訪問者「テーブルあいてるかい?」
玉突屋店主「ご覧の通りさ」
(映画『ハスラー』から)
ビリヤードのうちアメリカン・
プールの世界では、米国や
フィリピンなどでは「賭け玉」
が町の玉突屋では行なわれて
いる。
日本の武士の世界は江戸期以降
は賭け事厳禁御法度だが、米国
などは博打が大好きだ。
映画『ラストサムライ』という
歴史的駄作で、登場人物の日本人
の武士(明治時代)が立ち合い
勝負を見ながら外馬で博打をする
シーンがあるが、日本の武士で
はありえない。あれは日本文化を
全く知らない無知馬鹿アメリカ人
が「フジヤマ、ゲイシャ、ニン
ジャ、イェ~イ!」で作った最低
映画だった。
そして、アメリカの町のビリヤー
ド場ではポケットテーブルは博打
用に使われている。スポーツ競技
としてではなく。
50セントコインが飛び交うような
安相場のゲームを「ダイムゲーム」
と呼ぶが、そうした勝っても負け
てもせいぜい2~3千円という相場
の勝負がよく行なわれているのが
かつて80年代までの風景だった。
これは日本でも。
そうした下手を装って最後には
勝つような小銭稼ぎをあちこち
でやりながら食いつないでいる
撞球師は、俗に「ゴト師=ハスラー」
と呼ばれていた。
ハスラーとは撞球者のことでは
ない。賭け玉ビリヤードを利用
するイカサマペテン師の事を
いう。
そして、なぜ真っ向勝負ではなく、
下手を装うか。
それは、超上級者であると判る
と、よほどの奇人でない限り、
対戦しようとはして来ないから
だ。元々がスポーツマン的な
チャレンジャーではないから。
そうしたハスラーたちは、見知ら
ぬ町にさもよそ者の何も知らない
間抜けなカモのような顔をして
現れてビリヤード場に入り、しば
らく横で見ている。
すると、負けた者が「アイ クイッ
ト」と言って抜けて、勝ち残って
ゲームを続けようとする奴が
「そこのお前、一丁やるか?」と
声が掛かるのを待つ。
そして、ハウスキューを取って、
ゲームに参加するが、最初は負け
続ける。下手くそのへっぽこを
装って。
そのうち、頃合いを見計らって
ラッキーショットでまぐれ入り
かのような玉を撞いて、相手の
心を少しくすぐる。火をつける。
さらに、そこからはまた負け続け
るが、「よ~し、一気に挽回だ。
これまでの倍額を賭けよう」と
もちかけて、そして相手が乗る
ように誘って、しまいにはラッキー
まぐれで入ったようにして勝つ。
これがハスラーの手口だ。
米語俗語では「プール・シャーク」
と呼ばれて、素性がバレたら下手
したら殺されるのだが、場末の
ビリヤード狙いのハスラーはそれ
をやる。米国でも戦後からプール・
シャークは出入り禁止だ。本職
のプロの玉突師なのだから。
それが地元の仲間内で楽しんで
いるような安ゲームを食い散ら
かすので出入り禁止なのだ。
そうした騙し玉の時に、ハスラー
はキューケースにも入れずに自分
のキューを裸で持ち歩く事もある。
店に入る前にケースから出し、
何気なくぶっきらぼうに大切な
物ではないように裸身で持って
店に入る。素人っぽく。ど素人
だと相手にしてくれないので、
最近やり始めた初心者で玉撞き
にワタシ興味ありま~す、みたい
な空気をわざと出して。カモだ
と思わせて。
そうしたプール・シャークのハス
ラーが持ち歩くキューは、日本円
だと現在で3000円程の一本物のハウ
スキューをぶった切って持ち運び
できるようにジョイントを埋め込ん
だキューだった。
現在ではワンピースキューは日米
どちらでもほとんど無い。
だが、私がビリヤードを始めた
1980年代中期には、まだ国内で
もハウスキューはワンピース物
はあちこちにあった。
なぜかしらバットが太いの。
現在のハウスキューは最初から
ジョイント付の2ピースが主流だ。
このハギは本ハギだ。後年のイン
レイハギではない。
バット部分は完成までに曲がり
