【中国原産、白鳩になぞらえ「ハトノキ」とも】
中国南西部原産のヌマミズキ科ダヴィディア属の落葉中高木。1属1種の珍しい樹木で〝植物界のパンダ〟とも。中国名は「珙桐(きょうとう)」、英名は「ハンカチーフツリー」または「ドーヴツリー」。和名は英名を直訳して「ハンカチノキ」や「ハトノキ(鳩木)」と呼ばれている。
花期は4月後半から6月にかけて。球形の頭状花序を包むように白くて大きな2枚の苞(ほう)が垂れ下がって風にひらひらと舞う。その花姿を白いハンカチや群れ飛ぶ白い鳩になぞらえた。苞は最初緑色だが、開花に合わせて真っ白に変化する。大小2枚の組み合わせで横幅は20cmほども。薄い半透明でまるで羽化直後のセミの羽のよう。葉脈が透き通って見えた。
属名のダヴィディアはフランス人の宣教師・生物学者のアルマン・ダヴィッド神父にちなむ。中国で布教活動の傍ら、奥地を探検旅行中だった1869年にこの樹木に遭遇し、ヨーロッパに初めて紹介した。神父はジャイアントパンダやキンシコウ(金絲猴)の存在を世界に紹介した人物としても知られる。
東京・小石川植物園のハンカチノキは1958年ごろに種から育てられた国内最古参という。例年ゴールデンウイーク前後に見頃を迎える。文京区の礫川(れきせん)公園のものは文豪幸田露伴の娘で作家の幸田文ゆかりの木。同植物園の知人から贈られたものだが、開花までに20年近くを要し、文は花を見ることなく他界したという。その後2002年に文の娘で随筆家の青木玉さんから文京区に寄贈された。「ハンカチの木の花絹の艶もてる」(宮平静子)。