主人公が銃を撃つのは、地面に
向けて1発のみ、という西部劇。
歴史的名作。
1880年代、船舶会社の跡取りで
船長だったジェームズ(グレゴ
リー・ペック)は、帰国した際、
東部の故郷にて旅行中のパット
(キャロル・ベイカー)と恋に
落ちる。パットは西部の大地主
の娘だった。
キャロルと婚約し、また航海に
出たジェームズは2000マイルも
離れたパットの故郷西部に赴く。
駅馬車が到着した町に牧童頭の
スティーヴ・リーチ(チャール
トン・ヘストン)が迎えに来る。
パットは親友の女性教師のジュ
リーの家にいた。
ジェームズがボルチモアから
やって来た土地は、まだ開拓
時代の頂点の頃のテキサスで、
男も女も「力づくで自分の威
厳を示す」土地柄だった。
文化的な東部に育ち、そして船
乗りとして世界を見て来た紳士
のジェームズはどうにも馴染め
ない。
パットの実家は少佐と呼ばれる
大富豪の牧場主の家であり、
パットはそこの我儘な一人娘
だった。婚約者のパットは父を
尊敬し、敬愛し、なんでも力づく
で押し進める父こそ西部の男の
姿と信じ込んでいた。
結婚のためにパットの実家に
挨拶に来たジェームズは、その
道中で当地で対立する別な牧場
主の息子のバット(チャック・
コナーズ)と仲間たちに暴力的
な嫌がらせを受ける。
だが、新参者への挨拶みたいな
ものだと気に留めないジェームズ
に対し、パットは貴方は馬鹿に
されても対抗心を見せないと立
腹する。腰抜けと罵られても
あしらって笑っているだけの
ジェームズだったからだ。
再会したその日から二人の間に
はテキサスの青い澄んだ乾いた
空とは裏腹に、暗い暗雲が立ち
込めた。
この土地は水利権を巡り、三つ
の大きな牧場が対立していた。
水場を持つ牧場主は死亡し、今
は孫娘の学校教師が水源のある
土地だけを持っていて牧畜は
やっていない。
かつて祖父の時代は、他の対立
する二つの牧場に対し平等に
水を分けていたが、祖父が死亡
して以降は、二つの牧場主が
勝手に水場を獲り合う関係に
なっていた。
パットの父の少佐は、娘婿が
いやがらせを受けた事を理由
に対立する牧場に殴り込みを
かけて牧童やその家族が住む
集落を襲撃で荒らしまくった。
卑劣なバットは逃げたが、ジェ
ームズをいたぶった仲間は少佐
たちに捕まりリンチに遭う。
ジェームズはそんな事は望んで
はいなかった。
暴力では何も解決しない。
ジェームズは良策を考えついた。
水場を持つ教師のジュリー(ジー
ン・シモンズ)の牧場を買おう
としたのだ。
女性教師ジュリーはパットの親
友だった。聡明で淑女の教育を
受けた女性だ。料理も上手だ。
だが、その交渉の為に往復数日
の旅で家を空けたジェームズ
をパットは許さなかった。
結果的に、パットは愛している
と口で何度も繰り返しながらも
自分の意のままにならない紳士的
なジェームズに怒りが爆発して
しまう。
ジェームズは婚約を破棄され、
少佐の牧場を去る事になった。
その頃、ジュリーがバットたち
に誘拐されてしまう。
水利権を得るために、バットは
父の牧場主ヘネシーにジュリー
は自分に惚れていて結婚する
のだと嘘を告げてさらって来た
のだった。
だが、実は対立の根本原因は、
水利権ではなく、暴力で他者を
叩きのめす事を信条とする古い
西部の老人二人だけの対立だ、
とジュリーを救出に来たジェー
ムズは指摘して批判する。
やがて、ジェームズは暴力では
なく話し合いと説得で問題を
解決しようと命がけの努力を
するが・・・。
名作である。
また、この映画作品のテーマ
曲は西部劇という枠を取り払
っても名曲として有名であり、
この作品の広大な大地の映像
と実に美しく音の調べが溶け