修正が必要になる時間と手間の
かかる一本木物ソリッドではなく、
曲がり防止のためにハギ継ぎ構造
にしてある。
白い木がメイプル等で茶色い木が
軍用銃のストックなどにも使われ
たナトーやチークなどが使われた。
こうしたハギはすべて曲がり防止
のために最初は導入されていた。
ところが、ここ15年ほどで、変わ
った現象が日米で現れた。
それは、高級カスタムメーカーや
有名な大手工場キューメーカーが
「スニーキー・ピート・モデル」
と銘打って、かつてのゴト師キュー
の再現品が製造発売されたのだ。
ン十万もするシバキキューもどき。
馬鹿らしいにも程がある、といえ
ばそういう事になる。
かつてのハスラーのハウスキュー
(日本語での俗称は「場キュー」
「しば(き)キュー」)改造2ピース
は、バラブシュカたちのブランズ
ウィックの上位ハウスキューでは
なく、安物の場キューを切って
作った物だからだ。
ただし、曲がりもなく、撞いて
動きも良いハウスキューを選びに
選んで改造が施されて持ち歩かれ
た。ただのそこらのしばキューで
はない。
スニーキー・ピートとは「狡猾な
ピート」という意味で、ペテン師
野郎の事を指す米俗語だ。
だが、カスタムメーカーや大手
キューメーカーが「スニーキー・
ピート」を作り出して、そして
かなり高額で販売するように
なった。
スニーキー・ピートキューなら
ば、せいぜい高くとも元のキュー
は8000円程度であるのが本来の
姿なのに、何だか何かがおかしい。
一から作っても原価が掛からない
ので、それをン十万とか意味不明。
スニーキー・ピートたちがスニー
キー・ピートを使う目的はこれ
のみなのに、元手がかかりすぎ
ていたら本末転倒だ。
そのやばい橋を渡る小銭稼ぎ
ダイムゲームのハスラーキュー
をン十万とかで所有するその
意味が不明。
それらは、ギャンブラーである
生き死にのやばい縁を渡る
ハスラーの精神性とは全く
無縁で、そこにあるのは金持
ちたちが「異形さ」を好奇心
から好む猟奇的なブルジョア
性が見える。
それ、賭け玉勝負師独特の世
界観や精神性でなはなくて、
金持ちや上流階級の退廃的な
首絞めや鞭叩きや弱い者をいた
ぶる嗜好や、殺しながらの性交
撮影趣味のような、猟奇的な
精神的汚濁性しかない。
映画『ハスラー』で出て来た
富豪が自宅に障がい者や異人
種や裏世界のアブレ者たちを
招いて乱痴気パーティーやって
喜んでいた場面のような。
それをサラは見抜いて「この
化け物たちと貴方は同じに
ならないで、エディ」と
告げるのだが、勝負に焦る
エディにはその言葉は届かず
に、サラは自殺するのだった。
知り合いの外国人がアメリカの
有名なカスタムビルダーに
スニーキーピートを作って
貰っていた。金額は日本の
量販キュー程度の値段。
あれはどう考えても良心価格
だ。材料費も加工費も低いから
との事らしい。まことに良心的
な職人さんだ。
ただし、直に米国に製作依頼
して完成したら輸入している。
母国語で英語ペラリンチョだ
から。だからかも。
これが日本の業者通しになる
とン十万円と何倍にもなるの
かもしれない。
そのスニーキー・ピートで
撞かせて貰った。
唸った。ナニコレ?と。
まさに、その作者のキュー
そのものの性能が出ている
のだ。
見た目のファンシーさを求め
ないなら、これで十分戦闘力
あるじゃん、と。
「でしょ?」なんてその外国人
の日本定住者は笑いながら言っ
てた。
たださぁ、今時の情報社会では、
フラリと安キュー持って玉台の
ある酒場でひと稼ぎ、なんての
はまず多分無理っすから。たとえ
アメリカでも(笑)。
日本は絶無。
スニーキー・ピート・キューも、
デザイン上の簡素さを再現した
裏世界のキュー遣いのキューを
猟奇的にコスプレする「高級趣味」
の部類の産物になりにけり、て
とこか。拝一刀のドウタヌキを
再現した模擬刀みたいだな。