【自生南限の奈良市吐山と宇陀市向淵の群落は国指定の天然記念物】
5~6月ごろ、2枚の大きな長い葉っぱの陰に隠れるように、弓状に曲がった花茎に鈴のよう可憐な小花を5~10輪ほど付ける。その花姿から「鈴蘭」と名付けられた。ただし、ランの仲間ではなくユリ科スズラン属の多年草。「キミカゲソウ(君影草)」というロマンチックな名前もある。
日本スズランの学名は「コンヴァラリア・ケイスケイ」。「コンヴァラリア」の語源はラテン語の「谷」と「ユリ」。英名も「リリー・オブ・ザ・バレイ」。日本でも「タニマノヒメユリ(谷間の姫百合)」とも呼ばれる。種小名の「ケイスケイ」は「雌しべ」や「花粉」などの名付け親として知られる理学博士の伊藤圭介(1803~1901)にちなむ。日本スズランは主に本州中部以北と北海道に分布し、北海道の札幌市、恵庭市、砂川市、長野県の駒ケ根市など多くの自治体の「市町村の花」になっている。
ただ、日本で多く栽培され花屋さんの店頭に並んでいるのはヨーロッパ原産のものの園芸品種ドイツスズラン。日本スズランに比べると花が大型、花茎と葉の高さがほぼ同じ、葉の裏側は光沢がある濃い緑色、芳香が強い――といった特徴を持つ。スズランはヨーロッパで「聖母の涙」「天国への階段」「メイ・リリー(5月のユリ)」などとも呼ばれる。幸福を運ぶ花としても知られ、フランスでは古くから5月1日を「ミュゲ(スズラン)の日」として大切な人にスズランを贈る習慣があるそうだ。スズランはフィンランドの国花にもなっている。
奈良市南東部の吐山(はやま)スズラン群落と宇陀市の向淵(むこうじ)スズラン群落は日本スズラン自生南限地として国指定の天然記念物。11日に訪ねてみたところ、向淵は吐山より一足早く既に咲き始めていた(写真)。国内最大という約15ヘクタールの群生地が広がる北海道平取町芽生(めむ)では5月30日~6月7日の期間限定で「すずらん観賞会」を開催し一般公開する。約100万本の日本スズランが群生する入笠(にゅうかさ)湿原がある長野県富士見町の富士見パノラマリゾートでも30日から6月30日まですずらん祭りが開かれる。「鈴蘭の鈴振る風を友として」(椎橋清翠)。