【御所の四季の草花を描いた水彩画130点】
奈良県立万葉文化館(明日香村)で特別展「安野光雅 御所の花」が開かれている。御所の庭を彩る四季の花々を描いた水彩画130点。その多くが淡い色調で、草花が生を謳歌する盛りを切り取った瑞々しい作品。安野の自然を見る温かい眼差しと謙虚な姿勢があふれている。24日まで。
安野がこれらの一連の作品を描いたのは天皇・皇后両陛下の本の装丁に関わったのがきっかけ。2011年1月から翌12年4月にかけ数十回にわたって訪ねスケッチした。作品群を「春夏秋冬」ならぬ「春霞舟到」の4つに分けて展示している。「春霞舟到」は安野の私製熟語。「草花を春夏秋冬と分けても実際には分けられないものを分けている気がするから」という。(上の作品㊧サンシュウ、㊨バラ・エンプレスミチコ)
会場入り口に「あいさつに代えて」として『自然はすべて美しい』と題した安野の一文が掲げられている。「水は低い方へ流れ、滝や淵をつくり、流れの音もうつくしいのですが、氾濫しない川はなく予期せぬ被害をもたらします。しかし、それもまた自然です。氾濫は人間に自然のあり方をおしえ、魚の棲家を掃除し、また新しく遡上する元気を与えています……」。そして最後にこう結ぶ。「ヒトも自然の一部です。むかしは『万物の霊長』などと自称しました。ほんとうは自然の中で一番いけないのは人間かもしれません」。
130点の中にはススキやシラカバなど題材が重複した作品も一部含まれているものの、大半は1つの草木で1つの作品。御所の庭の草木の豊富さを示す。作品の中には皇太子妃時代やご結婚後に美智子さまに贈られた上品なバラの「プリンセスミチコ」や「エンプレスミチコ」、淡いピンクの縁取りが美しい「舞妃蓮」なども。ラッキョウは全国植樹祭で訪れた鳥取県から取り寄せて植えたものという。フユイチゴやツユクサ、ヤブランなどもあり、御所の庭では極力手を加えず自然のままにしているご様子もうかがえる。(上の作品㊧ヒオウギアヤメ、㊨ラッキョウ)