【藤原京トイレ遺構、山田道敷葉遺構、山田寺出土壁材…】
奈良文化財研究所の飛鳥資料館(明日香村)で秋季特別展「はぎとり・きりとり・かたどり―大地にきざまれた記憶」が開かれている。奈文研埋蔵文化財センターの設立40周年記念展。飛鳥・藤原地域の発掘調査で見つかった主要遺跡の土層・地層の表面や断面の〝実物〟を一堂に展示している。11月30日まで。
剥ぎ取りは土層や遺構の表面を薄い樹脂で固め布で裏打ちして剥がし取る方法。奈文研埋文センターが開発した技術で〝土層転写〟とも呼ばれる。剥ぎ取りでは様々な凹凸ができることも。これは土の中にめり込んだものが一緒に取れるため。藤原京のトイレ遺構の断面剥ぎ取りには当時トイレットペーパー代わりに使われていた籌木(ちゅうぎ)がそのまま刺さっていた(上の写真㊨)。遺構からはウリの種や魚の骨などの食べかすも見つかり、寄生虫の卵も検出された。
吉備池廃寺の塔基壇の断面剥ぎ取り(上の写真㊧)には九重塔を支えるために黄色い土を何層にもつき固めた版築(はんちく)が見られる。基壇は一辺が32mもあり、法隆寺五重塔の4倍以上の広さ。右下から左上に伸びる傾斜は心柱を引き上げるための斜路だった。型取りは型を切り取って実物をレプリカで忠実に再現する方法。石室内の女子群像壁画などで有名な高松塚古墳では、石室解体に伴う調査で墳丘を切り裂く多数の地割れが見つかった(同㊨)。南海地震による痕跡とみられている。
切り取りは実物をそのまま切り取り、ウレタン樹脂で梱包したり液体窒素で硬化したりして保存する。古代飛鳥の幹線道路、山田道の敷葉(しきば)遺構(上の写真㊧)には葉の付いた小枝が南北にそろえて敷かれていた。敷葉工法は不等沈下を防ぎ水はけを良くするのが目的。中国や朝鮮半島でも同じような遺構が見つかっており、ここからも往時の大陸との交流の一端がうかがわれる。飛鳥池工房から切り取りした炉(同㊨)は内面に炭の一部が残り、固く焼き締まっていた。
山田寺出土壁材の切り取り部分も展示されている。山田寺が完成したのは685年。約30年前、土砂崩れで倒壊・埋没していた東面回廊が倒れたままの状態で見つかった。特別展には連子窓脇の小脇壁など(下の写真㊧)を展示中だが、別の第2展示室では3間分の回廊壁面がそっくり展示されている(同㊨)。