合っている。
本作が名作であるのはラスト
にも現れている。
それは、ラストの5分10秒は
一切台詞が無いのだ。
台詞が無くとも、役者たちの
演技とカメラで物語の展開を
見せるのである。
グレゴリー・ペックの演技が
光る。
少佐の牧場の牧童頭のリーチ
(チャールトン・ヘストン)
も素晴らしい演技を見せる。
見つめ合うジュリーとジェー
ムズ。
その向こうには果てしなく
牧場が広がる。一つの牧場で
牛の数が数万頭。
台詞は一切無い。
顔の表情の変化だけで演技を
見せる。演技だが、その物語
を見せる。
登場人物の心理描写が克明に
観られる。
名作なのだ。
エンディングは大西部の広大
な牧場の景色とタイトルバック
が再び出て来る。
ジェームズの非暴力の考え方を
深く理解していたのはパット
の親友の女性教師ジュリーだけ
だった。
最後のクライマックスでは互い
に命をかばうために自分の命
を投げ出そうとする。
婚約者パットは復縁を申し出に
町に滞在するジェームズの所に
来るが、自分の思い通りの「暴
力による他人の制圧」をしない
ジェームズにまたもや立腹して
ヒステリーを起こしてその場を
立ち去った。完全な破談。しかも、
ジェームズの考え方を何一つ
理解しようとしないパットの
一方的な絶縁行動だった。
一方、ジェームズとジュリーは、
人々の平和と安寧を望む互いの
考え方から友情が芽生え、やが
ては互いに敬愛しあう仲になっ
ていった。
ジェームズの命がけの行動に
より命が救われたジュリーは
ジェームズに駆け寄る。
この映画、実はパットの父の
少佐よりも、対立するバット
の父の牧場主のヘネシー(バー
ル・アイヴス)が実は非常に
魅力的だ。
一見野蛮に思えるが、実は古き
時代の紳士の心を知る人物で、
そしてかなり人の心と状況を
見抜く人物なのだ。
人の心を見抜く人物。
そして「法は守る」と明言する。
不正を許さず、正々堂々と生き
ているのは、実は敵対するこの
牧場主のヘネシーの側だった。
このヘネシーを変じたバール・
アイヴスは本作出演でアカデ
ミー賞助演男優賞とゴールデン
グローブ賞助演男優賞を受賞
している。名演だ。
監督は『ローマの休日』(1953)
の監督のウィリアム・ワイラー。
名作になる筈である。
本当に良い作品だからだ。
西部劇だが、アメリカの時代性
と光と闇を描いている。
本作は勿論CGも無い時代だが、
牛追いのシーンでは膨大な頭数
の牛を実際に追う場面が撮影さ
れている。これぞ西部劇。
そして、カウボーイがナイフを
投げて遊ぶシーンでも、実際に
投げている。
足に刺さったら大ごとだが、昔
はリアルに撮影された。
使用している銃もステージガン
などは無いのですべて実銃だ。
空砲を使っていた。
グーグーいびきをかいて眠って
いる仲間の足元の丸太にナイフ
を投げるバット。
あっぶね~の(笑)。
本作品は真の名作です。
映像も美しい。
私は名作『シェーン』(1953)
よりも個人的には好きだ。
1973年中1になったばかりの
春、淀川長治さんが解説の
日曜洋画劇場で2週間に亘り
166分がノーカットで放送さ
れた。
心を奪われた。傑作だ、と。
史上最高作は『いとしのクレ
メンタイン(荒野の決闘)』
(1946)だが、ため息が出る
映像作品としてはこの『大い
なる西部』(1958)だ。
『いとしのクレメンタイン』
も「人と人が理解し合うという
のはどういう事か」というもの
がテーマだったが、本作も中心
幹にあるのはそれ。
チャールトン・ヘストンの牧童
頭の心の動きの変化が見どころ
でもある。名演を成す役者たち
が素晴らしい世界を届けてくれ
ているのが本作『大いなる西部』
だ。
おすすめ作品です。