今は閉店したが、昔、某地方都市に、
とても凝ったビリヤードホールが
あった。
映画『ハスラー』(1961)の舞台となる
ビリヤードホールのエイムスと店内の
造りの配置をそっくりにしていのだ。
二階建て倉庫のような建物だが、階段
からして全くこのエイムスのビルの
階段を模していた。扉までこの昔の
日本の床屋のようなドアにしていた。
初めて訪れた時から、ここは!と思い、
思わずニヤリとした。
施工主は、相当映画『ハスラー』に
精通している人だろうことが分かった
からだ。
だが、それほど通い詰めることは無
かった。
何故ならば、台の穴がガバガバだっ
たからだ。標準の2.4玉分のテーブル
だったのだ。
私や撞き仲間たちは1.6玉〜1.7玉分の
幅の台を好んだ。
東京の撞球場の華台と呼ばれた賭け
玉用の勝負台はそれくらいの穴幅だ
った。
後に自分たちで地元に開いた撞球
倶楽部のクラブハウスの競技台の
コーナーの穴幅は1.7-1.8にセットし、
さらにサイドはギチギチに絞った。
客相手の店ではないので、それ
で良いのだ。クラブハウスは道場
のようなものだったので。
そこでメンバーのうち上級者は
ポンポンとマスワリを出していた。
私もボウラードをその台で256点
を出したし、その台で常に210点
オーバーだった。
ただ、ストーレートプール=14.1
ラックコンティニュアスという
一番難関な種目では、私はノーミ
スの撞き通しのラン40点台しか
その台では出していない。ナイン
ボールのマスワリ連続はその台では
二連マスしか出していない。
他は外での試合での練マスは、2番
からの取り切りから続く四連マス
と7個だった。私は五連続マスワリ
の経験は無い。
それが私の実力だ。まあ、
上の下というあたり。プロ試験は
受かるが、プロで食えない世界の
資格は取らない。今のプロ選手は、
ビリヤードを愛し抜いている人が
資格を取って表舞台で頑張っている。
アメリカのように興行として成立
しない日本のビリヤード界では、
日本チャンピオンでも億単位を稼ぐ
事はできない。それどころか平均
すると年収120万円に満たないの
ではなかろうか。
全米メジャーリーグの選手とは収入
が雲泥の差なのだ。
日本のビリヤード界は哀し過ぎる。
しかし、それでもプロになる選手
が多い。
玉撞きを愛しているのだろう。
だが、どこの世界に、アルバイト
をしながらプロ選手を続けるプロ
スポーツの世界があろうか。日本
のボクシングも厳しいが、プロの
ビリヤードの世界は生活苦の選手
だらけなのが日本の現実だ。
撞球では飯は食えない。
日本の興行の仕組みがそうなって
いる。
撞球は、プールよりもスリーのほう
が遥かに難しい。
一番簡単に初心者が馴染み易かった
のは四つ玉だ。私も四つ玉から撞球
競技の世界に入った。
キャロムは実はとても奥が深い。
四つ玉は超上級者になると600点位
をノーミスで平然と撞き切って
しまう。
結局、玉撞きは、「相手にキューを
握らせない競技」であるのだ。撞き
切りの完全制覇こそが撞球の完全
勝利だといえる。
ちなみに、ストレートプールのノー
ミス世界最高得点記録は、世界
チャンピオンを19回も獲った
アメリカ人、ウィリー・モスコー
ニが1954年に記録した。
526点で、最後は「飽きたからやめ
る」とキューを置いた。
この記録は、65年間にわたりギネス
記録だった。
しかし、一昨年2019年にアメリカ人
のジョン・シュミットが脅威の626
点を公式に叩き出して、実に65年
ぶりに記録が塗り変えられた。
名手ジョン・シュミット。
だが、腕としては、モスコーニのほう
が上だろう。
それは、現在の正式競技台の9フィート
台ではない8フィート台でモスコーニは
記録を作ったからだ。
ナインボールのような玉数が少ない競技
では小さい台のほうが穴が近いので簡単
だが、14.1のように16個のボールを使う
競技では場が混み過ぎて難易度が格段に
高くなるのだ。
しかも、モスコーニは「飽きたからやめ
る」で、ノーミスのまま自己意思で停止
した。
65年ぶりに記録を塗り変えたシュミット
は、40ラック目にコンビをミスして終了
した。
以前、世界チャンピオンにもなったアメ
リカの怒れる達人のアール・ストリック
ランドが、小台でモスコーニの記録に
挑戦した。
彼も途中でやめた。
その理由は、「台が小さく混み過ぎて
いて、200点を過ぎたあたりから、頭
の中が混乱して脳が爆発しそうになっ
たから」というものだった。
ビリヤードテーブルは、その競技に
適した台の大きさと穴の幅があるだ
ろう。
ただ、プールテーブルは、穴が2.4玉
の標準台だと落ち過ぎて本当につまら
ない。
1.6玉穴は狭過ぎだが、2.4玉幅穴は
ドンガバチョ過ぎて競技にならない。
素人向け遊び台のようになってしま
う。
1.8〜1.9玉分の幅の穴台が適度なの
ではなかろうか。
1.9玉穴幅の台でのナインボールのプレー。
5-9=ゴックという賭け玉育ちである事が
すぐにバレる私の撞き方。
玉筋の育ちが悪い。綺麗に取り切る事を
あまりせず、点玉を途中で落として再度
台上に戻してまた続けて撞いて点数を稼ぐ
インフレ撞きをする。
その為には、ただトンと撞いて落とす事
はせず、手玉をこねくり回してコントロー
ルし、入れるのが無理そうな角度の玉も
穴にねじり込んで行く。
正確なシュート力とキューさばきが必要
になる撞き方で、その撞き方をする人は
昔は大勢いた。2球撞けばその者の育ちが
見える。撞球師であるのか、ただのプレー
ヤーであるのかはすぐに見抜ける。
この動画も、玉を撞かない人には、何が
どうして何故そのようにしてどうなって
いるのか、なぜそうしたのか皆目分から
ない事だろう。
さらに、今のキューを出すだけのトン撞き
をする人たちには、なおさら分からない
どころか、「変な撞き方」に見える事だ
ろう。
プレーキューはタッドを模して
作った自作キューだ。
対戦者は2番をウルトラナイスショット
で入れ撞きで手玉動かしで、8番を蹴っ
て9番をサイド倍々の点玉とする配置
を作る絶妙なショットをした。
しかし、続く3番に純ヒネリが強す
ぎて薄く外してしまった。手玉は
次に9を狙う位置に出している。
痛恨のミスだ。
ミスした瞬間に負けたと自分では判る。
ヒネリの利きはわずか1/4タップのズレ
でも大きく現れる。初心者で玉が全く
入らないのは狙った撞点を全然撞け
ないからだ。ミリズレたらポケット
インは全くしなくなる。
私は残された90度近い3番をどヒネリ
で入れて、さらに手玉を狙った位置
に出した。8番は受けとして9番をサイド
の4倍得点の穴前に入れやすい保険の
位置に対戦者がわざと動かして配置
作りをしていたので、それをまんま
と利用した。
何がきわどいか。
それは、3番こそがこのセットのキー
ボールであるという事だ。3番を
落とすか落とさないかに落とし穴
がある。その見抜きだ。
見失ってはならない一点。それを見
抜き、射抜くのがビリヤードの焦眉
なのである。
撞球は、痺れるほどに面白い。