【水滸伝シリーズの大作「天富星撲天雕」や「五大尊」など展示】
尼崎市総合文化センターの美術ホール内に昨秋オープンした白髪一雄記念室で「白髪一雄と具体Ⅱ(中期~後期)」が開かれている(10月19日まで)。「初公開 甦った初期作品を中心に」「白髪一雄と具体Ⅰ」に続く第3弾。白髪が具体美術協会の中心メンバーとして活躍した1950年代後半から「具体」が解散する72年までの足跡を辿るもので、「天富星撲天雕(てんぷせいはくてんちょう)」(写真㊨)や「五大尊」など力強く躍動的な作品が展示されている。
白髪一雄(1924~2008)は同センターに程近い尼崎市内の出身。尼崎市は従来から所蔵する白髪の絵画など約90点に加え、遺族から絵画やスケッチブック、書籍など約4000点の寄贈を受けたことから記念室を開設した。白髪が芦屋出身の洋画家、吉原治良率いる「具体」に加入したのは1955年。日本画から洋画に転向し風景や人物画を描いていた白髪が、既成の絵画に飽き足らずに編み出したのがフット・ペインティング。天井から吊るしたロープにつかまり床の上のキャンパスに素足で描くという手法は大きな注目を集めた。
展示中の「天富星撲天雕」は1963年の作品で184×276cmの大作。「水滸伝」の登場人物から画題に名を借りた水滸伝シリーズの1つで、黒・白・赤・青などの太い曲線が画面いっぱいにうねる。間近に対面すると、その迫力に圧倒される。「五大尊」は71年頃の作品で5枚から成る。あらゆる世界は地・水・火・風・空の5つの要素から成るという仏教思想を、黄・白・赤・黒・青の5色で表現したものとみられる。
「具体」のメンバーにとって最後の大きな活躍の舞台となったのが70年の大阪万博。白髪は万博後、比叡山延暦寺で修行し71年に得度している(法名素道)。「五大尊」はその頃の作品だろう。仏教に傾倒した理由を問われ白髪はこう語ったという。「自分の内容の変化が作品の様相を一変させるものなので、精神的向上を図らねばならないと考えた」。
「具体」の活動期間は1954~72年の18年間だが、その先進的な活動は今改めて再評価されている。2012年に東京の国立新美術館で「『具体』ニッポンの前衛18年の軌跡」展が開かれ、13年にはニューヨークの美術館でも回顧展が開かれた。白髪の水滸伝シリーズの作品の1つは昨年、パリのオークションで2億円を超える高値で落札された。「具体」発祥の地、芦屋市の市立美術博物館では今「具体、海を渡る。」展が開催中(9月7日まで)。同展でも白髪の作品「地進星出洞蛟(しゅつどうこう)」(1960年)や「地煞星(ちさつせい)鎮三山」(61年)が出品されている。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
尼崎市総合文化センターの美術ホールでは「尼崎アートフェスティバル2014」が開かれている。今年で3回目で、関西を中心に活躍する作家たち76人の作品が並ぶ。その中で目を引いたのがシナベニアを素材とした松原一彦氏の立体造形作品「女」。鳥井雅子さんの4枚組「時の庭 いざなう・よろこぶ・想う・まどろむ」は植物の不思議な世界を明るい色調で描いている。こちらは8月24日まで。