、楽譜に書けない演奏だ。1から4番の「ああ、
そうだよ」ひとつとっても同じではない。有節歌曲を歌い分けた。毎回少しず
つ違った演奏になる。一曲歌い終わるたびに私の周囲から「ね~、すごいわ
ね~」という声が聞こえてくる。
中国地方の子守歌(岡山地方民謡/山田耕筰編曲)
ここでも一本調子にならなず、「宮へ詣ったとき なんと言うて拝むさ」に山を
持ってきた。
ブレスの支えがすばらしい、響きのポジションが一定している等々技術的な
こと(--それ自体驚異的であり、「奇蹟」であるが。)を忘れさせてくれる歌
唱である。やはり歌は「心」に始まり、「心」に終わる、といえるのだろうか。
ばらの花に心をこめて(大木惇夫 詩)
キリリとした表情に。十八番のレパートリー。ラスト・ステージとばかり全力を
振り絞った、最後は両手を掲げ、まさしく入魂の歌唱を聴かせていただいた。
<アンコール>
初恋(石川啄木 詩、越谷達之助 曲)
カーテンコールに応えて、「石川啄木の詩で 『初恋』」と--盛大な拍手。
ここぞという言葉の前のブレスが大きい。栗本さんの歌唱で聴くと、「痛み」の
厳しさを感じる。
カーテンコールでは、ものすごい拍手の中、栗本さんから客席へ投げキッスも
披露された。
お歳のことを言っては失礼だが、92歳であることによる過大評価ではけしてな
く、日本語の歌い方という面ではむしろ、なお「進化」しているのではないかと
思わせる歌唱だった。詩の朗読は歌であり、歌は詩の朗読である、と言えるか
もしれない。
この一瞬一瞬を、今どきの言葉でいえば、「共有」した300余人には、忘れら
れない一夜となったことだろう。
お恥ずかしいですが、このつたない感想を畑中良輔先生に捧げます。(--
先生、いつもつたなくてごめんなさい。)
当日は木曜日 夕食、讃岐うどんを食べ、いざ銀座へ
数寄屋橋交差点 ソニービル
銀座4丁目 服部時計店
銀座 ヤマハ ヤマハホールは私にとって何十年ぶりかしらん
1階でヤマハホール(7階)行きのエレベーターに並ぶ
定員333席 平成22(2010)年リニューアル
最前列、私の座席から
当日のプログラム
書籍付きCD『奇蹟の歌』 7月25日全国発売(3000円)
書籍目次(インタヴュー;東端哲也)
1.東京から福岡へ
2.東京音楽学校時代
3.太平洋戦争から終戦まで-木下保のレッスン、栗本正との結婚
4.戦後-流行歌手、映画出演・・・そしてオペラへ
5.長門美穂歌劇団
6.二期会時代
7.日本歌曲の世界へ-山田耕筰との出会い
8.日本音楽界の奇蹟
あとがきには、「この本と歌を畑中さんの御霊に捧げます」とあった。
(参考)平成15(2003)年10月10日のプログラム
* * * *
7月26日(木) 野らぼ~の讃岐うどんで夕食。いつもは熱いうどんに熱いダシ
(これを「あつあつ」と言う。)だが、暑い時期なので、この日は初めて、ダシは
熱くともうどんの冷たいものを頼んだ。これを称して「ひやあつ」という。その後、
恒例のドトールで一服、文京シビックのOB練習へ。
この日は信時潔作曲「沙羅」(木下保編曲、増田歌子改訂)の最初の練習日。
今年は、信時潔生誕125年、木下先生没後30年に加え、畑中先生の急逝。
これを機にOB合唱団に加わってみようかなと、皆さん思うところがあったのか
もしれない。Topの3人をはじめ12名の新人、復活者が参加し、盛会となり、
合唱としての声に厚みが増した。やはり、「合唱は数だ!」と言えるのかしらん。
もしかすると「沙羅」のオンステは100人を超えるカモ。
練習後、現役のワグネリアンが演奏会のPRに来た。
帰宅は10時35分。グッタリ~。
見た目は「あつあつ」と変わらない「ひやあつ」 さつまいも天付き550円
アメリカンがお気に入り
小川町交差点より はるかに東京スカイツリー
(東京スカイツリーは横断歩道の真ん中からしか撮れない写真 命懸け!)
須田さんによる発声練習 まずは立ち方(ポスチャー)
どこか(とくに上半身)力むのがもっともいけない
練習会場にいっぱいの人 「沙羅」の音採りをする
ピアノを弾いているのは須田さん
現役による演奏会のPR
写真右からOBの桑田責任者 中央が現役の責任者
男声合唱組曲「沙羅」(改訂新版)の楽譜
平成24(2012)年8月10日発行
歌子先生による「改訂ノート」が詳しい
7月28日(土) 猛暑なり。群馬県館林市で38.4℃を記録。また全国135地点
で猛暑日を記録。
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現役の頃最高90人でした。
歌子先生は、ピアノ伴奏を含めすみずみまでチェックし、改訂作業を行ったそうです。
それにしても「沙羅」は名曲ですね~。