【著者=ロブ・ケスラーら3人、監修=奥山雄大、訳=武井摩利】
英国旅行の際、ロンドンのキュー王立植物園を訪れたことがある。芝生で休んでいると、遠くから人懐こいリス(勝手に「ピーター」と命名)が駆け寄ってきた(写真㊨)。随分前のことだが、その場面が昨日のように思い出される。本書はその世界で最も有名な植物園の全面協力で出来上がった「世界で一番美しいシリーズ」の『花粉図鑑』『種子図鑑』『果実図鑑』の3冊のエッセンスをぎゅっと1冊にまとめ上げたもの。
著者は植物学者のマデリン・ハーレー、種子形態学の専門家ヴォルフガング・シュトゥッピー、視覚芸術家のロブ・ケスラーの3人。植物は「確実に子孫を残すために信じられないほど多種多様な戦略を編み出した」。植物の生殖器官である花粉や種子、果実を光学顕微鏡や電子顕微鏡で撮った精細な拡大写真が全144ページの多くを飾る。肉眼では見えない〝小宇宙〟は実に美しい。それぞれがカラフルで不思議な形をしている。
写真の間で植物の奇妙な生存戦略を分かりやすく解説。花粉は「自然界の建築学と構造工学の完璧な傑作」という。花は「運び屋の生物(昆虫など)を呼び寄せるための多種多様な広告戦略や報酬を発達させた」。死肉にたかるハエを送粉者に選んで進化した花は、見かけも臭いも動物の死骸にそっくりという。
「植物が昆虫の必要に合わせて適応するだけでなく、昆虫の方も『自分たちの花』に合わせた進化をして、身体や口器の形、採食行動を変えてきた」。これを「共適応」というそうだ。マダガスカルのランの送粉者の姿を予言したダーウィンの逸話が興味深い。彼は細長い距(きょ)を持つ花を見て、距の奥の蜜を吸えるほど長い口を持つ昆虫(ガ)が存在するに違いないと考えた。長さ22cmの口吻を持つ巨大スズメガが発見され、説の正しさが証明されたのはダーウィンの死後数十年のことだった。