【九大の仁田坂氏「世界的にも特異な変化朝顔は生きた文化財」】
「第55回朝顔展」を開催中の京都府立植物園で3日、「江戸園芸の粋を集めた変化朝顔」をテーマに講演会が開かれた。開園90周年記念事業の1つ。講師の仁田坂英二氏(九州大学大学院理学研究院生物科学部門染色体機能学研究室)は「アサガオの品種群はいくつもの偶然と日本人の美意識によって生み出された稀有な存在。特に1年草であるにも関わらず、不稔の変異を種子で保存してきた変化朝顔は世界的にも特異なもの。生きた文化財ともいえるアサガオの品種群の保存に今後も力を注いでいきたい」などと話した。
「変化朝顔」は花や葉の形がとてもアサガオに見えないようなもので「変わり咲き朝顔」とも呼ばれる。江戸時代の文化文政期(1804~29)に第1次ブームが起き、江戸末期の嘉永安政期(1848~60)の第2次ブームには多くの図譜が出版された。さらに明治後期にもブームとなり、最近では「大輪朝顔」の愛好家の増加もあって「第4次とも呼べる栽培ブームを迎えている」。仁田坂研究室では現在1000を超える変化朝顔の系統を保存しており、この7月には仁田坂氏著の『変化朝顔図鑑 アサガオとは思えない珍花奇葉の世界』(化学同人発行)が出版されたばかり(写真㊧はその宣伝用うちわ)。
変化朝顔出現のきっかけは18世紀中ごろ、備中松山(今の岡山県高梁市)で生まれた「松山朝顔」または「黒白江南花」と呼ばれた珍しい絞り咲きのアサガオだろうと推測する。この花は伊藤若冲の「向日葵雄鶏図」の背景にも描かれているそうだ。「このアサガオの出現は変異体を生み出すトランスポゾン(動く遺伝子)が動き始めたことを示す。トランスポゾンは転移し、挿入した遺伝子の機能を壊すことで劣勢変異を誘発する。この子孫からたくさんの変わりものが生じたと考えられる」。
変化朝顔の系統は「正木(まさき)」と「出物(でもの)」に分かれる。正木は種子ができ、毎年同じ花を咲かせるため、初心者でも栽培が簡単。一方、出物は「種子を結ばない不稔の劣勢変異を含むため、系統の維持にはある程度の知識が必要」。出物系統の種子をまくと、メンデルの法則に従って4分の1の確率で出物が生まれる。残り4分の3は見かけが正常で種子を結び「親木」と呼ばれる。「出物や出物を隠し持つ親木を鑑別する仕訳(しわけ)が変化朝顔の系統保存では最も大切な作業」。出物の多くは子葉も変わった形をしているため最初の段階で区別できるという。
では変化朝顔の花の形などが奇妙なのはなぜ? 仁田坂氏はその原因を探るため遺伝子を取り出し、その働きを調べてきた。その結果「変化朝顔ではいずれも器官の位置情報(座標軸)を支配する遺伝子に異常があり、本来とは違う場所に花や葉などの器官を作るため変わった形になることが分かってきた」。例えば、細い葉や花弁を付けるアサガオでは、横幅方向の器官の幅を決める遺伝子が壊れているため幅が広がらないそうだ。
植物園で開催中の朝顔展(1~5日午前7時~正午)では期間中、毎日鉢を入れ替え、延べ1500鉢を展示する。大輪朝顔には直径が20cm以上のものも。仕立て方にはつるを伸ばして支柱に絡ませる「行灯作り」と、摘心しつるを伸ばさない「大輪切り込み作り」があるという。花姿がユニークな変化朝顔も展示されている。